エージェント・代理人 田邊私的日記

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田邊伸明

田邊伸明

2007.01.30
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カテゴリ: カテゴリ未分類
久々に長文です。(笑)



若年層の国際移籍というテーマで一回目は大分の梅崎選手のケース、そして二回目は中京高校の伊藤選手の移籍に関して書きたいと思う。

大分の梅崎選手がローン(レンタル)移籍でフランスのグルノーブルに移籍した。先般、30歳のフリートランスファーのことを書いた際、初めてトラックバックというものを使ったのも同じ理由だが、ファンの人たちのこの種の案件に対する意見や考えを掲載したブログを読むと関心させられることが非常に多い。

そういういう点で、岡田さんのサポティスタは本当に面白いし、色々な意見を容易に見つけ出せるのに非常に重宝している。どうやって、こんなに沢山の面白い記事を見つけてくるのだろうかと関心させられるばかりだ。

話は、戻って梅崎選手の話。
サポティスタからリンクが貼られていた  【CERTO大分】 というブログの1月27日付けのコラムを読んで、書いている方の考えはなかなか素晴らしく同業者の方が書かれているのでは?と思った。

1)チームの経営的な視点から見ると選手を商品として考えていて2)選手としては移籍の形態に関わらず満足度は高く3)戦力補強は基本的にお金が必要な行為で4)しかしグルノーブルは手段を選ばず、予算の裏付けがない状況で選手の契約内容に難くせをつけて5)代理人のサジェスチョンが選手の野望を達成することに近づけ6)血も涙も無いストーリーに大分は苦渋の決断を強いられた。7)大分は梅崎選手と3年契約した上で、グルノーブルとレンタル6か月という契約を結んだ。8)おそらく、梅崎は大分に帰ってこないだろう9)同時に「黒船来襲」の対処法がみつからないまま「がんばれ」としかいえないことに虚しさを感じる。と書かれている。私は本件について詳細を知らないが、おそらく事実関係は新聞報道を中心書かれているのだと思う。



まず、一番目にグルノーブルが選手と大分の契約に難くせをつけたらしい。
選手契約の内容がどういったものだったかはわからないが、19歳で2006年にスポットライトを浴びた選手であるから、複雑な契約を1年前(2006年1月)にしていたとも思わないし、その時点では代理人はいなかったはずである。ということでおそらく、複数年契約の解釈に問題があったのではないかと思う。

そう推測出来る理由は二つ。
第一に、梅崎選手が1月に契約が切れることになっていれば、2月1日以降フリーであったはずだからグルノーブルはそれを待てば良かった=完全移籍になった。ところが、フランスリーグを初めとする多くの欧州リーグの移籍窓口は1月31日に閉まるので間に合わない。中田浩二選手の時は可能であったが、現在フランスリーグは契約の無い選手であっても2月1日以降の登録は原則認められない。なので、グルノーブルは梅崎選手と大分との契約が数十日契約を残した形で移籍をまとめなければならない。しかし、本来数十日の契約を破棄するために違約金を払うなんてことは欧州のクラブは考えない。欧州では選手とクラブの契約が1年を切ったら基本的に違約金は発生しないと考えるのが当然だ。しかし日本では異なり契約が残り一日でも、たとえ終了していても国内移籍規定に則って、違約金(移籍金)を要求する風潮がある。ガンバ大阪からグルノーブルに移籍した大黒選手はこれに近いケースで数千万の違約金が支払われた。しかし、梅崎選手のケースは契約を延長した。つまり契約の残存期間があったのではないかと考えるのが自然であり、だからこそ契約期間の表記がトラブルの発端だったのではないかと容易に想像することができる。

第二に実は私もここ数年、新に契約した選手の過去の契約書の複数年契約の記載の仕方を見て「あれ?」と思ったことがあるからだ。

選手契約書、俗にいう、統一契約書には契約の期間と基本報酬(総額と月額)を書く欄(下線部)がブランクになっていて、クラブがその欄を手書きで埋める様になっている。

たとえば通常1年契約の場合は下記のようになる。


基本報酬 
 総額  金 12,000,000  12
 月額  金 1,000,000

本契約の有効期間は 2007年2月1日 から 2008年1月31日 までとする。






基本報酬
 総額  金12,000,000 12 ヶ月分)
 月額  金 1,000,000

本契約の有効期間は 2007年2月1日 から 2009 までとする。



この契約を締結するに当り、クラブは選手に対し「2年目の年俸は来年の契約交渉時に
話し合おう」と言っていたらしい。しかし、契約書への記載は特別なく、上記のような書き方では、「2年契約だけど12か月分の基本報酬しか記載されていない」ということになり、極端なことをいえば2年目の年俸は1円でも良いことになる。これは不明瞭な書き方だ。それこそ担当者が代わったら言った、言わない、といったことになりかねない。

