＊実験＊
便利 ～切ない恋の物語 （違～
ある日、ﾐｯﾁｬﾝはこう言った。
「ねぇ、ﾊﾞﾅﾅとﾏｧﾘって仲良いよね？」
私とﾏｧﾘ････友人Ｎと初めてｸﾗｽがわかれた私が、ｸﾗｽでいつも一緒にいた子。
ｿﾛﾊﾞﾝなど、いろいろと共通点が多く仲が良かった。
体育が大好きで私と気が合い、ｽﾎﾟｰﾂﾃｽﾄのｼｬﾄﾙﾗﾝも給食時間にくい込んでも一緒に走った。
姉妹みたいと言われるほど仲が良かった。
私はﾐｯﾁｬﾝの問いに対して、なんの躊躇いもなく
「うん」
と答えた。
するとﾐｯﾁｬﾝはその場にﾏｧﾘを呼んで同じ質問をした。
ﾏｧﾘの答えも私と同じだった。
ﾐｯﾁｬﾝは少し考えてから、ｸﾗｽの女子のほとんどを呼び集めた。
そしてﾐｯﾁｬﾝは私たちに課題を与えた。
「友情ってどれくらいのものか試すことにしたから。ﾊﾞﾅﾅとﾏｧﾘは良いって言うまで絶対しゃべらんで？」
みんな「は？」といぅ顔をしてﾐｯﾁｬﾝを見た。
ﾐｯﾁｬﾝはさらにこぅ続けた。
「みんなもﾊﾞﾅﾅとﾏｧﾘが話してるところを見たら言いにきてね。」
そぅ言うと私たちに反論する間も与えず、ﾐｯﾁｬﾝはﾊﾞﾚﾘｰﾅをつれて帰って行った。
そして次の日からﾐｯﾁｬﾝの実験は始まったのだ。
挨拶すら許されない私たちは、日常的に行われていたものの半分を失ったような気持ちだった。
目が合ってもお互いに苦笑いして目をそらす毎日。
手を振ろうとあげた手を、ﾊｯと気づいては引っ込める。
そんな日々が続くと、私たちもだんだんとそれに慣れていった。
朝、挨拶をしないのは普通。
昼、給食当番が一緒でもただ黙々と食器を運ぶだけ。
夕方、同じ遊びに参加していても話しかけはしない。
全てがﾐｯﾁｬﾝの計画通りに進み、私たちの友情は微塵も感じられないほどになっていた。
私とﾏｧﾘの家は、学校を挟んで逆の方向にある。
ﾏｧﾘは非常口から出て裏門を通って帰る。
私は児童玄関から出て正門を通って帰る。
放課後、偶然あうなんてこともない。
ちょうどｿﾛﾊﾞﾝをやめたﾏｧﾘとは学校でしか会うことはない。
学校では私のそばにいつもﾐｯﾁｬﾝがいて、喋れるような状況ではないし
学校生活自体が不便になるわけでもない。
もぅ私たちは友だちになる前よりも遠い存在になってしまっていた。
夏も終わりが近づくある日、ﾐｯﾁｬﾝは突然実験の終わりを告げた。
「もぅそろそろｱﾝﾀ達話していいよ」
私もﾏｧﾘもその瞬間はとても喜んだ。
しかし、意図的に話すことを避けてきたせいかどこかぎこちなく
何を話せばよいのかわからない。
といぅか、話すことに抵抗を感じてしまう。
一言一言が遠慮がちで、まるで試合直前の探りあいの会話のようだった。
挨拶のﾀｲﾐﾝｸﾞもわからない。
「おはよう」と言って、相手は返してくれるのか。
「ﾊﾞｲﾊﾞｲ」と言って手を振れば、相手も振り返してくれるのか。
そんな不安が私たちの間にできた溝の修復を、頑なに拒んでいた。
目が合っても
もし相手が手を振ろうとしているのが見えても、何かに怯えて目をそらしてしまう。
もぅ、私たちの友情は戻ることはなかったのだ。
そのまま６年生になり、そして中学生になり、同じ部活に入ったがﾏｧﾘはすぐにやめ、
結局ちゃんと話をすることのないまま、ﾏｧﾘは転校していった。
ﾐｯﾁｬﾝがこの実験から何を知りたかったのかは知らない。
何を知ったのかも。
友情、それも所詮は人間同士の繋がり。
心は傷つくことを恐れ、その繋がりさえも壊してしまう。
実験好きの私が、初めて悔しさを覚えた実験だった。
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