天の道を往き、総てを司る

天の道を往き、総てを司る

第四話


中央棟に近いエリアは大型企業のビルなどが揃ったエリア、そこから外側に出るに至って商店街、新市街地、旧市街地と続く。
マグナの自宅があるのは旧市街地の外れ……大型のトレーラーが二台は駐車できるスペースの一角に立てられた少し大きめの家。
元は小さな工場だったらしく、そこの事務所をそのまま住居に彼が改造したのだ。

「にしても……汚い家ねぇ……」

「喧しい。強引に押し掛けた分際でほざくな」

家の中に通した際の第一声で汚い家とは失礼すぎるだろと心の中でマグナは怒鳴る。
最も、長い間掃除していなかったので確かに汚いのだが。

「まぁ、文句は言えないわね。どうでもいいけど、一人暮らしには広すぎだし……物多すぎない?」

シャイルの言うことはもっともだ。
二階建ての事務所をそのまま住居に改造したとはいえ、一人暮らしの家にしては十分すぎるほどに広い。
そして何より、何に使うのか解らない道具が入ったダンボールやらが山積みになっている。
そもそも、住居としての雰囲気が全くない。

「実際に生活スペースにしてんのは二階だよ。一階は殆ど倉庫」

そう言いながらマグナはサクサクと一階の奥にある階段へと向かい、シャイルもそれに続く。
奥にある階段を上がると、そこは確かに普通の住居だった。
スペースが広いのは相変わらずだが、こちらは普通に生活感溢れる内装だ。

「へぇ……意外と普通ね」

「意外とは余計だ。奥の部屋が空いてるから、そこ好きに使って良いよ」

そう言って近くのソファーに座り込む。
シャイルが言われるがままに奥の部屋を覗き込む。
何もない空き部屋……一階が倉庫代わりと言っていたので、この部屋は本当に使う必要もなく弄んでいたのだろう。

「それじゃ、ありがたく使わせて貰うわ」

「あぁ。何か居るもんあったら一階にあるの適当に持ってっていいぞ」

その言葉を聞きながら、部屋のドアを閉める。
広さ的には少し狭いが……仕事柄、お世話になっていた営巣やらに比べれば十分すぎる程広い。
とりあえず床に寝転び、ため息をつく。こうして無防備を晒すのも久しぶりだ。

「暫くは此処でゆっくりさせてもらおうかしら」

家主の少年には悪いが身を隠すには丁度良すぎる立地条件にある家だ。
すぐ隣に廃工場があり、何かあればそっちへ逃げる事も容易……よくもまぁ、こんな所に住めるなと感心する。
これからの事は後で考えよう……そう思うと、すぐに眠気が襲ってきた。

(そう言えば……寝るのも結構久しぶりかなぁ)

病院でも結構寝ていたのにと苦笑しつつ、シャイルは眠気に従ってそのまま眠りに落ちた。



「も……もぉ勘弁してくれ……限界だぁ……」

軍施設エリア内トレーニングルーム。
一通りのトレーニング用器具の他に簡単な模擬戦用のスペースも用意された部屋で、ゲイルは今にも死にそうな顔で倒れていた。

「何よ、なっさけないわねぇ……」

それを呆れた様子でサリアが見やっている。
先程までゲイルは彼女とちょっとした格闘戦をやっていたのだが、結果は御覧の通りゲイルの敗北である。

「まだ9本目なのに……へばるの早すぎ」

「もう9本目の間違いだろうが……お前、どこにそんな体力あんだよ」

そう言いながらゲイルはサリアを見やる。
同年代の少女と比べてもやや小柄で細身だが、体力が異様なまでにあるのだ。
現に9本連続でゲイルとの組み手を行ったというのに多少の息切れのみで、殆ど疲れを見せていない。
ゲイルだって体力がないわけじゃないし、白兵戦にもそれなりの実力を見せる。
単にサリアが彼より体力もあって格闘が強いだけなのだ。

「鍛え方が違うのよ、鍛え方が」

フフンと自慢げに鼻を鳴らすサリア。
ゲイルはため息混じりに上半身を起こしながら呟く。

「ったく、体力付ける前に胸つけろってんだ」

直後、ゲイルは凄まじいまでの殺気を感じ飛び上がる。
見ると……サリアが鋭い目つきでゲイルを射抜いている。
気の弱い者ならその視線だけで確実に死んでいる……断言しても良い。

「ゲイル君……10本目行きたいんだ。へぇ~……」

声が思いっきり低く、ドスが利いている。
彼女の前で胸や体格の事を言ってはいけない……その事をすっかり忘れていた。
ゲイルの中で死に対する明確な恐怖……サリアの中でゲイルに対する明確な殺意が膨れあがる。

