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2009.09.29
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カテゴリ: BL小説

『君の心に天使の輪』たけうちりうと

わずか2冊で終わってしまったらしい祁内さんシリーズの1冊目。ようやく手に入れて読むことができた。
今はなきパレット文庫から出ていたシリーズ2冊目にして最終巻を先に読んじゃっていたけど、全然オッケーどころか、あまりの不思議な面白さに転げまわって歓喜した。すぐにでも1冊目が読みたかったけど、既にないレーベルでの5年以上前の刊行。結局密林のマーケットプレイスで購入(電子配信はされていたけど、未だにネットで小説は読めない年寄りなので)。

ターゲット層を履き違えているのとタイトルのつけ方を失敗しているのは1冊目からしてそうだったんだな。これが商業作品としては致命的だが、お話の雰囲気もキャラクターも設定も、どれをとっても自分好みで、「久々に面白い小説を読んだ」という気にさせてくれるお話だった。なんだろ、初めて高村薫さんの警察小説に出会ったときみたいな。本当にもったいないよなこれ。小学館の編集者(編プロかもしれない)は、ターゲットを読み違えたのか。でも一般小説として出すには、きっと何かが足りないんだろう。

ところでたけうちさんのデビューって何だろうと思って調べたら、94年ころのホワイトハート(KD社)での受賞作というのが見つかった。あまりフォモフォモしくないファンタジーだったのかな。だから最初は文庫が多くて、BLとしては微妙な話が多かったことを知った。あまりえろくないのはそういう出自だったからなのね。

パレット文庫って、秋月さんのアイドル忍者の話しか知らなかったけど、K談社の初期のホワイトハートとか、S英社のコバルトと読者層が重なるか、もっと低年齢層がターゲットだと思っていたけど、たけうちさんのこの話は、最初の短編こそ18、19歳くらいのカメラマンの卵が主人公だったが、後半の中篇は研究オタクのサラリーマン化学者の話で、お相手は30代後半。BLの文脈でいっても立派なオヤジカップルだった。

カメラマンのお話も、年齢は若い設定だけど、考え方が老成しすぎていて、あいかわらず難しい言葉をたくさん吐き出している若者で「おいおい、そんな若人いないよ!」という話だった。でもね、この作品の冒頭にぶっ飛んだ。だって鳥視点。主人公は鳥?びっくりしたなあもう。実験小説だ。こんなのよく出版したなあ。今はなきパレット文庫の編集者に感謝(おいおい最初と印象が違うじゃないか)。

もう一本の中篇は、中年の研究者と生活能力皆無(アスペルガーらしい)な5歳くらい年下の研究者の話で、もう何度でも読み返したいほどツボだった。研究しか能のない人ってノーベル賞レベルの人にはザラにいるけど、そういう天才には奇特なお世話係が必要だというお話だ(笑)。なにしろ受(と言っていいのか?)は、シャツのしわを見ながら、しわと乱数とフラクタルの関係について考えたり、衣類が床に落ちた時の角度と速度から、衣類の温度が床に吸収されるのに必要な時間を考えている。なにかの引用にしても、こういうスパイスがあちこちにちりばめられているところがうれしい。

ああもっと祁内さんに会いたい! このシリーズは奇しくも土曜に読んだ山下和美さんの「不思議な少年」と設定は似ている。人をも神をも超越した存在が一人の人間んそばにいて見守りつつ時に運命を操作する話。そして悲劇になったり(山下作品)、奇跡が起きたりするんだけど、こういうのも昔からあるパターンなような気がする。見えざる力に突き動かされて運命が変わる話。あ? それが奇跡か?奇跡の擬人化?

はああ~返す返すももったいない。このシリーズ、なんとかも一度どこかで書いてくれないかしら。別に男同士じゃなくていいしラブもいらないから、人の心の良心の部分と奇跡を起こす力の化身として「とある存在」の祁内さんシリーズとして。ストーリーもなかなかに入り組んでいて、構成難しそうだけど、それがラストに収斂されていく手技はうまくいった実験みたいだ。


自分が文芸分野の編集者だったら、絶対放っておかない。デルフィニアとか出している系統のノベルズだったら当たると思うんだけどなあ。なんつうかたけうちさんの理系脳と博覧強記なところがストレートに出ている。もともとラブはじれったい人だから、BLじゃなくてこういうの書いてほしいのになあ。





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Last updated  2009.09.29 07:59:21
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