LovelyDogの部屋

白蛇丸のはなし


母犬は白峰姫という由緒正しき柴犬であったらしく、
それ相応に美しい姿態をしていました。
(でも、父犬は不明。)

メリーさんが亡くなってまもなくして、友人が
「家で子犬が産まれた。いるんやったらあげるよ。」
とそそのかし、見に行った日に勝手に私が貰う事を確約してしまったのでした。
泣き落としにより、両親から飼うことを許され、
箱に入れて連れて帰った白蛇丸は、今まで我が家で飼われたどの犬よりも大事にされていたのではないか、と思います。
それまで我が家では犬=犬小屋で暮らす=外という図式でしたが、
白蛇丸はかなり大きくなるまで私と一緒のふとんで寝ました。
夜、コーヒータイムに両親の部屋でくつろいでいたこともあります。
私も少し成長して、よく世話をしました。
白蛇丸自身が優秀な犬であったこともあり、
どこへでも一緒に(といっても野山の散策ぐらいですが)行きました。

我が家は祖母、父、私は大変な犬好きですが、姉は微妙な感じ(メリーさんの事がトラウマになったのかそれ以降犬を飼う事に消極的だった)、母は動物嫌いでした。
母の動物嫌いは結構根深くて、犬猫の不衛生さが特に嫌だったのと、私達が放り出した世話が回ってくるのがたまらなく不愉快だったようです。
それまでの母は、犬を宅内にあげるなどもっての他、という意識だったと思います。

母の意識が変わり始めたのは、
白蛇丸を飼い始めて2,3年した頃でした。
姉が大学に入り家から出ていったこと、
私がそれなりの年頃になり以前ほど母と関わらなくなった事などがあり、
気持ちに余裕が出来た事が大きな要因だったと思います。
白蛇丸を車に載せてフィラリアの予防接種に行ったり、
雨風の強い日は玄関で寝かしてやったり、
夏場はせっせと体を洗ってやったりもしました。
(もちろん母一人でするわけではなく私が実作業をしますが。)
以前までの母を思えば、ものすごい変化でした。

大学受験の年、一人で自宅で留守番をしていた私。
確か、日曜日だったと思います。
リードを外して自由に遊んでいた白蛇丸が、
庭から裏のみかんの畑へ行ってしまいました。
しばらくして帰って来た時、なんだか様子がおかしい。
近寄ってはくるものの、うぅ~、と唸り声をあげたりする。
そうこうしているうちに倒れ、痙攣し始めた。
何がなんだかわからず呆然と立ちすくむ私。
足をつっぱり、舌を出して痙攣して・・・・。
そうしてそのまま絶命してしまったのです。
本当に突然の事でした。
私は白蛇丸を抱きかかえしばらくボーっとしていましたが、
庭の踏み石の側でおろし、その側で頭を抱えて座り込んでいました。
あまりの事に涙も出ませんでした。
どのくらいそうしていたのか、買い物に出かけていた母が帰ってきました。
駐車場に車を止め出てきた母に、
「ハクが死んでん・・・。」
と言うのが精一杯でした。

飼い犬が死んで泣く母を初めて見ました。
ハクの死もショックでしたが、
母の傷心はそれを上回る驚きでした。
冷静な母が泣いている。
恐らく母にとって人生で初めて愛情を注いだペットだったのだと思います。

その日、母は知り合いの画廊から小さな猫の絵を買って帰っていました。
「私が猫の絵なんか買ったから・・・もう自分はいらんのやって思ったんやろか・・。私がこんな絵買わんかったら・・。」
そう言って泣き続け、買ってきた絵はトランクから出す事も出来ずにいました。
夕飯のおかずが残るとそれを見ては
「ハクがおったら食べさせてあげられるのに・・・。」
と泣いていました。
かなり長い事それが続き、私も父も母の傷心ぶりが本当に心配でした。

白蛇丸の死因は、恐らく近所でまかれていた野良猫よけの毒ではないかと思われました。ゴミを漁る猫よけに毒がよくまかれていたので、恐らくそれを口にしたのではないかと・・。

白くて賢い気品のある美しい犬でした。
死を招いたのはリードを放した私の過失。
母を傷つけ、白蛇丸を死なせてしまった責任は重い。
今でもそう自戒の念にかられ続けています。

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