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2014.02.15
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カテゴリ: 読書案内
【道尾秀介/光媒の花】
20140215

◆6篇の短編小説が連作となってドラマを形成

高校生の息子が福祉系の仕事に就きたいなどと言い出し、にわかに“認知症”とか“介護”とか“老親”などの言葉に敏感になった。
私はこれまで、最近の小説はわざと後回しに読んで来た。
だが昨年の夏は、旬である集英社文庫ナツイチをせっせと読んでみた。
ナツイチにエントリーされていた道尾秀介の『光媒の花』の紹介文には、「認知症の母と暮らす男の秘密」とあり、がぜん興味が湧いた。
息子は「福祉だ、介護だ」と言ってるし(一時的な興味に過ぎないかもしれないが)、ならばこれを読んでみるとするか、と購入。
『光媒の花』は、6篇の短編が連作となっていて、一つのドラマを形成している。
この手法は最近の流行のようで、有川浩の『阪急電車』にも見られる手法である。
それは例えば、一章では脇役として登場した人物が、次の二章では主人公となり、二章でほんのチョイ役だったキャラクターが三章では主人公となる、といった具合だ。
道尾秀介は、もともとホラーサスペンスでデビューを飾っている。


各章ごとにタイトルが付けられているが、このタイトルがまた良い。

第一章 隠れ鬼、第二章 虫送り、第三章 冬の蝶、第四章 春の蝶、第五章 風媒花、第六章 遠い光
となっている。

特に私が気に入ったのは、第一章 隠れ鬼である。
あらすじはこうだ。
主人公の遠沢正文は、認知症の母を介護しつつ“遠沢印章店”を営んでいた。
母の痴呆は日に日に酷くなっていくが、初老で独身の正文は、自らが母の面倒を看るしかない。
というのも、父は30年も前に自殺していて、母にとっては一人息子の正文だけが支えだったのだ。
父が健在のころ、夏休みには家族で長野県にある別荘で過ごした。
ある日、正文がへんぴな山間にある別荘の周辺を散歩していると、美しい年上の女性とばったり遭遇する。中学2年の夏だった。
その女性と甘美なひと時を過ごしたのが忘れられず、それから夏休みに別荘へ出向く度に、その女性と会うのを楽しみにした。

毎年散歩の偶然を装って会っている、名前も知らない美しい女性は、なんと父の愛人だったのだ。

物語はドラマチックで、しかも幻想的で、知らず知らずのうちに惹き込まれていく。
ファンタジー的な要素が加味され、現代の雨月物語のようで、魅力的だ。
一つ難があるとすれば、第二章 虫送りだろうか。
このストーリーは、正直、好きになれない。

そんな小説の中のセリフにいちいち目くじら立てるのもどうかと思うが、そういう理由で減点したくなったのは事実。
とはいえ、『光媒の花』は山本周五郎賞受賞作であり、誰もが認めるであろう鮮烈な作品なのだ。

『光媒の花』道尾秀介・著〈山本周五郎受賞作品〉

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.113)は菊池寛の「真珠夫人」を予定しています。


コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から





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最終更新日  2014.02.15 05:53:39
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