私の沼

私の沼

夜の底


彼女がいつからそこにいるのか
知っているものは誰もいない
このビルを20年前から掃除している
おじいさんがそう言っていた

古いビル
彼女は窓辺に座り
タイプしている

カタ・・・カタ・・・カタ・・・
お仕事をしている

つまらない毎日

夜
おじいさんがビルの掃除をしていると
彼女は時折にっこり会釈をして通り過ぎていく

彼女は年を取らない
透き通るような肌に黒目がちの瞳
手に持っている文庫本はいつも読みかけ
グレーのスカート
黒のカーディガン
白のブラウスはいつも洗いたて
ほんのり石鹸の匂い
長い髪の毛は烏の濡れ羽色で
僕は

彼女に手を触れたい

お掃除のおじいさんは
静かに首を横に振り
モップの柄を天へ振り上げる

ときどき僕は屋上へ行く
東京の街はどこまでいってもビル
脳の許容量の範囲をいつも超えている
だからいつも僕は

深夜のビルの中
彼女はいつも

たぶん

僕を待ってる




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