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「忠臣は二君に仕えず」
を地でいく侍。そんな絶滅種を真正面から描いた作品でした。
絶滅種といえば、任侠道に殉じるヤクザもそうかも。
時は幕末、処は江戸。
貧乏御家人の別所彦四郎は、文武に秀でながら出世の道をしくじり、夜鳴き蕎麦一杯の小遣いもままならない。ある夜、酔いにまかせて小さな祠に神頼みをしてみると、霊験あらたかにも神様があらわれた。
だが、この神様は、神は神でも、なんと貧乏神だった!
とことん運に見放されながらも懸命に生きる男の姿は、抱腹絶倒にして、やがては感涙必至。傑作時代長篇。
神から狙い定めて選ばれたのではなく、無意識にでも、彦四郎自身が選んだからこそ三神が現れた。彦四郎本人の心の中から。
三神が蕎麦屋の親父さん小文吾や母親や兄や、とにかく他の人間も見ることができ、喋ることができるあたりは妄想なんかじゃなく、正真正銘の神様なんでしょうけど、印象としてはそうでした。
三神が現れなけりゃ、彦四郎なんてただのごく潰し以外の何ものでもありません。どれだけ能力があろうと、くすぶってりゃニートと一緒。
生まれたときから運命が定められている武士という存在。どれだけ理不尽だろうと、時代にそぐわなかろうと、その運命に殉じることこそが武士の、侍の美学。
三神に出会うことで、彦四郎はわき目もふらず武士としての本懐を遂げられたのだから。
と、この辺、手前勝手(=独りよがり)な解釈ではありますが、正直、 「武士道とは死ぬこととみつけたり」
は好きじゃないです。
その手のものを読むと、「体面以上に大事なものだってあるじゃん!命を粗末にする奴は大っ嫌いだ!大莫迦野郎!」と小1時間ほど肩をぶんぶん揺さぶりながら説教かましたい気分になっていけません。
彦四郎は、まさしく説教かましたくなる主人公ではありましたが、最後まで一気に読ませられ、不覚にも感動させらてしまったのは、さすがベテラン作家、浅田次郎の真骨頂というか。
「恨みつらみだのお家大事だのとさまざまの理由をつけたが、おのが心の奥を疑視すれば、ただ貧乏と病とを恐れただけの、卑怯きわまる行いであったように思えた。」
前半は、彦四郎本人が述懐してるとおり、どんだけ奇麗事言っても卑怯者じゃん、武士なら宿替えなんかせずに自分で片をつけやがれ!と思ってイライラしたもんですが、その最期は見事でした。
義に殉ずる姿は莫迦だなあ、とは思うけれど。
幕末を彩る、一世一代大莫迦野郎の生き様、ここにあり。
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