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雫の水音
空の軌跡~序章~その1
オーブメントと呼ばれる機械産業が進んでおり
豊かな自然を保っている伝統ある国。
しかし、10年前、周辺諸国に国力で劣るリベールは
北に位置するエレボニア帝国に大規模な侵略を受けたが
現在は、平和を保っている。
そして、この物語は
リベールの北東に位置するロレントという町から
始まっていく…
町を出て少しのところに、木で建てられた立派な家が佇んでいた。
空は、すっかり暮れ、木々で囲まれているその家は
薄暗く、どこか寂しげだ
「う~ん。父さん遅いなぁ。
今日帰るってギルドから連絡があったのに…」
その薄暗い家の中で、
11歳ぐらいの茶色の長い髪をした。活発そうな少女が椅子の上に
チョコンと座っていた
父カシウスの帰りを食事を用意して待っていた。
少女は、待ちくたびれて窓から外を覗いた
「シェラ姉は、修行で王国を旅してるし…
あ~、つまんない。ゴハンの前にもう一回
棒術の練習でも使用かな」
少女が、ふと呟いたとき
森で冷やされた冷たい空気が足をなぞった。
そして、玄関から声が聞こえた
「お~い。帰ったぞ!」
それは父の声だった
「おとーさん」
少女は、さっきまでの寂しさを忘れ
笑顔で玄関まで走った
カシウスは、少女と同じで茶髪をしており
ダンディーと言う言葉がピッタリ合う姿をしている。
そして、布に包まったものを抱えている。
「ただいま、エステル。
待たせちまったようだな
いい子で留守番していたか?」
「ふふん!当たり前よ。」
エステルと言う少女は、胸を張った。
「とーさんの方は何も無かった?
魔獣と戦ってケガしなかった?」
「おお、ピンピンしているぞ。
それよりエステル。
実はお前にお土産があるんだ」
「え、ホント!?」
エステルはお土産と言う言葉に想像を膨らませた
「釣り竿?スニーカー?それとも棒術の道具とか?」
「………育て方、間違っちまったかな?
お前ねぇ、女の子だったら服とかアクセサリーじゃないか?」
困り果てたように言った
「キレイな服はスキだけど。
スグに汚しちゃうんだもん。
アクセサリーも遊んでて壊したらヤだし。
それより、とーさん
その大きな毛布どうしたの?
ひょっとして、それがお土産?」
エステルは目を輝かせ無邪気に言った。
「お!鋭いな
よっと……」
カシウスは、毛布を少し捲った
その包まっていた物は黒い髪の毛をした
エステルと同じぐらいの年の少年だった
「………ふえっ?」
エステルはその中身を見て、言葉が出なかった
「まぁ、こういうわけだ。
わりと、ハンサムな坊主だろ?」
カシウスは、笑顔で言った
「な、な、な………
なんなのー この子!?」
驚きのあまり大きな声で叫んだ
「大きな声を出すなって。
起こしちまうじゃないか。」
カシウスは、真剣そうな顔つきでいった
「起きちゃうって……
この子、生きてるの?
なんか、グッタリしてるけど。」
少年は頭に包帯を巻いていて
死んだように眠っていた
「手当ては済ませたから
もう命の危険はないはずだ。
だが、とりあえず休ませる必要がありそうだな。
ベッドに運ぶから
エステルはお湯を沸かしてくれ。」
「らじゃー」
「よく寝てる……
この子、あたしと同じくらいのトシだよね。
こんな真っ黒な髪
あたしはじめて見るかも。」
エステルはベッドの横に、立って
カシウスに言った
「確かに見事な黒髪だな。
ちなみに瞳はアンバーだぞ。」
「ふーん」
エステルは覚悟を決めたように
父の方に振り向いた
「それはともかく……
そろそろ話してもらおーか?」
エステルは、浮気をしたのを知った妻のように
険しい表情で父を見つめた
ギクッ
カシウスはエステルの表情に気圧された
「この子、ダレなの?
何でケガしてるの?
どうしてとーさんが
ウチまで連れてきたの?
ひょっとして隠し子?
おかーさんを裏切ってたの?」
エステルは疑問を父に問いただした
「ふぅ、どこでそういう言葉を仕入れてくるんだか…
って。シェラザードに決まってるか。」
「うん、そー。」
「まったくあの耳年増め…
この子は、父さんの仕事関係で
知り合ったばかりなんだ。
まだ名前も知らなかったりする。」
小言を言いながらも説明をした
「仕事って、遊撃士の?」
エステルは分かりきった事を口に出した
「まぁな。
おっと……」
カシウスは、ベッドの上で眠っている少年の方を向いた
「え?」
「目を醒ますぞ。」
エステルは父の方から、ベッドの方へ向いた
「ん……」
少年は目を開けた
「わ、ほんとにコハク色……」
キレイな琥珀色をした瞳
しかし、その瞳は綺麗過ぎて…
どこかキツイ目をしている
「……ここは………」
自分の状況をつかめていない様子だ
「坊主、目を醒ましたか。
ここは俺の家だ。
とりあえず安心していいぞ。」
「……どういうつもりです?」
2人にしか分からない会話…
「ふぇ?」
エステルは言っている意味が分からず声に出していた
「正気とは思えない…
どうして……
放っておいてくれなかったんだ。」
少年は俯いた
「どうしてって言われてもなぁ。
いわゆる成り行きってヤツ?」
カシウスは冗談ッポク言ってみせた
「ふ、ふざけないで!」
少年は叫んだ
「カシウス・ブライト!
