加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

March 7, 2021
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カテゴリ: 音楽
4年をかけて上演してきたワーグナー「ニーベルングの指環」完結編の「神々の黄昏」が、県知事と国からの要請で中止に追い込まれ、無観客配信となった伝説の「神々の黄昏」から1年。


 ほぼ満席の客席の熱気も印象的でしたが(待ってました、という感じ)、ホワイエで会ったホールのスタッフの方々が、顔を上気させ、「素晴らしいでしょう!」と誇らしげに口を揃えるのがそれ以上に印象的でした。細心の注意を払って準備してきた自信と、結果が出ていることへの高揚感が伺えました。

 セミステージ形式(演出は粟國淳さん)といっても、舞台の左右に白い円柱を3本ずつならべ、舞台の奥にスクリーンを出してその場その場に関連した映像(よくある抽象的なものでなく、わかりやすい)を出すのは、視覚的には十分満足できるもの。オーケストラは舞台上で、オケの手前にいくつか段差が設けられ、歌手はその上を行き来して演技します。合唱は舞台奥のスクリーン手前。マスクをつけての合唱はやりにくかったと思いますが、健闘していました。

 音楽的にもとても満足度の高い舞台でした。びわ湖ホール芸術監督として数々のワーグナー公演を成功させてきた沼尻竜典マエストロ指揮する京都市交響楽団は、これまでのコラボレーションの総決算を思わせる一体感。音楽は滔々と流れ、雄弁で、ツボを押さえて美しい。何より、ワーグナーの「長さ」を全く感じさせないのがお見事です(ロングヴァージョンなのに)。「ローエングリン」はおそらくワーグナーのオペラ(一般に彼の正当な?作品とみなされる「オランダ人」以降で)の中で、おそらくもっともグランドオペラ風の作品ですが、その華麗さ、美しさ、明暗の対比を十全に表現していたと思います。音楽に潜む「聖」と「俗」とのコントラストが明確に打ち出されていました。第三幕で、エルザとローエングリンの迫真の対決場面が終わった瞬間での絶望に満ちた余韻には、息を飲みました。



 個人的なMVPは、エルザ役の森谷真理さん。頼りない、自分のないエルザ、よるべのないエルザを好演。いわゆる「ワーグナーソプラノ」を想像すると多少華奢な声ですが、儚いエルザの役作りには相応しかったように感じます。だからこそ、エルザに共感できましたから。これが太い声だったら、こうは行かなかったかもしれません。しかも急の代役(もちろんロールデビュー)で、1ヶ月足らずの準備期間しかなかったそうですから、驚くべき完成度です。やはり、すごい歌い手ですね。
 女性二人の「明暗」「善悪」がはっきりしているこのオペラ(例えば「タンホイザー」の二人の女性よりコントラストがあるのでは)、当日の女性二人は本当に役柄にふさわしく、第二幕で繰り広げられた森谷さんと谷口さんの対決は、当日の白眉でした。(またワグネリアンに怒られそうですが、このお二人でアイーダVSアムネリスとか、エリザベッタVSエボリとかをぜひ聴いてみたいものです)

 客席の静かな、でも熱のこもった、そして「待っていました」という熱狂、ホワイエの賑わい(バーが営業していて感動。。。)。あれから1年、多少イレギュラーであっても公演が戻り、成功を収めたことに、心からの拍手を捧げたいと思います。





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最終更新日  March 8, 2021 01:32:44 AM


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