「い……いや、そのだな……今のは、空耳って奴でだね? ね?」

「10本と言わず、後100本ぐらい行ってみる? 私は全然構わないよ……休み無しでも」

サリアは腕を軽く振り、指の骨を鳴らしながらゆっくりとゲイルに歩み寄る。
ゲイルは一歩ずつ後ろへ下がるが……やがて壁に背が辺り、逃げ道を失う。

「さぁて……それじゃ、やろっか?」

サリアの私刑宣告が無情にも告げられた。
その後、トレーニングルームからゲイルの悲鳴が響き渡り、誰も近づかなかったというのは別の話である。



深夜、アトランティス下部、海上都市を支える支柱や作業用のタラップなどが露出している部分に数人の人影があった。
その手には防水加工されたマシンガンが握られている。

「おいお前ら……手筈はわかってんだろうな?」

集団のリーダーらしき男が他の男達に確認を取る。

「このタラップを上がれば、旧市街地の工場に出る。そこから街を通って軍基地エリアへと忍び込む」

「そんでもってここのMSをいただくだろ?」

笑い混じりに銃を担ぎながら言う。
この男達は海賊……貨物船、海上都市などを襲うことで生計を立てている連中だ。
海上都市での生活に馴染めなかった者や、軍人崩れなどが多くを占めており、彼らは後者の方だった。

「わかってんならいい。噂じゃ新型作ってるらしいからな……俺達で有効利用してやろうじゃねぇか」

銃で仲間を促し、統率された動きでタラップを駆け上がる。
頭上のハッチを開き、旧市街地地下へと出て目的地の工場へと到達する。

「おい、灯りが付いてるぞ」

「何?」

先行して工場に出ていた男が窓の外に見える事務所二階の灯りを指さす。

「この工場は使われてない筈だろ?」

「あぁ……誰かいるなら面倒だな。始末する、何人か連れてくぞ」

そう言って男は二人の仲間を連れ、事務所の一階へと向かう。
残りの面子は静かに、物音を立てないように工場を後にした。



「……3人か」

銃を持った三人の男がこちらに歩いていくるのが確認できる。
宛われた部屋で眠っていたシャイルだったが、何か気配を感じ目を覚まし、気付かれないように窓の外を見るとビンゴだった。
そっと部屋を出て、リビングでくつろいでいるマグナの元へと早足で近づく。

「ん? どうした? 飯ならまだだけど……」

「……伏せた方がいいわよ!」

マグナの胸ぐらを掴み、床に引き倒して彼が座っていたソファーの影へと自らも隠れる。
直後、フッと電気が消え一階から3人の男が飛び出し、手に構えたマシンガンをこちらに向け発砲する。

「なっ、なんだぁ!?」

「ちょっと黙ってて!」

マグナの口を塞ぎ、黙らせてシャイルはじっと身を潜める。
数秒後、銃声が止み左右から男が一人ずつ近づいてくる。

「……」

男達は互いに目配せし、マシンガンを構えたままソファーの左右へと回り込む。
しかし、突然ソファーの影から飛び出した少女への対応は流石に遅れた。

「なっ!?」

一瞬で男の懐に潜り込んだ少女……シャイルは男が腰に下げていたナイフを奪い取り即座に首を裂く。
振り向き様にナイフを反対側の男へと投げ、心臓に突き刺す。

「キサマ!」

最後に残った男がマシンガンを向けるが、シャイルはすぐさま床へと倒れ、最初に殺した男から拳銃を奪い発砲。
男の眉間に銃弾を撃ち込む。男は倒れながらマシンガンの引き金を引き、天井に無数の穴を開けながら階段を転がり落ちていく。

「……な、なんだったんだ?」

恐る恐る顔を出すマグナ。
この数秒の内に家は見るも無惨な状況へとなってしまった。
シャイルは銃を捨て、殺した男の装備を確認する。

「何してんだ、お前?」

「ん? ちょっとね……」

適当に漁っていると男の首にかけられたタグが目に入った。

「このタグ……ふぅん、軍人か」

「軍人がなんでこんな所に来るんだよ!?」

「さぁ? ま、多分軍人崩れの海賊でしょうね」

工作員かとも一瞬思ったがこんな派手に行動はしない。
それに、その手の人間にしては動きが雑すぎた。

「その軍人崩れの海賊が、なんで俺の家に来るんだよ?」

「それこそ知らないわよ。大方、灯りがついてるから見られたとでも思われたんじゃない?」

全く持って良い迷惑な話だ。
せっかくの我が家が海賊の勘違いによりボロボロとなってしまうとは。

「にしても……海賊ならたったこれだけとは思えないわね」

「どういう事だ?」

「わざわざ私達を殺しに来ただけってのは無いし……大方、自衛軍基地が目当てって所かしら」

海賊が海上都市に潜入するのは、街での略奪か軍基地からの物資強奪が目的だ。
前者なら基本的にMSによる攻撃と数人による潜入の二段重ねが多いがMS襲撃を告げる避難警報は鳴っていない。
となれば、答えは恐らく後者の方だ。

「軍基地でMSいただいて、適当に暴れてトンズラが目的とみて間違いないでしょうね」

「マジかよ」

「多分ね。軍の方は……まだ気付いてないっぽいわ」

軍が気付いているならそれを告げるサイレンが鳴るなり、潜入口であるこの付近に軍人が展開している筈だ。
アトランティス自衛軍はその辺りの対応がスムーズかつ迅速であると有名である。

