ことさくらの 気の向くまま、いつもゴキゲン

2004年11月



■プラナリア・・・山本文緒

直木賞受賞作だというのに、初めて読んだ。
山本さんの要素がつめこまれた短編集。
いろんなことを経験したからこそ「わかるわかる」というのが
山本さんの魅力なのだよね。
叫びたいことを代弁してくれているような気がする。
さあ、12月ですね。

■マネーロンダリング・・・橘玲

マネーに関する幅広い知識がちりばめられ、それだけでも楽しめる。
さらに起こっていく殺人。罠はどこにあるのか。
登場人物も魅力的だし。初の小説としてはすごいのではないでしょうか。
最後のオチも納得がいく。
マネーに興味がある人はぜひ。
興味がない人はつらいかもね。

■フルハウス・・・柳美里

どこまでが正常で、どこからが狂っているのだろう。
他人にじわじわと、しかもずうずうしく影響を与える時、
その人は狂っていると言うことができるのだろうか。

念願の家を買った父が、
家族の代わりにホームレスを住まわせてしまう「フルハウス」と
不倫相手の妻にじりじりと追い詰められる「もやし」を収録。

相手に冷静な悪意があるときは、攻撃されても痛いだけで済む。
ねじまがった悪意や、悪意すらなかった時が問題だ。
こちらに太刀打ちする手段はない。
最後には狂うしかない。

■レキシントンの幽霊・・・村上春樹

これは一度売ってしまい、買い戻したもの。
やっぱりいい。「めくらやなぎと、眠る女」が一番好き。
短編集はあまり好きではないんだけど、
村上春樹さんの短編は、そこにあるものがとても明確。
それこそが短編なのだ、というポリシーがわかる。

迎合しないこと。確信を持っていること。
それが作家なのだろうね。

■海猫(上・下)・・・谷村志穂

美しすぎる人、がいる。幸せになれないぐらいに。
その人が望んでいるのは、
例えばささやかな安らぎであるのに、
磁場が狂わされてしまうのだ、きっと。

結婚していながら、得られないこと。
その苦しみと恨み。
別の人を愛してしまうこと。
生きることを止めながら、誰よりも力強い。

北海道の漁師町が舞台。
様々な過去や宿命を抱えた女性が
じりじりと心に迫る。


■準備だけはあるのに、旅の・・・内田春菊

「いつの日か~」の続きなのかな。たぶん。
春菊さんの悪意というのがダラダラと出てきて、
自分のウザさを認めざるを得なくなったりして。
書いてあることは至極陳腐なのだけど、エネルギーに押し切られる感じ。

■いつの日か旅に出よう・・・内田春菊

下にある宮部さんの本と正反対。読んでると頭痛い。頭痛い人ばっかりが出てくる。春菊さんはなんでこう尖ってるんだろう。しかし最初に周りの人にシンクロして、そして自分にシンクロする。そのパターンは一緒で、だんだん意味が分かってくる。

■理由・・・宮部みゆき

読んでいる途中は、いやー、長くって。もう面倒くさいわと思ってしまったのだけれど、最後にやられました。こういう切なさって大好き。本当に好き。悲しさって、どうしようもない所に生まれる。誰も悪くなくて、でもちょっとした誤解やすれ違いや運の悪さで流れていった先に、それはある。まっとうさと紙一重のところにある。凄惨で謎だらけの殺人事件とともに、それを描き出すとは、すごい。

■蛇を踏む・・・川上弘美

まるでチンゲン菜と出会ったときのようだと思った。自分好みの味ではないはずなのに、なぜか心を惹かれてしまい、いつの間にか好きになっている。
この人とは全くシンクロしないだろう。でも愛について、こんな風に書かれてしまったら―こんな風にとは少女のかけらだったり泥鰌だったりモグラだったりするのだけれど―力が抜けてしまう。あまりに的確すぎて、逃げたいぐらいだ。
「センセイの鞄」を読んで、油断していた。

いざ目の前にすると、ひねくれてみたり、遠回りしてみたり、ひゅるりと近づいてみたりしたくなる。それに気づいてもらえなくても、やめられないのだ。


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