このクラブは中堅クラブであったが、いままでこういう指摘を受けたことは無いと言っていた。当然のことながらこのクラブに悪気は全くない。説明をすると大変納得していただき、次年度からは一般的に契約書の裏面や別紙覚書で記載、締結される勝利プレミアム(試合1勝ごとのボーナス)や成果プレミアム(リーグやカップ戦の順位によって支払われるボーナス)と併せて、「2年目の年俸は次年度に選手-クラブ間で協議し決定する」といった主旨の文章が追加されることとなった。

大分の場合がこのケースに当てはまるかはあくまで推測の域を出ない。しかし、日本のクラブは選手と口頭の合意事項が極めて多いことは事実。逆に海外では契約書に書いていないことは一切の効力を持たないのが当たり前だといえる。ましてや選手が言われたことを忘れてしまったら、もうどうにもならなくなってしまう。

別にグルノーブルの肩を持つつもりは無いが、FIFAに提訴する覚悟があるくらいなのだから、よっぽどの不備や曖昧な表現(と言っても統一契約書にクラブが記入する個所は前述の基本報酬額と契約期間以外にクラブの名と選手名、契約締結日以外には無い)が契約書にあったはずだし、いくら日本の会社がオーナーでGMが日本人だと言っても、所詮グルノーブルは海外のクラブチームである、すなわち、こういった海外のクラブとの接点が少ない大分にとってはまさに「日本語の話せる黒船」だったと思う。これもまた仕方がないと思う。しかし、何故その契約書の不備をグルノーブルが知りえたかということは謎。ましてや、その時点で梅崎選手に代理人がいなかったのならばなおさら不思議である。

一方、大分の肩を持つつもりは無いが3年契約を結んでローンでグルノーブルに行ったのであれば、大分は良い契約が出来たのではないかと思う。但し「CERTO大分」のコラム内にも書かれているが、半年後のオプションがどのようなものかということが重要。平たく言えば半年後にいくらでグルノーブルが買うことになっているかが大分の経営にとっては重要なことだといえる。

選手というものは海外に行って結果が出なければ「もっと挑戦したい」と思い、逆に結果が出れば「もっとレベルアップしたい」と思う。そういうものである。だからコラム筆者の書いているとおり、梅崎選手は行き先が無くならない限り、大分には戻ってこない確立が高い。

これまでにも何度か書いたが、基本的に日本を除く世界の移籍への共通ルールは、「移籍へのイニシアチブは、契約の残存期間が長いほどクラブにあり、短いほど選手にある。契約が切れれば選手は自由となる」ということである。

選手や代理人がどんなに「海外に移籍したい、させたい」と言っても、複数年契約が残っているのであれば、クラブは「駄目!」といえば本来それでおしまいである。契約とはそういうものであることを選手も学ばなければならない。

しかし、選手が「海外へ行きたい!」と主張し国内でのモチベーションが見出せない=生産性が無いとクラブが判断した場合、クラブはどうするべきなのであろうか?

他の会社に転職したいと契約社員から申し出があり、契約だから規則だから、給与をアップするからと引留めても、転職したい要望されたら。無理に引き止めることに生産性や意味があるのだろうか?

それでも無理に引き止めて、チームワークを乱すのであれば、認めてしまった方が良いかもしれないと考えるのもアリ。

いやいやプロフェッショナルな社会人として、誠心誠意契約を全うすべきだと考えるのもアリ、ではないだろうか?

コラムにもあったが大分は「大人の対応」=すなわち、移籍を認めるしかなかった。コラムの筆者の方が「虚しく」感じたり「血も涙も無いストーリー」と感じることはよく理解できる。そこには契約における日本独特の文化や、義理、人情といった日本人の素晴らしいアイデンティティーも深く関係していると思う。しかしそれは、黒船には通用しない。そしてそれに乗りたいと選手が思えば止める事は難しいのではないだろうか?

だからクラブもこの選手は将来有望だとなれば、若くてもメリットを見出せるような条件で長期契約をするしかない。そしてもし、契約期間中に「海外へ移籍したい!」といっても、「駄目!」と言うしかない。たとえ、選手に「血も涙も無い」と思われても。






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最終更新日  2007.01.31 01:17:45


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