「でもよ。ここでお前が全員……殺し」

「馬鹿。これで全員なわけないでしょ」

馬鹿の一言でマグナの言葉は中断させられた。
確かに、潜入してMSを奪おうというには人数が少なすぎる。

「何人かは中央塔に向かったでしょうね。さて……厄介なことになってきたわ」

他人事のようにシャイルは呟きながら、男の装備を奪う。
銃とナイフ、予備の弾を奪い、マグナの部屋に入っていく。

「悪いけど、服借りるわね」

「えっ……おい、何する気だよ!?」

部屋を覗くと丁度、シャイルが服を脱ぎ始めていたので慌てて部屋から飛び退き、壁の陰に隠れる。
服を脱ぎ捨て、適当にサイズの合いそうな服を見繕って着込む。

「何するって……ちょっと他の海賊も潰しておこうかなってね」

「はぁ!? なんでお前がそんな事すんだよ!?」

「せっかくゆっくりと休めそうな場所見つけたのに、海賊なんかに潰されちゃたまんないのよ」

服とジーパンを着て、銃とナイフを一緒にかっぱらったガンベルトに収めて部屋を出る。

「じゃ……そう言うことで」

「ああ……ってオイ!?」

さっさと出ていくシャイルを思わず追いかける。

「何? ついてこなくていいんだけど……?」

「いくらなんでも女一人で危ない事させるような事見過ごせねぇっての」

その言葉を聞いたシャイルはきょとんとした表情を浮かべ、目を見開く。
すぐに表情は戻したが、どこか呆れたような顔で。

「邪魔」

と、言い切った。

「邪魔って……お前、こっから中央塔までの道知ってんのかよ?」

「ここに来るまでに覚えたわ」

階段を降り、外に出る。
自分達二人以外に人の気配はない……すでに中央塔へ向かった後のようだ。

「こっから中央塔まで走っていっても20分はかかるっての。ぜってー間に合わねぇから」

「なら、どうする? アンタも故郷が海賊に潰されるのは面白くないでしょ?」

「まぁな。だから近道教えてやるよ」

そう言ってシャイルを追い抜き、マグナは敷地の外……市街地と外周部を仕切る壁まで歩く。
壁の一部……外の作業用スペースへと続くドアを開き、外周部に出る。

「出ても大丈夫なの?」

「このドアは半年ぐらい前にロックとセンサーが壊れてそのままなんだよ」

外周部の廊下を歩き、一つ下の階層へと降りる。
薄暗く、狭苦しい廊下が奥まで続いている。

「ここを真っ直ぐ行けば中央塔敷地内に出れるんだ。市街地通っていくよりは近いぜ」

「へぇ……地元の住民は違うわね」

「まぁな。職業柄、こういうのは殆ど頭に入ってんだよ」

マグナがシャイルを先導して、廊下を歩く。

「職業柄ね……もしかして、泥棒でもやってんの?」

「馬鹿言え! こういう場所の補強とかやってんだよ、俺は」

「成る程、詳しいわけだ。さぁて……急ぐわよ」

マグナの背を押し、シャイルが急かす。
彼女に急かされるまま、マグナは廊下の中を突き進んでいった。



整備班も引き上げ、証明も殆ど消されたMS格納庫。
開け放たれたフォルセティのコクピットで期待調整を行っているゲイルは頬に張った湿布を押さえながらため息をつく。

「サリアの奴……何もあそこまでやんなくても……」

あの後、サリアによる私刑を受けたゲイルは文字通り、徹底的に叩きのめされた。
全力で殴り飛ばされた右の頬は赤く張れ、医務室で湿布を貼って貰った物の未だに激痛が走る。
医務室の医者曰く「明日まで痛みは引かないと思う」との事だ。

「ったく……ついてねぇよなぁ」

一発喰らったおかげで2時間ほど延びてしまい、フォルセティの調整がこんな時間になってしまった。
サリアの胸のことを言ってしまった自分が悪いのだが、何も全力でぶっ飛ばす事もないだろうと思う。

「ふわぁ……寝みぃ……」

欠伸を噛み殺しながらコクピットに接続している端末を操作。
今日中に終わらせなければ行けない部分はまだまだ残っている。

「コーヒーでも買ってくっかなぁ……ん?」

眠気覚ましにとコクピットの外に出たゲイルの目に格納庫の一階をコソコソと動き回る影が飛び込む。
薄暗くてよく解らないが、数は3~4人と言った所か。

「おい、こんな時間に何してんだ」

思わず声をかける。
直後、少し離れた位置に銃弾が着弾した。

「えっ……とおわぁ!」

すかさず連射される銃弾を避け、フォルセティのコクピットに飛び込みハッチを閉じる。
端末を外してシートの後ろに置き、すぐさま機体に火を入れる。

「盗人か何かか。いきなり撃ってきやがって!」

アイカメラを点灯させ、頭部に設置されたライトを付ける。
ライトで一階を照らし、侵入者の姿を捉える。

「お前ら、どこのどいつだ!?」

管制塔に事態を連絡しながら、威嚇としてメンテナンスベットのロックを解除し一歩前に出る。

「動いてやがる!?」

「こいつが噂の新型……クソ!」

海賊達は怯みながらもマシンガンを連射しつつ、手近な機体を奪おうとコクピットへと昇る。

「家のMS盗る気かよ!」

更に一歩踏み出し、手を伸ばして海賊が乗ろうとしていたディープワングを激しく揺らす。
登場間近だった海賊はバランスを崩し、一階へと落下。
上手く受け身を取ったのか生きてはいるようだが、骨の何本かは折れただろう。

