勿忘草~戯曲集~

勿忘草~戯曲集~

爆破30分前~15分前




 場面は階段踊り場
 安永 駆け込んでくる


安永 何処行ったんだ・・・?


 安永 無線を取り出す


安永 おい!俺だ。あいつら、今何処にいる?


 無線から声が聞こえる


木村   階段の方に向かってからは何処のカメラにも写ってません。
安永   そうか・・・。何か変わったことは?
木村   今のトコロは特に・・・。
安永   思い過ごしか・・・。じゃあ、俺は、レストラン街を一回りして戻る。
木村   分かりました。


 安永 周りを見渡して、戻っていく


 場面はレストラン内
 文哉 コーヒーに口をつけて


文哉   あ~駄目だ。分からない!もういいじゃん、教えてよ。
由紀   だから、もう良いって。忘れて。
文哉   ここまで考えさせておいて、今更それはないだろ?
由紀   勝手に考えたんでしょ?
文哉   勝手にとか言うなよ。だったら最初から話題に持ち出さなきゃ良かったじゃないか!
由紀   ごめんなさい・・・でも、もういいの。
文哉   だから駄目だって!こんなモヤモヤした気分で映画観たって楽しめないだろ?
由紀   だから、観ないって!
文哉   何で!?
由紀   怖いから。
文哉   もう・・・分かった。じゃあ、観なくていいから教えてくれ。
由紀   ・・・後悔するよ、きっと。聞いたら。
文哉   ・・・やっぱり、嫌なことなんだ・・・。
由紀   じゃあ、聞くのやめる?
文哉   いや、聞く。教えてくれ。
由紀   だったら・・・あのね・・
文哉   ちょっと待った!
由紀   何よ。
文哉   ちょっと待って、心の準備をするから。


 由紀 溜息をつく


由紀   じゃあ、準備が出来たら教えて。


 文哉 残っていたコーヒーを一気に飲み干す


文哉   熱っ!!
由紀   大丈夫?
文哉   ありがとう、大丈夫。・・・・じゃあ、どうぞ!
由紀   いいの?
文哉   おう!
由紀   本当にいいの?
文哉   しつこい!
由紀   じゃあ・・・


 文哉 つばを飲み込む


由紀   あのね・・・


 後方では・・・
 父親 パフェの最後の一口を口に運ぶ
 娘 届いたばかりのパフェを攻略している


父   ん!旨かった!じゃあ帰るか!
娘   ちょ、ちょっと待ってよ。私まだ食べ始めたばかり!
父   ん?・・・遅いな。
娘   ・・・ごめんなさいね!
母   ところでさ、あんた、卒業したらどうするの?
娘   ・・・
父   なんだ、まだ決めてなかったのか?
母   そうなのよ・・・。
娘   ・・・
父   あれは・・・どうだ?幼稚園の先生になりたいって言ってたろ?
娘   いつの話よ。
父   あれは・・・いつだ?
母   小学生のときだったかしら?
父   もう、そんなに経つのか・・・。で?今は何をやりたいんだ?
娘   家事手伝い。
父   いいよなあ・・・女は家事手伝いっていうコトバがあるけど、男にはないもんなあ・・・。
娘   それは、家事を手伝わないからでしょ?
父   そっか・・・なるほど手伝わないからか・・・。ところで、家事に現状では手伝いがいるのか?
母   いえ。特に必要としてないけど。
父   だって。
娘   ・・・。
母   周りの友達はどうするって言ってるの?
娘   就職とか・・・専門に行くとか・・・。
母   じゃあ、専門学校にでも行ったら?
娘   何処の?
母   とにかく資格がいっぱい取れるトコ。資格があったら何かしら出来るんじゃない?
父   よし!じゃあ、それに決定だ!
娘   え!?決定なの!?
父   そりゃそうだろ?だって自分で決められないんだったらさ。
娘   分かった!待って!分かったから・・・じゃあ・・・1ヶ月待って。真剣に考えるから。
父   今までは真剣じゃなかったのか?
娘   そういう訳じゃないけど・・・とにかく待って!今はパフェを食べるのに集中させて。全く味が分からないから。