あなたは自分が何をしているのか…」
「コラツ!!」
エステルは少年の腹を蹴った
「ケガ人のクセに大声出したりしない!!
ケガにひびくでしょ?」
エステルは話には付いていけなかったが
少年の体を心配して怒鳴った
「……だれ?」
少年はまるで気づいていなかったみたいだ
「エステルよっ!
エステル・ブライト」
怒鳴った勢いのまま、少年に自己紹介をした
「俺の娘だよ。
お前さんと同じくらいの
娘がいるって話しただろう?」
「そういえば……」
少年は思い出したのかボソッと声に出した
「って、そんな話をしてるんじゃ!」
少年はまた大声を出した
エステルは大声をまた出した少年に
2発の蹴りをいれた
「あたっ!」
少年は思わず叫んだ
「大きな声を出さない!」
エステルはまた少年に言った
「わ、わかったよ……
でも、君の行動の方が
余計に怪我に響くんじゃ。」
少年は冷静に言った
「なんか言った?」
「だから怪我を悪化させる……」
「な・ん・か・言・っ・た?」
エステルは満面の笑みを浮かべて言った
「なんでもないです…」
少年はエステルの黒い笑みに気圧され負けてしまった
「ま、この家の中で
エステルに逆らわん方がいい。
本気で怒らせたら
俺も敵わんくらいだからな。」
エステルに聞こえないように少年に言った
「そうみたいですね…」
少年は真面目に答えた
「ところで、あんた。
なんか忘れてることない?」
エステルは少し聞こえていたのか
不機嫌そうに言った
「えっ……?」
「名前よ、名前。
あたしもさっき言ったでしょ?
こちだけが知らないのって
くやしいし、不公平じゃない。」
早く少年の名前を聞き出したくてウズウズしている様子だ。
「…あ……」
少年は少し困った様子で言葉が詰まった
「まぁ、道理だな。
今さら隠しても仕方あるまい。
不便だし、聞かせてもらおうか?」
父も、名前を聞き出したそうに言った。
「わかり…ました…
僕は……
…僕の名前は……」
5年後
鳩が家の周りを飛び回っている
朝陽が窓から射し込んでくる
「う~…まぶし……」
フカフカのベッドで寝ていたエステルは
窓から射し込む光で目覚め
起き上がった。
「ふわああああああ~っ……」
エステルは両腕を上に向けて
盛大に欠伸をした
「ん~、よく寝たぁ~~っ!
えっと、今朝の当番は父さんだっけ。
それじゃ、ヨシュアはまだ寝てるのかな。」
当番とは、朝食を作る当番のことだ
ふと、その時
外からハーモニカの音が聞こえてきた
「あは、起きてるみたいね。
よ~しっ…
あたしも早く支度しよっと!」
2階のベランダでヨシュアは金色のハーモニカを吹いていた
ハーモニカの音色は、朝の森に深く響き
鳥さえ鳴く事をやめて聞いている程だ
ガチャン
ベランダのドアが開いた
ドアから服を着替えたエステルが出てきて
拍手をした
「ひゅー、ひゅー。
やるじゃないヨシュア。」
「おはよう、エステル。
ごめん。
もしかして起こしちゃった?」
ヨシュアは優しくエステルに言った
「ううん。
ちょうど起きたところよ。」
そういって、エステルはヨシュアの傍に近寄った
「でも、ヨシュアってば
朝っぱらからキザなんだから~
や~、お姉さん
思わず聞きほれちゃったわ。」
ニコニコしながら言った
「なにがお姉さんだか。
僕と同い年のくせに。」
軽くため息をついて、呆れたように言った
「チッチッチッ、甘いわね。」
エステルは指を横にふった
「同い年でも、この家では
あたしの方が先輩なんだから。
いうなれば姉弟子ってやつ?」
エステルは得意顔で言った
「はいはい、良かったね。」
ヨシュアはエステルと絡むのが面倒だと思い
軽く流した
「あ~、なんか投げやり。」
ヨシュアが軽く流したことに少し顔を膨らませた
「でも、ホント良い曲よね。
明るいんだけど、どこか切なくて…
他のの曲も好きだけど
やっぱりその曲が一番好きかな。
あれ……なんて名前だっけ?」
アハハ忘れちゃった。という感じでヨシュアに言った
「『星の在り処』だよ。」
「そうそう『星の在り処』。
あーあ、あたしもハーモニカ
うまく吹ければいいんだけどな。
簡単そうに見えて
これが結構難しいのよね~。」
エステルはため息を吐いた
「君がやっている棒術に較べたら
遥かに簡単だと思うけど……
要は集中力の問題だと思うけど。」
「うーん、全身を使わない作業って
なんだか眠くなっちゃうのよね~。」
暢気に答えた
「ヨシュアも、ハーモニカもいいけど
もっとアクティブに行動しなくちゃ。
ヨシュアの趣味って、あとは
読書と武器の手入れくらいでしょ?
今時インドアばっかりじゃ
女の子のハートは掴めないわよ~。」
恋の手解きをするお姉さんのようにヨシュアに言った
「悪かったね、ウケが悪くって。
そういう君こそ
趣味に偏りがあると思うけど。
釣りとか虫取りとか
スポーツシューズ集めとか。」
ヨシュアは反論に出た
「むぐっ…
いいじゃん、好きなんだもん。」
痛い所を疲れたような顔をした。
「って言うか、虫取りなんか
とっくの昔に卒業したってば。」
「うーん、本当かなぁ。」
エステルをからかう様に笑顔を見せた
「おーい、食事の用意できたぞ~。」
下から、カシウスの声が聞こえた
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