「悪く思うなよ」

一人撃退を確認し、残りを探す。
残りの海賊は二人がディープワングへ、一人がガルーダへ飛び乗ろうとしている最中だった。

「新型はどうする!?」

「とりあえずMSを何でも良いからいただけ! 新型は後でどうにでもなる!」

コクピットを閉じ、海賊達がMSを機動させる。

「チッ、乗りやがったか!」

メンテナンスベットを引きちぎりながら歩き、ガルーダがビームサーベルを引き抜き、フォルセティへと斬りかかる。

「格納庫の中でかよ!」

腕をあげ、ガルーダのビームサーベルを握る右腕を受け止める。
その隙に、ディープワングを奪った二人がハッチを破壊し、外へと逃げる。

「あ、テメェ等! 逃げてんじゃ……どおわっ!?」

逃亡した二機に気を取られている隙に、ガルーダが左腕でフォルセティを殴り飛ばし、適当にマシンガンを乱射する。
そうして、自らもディープワングが破壊したハッチから脱出する。
殴り飛ばされたフォルセティは背後のメンテナンスベットと固定されていたMSを巻き込みながら派手に倒れる。

「痛ってぇ……頭打ったっ……」

パイロットスーツを着ていないため、シートに後頭部と強打し、頭を押さえる。
頭を振りながらなんとか機体を立て直そうとするが、転倒する際に巻き込んだメンテナンスベットが引っ掛かり、上手く立ち上がらない。
更に適当に連射されたガルーダのマシンガンにより、何機かのMSが破壊されてしまっていた。

「ゲッ……マジかよ!?」

レバーを動かし、機体を操作するが微かに機体が軋むだけで外れる気配がない。
そうこうしている間に他の軍人達が駆け足で格納庫へと入ってくる。

「な、どうなってんだこれは!?」

「ゲイル! キサマ、何やってんだ!?」

『す、すんません! ついでに言うと海賊にガルーダ一機とディープワング二機盗られました!』

「お前……ったく! クレーンでも何でも使って早くどけろ!」

一人の軍人がクレーンまで走り、起動させようとキーと回す。
その様子を、格納庫隅の出入り口からこっそりとマグナ、シャイルが覗く。

「ちょっと遅かったみたいね」

「だな……ってどうすんだ? MS盗った海賊のやる事は一つだろ?」

MSを奪った海賊はこの後、仲間と合流して都市部を襲う。
格納庫がこの状況で自衛軍の出撃も大幅に遅れるだろう。よしんば撃退出来たとしても総統の被害が出るのは間違いない。
仲間を引き連れて襲ってくるのも時間の問題だ。

「そうね……MSがあれば使わせて貰う所だけど……この中のMSは使えないでしょうし……」

パッと見、すぐに動かせそうなMSは無い。
破壊されているか、メンテナンスベット毎倒れているかのどちらかだ。
どうしたものかと唸っていると、マグナがハッと思い出したように言う。

「そういや、一つ下の階層にもう一個格納庫あった筈だ」

「ふぅん……なら、そっちに行ってMS拝借させてもらいましょうか」

すぐさま引き返し、一つ下の階層へと降りて、そこから格納庫の中へと入る。
こちらの格納庫は修理中や解体作業中の機体が主に置かれており、被害はないが使えそうな機体は殆ど無い。
しかし、奥の方に丁寧に並べられている二機のMSがあった。

「あれは……?」

二機の内、一機にはマグナは見覚えがある。
この間、偶然にも乗り込んでしまったエーギルガンダムだ。
もう一機は、緑色の装甲に身を包んだ重武装系の、エーギルと似た顔をしたMS。

「こっちは見た事あるけど……緑のは知らないな」

「見た感じ水中用と……後方支援用か拠点防衛かどっちかかしら? 接近戦用の武器まで持ってる辺り、どっちも違うっぽいけど」

後頭部を掻きながら呟く。
確かに後方支援や拠点防衛の機体なら接近用の武器はそれ程必要ない。
わざわざ装備させる程の理由も無いだろう。

「ま、どうでもいいか。使えるんなら使わせてもらいましょ」

考えも程々に、シャイルはさっさと緑色のMSの方へと歩いていく。
メンテナンスベットに備え付けのラダーでコクピットまで一気に上がる。

「君も来るならさっさとしてよ。それ以前に、そこにいると踏みつぶすわよ」

「わぁってるよ!」

マグナも急いで、もう一機……エーギルのコクピットへとラダーで上がり、乗り込む。

「ったく、またコイツに乗る羽目になるなんてな……」

ハッチを閉じ、計器に火を入れていく。
モニター、レーダーなどに光が灯り、計器が次々と起動する。
緑色のMSに乗り込んだシャイルも同じく手慣れた手つきで機体を起動させる。

