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『本朝廿四孝』第1部
今回は番外編にて文楽でございます。もともと文楽は「人形浄瑠璃」といって、上方(大阪)で人気があり、それで当たりが出た(=ヒットした)出し物を歌舞伎でも演じる事がかなりあったようで、そういう出し物を「義太夫狂言」「丸本物(まるほんもの)」などと呼び、「本朝廿四孝」もそういう出し物の一つです。また、「通し狂言」というのは、「狂言=演目や芝居そのもの」を「通し=省略せず、大序から大詰までを上演する」事で、いずれの演目も長いので、見せ場=ハイライトだけを上演することが今は一般的です。
そして2001年11月11日、ワタクシ、生文楽も初体験なら、通し狂言を観るのも初めて。といっても、今回は第1部を鑑賞するのみ。それでも半日かかります。「本朝廿四孝」といえば「武田勝頼と八重垣姫の恋物語」と思っていましたが、その前に、軍師・山本勘助に関する物語があったのですなぁ。初めて知りました。
そのお話はと申しますと…。
足利十二代将軍・義晴の側室・賤(しず)の方が懐妊し、北条時氏、長尾景勝らの大名が祝賀のため集まります。天下奪取を狙う北条時氏は、武田・長尾両家が争っているのは謀反の兆しだと主張します。両家の不和は、武田家の家宝・諏訪法性の兜を、長尾謙信が借りたまま返さないのが原因でした。義晴の正室・手弱女御前は、両家の和睦を計るため、武田晴信の息子・勝頼と長尾謙信の娘・八重垣姫との婚儀を取り持ちます。
そこへ井上新左衛門と名乗る西国の武士が、種子島に伝来した鉄砲を献上したいと参上しますが、義晴を撃ち殺し、逃げてしまいます。また、その騒ぎに紛れて、賤の方が大男にさらわれてしまいます。北条時氏に疑いをかけられた武田晴信と長尾謙信は、それぞれの嫡子の首をかけて身の潔白を立てると誓います。手弱女御前は、両人に3年間の猶予を与えるのでした。
賤の方の警護役だった長尾家の家来・直江山城之助は責任をとって自害しようとし、また彼の子を身ごもる腰元・八つ橋も共に死のうとしますが、謙信は二人を勘当して命を助けます。
時は過ぎ、諏訪明神で悪い仲間に絡まれていた蓑作は、武田家の家老・板垣兵部に助けられ、どこかに連れて行かれます。その少し後、お百度参りに来た腰元・濡衣をつけ回すならず者・横蔵は、長尾(上杉)謙信の息子・景勝が奉納した刀を奪おうとして手討ちにされかかりますが、景勝本人に助けられます。
甲斐と越後の国境にある桔梗原に、百姓の慈悲蔵が口減らしのため、幼子・峰松を捨てていきます。捨て子札には、名軍師と名高い「山本勘助」の名が記されています。その札を見た武田家の執権・高坂弾正と長尾家の執権・越名弾正は、勘助を味方に付けるべく子を奪い合いますが、高坂弾正の妻・唐織の機転で高坂夫婦が子を手に入れます。
今は亡き山本勘助には、二人の息子がいます。母は女ながら、亡くなった夫の名である「山本勘助」を名乗り、その名と軍法奥義の一巻をどちらに譲るか、二人の器量を見定めています。しかし兄・横蔵に甘く、弟・慈悲蔵に辛く当たり、冬にも関わらず、慈悲蔵に筍堀りを命じる母。口答えをした慈悲蔵を叱りつける拍子に母の下駄が脱げ、表にいた景勝がその下駄を拾い、差し出します。景勝は先日見た横蔵を家臣にと望んできたのです。
入れ違いに唐織が峰松を連れて現れ、慈悲蔵に武田家の家臣になるように勧めます。しかし慈悲蔵はそれを断るので、唐織は峰松を門口に置いて立ち去ります。慈悲蔵の女房・お種は泣き叫ぶ我が子に乳を与えようと駆け寄りますが、何者かが放った手裏剣が峰松を貫きます。
雪の中、慈悲蔵が筍を掘っていると、白鳩(孝行者の象徴)が集まってきます。それを見た慈悲蔵は、亡父が軍師必携の書「六韜三略(りくとうさんりゃく)」を埋めた場所ではないかと思い、堀り進めますが、そこに横蔵も現れ、軍書を巡って争いとなります。
二人の争いを止めたのは母でした。母は横蔵に景勝の家来になれと、死に装束を突きつけます。景勝は自分とよく似た横蔵を自分の身代わりにするつもりでした。すると横蔵は、身代わりとならないために手裏剣で自分の片目をえぐり、人相を変えると、すでに武田信玄と意気投合をし、足利将軍家の忘れ形見・松寿君をを自分の子と偽ってお種に育てさせていたことなどを明かします。
横蔵は雪の中から掘り出した足利家の旗を翻し、慈悲蔵(実は長尾家の家来・直江山城之助)に幕下に付けと迫ります。ですが、自分の子を犠牲にしてまで孝行を尽くした慈悲蔵に軍書を譲り、自分は自ら山本勘助を名乗るのでした。
初めて観た文楽。重要無形文化財保持者の方が5名ご出演の、豪華な舞台でした(でも実は、出し物の関係で、お3人しか観てない^^;)。全然門外漢ですが、やっぱ違うぜ、重要無形文化財保持者。舞台に立つと、舞台がキリリとしまります。一番思ったのが、義太夫の竹本住大夫。すっごい塩からのダミ声なのに、客席の隅々まで、マイクなしで声が通るのはさすが! とても義太夫の内容も聞き取りやすいのです。蓑助の人形を操っていた吉田玉男さんもすばらしい! 他の人形使いの方だと、『人形を動かしてるんだわな』って感じなのに、吉田玉男さんだと『人形が動いてる!』。舞台ソデに入ってしまうまで、泣く場面だと、人形の指先まで震えていて、『辛いんだな』と伝わってくる物があります。やー、イイもん観ちゃったなー。
吉田玉男さん、舞台に立ってると、『大きい人なんだな』と思うのに、たまたま用を足しに出た人気のないロビーで、ご贔屓さんらしき方とご挨拶をしておられるのを、偶然目撃。小さく華奢な「好々爺」といった感じでした。これにもびっくり!
「本朝廿四孝」前半の、山本勘助に関する物語は、うっとりするようなロマンティックな場面はなく、舞台装置も地味目。人情話っぽいので、歴史物や時代劇の好きな男性向きの出し物かもしれません。ロマやきれいなものが好きな方は、後半の武田勝頼と八重垣姫を巡る物語の方が、ドラマティックで分かりやすいかも…です。ただ、ほとんど上演されないので、機会があれば観ておいたら、ちょっと自慢はできるかも。通しで観ようと思うと、本当に一日がかりです。椅子に座りっぱなしになるので、腹筋を鍛えてからどうぞ(^^)。
今回は、金茶の色無地に、すすきの柄の袋帯と、雪が描かれた帯留を合わせました。慈悲蔵が幼子・峰松を捨てる枯れ野や、横蔵と慈悲蔵の争う雪野をイメージし、舞台を着姿で表してみました。帯留を使わなければ、11月下旬から12月までの茶席にも向く組み合わせです。
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