 前方では・・・
 由紀 まだ言いにくそうにしている。


文哉   だから何?
由紀   分かった!分かりました・・・言う、言うわよ・・・・。あのね・・・実は・・・
文哉   うん。
由紀   来ないの。
文哉   うん。
由紀   ・・・だから、来ないのよ!
文哉   うん?
由紀   ・・・分かってる?
文哉   分かってるよ、来ないんだろ?
由紀   何が来ないと思ってる?
文哉   生理だろ?それくらい分かってるよ!バカにするなよ。大体、女の人が「・・・来ないの」って言ったら1コしかないじゃないか!
由紀   うん?
文哉   な、なんだよ・・・。
由紀   それが、どういう意味を持つか分かってるの?
文哉   ポイントは、遅れてるって言わずに来ないって言ったことだろ?
由紀   うん。
文哉   つまり・・・・
由紀   つまり?
文哉   つまり・・・?ああ!?


 文哉 思いついたように


文哉   そういうことか・・・。もう、言ってくれよ。
由紀   理解してくれたの?
文哉   だからデパートな。
由紀   は?
文哉   よし、じゃあ早速、子供服でも見てこよう!!
由紀   は!?
文哉   何だよ。
由紀   いいの?本当に。
文哉   何が?
由紀   子供・・・だよ。
文哉   そうだよ・・・・って、まさか、おまえ・・・俺の子じゃ・・・
由紀   いや、間違いなく、アナタの子なんだけど・・・
文哉   じゃあ、産みたくないのか?
由紀   そういう訳でもないんだけど・・・
文哉   じゃあなんだよ?
由紀   だって普通、男の人って、こう言う時戸惑うっていうか、慌てるっていうか・・・・だって言うじゃない?
文哉   おまえ、俺が普通の男だと思ってたのか?一緒にしてもらっちゃ困るよ。その辺の奴らと・・・。俺だよ?
由紀   だけど・・・今まで、こういうコト、話したこと無かったじゃない?
文哉   まあな。
由紀   だから、絶対驚くと思ってたんだけど・・・。
文哉   驚いてるよ。
由紀   見えない。
文哉   おまえさあ・・・ここを何処だと思ってる?昼時の賑わったデパートのレストランだぞ!
由紀   うん。
文哉   こんなところで驚いたりなんかしたら、目立っちゃってしょうがないじゃないか!
由紀   そうだけど・・・。
文哉   ・・・そういうのは帰ってからにする。
由紀   でも・・・
文哉   でも、とか、だけど・・・とかって、おまえは嬉しくないのか?少なくとも俺はそのつもりで付き合ってたんだけど。
由紀   でも、ほらこうなったら、結婚でしょ?まだ親にも会ってないのに・・・
文哉   あっ!そうだった・・・。
由紀   でしょ?ちょっとは戸惑ってくれないと拍子抜けなんですけど・・・私だけなんか言いづらそうにしてたのがバカみたいに見えるっていうか・・・。
文哉   よし!じゃあ子供用品みてから、役所に行って婚姻届をもらいに行って、おまえの家に行けばいいんだな?
由紀   今日?
文哉   早い方が良いよ、こういうコトは。喜びのテンションで勢いがついてる内にさ。
由紀   うん・・・分かった。
文哉   ちなみにさ・・・
由紀   何?
文哉   お父さんって・・・怖い?
由紀   ホラー映画よりは、怖くない。
文哉   じゃあ、ジェットコースターよりは?
由紀   だから、ジェットコースターは怖くない。
文哉   そっか・・・。じゃあ・・・平気だよな。
由紀   多分・・・。
文哉   ああ~いかんいかん!ネガティブな思考が頭に浮かび始めた・・・いかん・・・。


 文哉 勢いをつけるように立ち上がる


文哉   よし!行こう!!


 由紀 続いて立ち上がり


由紀   よし!行こう!


