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2022-0110ルビーとピエロ

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2025.11.04
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船の中で裕子は妄想中。右を向いたり左を向いたりしてよく眠れない。
 そして看護師の声が聞こえた。
「先生ですか? 今、気になる方がいらして」
 ぶつぶつ答える裕子。
 診察室で向き合っている医師と裕子。裕子は
「先生はどなたのことが気になるんですか? どなたですかどなたですか。その方がお好きなんですね」
「うん それは」
「それは?」
 突然船長の声がした。
「本日は集合したバスでシステイナ礼拝堂に向かいます」
 目を開けた裕子。船長のアナウンスが続く。
「何しろ世界中のカトリック教会の大本山ですから全世界のお客様で大変なにぎわいです。くれぐれも迷子になりませんように」
 ガバッと起きあがる裕子。
「大変大変」
 船のバスで窓際に座っている聡美。裕子が手を振って近付くと聡美は裕子を窓際に座らせる。
「大丈夫? ちょっと顔色が悪いわ。疲れが出た感じ」
「でもカトリック教会の大本山でしょう? これは拝見しなきゃ」
「二時間はかかるわ。付いたら起こすから」
「私の方が年上なのにお姉さんみたいだわ」
 すぐに寝始める裕子。最初は窓に頭を傾けていたがだんだん聡美に寄りかかっていく。
 診察室で医師といる裕子。
「どなたのことが気になるんですか?」
 医師がモゴモゴいっている。
「それは」
「それは?」
 また突然現れたのは何それさん。
「じゃーん わ、た、し」
 そして飛び起きた裕子。
 そして二時間かけてカトリック教会の大本山に着いた裕子と聡美。多くの人々に囲まれ歩いている。やがて回りの人が一人 また一人『おー』と声をを出す。
 理解していない裕子。
「どうしたのかしら」
 みんなが指を差し始める。聡美も同じように指さして
「見て!! 法王のお部屋の窓ですって」
 聡美が見ている方を裕子も見る。
「この偉大さ立派さ素晴らしさ」
「明日は法王のお出ましの日とかで三万人以上の人が集まるそうよ。一般人はショットアウトですって」
「いいときに来たわ〜」
 ありがたいありがたいと柏手する裕子。
 帰りに船のバスでは買い込んだカトリック大本山や礼拝堂、法王の絵はがきを眺めている裕子。またそれを見ながらいつしか寝込んでしまう裕子。裕子が持ったままの絵はがきを取ってバッグにしまう聡美。
 船に戻って裕子は自分の部屋でもまた絵はがきを眺めていたら船長のアナウンスが聞こえた。
「突然申し訳ありません。船長です。実は昨日、○○さんの奥様が急死なさいました。ご主人いわく奥様は敬虔なるカトリックのクリスチャンでしたので、きっと神様のおもしめしでしょうといってらっしゃいます。私たちも汽笛を鳴らして皆さんでご冥福をお祈りいたしましょう」
 裕子は急いで船内の名簿を取り出し、○○さんのページを開く。
「神様 せめてこの旅が終わるまで待っていて差し上げるわけにはおかなかったのでしょうか? とにかく、心からご冥福をお祈りいたします。合掌」
 涙が止めどなく溢れていく。
 翌日の船の喫茶店。座っている聡美。手を振りながら近付く裕子。ため息まじりに聡美は
「世の中一寸先は闇ね」
 座りながら
「わかる~次は私、かもしれない」
「例の方ね おとといの夕方船の大浴場グランドスパで入浴されてシャワーを浴びながらくたっとなさったそうよ」
「ひー」
「近くの方がフロントに連絡。幸い停泊中だったからお医者さまがご一緒に救急車で近くの病院へ」
「あっ」
 看護師の声が聞こえた。
「先生には気になる方がいらして」
 納得した裕子は小声で
「そういうことか」
 聡美は聞こえなかったが
「やっぱり脳梗塞で心不全起こされそうよ」
 裕子は
「私もそうなるわ。両親ともここだから」 と頭を指さす。聡美は
「私は父系がガンだからあっち」
「だけど法王のお部屋の窓を見せてあげたかったわ」
「カトリック大本山見せてあげたかった。私たち一般人と比べたらホントにホントに喜んだでしょうね」
 二人から同じようにため息が出た。








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最終更新日  2025.11.04 06:07:10
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