＊理由＊

便利　～切ない恋の物語（違～

ﾐｯﾁｬﾝには敵がいた。

ﾐｯﾁｬﾝは女だが、男にも番長を名乗るやつがいたのだ。

相手の名はｶｰﾂｰ。

体もでかく、鼻息も荒い。

野球で焼けた肌がより強そうに見える。

鼻息はどれくらい荒いかといぅと、となりの席になると授業妨害になるほどだ　（冗談抜きで

しかし本当は心優しい子で、しかもかなりの恥ずかしがり屋である。

ﾐｯﾁｬﾝとｶｰﾂｰ、その複雑な関係、そしてこの物語のきっかけをこれから紹介しよう。

ﾐｯﾁｬﾝはﾗﾝﾄﾞｾﾙを持っていなかった。

ぃや、正確に言えばﾗﾝﾄﾞｾﾙを持たなかった。

背の高いﾐｯﾁｬﾝにはﾗﾝﾄﾞｾﾙは小さかったし、お姉さんのお下がりだったﾗﾝﾄﾞｾﾙはもぅﾎﾞﾛﾎﾞﾛだった。

そのかわりにﾐｯﾁｬﾝが通学ｶﾊﾞﾝとして使っていたものは

黄色いｽｰﾂｹｰｽ風のﾌﾟﾗｽﾁｯｸの手さげｶﾊﾞﾝだった。

薄いわりにいろいろ入って、しかもお洒落だったのでﾐｯﾁｬﾝのお気に入りのｶﾊﾞﾝだった。

ﾉｰﾄや教科書はもちろん、その他の雑貨まで入ってしまうのである。

しかし、そんな目立つｶﾊﾞﾝを持っていてｶｰﾂｰがそれを見逃すわけはない。

ある日、ﾐｯﾁｬﾝが帰る準備をしていると

ｶｰﾂｰが仲間を引き連れてﾐｯﾁｬﾝの机のそばまでやってきた。

私はとなりの机の上に座り、様子を伺っていた。

（となりの机のと距離は１ｍほどある）

机のそばに立ったｶｰﾂｰは、腰に手をあてｶｰﾂｰﾎﾟｰｽﾞを決めながらこう言った。

「えぇ、なんでそのｶﾊﾞﾝ持ってくるば。」

するとﾐｯﾁｬﾝはうんざりしたような表情で、ｶｰﾂｰのほうを向いてこぅ言った。

「ぁﾞあ？便利」

その顔と声の迫力にｶｰﾂｰの動きが一瞬止まると

ﾐｯﾁｬﾝはその隙にとｶｰﾂｰのでかい体を押し退け、教室を出て行った。

そのとき、私は堪えきれずに笑いを漏らしてしまった。

するとｶｰﾂｰの仲間の１人が私の方に向き直り、「何笑ってる」と聞いてきた。

私は「べつに」と言って、その場を後にした。

私が笑った理由、それはｶｰﾂｰがどれほどのｼｮｯｸを受けたか知っていたからである。

男子にも友達の多い私は知っていた。

ｶｰﾂｰの好きな人が、ﾐｯﾁｬﾝであることを。

ﾐｯﾁｬﾝの迫力に怯んでしまったのを仲間に見られたことと

ﾐｯﾁｬﾝに嫌われていることを改めて知ったことにより

ｶｰﾂｰの恋心とﾌﾟﾗｲﾄﾞは、ひどく傷つけられたのでった。

その後からﾐｯﾁｬﾝは男子から「便利」と呼ばれるようになり（裏で

ｶｰﾂｰは復讐？をしようとした。

ｶｰﾂｰの復讐とは、ﾐｯﾁｬﾝの仲間を自分のところへ引きずりこむことで、

そのﾀｰｹﾞｯﾄは私だった。

ある日、ｽﾎﾟｰﾂﾃｽﾄが給食時間までくい込んでしまった私が急いで教室に戻ると

私の机がなくなっていた。

いつもなら男子２人女子３人のｸﾞﾙｰﾌﾟに入っているはずなのに

私の机はｶｰﾂｰのいる男子５人のｸﾞﾙｰﾌﾟにくっつけられていた。

私は何も言わず席についたが

走った直後で食欲がなかったのと

自分のおかれている状況が飲み込めなかったのとで

いつも残さず食べる給食を牛乳しか飲まないで終えた。（時間もなかったし

その日のうちにﾐｯﾁｬﾝが先生に報告したので

次の日には元の位置に戻れたが、

ｶｰﾂｰの小さな恋の復讐はそれからしばらく続いたのだった。

それがこの物語、「便利」の始まり。

ジャンル別一覧