 2人 会計に向かう


 後方では・・・
 娘がパフェを食べ終わる


娘   ごちそうさまでした。
父   よし、じゃあ行くか?
娘   え~もう、行くの?
父   何で?まだ食べたりないのか?
娘   そういう訳じゃないけど・・・
父   じゃあ、行くぞ!
母   ちなみに・・・
父   何だ?
母   このパフェ代は誰が払うの?
父   誰って、全部まとめて払ってくれるんじゃないのか?
母   私は許可したつもりはないけど?
父   ええ・・・分かったよ。じゃあ自分で食べた分は出すよ・・・。
娘   私の分は!?
父   それは、一人で食べたじゃないか!
娘   ええ~!!
父   分かったよ・・・俺が出せば良いんだろ・・・出せば・・・
娘   やった!


 3人 立ち上がり会計に向かう


場面は階段踊り場
 孝明 走りこんでくる

 孝明 息を切らし、時計を見る


孝明   くそっ!あと15分しかない・・・。


 広敏 ゆっくりやってくる


広敏   よう!やってくれたな。


 孝明   広敏に気づき後ずさりをする


孝明   やってくれたのは、お前等じゃないか!大体、見届け人ってなんだ!聞いてないぞ、俺は!
広敏   お前がセッティングまでやるのは初めてだろ?だから失敗したらまずいと思ってさ。
孝明   失敗なんかしない!
広敏   じゃあ、聞くが、何処で爆発させるつもりだったんだ?
孝明   ・・・
広敏   どうせ、トイレでも吹っ飛ばすつもりだったんだろ?清掃中とかって札でも立てて。
孝明   ・・・
広敏   どうしろって、俺が言ったか覚えてるか?
孝明   ・・・
広敏   人が多く集まるレストラン街で派手にやってくれって言ったよな?
孝明   ・・・
広敏   ・・・まあ、いいさ。トイレは吹っ飛ばす威力はあるんだろ?とりあえず、バックをよこせ。
孝明   ・・・それは、出来ない。
広敏   ま、そういうだろうな。おまえなら。
孝明   それに、起爆装置は止めてある。


 広敏 愉快そうに笑い出し、孝明に近寄る
 黒川 そこへ孝明の背後から掴みかかり、バックを奪う


広敏   そのまま、行け!


 広敏 黒川に告げると同時に、黒川を掴もうと伸ばした手を押さえ、腕を極めてしまう。
 孝明 腕の痛みに苦しみながら


孝明   だから、言ってんだろ!起爆装置は止めてあるって!
広敏   ああ、言ってたな。
孝明   だったら!
広敏   誰が止めたって?
孝明   だから、俺が!
広敏   いや、おまえは止めてないね。あ・・ちょっと違うか・・・あれは止まらない、だろ?
孝明   ・・・
広敏   やっぱりな。そんなハンパなモン作る奴じゃないもんなあ・・・?


 広敏 再び笑い出す


広敏   いいか?1回人が死んだ以上、次はあんなもんじゃ駄目なんだよ。分かる?もっとでかく!もっと派手に!!どうせ、みーんな時間がたったら忘れちまうんだから。
孝明   だからって、こんなトコで爆発させたら無関係な人間を巻き込むことになるだろ!
広敏   無関係な人間なんていくら死んだって関係ないだろ?ムカンケイって言うくらいだからなあ。なんて言っても。・・・おまえだって分かってるだろ?どんなに関係があったって自分のことしか考えてない奴ばっかりだってな!
孝明   ・・・


第7場 香西孝明の過去 20年前


 場面は留置所
 孝明 弁護士と接見中

 弁護士 塙昭良(以降:弁護士)