「調整とかは全部終わってるみたいね……機体名は……ティルテュガンダム?」

立ち上がったOSに表示された機体名を読み上げる。
片手間にシートの裏にあったマニュアルを読み、操縦法を確認する。

「基本はどこのMSも一緒か……武器管制がややっこしいみたいだけど……どうにでもなるか」

マニュアルを投げ捨て、パネルを操作し、メンテナンスベットの拘束具を解除する。
ティルテュガンダムのアイカメラに光が灯り、一歩踏み出す。

「先に出てるわよ」

そのまま格納庫を歩き、外へと続くハッチを開く。
同時にカメラを最大望遠……海賊が奪ったガルーダとディープワングの機影を確認する。

「さぁて……追いかけますか」

ティルテュの脚部に装備されたスラスターを起動させる。
そのままハッチの外へと飛び出し、水上を疾走し、逃亡する3機を追う。

「お、おい! 待てよ!」

マグナもエーギルを起動させ、急いでティルテュの後を追ってハッチを飛び出し、水中へと飛び込む。
背中のスクリューエンジンを作動させ、一気に水中を駆ける。



「何!? 下の格納庫からエーギルとティルテュが出た!?」

「はい、誰かが忍び込んでいたようで……海賊達の後を追うように」

「海賊が乗り込んだとしたら不味いな……早く出撃出来るようにしろ!」

部下の報告を受けたアキラは頭を抱えつつ、早く出撃させられるように作業を急かせる。
とりあえずフォルセティだけでも動かせれば後はどうにでもなるのだ。

「そう言えば、サリアは何処に行った?」

思い出したように格納庫を見渡す。
こういう時に一番張り切って動くであろう少女の姿がどこにも見あたらないのだ。

「サリアなら開発部の方ですよ。ヴァハが水中用装備の点検作業で開発部の方に行ってましたから」

「成る程な……じゃ、サリアに頑張って貰ってる間に俺達はこっちをどうにかするか」

サリアの行動力に感心しつつ、アキラは気を引き締め格納庫の一階へと降り、自らも作業に参加する。
海賊の母艦たる潜水艦は領海内をアトランティス目刺し、航行していた。



アトランティス自衛軍開発部。
所属は軍と言う事になっているが民間の作業用MSの開発なども行っている区画にサリアはいた。
メンテナンスベットに固定され、水色と白のツートンカラーに塗り分けられた装甲を取り付けたヴァハ……水中用装備のコクピットへと乗り込む。

「この装備での実戦は初めてだけど……泣き言言えないわよねぇ」

深呼吸して自らを落ち着かせ、気を引き締める。

『気圧調整、注水開始。よろしいか?』

「はい!」

サリアの返事の少し後、二階の窓ガラスにシャッターが降り他のMSを固定しているメンテナンスベットや工具類が壁の奥へと仕舞われる。
そして、ヴァハ一機だけになった所で区画内へと水が注水される。
開発部施設は海中にあり、注水及びハッチ展開で水中用MSの出撃が行えるようになっている。

『注水完了、ハッチ開け』

床下のハッチが開き、ヴァハを固定するメンテナンスベットのロックが外れる。

「水中用装備、ヴァハ行きます!」

背中のスクリューエンジンを起動させ、海の中へと出撃する。
頭部センサーを海中用のソナーへと切り替え、何者かが搭乗して先に出撃したと聞いたエーギルとティルテュを追う。

「どこの誰があの二機に乗ったのよ……もぉ!」

ガルーダやディープワングは余所の国や、民間に売却する事も多いので盗られるのは問題には違いないが技術的に問題はない。
しかし、エーギルやティルテュは最新鋭のMSであり、盗られるのは非常に不味い。

「この速度なら、すぐに追いつけるかな……逃がさないんだから!」

背中のエンジンを回転させ、ヴァハは水中を駆け抜ける。



「よし、取れたぞ!」

格納庫でも、フォルセティに引っ掛かったディープワングを引き剥がす事に成功していた。
ゆっくりと起きあがり、フォルセティの機体チェックをする。

「よし……異常は特にないな」

『ゲイル、お前はそのまま出撃して海賊を追え!』

「了解!」

アキラに促されるまま、破壊された格納庫の穴からフォルセティを跳び上がらせる。
空中で機体を変形、戦闘機形態となり海賊の後を追う。



アトランティス領海内、人々が地上に住んでいた頃の名残りである街並みが海底に広がる場所に海賊の母艦はあった。
元いた軍を脱走する際に、退職金代わりとばかりに盗んだ物だ。

「新型に追われてる?」

『ああ、かなり速くて追いつかれるのも時間の問題だ。数は二機!』

「わかった。お前らはそのまま新型を釘付けにしろ……こっちからも応援出す」

通信を受けていた男はそれを切り、ブリッジにいる部下達に指示を出す。

「艦を前に出せ! 残りのMSも出撃させろ、俺も出る!」

「「了解!」」

元軍人としての癖が染みついているのか、海賊となっても軍属の時のような受け答えだがそれは関係ない。
結果的にスムーズに事が運ぶのは良い事だ。
ブリッジから格納庫に移動し、MS……左腕を作業用ベンチアームに換装したディープワングに乗り込む。

