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ヘキサな刑事・羞と心
ヘキサな刑事・羞と心
変死体の一報が入ったのは
ユースケと飲んでいたときだった
あいかわらず、噛み合ってるのか噛み合ってないのかよく
わからない話をし、ユースケが「カラオケ行きましょうよ~」
とノーテンキに提案したとき、ケータイは鳴った。
「あ~あ、オイラたちはこんなささやかな幸せも
あきらめなくっちゃならないんすか~~!つるの先輩っ!」
と毒づくユースケを宥めながら現場に行ったのだ。
そこに転がっていたのは、なにを生業としているのかさっぱりわからない中年の男だった。
「ギョーカイ人」と百人の人間にいえば百通りの「ギョーカイ」が連想される。
それがまた、全部当てはまってもおかしくない、そんな男だった。
この界隈では「カシアス島田」という名前で通っていたらしい。
名前も胡散臭いがその風体も負けず胡散臭い。
「なにものなんすかね」
「カタギじゃないのは確かだな」
ユースケの問いに答えながらオレは現場を見渡した。
繁華街の裏通り、ごみ箱は酔っ払いなのか、それとも
この世の不条理を全部自分に背負い込ませてると神を恨んでいる人間(五万といるが)
に腹いせに蹴っ飛ばされたのか、生ごみが散乱している。
どぶ板なんてものはこの平成の時代にまだ存在してるのかと思ったが
ここでは立派に現役だった。
そこに顔を突っ込んでいるガイシャは、ここを最後の舞台にしたことで
どんな人生を送ってきたか、およそ想像がつきそうだった。
外傷はない。争った形跡もない
財布も残っていた。
身分を示すものはないが、それがないと困るというような生活をしていたとは思えない。
オレはプロファイリングする資格は持ち合わせていないが、口八丁で生きてきた。
そんな男に思えた。
「事件性はないようだな」
係長は早くも結論づけた。
山ほどかかえている事件のファイルの中に新しいものを
これ以上入れたくないという魂胆は明らかだ。
「解剖にまわしたほうがいいかと、、、」
オレが異論を唱えると
またか、、というように舌打ちした。
それもはっきり聞こえるように。
「せんぱ~い」
とユースケが信号を送ってくる。
「ネッケツはわかりますけどね」
そんなんじゃねーよ
と言いながら、いつまでもアンタの好きなようにはさせないぞという
意地は改めて頭をもたげてきた。
「最初はちゃらちゃらしたヤツかと思ったが、意外に根性があるんで、びっくりしたよ。
おっと、まさか、これ、褒められてると思ってるんじゃないよな」
「あなたに褒められたらおしまいと思ってますから」
係長のクチが歪んだ。
歪んだクチはこんどはユースケに向けられた。
「こんな先輩といつまでもくっついてると出世しねーぞ。
あったかい忠告だ。聞いて損はないと思うがな」
刑事(デカ)というより、取り締まられる側の若頭のような眼光だ。
ユースケは少し怯んだが、
「ボク、ちょっとバカですけど、なぜか人をみる目だけはあるような気が
するんすよ、いわゆるひとつの「勘」てヤツすか?えへへ」
と笑った。
口調は軽い。
しかし、コイツはバカじゃない。
「勝手にしろ、あとで恥をかくのはオマエらだ」
捨て台詞を残して係長は背を向けた。
「ユースケ、おまえ、カッコつけすぎだ。知らんぞ」
「そりゃ、つる兄ぃでしょ。それこそ知りませんよ」
ふたりきりの時しかしない呼び名でユースケはオレを呼んだ。
「それより、さっき隠したもの出せ」
「へ?」
ユースケは一瞬誤魔化そうとしたが、ソレがいちばん苦手なことはオレがいちばんよく知っている。
ユースケはかなわね~なという表情でオレにあるものを手渡した。
「ナオキのものだ」
オレが言うとユースケは珍しく緊張した顔になった。
なんで、ここにナオキのものがあるんだろう。
それにアイツ、いったいどこに行ったんだろう。
今どこに居るんだろう。
つる兄ぃ、オレ、心配でたまらないっすよ。
ユースケは今にも泣きそうだ。
「そんなに次から次へと質問するな。
オレは福沢諭吉じゃないんだから、いっぺんには答えられねーよ」
「ふ・・・あのぉ、それって聖徳太子じゃ、、」
「しょ・・・・う、うっせーな!い、いちおうお札繋がりだ!
遠くはねぇだろ!」
いや、なんか違うようなといいながらもユースケはまた
ナオキはどうして姿を消したんだろうと、また泣きそうになった。
署は現役の警察官が失踪したことを隠し通している。
署内でナオキの話をすることはご法度だ。
しかし、その反面、ナオキを「捕まえよう」としている。
そしてどんな理由でそうなったであろうとしても、闇から闇へ葬り去ろうとしている。
「そうはさせない」
オレはつぶやいた。
ここでやっとナオキの痕跡をみつけた。
あの係長に渡すわけにはいかない。
ユースケも同じだった。
だからこそ、この死体はちゃんと
「事件」にしないといけないのだ。
ただ、諸刃の剣でもある。
上が先にナオキをみつけたら、、。
いや、この男の死は不審な匂いがする。
事件を見過ごさないためにもやるべきことをするのだ。
ユースケももう腹を括っていた。
(つづく)
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