弁護士  今回、あなたの弁護を担当させていただきます、塙と申します。宜しく。
孝明   ・・・はぁ。
弁護士  早速ですが、今後の弁護方針を決めたいんですけど・・・無罪ってことで良いですか?
孝明   え?
弁護士  だから、裁判をね、どういう方向に持っていくかってことなんですけど。
孝明   でも、おれ爆弾作りましたよ。
弁護士  だから、まずはそこを覆していこうと思ってるんですけどね。
孝明   俺が作ったのに?それに警察の人にもそう言いましたし・・・。
弁護士  そんなものはどうとだってなりますよ。
孝明   俺は別に無罪になんてなりたくない。
弁護士  なんで?だってこのままで行ったら、良くて無期、裁判官によっては死刑になる可能性だってあるんですよ!
孝明   かまいませんよ、別に・・・。
弁護士  あのね、そんな自暴自棄になられても困るんですよ。大体、一度有罪判決が出てしまったら、それを無罪にするなんて、相当難しいんですよ?
孝明   だから、無罪になんてなりたくないって言ってるでしょ?
弁護士  最初は、そんな風に言うんですよ、皆さん。で、判決が出てから慌て始める。
孝明   どんな判決だって、別に構いませんよ、私は。
弁護士  あなたが構わなくても、私が構うんですよ。
孝明   は?
弁護士  いいですか?はっきり言って国選のこんな弁護なんて、普通にやってたら時間の無駄なんですよ。あなたを無罪にする・・・それが無理なら少しでも減刑させる。そうでもしなければ、やる意味が無いんです。
孝明   なんで、時間をかけてまでそんなコトする意味が・・?
弁護士  報酬がもらえないのなら、名声を手にしないとね。それに、こんなに注目度の高い、裁判に当たるなんて一生に一度あるかどうか・・・。
孝明   ・・・ああ、そういうこと。
弁護士  理解が早くてありがたい。
孝明   だが、残念ながら、期待には添えそうにない。
弁護士  なんで?
孝明   俺は、無罪も減刑も望んでいない。
弁護士  ま、あなたがどんなコトを考えてそんなコトを言ってるかは分かりませんが、絶対に裁判が進んでいく中で、考えは変わるものです。
孝明   ・・・
弁護士  ・・・分かりました。じゃあ、できるだけ刑を軽減していく方向で進めましょうかね。
孝明   ・・・勝手にしてくれ。
弁護士  では・・・勝手に質問させて頂きますね。答えたければ答えていただいて、答えたくなければ答えなくても構いません。
孝明   ・・・
弁護士  まあ、答えなかった所で、私が勝手に事実を作っていくだけなので、答えたほうが現実に近くなるとは思いますけどね。
孝明   じゃあ、気が向いたら答えるよ。


 弁護士 一息ついて、手帳を開く


弁護士  ではまず・・・証拠を洗っていて思ったんですが、あなたは何故、爆発する1時間も前に現場へ行っていたんですか?
孝明   何処で爆発させたらいいかを考える為に。一番人が集まるのは、その時々で変わっちまうから。
弁護士  なるほど。あの時間帯レストラン街には150人以上の客が集まっていたのに、実際に亡くなったのは・・・カップルで来ていたほうの男性と・・・家族連れの娘さんとお母さん。それに警備員の男性の4人。随分少なくないですか?
孝明   かばんを盗まれたからな。
弁護士  えっと・・・


 弁護士 手帳を取り出し


弁護士  黒川・・・でしたっけ?あ、彼を入れて5人か、亡くなったのは。
孝明   死んだ?
弁護士  ええ、今朝ね。
孝明   でも、確か重症だけど、命に別状はないって聞いてたけど・・・。
弁護士  なんでも、今朝容態が急変したとかで、看護士が気づいたときには亡くなっていたらしいですね。
孝明   そっか・・・。
弁護士  で?彼はなんであなたのかばんを盗んだんですか?
孝明   さあ?張本人が喋れればよかったんだけどな。
弁護士  まあ・・・全く。でも、その前にあなたは言い争いをしてますよね?彼と。
孝明   そうでしたっけ?
弁護士  原因は?
孝明   さあ?
弁護士  その後で、あなたは彼から逃げるように走りだしてますよね?デパートの防犯カメラに写ってます。
孝明   ふーん。