「さて、久しぶりにMS戦と行くか!」

軍人だった頃、MSパイロットとしてそれなりに成らした事を思い出しながら男は部下を引き連れ出撃した。



マグナとシャイルが追いかけていた海賊は母艦に連絡を取った直後から攻撃を開始し始めた。
水中のディープワング二機はトライデントを構え、エーギルに接近戦を仕掛ける。

「来るのかよ!」

軍のMSを二度も勝手に動かし、半ばやけくそ状態のマグナも背中からツイントライデントを抜き応戦する。
振るわれるトライデントを受け止め、頭部を殴り飛ばして間合いを取る。
もう一機のディープワングに腕部のアンカーを射出、腕を絡め取り強引に引き寄せる。

「うおりゃぁ!」

そのまま勢い任せに投げ飛ばし、アンカーを切り離す。
ディープワングは海底へと叩きつけられ、砂が舞い上がる。

「野郎!」

海賊がディープワングの魚雷を発射。
マグナはエーギルを後退させ、胸部のフォトンメーサーで応戦する。
一方、海上を疾走するティルテュは空中にいるガルーダの銃撃を回避しつつ、反撃の機会を伺っていた。

「……っ!」

ホバリングで海面を引き裂きながら、背中に背負う二問のレールガンを構え空中のガルーダへ放つ。
レールガンの弾丸は狙いを僅かにそれ、ガルーダの装甲を掠める程度に終わり、反撃のマシンガンがティルテュの周囲に着弾する。

「何なのよこのMS……ホントに使えるように作ってるの!?」

シャイルはティルテュの複雑すぎる操作性に悪態を付く。
今まで色々なMSに乗り、ピーキーな操作性の改造機なども乗りこなした経験はあるが、これはそれらよりも更に上だ。
純粋に戦闘力だけ追求したのか、流し読みしたカタログに載っていたスペックは高かったが、操作性は二の次だったらしい。

「調整とかバグ取りだけはちゃんとやってるみたいだけど……ったく、アトランティスって聞いてた程じゃ無いみたいね」

アトランティスは数ある海上都市の中でも、一二を争う発展をした都市であり、MSの技術も高い物があると聞いていたが所詮は噂でしかなかったかと少し肩を落とす。
ともかく、一度乗って出撃したからにはこのじゃじゃ馬MSを意地でも乗りこなさなければならない。
でなければ此処で死ぬのみ……それだけは勘弁願いたい所だ。

「コンディションだけならアンタより最悪なのに乗った事もあるんだから……無理にでも手懐けてやるわ!」

レバーを引き、機体を急展開させ両肩に取り付けられたミサイルポッドを展開。
狙いをろくに付けないまま全弾発射。

「ぬぅ!」

ガルーダの海賊は一瞬怯むがすぐにマシンガンで自分に直撃するであろう弾だけを正確に撃ち落としていく。
シャイルはすぐにバックパックにマウントしているビームガンランチャーを脇に挟んで構え、引き金を引く。
狙ったガルーダのコクピットには直撃しなかったが、右腕と翼の破壊に成功する。

「しまった!?」

「貰った!」

失速し、落下するガルーダへと突撃。
腰にさげているヒートホークを抜き、コクピットに叩きつける。
そのまま力任せに両断し、ガルーダの機体は爆散した。
海中でも、エーギルとディープワングがトライデントをぶつけ合い、戦闘を続けている。

「チッ! 場慣れしてない動きの割にはしぶとい!」

「操縦だけは慣れてんだよ!」

トライデントを中央から取り外し、二刀流にして一本でディープワングのトライデントを受け止めもう一本を頭部に突き立てる。
水圧により、ディープワングの機体が頭部から潰れていく。

「潰れる!? うわああああ!」

水圧で機体を潰されながら、ディープワングは海底へと沈み爆発する。

「まず一機……っと!」

トライデントを連結させ、一本に戻しもう一機のディープワングへと向き直る。
残ったディープワングのコクピットで海賊の男は圧死した仲間を見届け、モニター越しにエーギルを睨み付ける。

「クソ! 仲間の仇だぁ!」

両肩を向け、ありったけの魚雷を連射。
マグナは咄嗟にエーギルの両肩……アームで繋がれたシールドを前面へと可動させ、魚雷の攻撃を防ぐ。
衝撃で後方へと吹き飛ばされるが、魚雷によるダメージは機体本体どころか、シールドにすら無い。

「なんだと!?」

「魚雷に耐えた? なんつー装甲してんだ、このMS」

エーギルの装甲の厚さ、頑強さに呆れ半分、感心半分といった感情を持ちつつ、マグナは背中のバックパックを持ち上げ肩に担ぐ形にする。
先端部の発射口が開き、計八つの魚雷がディープワングへ放たれる。

「ぬうわああ!?」

ディープワングも魚雷を放ち応戦しようとするが、間に合わずに直撃を受け大破する。
爆発を確認し、マグナはホッと一息つく。

「一応……終わった……」

『どうやら、そうでも無い見たいよ』

「へ?」

シャイルからの通信を聞き、ソナーに目をやる。
ソナーの探知画面には、4機ほどの水中用MS反応が捉えられている。
同じく、ティルテュのレーダーにも4機の空中用MSが反応し、接近してきている。

