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2013.03.02
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カテゴリ: 読書案内
【群ようこ/三人暮らし】
20130302

◆独身女性3人がシェアして暮らす生活

群ようこのエッセイは本当におもしろい。どれを取ってもハズレのないエッセイを書き続けるエッセイストは珍しい。
初期のころのものだが、『鞄に本だけつめこんで』などブックガイドになっていて、とても参考になった。
私はこの群ようこのエッセイを読んで、川端の『山の音』を読んだり、谷崎の『瘋癲老人日記』を読むきっかけを与えられたのだから、それはもう感謝の一冊となっている。
他にも、『無印良女』や『財布のつぶやき』などどれも最高にして傑作のエッセイばかりだ。
そんな群ようこは小説も書いているのだが、エッセイストとしての看板を背負った彼女が好きなので、どうも小説の方は敬遠していた。それでもと思って読んでみたのが『三人暮らし』だ。
うん、なかなかいい。
様々な人生を背負った独身女性が3人集まって、シェアして暮らすという物語だ。
女性のパターンはいろいろで、例えば78歳同い年の3人の老女だったり、母とリストラされた娘2人だったり、職場の同期入社のOL3人だったりする。そういういろんなパターンの女性3人の物語が短編で、10篇収められているのだ。
現代社会では、共白髪になるまで夫婦睦まじく老後を過ごすという考えが揺らぎ始めている。一生シングルを貫き通す人もいれば、夫のリタイアと同時に熟年離婚という例もあり、老後のライフスタイルは多様化している。


『三人暮らし』の中に「三人で一人分」という作品がある。
78歳の女性ら3人がマンションを購入して一緒に暮らすというお話だが、ものすごく前向きで愉快だ。
もともと3人は戦後タイピストとして働いて来た職業婦人だ。いわば女性たちの憧れの的で、一線で活躍して来たものの、寄る年波には勝てず、今は体力やトイレを気にして旅行にも出かけられないし、美容院も節約と称して行かなくなってしまった。
だがこのままではいけない、まだ足腰の立つうちにと、旅行の計画を立て始めるのだった。

私が好感を持ったのは、いくつになっても女性は女性で、美容院で髪をセットしてもらい、お化粧を施してもらうと、パッと華やぐシーンだ。奮発してデパートで洋服や靴を購入するところなども、読んでいて自分のことみたいに気持ちが明るくなってしまう。
さて旅行に出かける日の朝、「尿漏れバッド、持ちましたね」と確認し合う3人の女性の会話が可愛い。こういうほのぼのとした物語は、下手な恋愛小説よりよっぽど魅力的だ。さすがは群ようこだ。
エッセイの中に感じていた格調高く優雅なムードは、小説の中にも爽やかに感じられる。厭味がなく優しいお話がたっぷり詰まった小説だ。

『三人暮らし』群ようこ・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.48)は深沢七郎の『東北の神武たち』を予定しています。

~読書案内~   その他

■No. 1 取り替え子/大江健三郎
■No. 2 複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!
■No. 3 雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!
■No. 4 完璧な病室/小川洋子
■No. 5 青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ
■No. 6 しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる
■No. 7 白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す
■No. 8 ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている
■No. 9 女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説
■No.10 或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル
■No.11 東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず
■No.12 お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人
■No.13 レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?
■No.14 山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く
■No.15 佐藤春夫/この三つのもの 細君譲渡事件の真相が語られる
■No.16 角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く
■No.17 室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛
■No.18 織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話
■No.19 谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。
■No.20 車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか
■No.21 松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場
■No.22 川上弘美/神様 現代における女性版カフカ?!
■No.23 丸谷才一/鈍感な青年 男女の営みは滑稽なもの
■No.24 宮本輝/流転の海 第一部 戦後の混乱期を生きる日本人の底力を見よ!
■No.25 岩井志麻子/ぼっけぇ、きょうてぇ 女郎が寝物語に話す、身の上話
■No.26 柳美里/水辺のゆりかご 包み隠さず書くのは勇気なのか、それとも・・・?
■No.27 宮尾登美子/櫂 妻は黙って亭主に傅くのみ。殴られても蹴られても耐えるべし
■No.28 向田邦子/阿修羅のごとく いくつもの顔を持ち合わせているのが女なのだ
■No.29 樋口一葉/にごりえ 明治の娼妓のコイバナ、そして人情沙汰
■No.30 南木佳士/阿弥陀堂だより 信州の自然美に触れて生き返る
■No.31 東川篤哉/謎解きはディナーのあとで エンターテインメント性重視、ポップでライトなミステリー小説
■No.32 辻仁成/ピアニシモ 25歳ぐらいまでに読んでおきたい青春小説
■No.33 田口ランディ/コンセント 引きこもりをテーマにした社会派小説をねらうも、結果オカルト小説
■No.34 沢木耕太郎/無名 最愛の父を看取るまでを淡々と語る
■No.35 浅田次郎/月のしずく エンターテインメント性バツグン! ドラマチックなラブ・ストーリー
■No.36 有吉佐和子/香華 花柳界に生きた母娘の愛憎劇
■No.37 田山花袋/蒲団 男の嫉妬、男の哀しさを赤裸々に描く
■No.38 連城三紀彦/恋文 嘆きとせつなさは、恋愛小説の醍醐味
■No.39 重松清/エイジ もしもクラスメイトが通り魔だったら・・・?
■No.40 大崎善生/パイロットフィッシュ おしゃれで、どこか老成した主人公「僕」の語り口調
■No.41 小川糸/食堂かたつむり 癒しを求めて何となく手に取る小説
■No.42 中島敦/山月記 声に出して読みたい小説
■No.43 瀬戸内晴美(寂聴)/美は乱調にあり まともな死に方しないと言い放つ女
■No.44 渡辺淳一/君も雛罌粟われも雛罌粟 夫に恋い焦がれてパリまで向かう
■No.45 有川浩/阪急電車 列車内でくり広げられる一期一会
■No.46 綿矢りさ/蹴りたい背中 自意識過剰な女子高生を冷静に見つめる





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最終更新日  2013.03.02 09:39:22
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