 弁護士 困ったように手帳をめくり


弁護士  爆発物の専門家に今回、あなたが作った爆弾についての意見を聞いてきたんですが・・・えっと・・・殺傷能力は極めて低く、横へ拡散させるというより縦方向に爆風が向くように設計されている。今回の事件は円筒状に延びた爆弾が綺麗に垂直方向を向いていなかった為に筒の延長線上にいた人間が、巻き込まれたと見るのが妥当だろう・・・とのことでした。
孝明   で?
弁護士  あなたは何をしたかったんですか?
孝明   天井を吹き飛ばしたら面白いかな?って。
弁護士  ・・・分かりました。話を変えましょう。あなたが作る爆弾にはいつも鉄製の・・・えーと・・・角、カブトムシの角のようなモノを入れていたとのことですが・・・。
孝明   ああ・・・。
弁護士  それはどうして?
孝明   理由なんか無い。ただ好きだからだ。
弁護士  では、今回は他に釘とか入れずに、この角だけ入れていたのは?
孝明   それは・・・。


 場面変わって回想
 夏のある日 香西孝明(8)

 母親 洗濯物をたたんでいる
 孝明 ゴロゴロと横になりながらカブトムシ同士を戦わせている


母親   宿題は?
孝明   やったよ。
母親   じゃあ、どこかに遊びに行ったら?
孝明   いい。
母親   どうして?
孝明   別に・・・。
母親   何よ。
孝明   何でもない。


 孝明 飼育箱にカブトムシをしまう


孝明   お母さん、えさ頂戴。
母親   えさ?
孝明   うん。カブトムシの。
母親   いいわよ、そんなの。どうせ、すぐに死んじゃうんだから。
孝明   そんなコトないよ。ちゃんと育てたら、卵も産むし、そうしたらまた来年孵るって言ってたよ。
母親   だったら、なんか自分で探しなさい。
孝明   分かった・・・。


 孝明 台所へ向かい餌になりそうなものを探し始める


孝明   ねぇ!
母親   何?
孝明   カブトムシって何食べると思う?
母親   私が知るわけ無いでしょ?自分で調べなさい!
孝明   どうやって?
母親   教科書にでも載ってないの?
孝明   載ってないよ・・・。
母親   だったら、図書館にでも行って調べればいいでしょ?
孝明   分かったよ・・・。


 孝明 部屋を出て行く


場面は戻って留置所
 弁護士との接見中


弁護士  いま、言ったようにですね、少し調べただけでも突っ込めそうなところは幾つか挙がってるんですよ。あなたさえ協力してくれれば、執行猶予付きの判決までに持ち込めるかもしれないと考えてるんですが・・・。どうですか?
孝明   どうだっていいよ、別に・・・。
弁護士  え?
孝明   別に、どうなったって・・・。
弁護士  ・・・どうして爆弾を?
孝明   ・・・単純に興味があったものが爆弾だったってだけですよ。弁護士先生には法律に興味があったように、俺には爆弾に興味があった・・・ただそれだけです。


弁護士 手帳から写真を取り出し


弁護士  飯野広敏・・・彼が、あなたの作った爆弾とテロ活動を結びつけた・・・と私は考えてるんですが、如何ですか?
孝明   ・・・
弁護士  検察はあなたをテロ首謀者の一人・・・つまり幹部の一人として裁くつもりでいるようです。でも、私にはどうしても、そういう風には考えられない。あなたは、ただ爆弾を作るだけの技術者だったんじゃないですか?
孝明   ・・・
弁護士  「兜」・・・あなたが作った爆弾は警察内部でこう呼ばれていたそうですよ。
孝明   兜・・・?
弁護士  ええ、あなたが入れていた「角」のモチーフから・・・。
孝明   ・・・
弁護士  警察では、過去5年20件の爆弾テロ行為に「兜」が関わっていると見ています。
孝明   ちょ、ちょっと待ってくれ。20件?
弁護士  ええ。
孝明   ・・・その20件全てに、角が入っていたと・・・?