『海賊の本体かしら……流石にこの数はキッツイわね』

「落ち着いてる場合かよ!?」

いくらなんでもこの数は太刀打ち出来ない。
相手は戦闘を本業とした海賊、こちらは本来作業用パイロットと得体の知れない少女……勝ち目など有るはずもない。

『さて……逃げるのも間に合いそうにないし……やるしかないかしら』

「ったく……何でこうなるんだよ……」

シャイルは腹を括り、マグナは自らの運の悪さを呪ってため息をつく。
どうあがいても勝ち目はないだろうし、逃げるのも難しい……こうなれば当たって砕けろだと彼も腹を括る。
その直後、二機のレーダーに新たな反応が捉えられる。

「これは……!?」

後ろを振り向く。
そこには水中用装備に換装したヴァハがクローアームを構え、こちらへと向かってきている姿が確認できた。

「やっと追いついた! なんか、戦闘してたみたいだし……オマケに敵増援接近中だし、何がどうなってんのよホントに!」

海上でも、ティルテュの上空を旋回し、MS形態へとなったフォルセティが二丁のマシンガンを構え、滞空する。

「ティルテュをまともに動かしてんのか? 乗ってんの誰だよ……?」

隊長であり、自衛軍のトップエースでもあるアキラでさえ振り回されたティルテュに乗っているパイロットが気になるが今はそれに気を取られている場合ではない。
レーダーに移る敵機を殲滅する方が先だ。

『ゲイル、上は任せてもいいわよね?』

「おう、任せとけ」

サリアからの通信に大見得を切り、すぐにティルテュへと通信を繋ぐ。

「ティルテュに乗ってる奴、状況が状況だから手伝えよ」

『はいはい……解ってるわよ』

「……女かよ」

通信機から帰ってきた声に少し驚きつつ、モニターで視認できる距離まで近づいてきた敵機に意識を集中させる。

「さて……ヘマした分、取り戻すとするか!」



海中のエーギルとヴァハの目の前にも4機の海賊が使用するディープワングが接近してきている。
サリアはヴァハをエーギルの前に出し、通信を繋ぐ。

「エーギルに乗ってる人、一体誰よ!?」

「えっと……その、こないだ世話になったばかりのマグナ・ルーヴィルです」

「マグナ……あぁ……あの時の。全く、この間は隊長が見逃してくれたけど、今回はそうは行かないと思いなさいよ」

「解ってるよ……はぁ、俺の人生お先真っ暗だ」

思いっきりため息をつく。
二度も軍の新型を無断使用しては流石に重罪は免れないだろう。
海賊撃退に成功すれば多少は軽くしてくれるかもしれないが、

「とりあえず、私が前に出るから援護お願いね。仲間が来るまででいいから」

「わかりました……はぁ、こうなりゃどうにでもなれ!」

マグナが今日何度目かのやけくそを決意した直後、海中の敵MSが行動を開始。
2機のディープワングがヴァハとエーギル目掛けトライデントを構える。

「来たっ!」

すぐさまサリアも動き、クローアームでディープワングのトライデントを受け止める。
ディープワングはパワーで押し切ろうとするが、ヴァハはそれを片手で持ち上げトライデントをへし折る。

「なんだとぉ!?」

「隙あり!」

そのまま至近距離から胸部のフォトンメーサーを発射。ディープワングの胸部を撃ち抜き破壊する。
もう一機のディープワングがエーギルを狙うが、マグナがツイントライデントでディープワングをトライデントを受け止める。

「ぬぅっ!?」

「んのやろぉ!」

力任せにディープワングのトライデントを弾き飛ばし、頭部を殴りつける。
体勢を崩した所をサリアがクローアームを頭部に突き立て圧壊させる。

「オイオイ……あっという間に二機撃破か。パイロットの腕か、機体性能か……フン、どっちも良いか」

海賊のリーダーである男は口元に笑みを浮かべる。
久しぶりに戦いがいのある強敵に出会えたかもしれない……と心が躍る。

「俺はあの白と青のMSをやる! お前は盾持ちをやれ!」

部下に指示し、男はカスタムディープワングをヴァハ目掛け走らせる。

「あのカスタム機……指揮官機!?」

「やるぞ、新型ぁ!」



空中ではガルーダとフォルセティの空中戦が繰り広げられていた。
二機のガルーダがフォルセティに追いすがり、二機のガルーダがティルテュを狙いマシンガンでの銃撃を加える。

「チッ、うざってぇなぁ、オイ!」

背後に張り付くガルーダに舌打ちし、ゲイルはフォルセティの脚部スラスターを噴かす。
各部のスラスターを器用に噴かし、バック転の容量でガルーダの上を取る。

「何ぃ!? うわああああっ!?」

そのまま至近距離でのマシンガンを連射し、蜂の巣に変えたガルーダが海面へと落下、爆散する。
一方、海面を疾走するティルテュは左の脇腹にビームガンランチャーを構え、右手にヒートアックスを握って二機のガルーダを睨む。

