加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

January 29, 2021
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カテゴリ: 音楽
新国立劇場の2大人気プロダクションといえば、開場記念公演で制作、上演されたゼッフィレッリ演出の「アイーダ」と、マダウ=ディアツ演出の「トスカ」(2000年制作)でしょう。

 19世紀に大流行した異国趣味の産物である「古代エジプト」を舞台にした「アイーダ」は多分に空想的、幻想的ですが(それはそれでいいのです)、「トスカ」はリアリティたっぷり。何しろオペラ自体が、「1800年6月17日」に、聖アンドレア・デッラ・ヴァッレ教会、ファルネーゼ宮殿、聖アンジェロ城という、ローマの実在の場所で展開することになっているのですから。ローマを訪問した際に、「トスカ」ゆかりの地巡りを楽しんだオペラ好きの方も少なくないようです。

 こんなに緻密な指定があるオペラは、少なくともレパートリーになっているオペラでは、他にないのではないでしょうか。そういう意味で、「トスカ」は、読み替えの難しいオペラだと思います。正統的な演出が映えるのです。
 今回、7回目になる新国立劇場での上演を見て、改めてそれを強く思うとともに、ディアツ演出の見事さにも改めて感服しました。
 例えば、第1幕の聖アンドレア・デッラ・ヴァッレ教会には、オペラの「アッタヴァンティ家の礼拝堂」のモデルになった「バルベリーニ家の礼拝堂」がありますが、それも舞台上に再現されているし、幕切れの「テ・デウム」の場面では、教会のメインの祭壇画が現れますが、現地にある、「聖アンドレアの殉教」に似せた祭壇画が再現されていました。
 また、第3幕の聖アンジェロ城では、城と通路で繋がっているバチカンの聖ピエトロ寺院の屋根が、ちゃんと見えていました。
 一番感心したのは、第1幕の「テ・デウム」の場面に、当時のローマの実力者だった、ナポリ王妃マリア・カロリーナが登場していたことです。(失念していて、今回の舞台を見て改めて思い出しました)。もちろん台本には「王妃が登場」などという記述はないので、黙役による「演出」です。
 フランスの作家サルドゥによる「トスカ」の原作を知る方なら、いえ知らなくとも、「王妃」はオペラにおける重要人物です。スカルピアの上役で、スカルピアは彼女の命令でアンジェロッティやカヴァラドッシを追っているのですから。
オペラでわかるヨーロッパ史 をご覧いただけると幸いです)。
 ディアツ演出は、原作では活躍するもののオペラではいくつかのセリフで触れられるだけの「王妃」の存在の重要性を、視覚的に教えてくれました。

 今回の再演、キャストの面でも、満足のいく上演でした。
 ナンバーワンは、なんといっても、イタリアのテノール、フランチェスコ・メーリ。現在のイタリアのテノールの中ではナンバーワンではないでしょうか。ロッシーニから出発し(初来日はロッシーニ音楽祭の来日公演)、ムーティの薫陶を受け、今や世界最高のヴェルディ・テノールの一人。あのネトレプコともしょっちゅう共演していますし、スカラ座のオープニングの常連です。全シーズンのスカラ座のオープニングは、ネトレプコとメーリの「トスカ」でした。言ってみれば、「スカラ座のカヴァラドッシ」なのです。
 余裕でしたね。抜群の安定度。無理のない発声、むらのない豊かな響き(1800席の新国だと余裕という感じ)、甘く、うっとりさせてくれ、同時にスタイリッシュな声。柔らかな、美しい!レガート、整ったフレージング。がなる歌手とは違う洗練度とエレガントさ。演技もさすが、としか言いようがなく、さりげない動きやちょっとした表情も絵になります。格が違いました。
 他の主役二人も健闘。二人ともまだ若い歌手ですが、将来性ありそうです。トスカ役キアラ・イゾットンはやや硬めの、輝きのあるしっかりした声で、どちらかというと中低声の方が充実、安定しており(ちょっとメゾみたいな声。。。)、高音が時々叫んでしまうのが気になりましたが、魅力はあります。容姿も、プログラムの写真よりずっと若くて綺麗!(普通逆ですよね?もったいない)。まあ、どちらかというと今はベルカントものなどを歌った方がいいような気もします。
 スカルピア役ダリオ・ソラーリも、まだ?リリカルな軽めの声で、音量も控えめなので(響きはいいです)、スカルピアより、来月急遽歌うことになった「フィガロの結婚」のフィガロ役の方が良さそうな気がしますが、これから伸びそうな気配の歌手。今聴けたことは貴重ですし、来月のフィガロがとても楽しみになりました。

 イタリアのベテラン、ダニエレ・カッレガーリの指揮がまたよかった。ドラマに寄り添い、過不足なく描き出して絵画的。第1幕で、「妙なる調和」を歌う前のカヴァラドッシの動きが見えるような音楽の筆遣い、ワクワクしました。

 「トスカ」、評判になっていますし、席数の50%しか売れないので、ほぼ満席のようですが、もしご興味があるようでしたら、サイトは以下です。
新国立劇場「トスカ」


新国立劇場「フィガロの結婚」





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最終更新日  January 29, 2021 02:46:07 PM


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