 弁護士 メモ帳に視線を落とし


弁護士  「角」が確認されたのは12件。それ以外は、爆破の状況等から同一犯と見られるモノが8件。
孝明   12件!?
弁護士  ええ。何か?
孝明   ・・・いや、なんでもない。
弁護士  もしかして、あなたが作った爆弾はそんなに多くないんじゃないですか?
孝明   ・・・
弁護士  警察は、今回の事件と合わせて、今言った過去の爆弾事件に関しても立件を目指しています。・・・その為なら、ある程度のでっち上げも行うかもしれません。
孝明   ・・・
弁護士  あなたが黙ってるということは、それらの事件に関しても認めるということになってしまうんですよ!
孝明   別に、良いって言ってるじゃねえかよ!もう、帰ってくれ!


 弁護士 腕時計を見て


弁護士  ちょうど時間ですね。今日のところは帰ります。・・・ですが、これだけは覚えておいてください。あなが黙って何も要求をされないということは、警察が勝手にでっちあげるだけではなく、私も自分の都合の良い事実を作るということになりますからね。それが真実やあなたの気持ちとどれだけずれて行こうと・・・。


 弁護士 立ち上がり出て行く


弁護士  それじゃ。


 場面変わって回想
 香西孝明(8)の夏


 孝明 図書館から帰ってくる
 父親 居間で酒を飲んでいる

 孝明 父親を見つけ、恐る恐る近寄る


孝明   ・・・お父さん?
父親   ・・・
孝明   お父さん?


 父親 不機嫌そうに


父親   あ?
孝明   お母さんは?
父親   おまえ、こんな時間まで何処行ってたんだ?
孝明   図書館だけど・・・。
父親   図書館?
孝明   うん・・・お母さんは?
父親   何しに図書館行ってたんだ!?
孝明   え?・・・カブトムシって何食べるのかなって思って、お母さんに聞いたら図書館で調べなさいって言われて・・・で、お母さんは?
父親   お母さん?
孝明   うん。何処に行ったの?


 父親 ぶつぶつと呟き始める


父親   お母さん?・・・お母さん・・・お母さん・・・
孝明   お父さん!お母さんは何処行ったの!?
父親   うるせぇ・・・。
孝明   え?
父親   うるせえって言ってんだよ!
孝明   ・・・
父親   お母さん、お母さんって、おまえはあいつがいないと何も出来ないのか!?
孝明   ・・・そんなコト・・・。
父親   カブトムシの餌ぁ!?
孝明   うん・・・。
父親   見せてみろ。
孝明   ・・・
父親   見せてみろ!?
孝明   ・・・
父親   見せろって言ってんだよ!


 孝明 恐る恐るカブトムシの入った飼育箱を父親に渡す


場面変わって留置所
 孝明 面会室に入ると広敏が先に座っている


孝明   おまえ・・・なんで、こんなトコにいるんだ!?
広敏   そりゃ、入れてくれって頼んだからな。
孝明   頼んだって入れるような所じゃないだろ!ここは。
広敏   あれ?そうなの?結構スムーズに入れたけど・・・。
孝明   おまえ・・・一体何者なんだ!?
広敏   俺?俺は、ただの君の同級生だよ。
孝明   おまえの所属してるグループって・・・。
広敏   君は知らないと思うけど、俺たちの協力者は至る所にいるんだよ。
孝明   まさか・・・警察にも・・・?
広敏   当然。
孝明   それで・・・。
広敏   ん?
孝明   だから、俺の作ってない爆弾にも、角が入ってたことになってたって訳か。


 広敏 鼻で笑う


広敏   鋭いな。
孝明   なんで、そんなコトを・・・。
広敏   どうせ1人は捕まらなきゃならないんなら、できるだけたくさん被ってくれた方が、その後がやりやすいだろ?ま、これからはカブトムシの角に変わるモノを考えなきゃいけなくなっちまったけどな。
孝明   ・・・そんなうまく行くはずないだろ?
広敏   別に全部うまく行く必要は無いんだよ。関係ないトコ被ってくれたら見っけもんみたいな。
孝明   ・・・その為に、あいつも殺したのか?
広敏   あいつ?
孝明   黒川って言ったか?俺の見届け人とか言ってた・・・。