「逃げてばっかゃ、終わらないわよね」

ため息混じりに呟き、シャイルはティルテュを反転。
ガルーダに狙いをつけビームガンランチャーを発射。

「当たるか!」

しかし、二機のガルーダはそれをあっさり回避し、反撃とばかりにマシンガンを連射してくる。

「チッ」

やはり照準が定まらないと舌打ちし、マシンガンを回避。
ビームガンランチャーを仕舞って左腰のヒートアックスを構える。

「こうなったら直接ぶった斬るだけね!」

背中のレールガンを構え、発射。
やはり避けられるがシャイルはその隙に接近し、ヒートアックスを投げつける。

「なぁっ!?」

投げつけられたヒートアックスにパイロットが驚き、避ける事叶わず頭部に突き刺さる。
そこへレールガンを発射し、完全に爆砕。もう一機にはレールガンを適当に放ちながら、ヒートアックスを構える。



カスタムディープワングの左腕、ベンチアームがヴァハに叩きつけられる。
咄嗟に左腕でガードするが、やはりパワーを受け止めきれずに吹き飛ばされる。

「あぁう! くっ……ベンチアームで殴るなんて!」

体勢を立て直し、胸部のフォトンメーサーを放つ。

「当たるか!」

フォトンメーサーを避け、右肩の魚雷を発射。
ヴァハはそれを最小チャージのフォトンメーサーを連射する事で迎撃し、距離を取る。

「接近戦じゃ不利っぽい……距離取らないと!」

「なかなかやるじゃないか!」

男はヴァハを追い、左腕のベンチアームを回転させる。

「おいおい、あっちヤバそうなんですけど……っ!」

応援に行こうとするが、エーギルももう一機のディープワングに足止めをされ動けない。
魚雷で牽制しつつ接近戦を仕掛け、エーギルをヴァハの元へ向かわせる暇を与えない。

「クソッ、手加減しろって!」

魚雷をシールドで防御し、接近戦のトライデントをツイントライデントで受け止める。
マグナは左腕をディープワングに向けアンカーを射出。頭部のゴーグルカメラにアンカーを突き立て、破壊。
ディープワングが怯んだ所でツイントライデントを振り下ろし、胸部と腹部を両断、破壊する。

「ふぅ……次はあっちか!」

敵を撃破し、マグナはエーギルをヴァハの応援へと走らせる。
ヴァハはディープワングの左腕を避けながら、右腕のクローアームで殴りつける。
ディープワングは左腕でそれを受け止め、ヴァハの腹部を蹴り飛ばす。

「うあっ! コイツ……っ!」

「腕は良いがまだ未熟か……っ!」

男は勝利を確信したような笑みを浮かべ、ヴァハのトドメを刺そうと左腕を振り上げる。

「貰うぞ!」

「んの……舐めるなぁ!」

背中のスクリューを全開にし、加速して上昇。
左腕の一撃を避け、魚雷を放つ。

「むぅ!?」

左腕で魚雷を防ぐが、直撃には耐えられず左腕が吹き飛ぶ。

「チッ!」

咄嗟に左腕をパージし、間接部にシャッターを降ろす。
攻撃の要である左腕を破壊されては勝ち目は薄い……男は舌打ちをしつつ、ヴァハがトドメと放つクローの一突きを受け止める。

「くっ!」

「キサマ、なかなかやってくれるじゃないか!」

「通信!? 何のつもりよ!?」

「ほぅ……女か。しかも若いな」

ヴァハを離し、フォトンメーサーで牽制し距離を取る。

「フン……決着は次に持ち越しにしておこうか」

モニター越しにヴァハを睨み、口元に笑みを浮かべ男はディープワングを走らせる。
それと入れ替わりにエーギルがヴァハに追いつく。

「おい、大丈夫か?」

「ええ……大丈夫よ」

ぶっきらぼうに言葉を返し、通信を切る。
もう少しで勝てたというのに、軽く逃げられた。
それが悔しく思える。

(あの海賊……キザってくれて、ムカツク)



海中での戦闘が終わりを告げた頃、海上と空中も戦闘が終わろうとしていた。
残り二機のガルーダをティルテュとフォルセティがそれぞれ相手をし、追いつめる。

「そろそろ……終わりにするわよ!」

ヒートホークを腰にマウントし、ビームガンランチャーとレールガンを構え一斉に放つ。
避けきれずに脚部を破損したガルーダにトドメの一撃とばかりにビームガンランチャーを放ち、爆砕。
フォルセティは戦闘機形態となり、ガルーダをその高機動で翻弄する。

「クソッ! は、速すぎ……っ!?」

「そらよ! 全部持ってけ!」

両翼に取り付けたミサイルを発射。
吸い込まれるようにガルーダに直撃し、機体を爆散させる。

「ふぃ……終了っと!」

空中でMSに変形し、海面へとゆっくり降下。
それと同じく、ヴァハとエーギルも海面に顔を覗かせる。

「ゲイル、そっち終わった?」

「ああ、まぁ楽勝だったな」

軽い調子で言うゲイルに呆れつつ、サリアはエーギルとヴァハに通信を繋ぐ。

「えっと、二人とも。とりあえず私達についてきて。逃げようだなんて思わないでよ」

「へいへい。わぁーってますよ」

「言われなくてもね」

「……ホントに解ってんのかしら」

マグナとシャイルの声からなんとなく察せた態度に呆れつつ、サリアはゲイルと共に二機を先導しつつアトランティスへと帰還した。

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