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2009.04.24
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カテゴリ: BL小説



水原さんの作品のなかでは今のところ一番の傑作と言われている作品。装丁もシャイノベルズの中では特異だし、レーターはなんと山本タカト氏である。これはもう最初からBLたらんとしようと思ってないな。

で、買ったのは1年くらい前だったが、かなり濃厚そうだったのでなかなか手が出ず、しかし積読のなかにも積極的に読みたいものがなくなったので、ついに手をだした。
そしたら、ちょっと思っていたのと違ってた(笑)。期待しすぎていたせいか、すんごい面白いというわけではなかったが、水原さんの他の作品にくらべて、たしかに念の入った力作ではある。

なんというミッドショーワ(笑)。でも携帯電話も出てくるし、紛れもない現代の話で、きっとそのギャップを楽しむものなのかもしれない。リアルさは一筋ほどもないけれど、昭和40年代に大量生産された東映ヤクザ映画の裏パートみたいな感じがした。別段耽美とも思えないけれど、BLでもない気がする。でもって、BL読者の年齢層を低く想定しているせいもあるけれど、私には何一つ新鮮さや新しさは感じられなかった。でも水原さん、そんなことは百も承知で、敢えて狙いどころは過去の中間小説と私小説へのオマージュだったのかもしれない。まあ勝手にそう思っただけだけど。

それにしても。
最初から、何一つ自己決定のできない(環境も許さなければ人格的にも後ろ向きな運命論者っぽい)、不幸設定満載の受というのは、水原さんにはよく出てくるのな。この直後に書かれたらしい「チャイナローズ」と、受の印象がかぶる。暗さと古臭さと湿っぽさが三拍子揃うと水原節になることがわかった。
余計な設定を排することで、二人(いや三人なのかも)の結びつきだけを際立たせたかったのかもしれないけれど、次々湧いてでる疑問が何一つ解決されないまま話はすすむ。自分の疑問は例によって設定上の瑣末なことだから、本筋とは関係ないけど。

読んでいると、あまりの湿っぽさに「梅雨の時期に読まなくてよかった」とさえ思った。文章が練れていて大人なところ(乾いた文体のたけうちさんとは対極にあるんだけど、両者にはまた不思議と共通点も多い気がする)は読みごたえがあるけれど、時の流れが生ぬるすぎると最初は思った。



でも後半、お話は一気に転がりだす。植木屋がヤクザになって戻ってきてお屋敷に仕え始め、初乃は彼が二人の誓いを忘れていないことを知る。彼が心変わりしていないというだけで、ほとんど商品同様にいろんな男になぶられるようになっていた初乃はうれしくって生きていけるとか思っちゃう。そして「いつか逃げるんだ」って。ここは19世紀の場末のサーカスですか?もうここまでくるとさ、明治時代に座敷牢に監禁されていた男の話じゃないかと思うぐらい、いいなりなんだよ。結局命をかける勇気もないってぐらい軟弱でさ。

ああでもこれは某海賊BLの受と同じで、自分が耐えなければ周り(この場合は行方知らずの両親)に災いがふりかかるとか思っているんだよな。そして抱かれて鳴かされながらも、義兄の複雑な心境に思いを寄せたりするんだよね。これも重症なストックホルム症候群だな。で、攻視点からいうと、いわゆる聖域もの。

そして二人はついに駆け落ちする。ここは西村京太郎の鉄道小説並みにスリリングだった(笑)。で二人は逃亡者となって山村でひっそりと暮らすんだけど、予定通り追っ手が迫ってくるんだな。
私がおもしろいと思ったのは実はそこから先で、攻が撃たれ、引き離された初乃は30歳近くなるまで結局義兄に尽くすんだよ。義兄が死んだら解放してくれるって約束をしてもらっていたから。なにしろ運命の人は頭を撃たれて記憶喪失になっているらしいのでね。なんつう気の長い話だ。でもBLだからしてほどなく義兄は死んじゃうんだけどさ。

ヤクザという人々の容赦のなさとか、昔かたぎの養父と経済ヤクザの義兄とか、見てみぬふりをしてくれた昔の世話係とか、仕掛けは凝ってるけど既視感あったしストーリーは割と平凡。でもやっぱり読みごたえはある。涙の堤防決壊ポイントは、義兄が死んでやっと家の呪縛から開放された初乃の行動だった。大部の作品のなかの、本当に最後の最後、終章だった。ああ水原さん、ここまでの長い道のりはここを書きたいがためだったんだなと思った。
初乃はBLには珍しく、精神的に成長していくキャラだったけど(何しろ13歳から16年の歳月だから文字通り物理的にも成長している)、それが義兄の思いをも取り込んでいくので、実はこの本は三角関係の話だ。

16で出会った運命の相手とは、駆け落ちするまでは数回ぐらいしか言葉も交わしていないし、身体をあわせたのもたった1度だったけど、なんでそこまで信じられるかなと思う。「自分が差し出せるものはこの淫乱な身体しかないけど、僕をここから救ってくれるのはあなただけ」というのが初乃の一貫したスタンスで、実は愛でもなんでもない。お勉強はできるけどいろいろ考えが足らない子だから、自力で逃げるためにその脳みそを使おうと思わない。死のうとも思わない。一方、義兄に毎日抱かれて酷い目にあっていても、肉欲の結びつきはそれはそれで不思議な感情を沸き立たせてしまう。つまり、ここがキーポイントな気がする。

二人とも相手を信じきっているところは、打算の働く男女ではありえない純愛だけど、会えない期間のほうが長いってことは、「いつか王子様が白馬に乗って助けに来る」という思いが、現実のつらさを耐えるための護符代わりだったんだろう。信じることで義兄にも通じたその思い。なんかちょっとおめでたい思考経路だな。水原さんの力技だと思ったのは、終わってみれば結局誰も悪者じゃななかったことだ。

ラストはこれまたBLでは貴重なエンディングで、読み手の想像を掻き立てる終わり方は好きだ。でも白黒ついてないと読者は暴れるな。





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Last updated  2009.04.24 07:58:21
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