 広敏 納得したようにうなずき


広敏   ああ・・・あいつ?そうそう、いつ意識が戻るか分からないし、変なタイミングで意識戻って変なコトを口走られても困るしな。
孝明   それだけ?
広敏   十分だろ。それに正直、あいつ血の気が多くて扱いが困ってたんだ。
孝明   ・・・
広敏   いや、それにしてもあんな隠し玉を用意してたとは、全く考えて無かったよ。
孝明   ・・・隠し玉?
広敏   そうだろ?黒川のコトは半分君が殺したようなモンだよ。
孝明   そんな・・・おまえ等が手出ししなければ、こんなコトにはならなかったんだ!
広敏   俺たちが手出ししなければ、死んだのは1人だけだって言いたいのか?


 広敏 少し微笑む


孝明   ・・・
広敏   言ったよなあ。出来るだけ派手に、出来るだけ多くの人間を巻き込んでくれって。聞いてなかった?
孝明   そんなコト出来ない・・・。
広敏   ま、結果的には、黒川入れて・・・死んだのは5人か?あんなへんてこなモノを作るから怪我人も出ないし。・・・でも前回2人で、今回が5人。上出来だろ?いい感じで段階的だし、な?
孝明   何が狙いなんだ!?
広敏   狙い?そんなものはないさ。俺たちはただ風を起こしているだけ。
孝明   は?
広敏   君は風を起こす役、俺は風に乗る役。で、君の仕事は終わった。
孝明   ・・・
広敏   あ、もしかして弁護士とかに期待してるのかもしれないけど・・・。
孝明   別に期待なんか・・・
広敏   そう?別にどっちでもいいけど。
孝明   何だよ、それ。
広敏   期待しようがしまいが、弁護士には手出しできないよ。
孝明   おまえ、まさか弁護士まで殺すつもりじゃ!?
広敏   そんなわざわざ疑われるようなコトする必要ないの。人間なんてちょっと調べれば弱みの一つや二つあるもんさ。殺すときはそれなりに理由がなけりゃ、割りに合わないだろ。
孝明   ・・・じゃあ、あの時俺を殺さなかったのは・・・。
広敏   君にはあくまで合法的に死んでもらわないと困るからね。そうしないと、事件が終わらないだろ?さすがに俺たちも警察全部が味方なわけじゃないからな。
孝明   ・・・そういうことか。
広敏   当初の予定通りだろ?君にしてみれば。自分の爆弾で死ぬのか、そうじゃないのかの違いはあるけどさ。
孝明   ああ・・・まあ、そうだな。
広敏   本当に物分りが早くて助かるよ。
孝明   もう・・・なんかどうでもいい。
広敏   そうだな、今更なにかに期待しても虚しいだけだからな。あきらめるってのも、なかなか良い方法かもな。
孝明   ・・・まだ、なんかあるのか?なければ、お前の顔をこれ以上見ていたくないんだが。
広敏   あ、そう?すまん、気づかなくて。じゃあ・・・帰るとするかな。


広敏 出て行く


場面変わって回想
孝明(8)の夏

 父親 孝明の持っていた飼育箱を取り上げ床に叩きつける


孝明   やめてよー!!


 父親 飼育箱から這い出してきたカブトムシを取り上げる


孝明   お父さん!!


 父親 孝明の言葉に耳をかさずカブトムシを両手で持ち首を引きちぎる


孝明   あー!!!


 孝明 崩れ落ちる
 父親 二つに分かれたカブトムシを孝明の方へ放り投げる


父親   ほら、これで餌はいらない。


 孝明 カブトムシの頭を拾い上げ泣き崩れる
 父親 再び座り酒を飲み始める

 孝明 しばらく泣いたあと立ち上がり台所へ向かうと包丁を持ち出し、静かに父親の背後に近寄ると包丁を握り締め、父親の首めがけて振り下ろす


 場面変わって留置所
 弁護士 接見中


弁護士  ・・・という様な状況なので、実際には東部デパート爆破と警視庁前での爆破の2件以外の立件は難しいと思われます。
孝明   そうですか・・・。
弁護士  あなたも、もうお分かりかもしれませんが・・・


