まえがき
この本を手に取られた多くの方がそう考えられたのではないでしょうか。実を言えば私自身も２年程前は同じ様な状態でした。
そんな私がなぜ行政書士になろうと思ったのか。それは，法律の事を知らないために払わなくても良いお金を払ったり，返してもらうべきお金を返してもらえなかったりするような人たち，つまり法律弱者の人たちの役に立ちたいと思ったからです。
当時は一介のサラリーマンである私が行政書士を目指したのには，『人のためになる仕事』をしたい，という気持ちがありました（もちろんお金をもっと稼ぎたかったと言うのもありますが）。サラリーマンの場合は会社のためにはなっても，お客さんのためになる仕事をしているかどうかはかなり疑問です。逆にお客さんの言う事ばかり聞いていて大変な思いをした事もたくさんありました。サラリーマン人生の中で人のためになる仕事をした，と言う充足感を味わえる人はかなり幸運な人ではないかと思います。
私の場合は，このままでは一生その様な充足感は味わえない，何のために仕事をしてきたのか判らない，と言う気持ちが段々強くなってきていました。
それに比べ，行政書士などの有資格者の仕事は，直接その仕事を必要としている人のためのものですから，必ずその人のためになる訳です。例えそれが紙１枚の書類を役所に提出する事であったとしても，その人にとっては大切な手続きなのですから，その仕事をすることで心から「ありがとう」と言ってもらえます。
お金を貰ってお礼を言われる仕事というのは，医者や教師と有資格者ぐらいしかないのではないでしょうか。当然こちらもお金を頂く訳で，お互いに「ありがとう」を言い合う，Win-Winの関係が基本という珍しい職業と言う事ができます。
「行政書士の仕事」と聞いて，すぐに答えられないのはその仕事の範囲があまりにも広大だからです。本来的には「官公庁へ提出する書類の作成」と言うのが仕事の中心な訳ですが（許認可業務と言います），その法律の知識を生かした仕事もでき，しかも最近のように契約書作成の代理人（エージェント）になれる，など法律自体も法律家としての仕事に広がるように整備されてきていますので，ちょっとした紛争解決を行ったりと言うような業務も次第に多くなっていると言うのが実状です（民事法務業務と言います）
このように言わば「何でもできる」，と言うのが行政書士の仕事の特徴かもしれません。実を言うと最初は他の資格の登竜門的な位置付けとしてはじめた行政書士の勉強だったのですが，調べれば調べるほど自分がやりたいと思える事を叶えてくれる資格なのではないかと思うようになりました。
２年程前に私が行政書士を目指し始めたのにはこのような事情があったからですが，折からの長引く不況に中にあって，公務員や資格が脚光を浴びてきた時でもありました。そのような中で行政書士も試験制度が変わり，その人気が一段と高くなりました。
でもそれに比較して，『開業しても喰えない資格』と言う話も色々聞くようになりました。つまり，『3年は喰えないから覚悟しろ』とか『名刺を2000枚配ったら仕事が来るようになる』とか『近所に挨拶周りをして顔を覚えてもらえ』とか言う話をよく聞きました。
でも普通のサラリーマンが家族を抱えて3年間喰って行くのにいくら掛るのでしょうか。そんな資金はありません。それだけあれば充分会社が興せます。これでは，資格を取れば資金なしで独立できる，という謳い文句は嘘と言う事になってしまいます。
しかも，いろいろ調べてみると，ここ数年開業している行政書士の数は増えていません。全国で約38,000人と言う人数が，年間数千人という試験合格者がいるにも係わらず，ほとんど変わらずに続いています。もちろん開業する人がいない訳ではありません。何百人とか千人・二千人と言う人が開業しています。という事は，同じだけの数の人が廃業していると言う事になります。やっぱり資格を取ったからと言ってすぐに稼げるほど世の中は甘くはないと言う事のようです。
でも，世の中はうまくしたもので，時代はインターネット。ブロードバンドの時代になっていました。私の場合はIT系の技術者だった事もあり，何とかこのインターネットを利用して稼ぐ事ができる方法がないだろうか，と思っていました。そして調べてみたらこのインターネットをうまく利用して，開業直後から高収入を上げている行政書士の人たちがいる事がわかりました。
また，インターネットを利用しなくても，きちんとしたマーケッティング戦略を経てて事務所経営をしている人たちは，しっかり事業を運営できていると言う事も判ってきました。つまり，開業に当たっての『3年間の我慢』はやり方さえ間違えなければする必要ないと言う事です。
私が受験勉強を始めた2004年の初め頃はこのような人たちの書いた本が現れ始めた時で，今ではそれに刺激を受けて，そう言った手法を取り入れることで事業を成功させている若い行政書士の方々がかなり多くなっています。今の形の行政書士は戦後すぐから登場していますので，60年の歴史があるわけですが，いまやこの世界も「新世代」「ニュータイプ」の洗礼を受けつつあると言えるでしょう。
そして最近では行政書士は，喰える資格として認知されて来つつあります。認知度こそ他の『士業』に比べてまだ高くはありませんが，それもすぐに解消されるのではないかと思います。いまや書店の資格関係のコーナーではかなり大きなスペースを占めるようになってきました。「カバチタレ」などのＴＶドラマの影響もあり，知らない人の割合は段々少なくなってきています。
でもその仕事の中身となると，知っている人はあまりいません。なぜかと言えば，我々行政書士が積極的に公報していなかったと言う事も原因だと思いますが，先に述べたように『その仕事の範囲が広く，一言で説明できない』と言うのが一番の理由なのではないでしょうか。
この本は世間にまだ余り知られていない行政書士の仕事の中身をわかりやすく物語り風に紹介したものです。これを読んで行政書士の資格を目指している受験生の方や，資格は持っているけど開業を躊躇しているという方に実務の雰囲気を掴んでもらう，自分は行政書士に向いているのかを判断してもらう，と言うだけでなく，一般の方々にも我々行政書士が実際どういう仕事をしているのか，どういう時にお役に立てるのかを理解してもらう一助になれば幸いです。
2005/11/03
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