弁護士 言い難そうに


弁護士  私は積極的な弁護ができる状況にありません。
孝明   ええ・・・分かってます。
弁護士  ですから、検察から上がってくる求刑がそのまま判決とされると思われます。
孝明   ええ・・・。
弁護士  ・・・すいません・・・何も出来なくて・・・。
孝明   いや、あなたのせいじゃありませんよ。
弁護士  こんなコト言っても気休めにもならないと思いますが・・・
孝明   何ですか?
弁護士  ちゃんと弁護さえできれば、15年・・・。いえ、精神鑑定まで持ち込めれば無罪判決もありえたと思います。
孝明   別にいいよ。・・・それに、幸か不幸か立件される事件は両方とも俺がやった事件だし。
弁護士  でも・・・
孝明   いいって。どうせ、俺はデパート爆破の時に死ぬつもりだったんだし・・・。
弁護士  ・・・これは単純な興味なんですが・・・
孝明   ん?
弁護士  どうして、あれを最後の爆弾にしようと?
孝明   ・・・なんだろうな・・・警視庁の爆破で、人が死んだって聞いて・・・なんか、耐えられなくなったって言うか・・・
弁護士  それでですか?
孝明   いや、前から、そういう可能性は考えていたし、いつかはそういう要望もでるだろうとは思ってはいたから・・・。
弁護士  じゃあ、どうして?
孝明   さあ・・・・。でも・・・
弁護士  え?
孝明   あいつ・・・。
弁護士  飯野・・・?
孝明   ああ。あいつは知ってたんだ、俺が死ぬ気だってコトを・・・。
弁護士  何か、それを匂わすようなコトは?
孝明   いや、言ったつもりはないけど。
弁護士  飯野広敏は一体どういう人物なんですか?
孝明   調べたんじゃないのか?
弁護士  いえ、調べる前に・・・。
孝明   そうか・・・俺もよく知らないんだ。でも・・・俺のコトはよく知っていたみたいだった。
弁護士  そうですか・・・。


弁護士  何かを考えていたが結局何も思いつかなかったらしく、首を振る


孝明   何か?
弁護士  いや・・・あなたの過去に何か、彼の興味を引くようなことがあったか考えたんですが・・・何もないですよねえ。
孝明   何も?
弁護士  ええ・・・。
孝明   何も無かった?
弁護士  ええ・・・何か?
孝明   いや・・・なんでもない。
弁護士  でもPrison Colony法案も審議されて可決の方向にありますし、そんなに悲観的にならなくても良いかもしれませんよ。
孝明   Prison Colony法案?
弁護士  ええ。確か・・・死刑と無期刑に代替する法案で、刑務所を実験的に完成されたスペースコロニーに移転するというもので・・・。


 孝明 不思議そうに弁護士を見る


孝明   ・・・
弁護士  可決されたとしても、一生をスペースコロニーで過ごすことになるというのが、現状ではあるんですが・・・それも、運営していく上でどうなるか分かりませんし。


 孝明 微笑む


孝明   ま、身から出た錆だ。後悔はしてないよ。
弁護士  そうですか・・・?
孝明   ああ。・・・なんか可笑しいな。
弁護士  何が?
孝明   あんたが、まともな弁護士に見える。


 弁護士 微笑む


孝明   あ、そうだ。あんた、まだ広敏に会える?
弁護士  え?ええ、会うくらいなら別に・・・。
孝明   じゃあ、ちょっと頼みがあるんだけど、聞いてくれる?別に会うのはいつでもいいから。
弁護士  ええ、分かりました・・・でも、何ですか?
孝明   いや、ちょっと渡し忘れたものがあるから、あいつに渡して欲しいんだ。
弁護士  別にいいですけど・・・渡したいものって?
孝明   俺の家にあるんだけど・・・
弁護士  だったら押収されちゃってるんじゃないですか?
孝明   いや、多分大丈夫だよ、大したものじゃないから。
弁護士  は、はあ・・・。


つづく

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