大観園の思い出

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上海旅日記

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2006.03.28

上海の郊外‥
市内から西へ65kmほど行った淀山湖のほとりに、
大観園という庭園があります。
そこは、一種のテーマパークで、
中国の有名な古典小説「紅楼夢」の舞台となった
貴族の邸宅を再現した庭園です。

１４年前‥私とパパが、
結婚の報告に上海に行ったとき、
太婆が提案して、
私をそこへ連れていってくれました。

太婆、太公（ひいおじいちゃん）、
お義父さんと、お義母さん、
パパと私。
上海から、バスに揺られて行きました。

庭園で、一番はしゃいでいたのは、
きっと‥私と太婆でしょう。

なぜなら、太婆と私は、
「紅楼夢」のファンでしたから。

もっとも、私が読んだ「紅楼夢」は、
日本語訳されたものでしたけれど‥。

太婆の実の孫であるパパも、
パパの妹のYinYinも、
どちらかというと、現代っ子で、
古典小説である「紅楼夢」などには、
ほとんど興味を持たないタイプ。
そういう意味では、
古風な太婆とは、趣味があいません。

そこへきて‥
国は違えども、自分と共通の趣味を持つ
嫁がやってきたことを
太婆は、とてもとても‥
喜んでくれていたのかもしれません。

ここはね‥ヒロインの林黛玉が詩を読んでいた場所。
こっちは、賈宝玉の居室。

私の手をとって、
あちらこちらを指差して説明してくれた
太婆の目は、とてもキラキラしていました。

今回の旅では、
その大観園には行かなかったけれど、
太婆の家を訪ねたあと、
ホテルでガイドブックの
「上海郊外の見所」のページに大観園の案内を見つけ、
ずっと、あの日のことを思い出していました。

太婆は、今年９０歳。
足もすっかり弱くなってしまい、
もう、あの日のように‥生き生きと、
大観園を歩きまわることは
できないでしょう。

太公は、３年前に亡くなりました。
今、太婆はひとりぼっちです。
住み込みの阿姨（お手伝いのおばさん）が、
身の回りのお世話をしてくれています。

これには‥
世界各国どこも同じか、
いわゆるヨメ・シュウトメの問題なども
絡んでいるようです。

私たちの訪問を、心から喜んでくれた。
FuiFui、MuMuのことを
「なんて、かわいい‥きれいなひ孫たち」と、
言ってくれた太婆。

あなたたちに会えるのは、
もう‥これが最後かもしれない。

‥と、寂しげにつぶやいた太婆の言葉に、
涙がこぼれました。

ごめんなさい。
こめんなさい。

そばにいてあげられなくて。

それどころか、私は‥
もう、あなたの家の嫁でさえない。

太婆‥大好きなのに、
何もしてあげられない、
自分の無力さを思い、
帰りのタクシーの中、
涙がとまらなくなりました。

私が大好きな、周杰倫の曲で、
「外婆」という曲があります。
「外婆」とは、母方のおばあちゃんのこと。
この曲の一番の歌詞が、
太婆への想いと重なり‥
今もまた、涙がこぼれてしまいます。

外婆（おばあちゃん）

今日はおばあちゃんの誕生日。
僕はレトロなスーツを着て、
クラシックカーに乗り、
おばあちゃんをドライブに連れ出す。

おばあちゃんが若かった頃の曲を流し、
おじいちゃんとの思い出のつまった
あの時代へと遡るように、
埠頭へと続く道を走る。

おばあちゃんの顔に刻まれたしわは
まるでさざなみのように綺麗だけれど、
悲しみをかくしきれないでいる。
おじいちゃんがいなくなった今、
家族の愛を心から求めているんだ。

だけど、大人たちは出かける前に、
６００ドルのおこづかいを机の上に置き、
これで親孝行できたと思っているんだ。

おばあちゃんの心からの望みは、
だんだんとかなわぬものへと変わってきている。
大人たちは、最後までわかっちゃいないんだ。
おばあちゃんは、みんなにそばにいて欲しいだけ、
６００ドルのおこづかいなんて望んじゃいない。
とても簡単なことなのに‥。

おばあちゃんは、今はもう、
いくら望んだって無駄だとあきらめきっている。
愛がなければわかりっこないさ。
湖のほとりを走りながら、
おばあちゃんのやさしい声が
あの頃の曲を口ずさんでいるよ。

３泊４日という、短い今回の旅の中、
いろいろあったけれど、
いちばん、私の心に残ったのは‥
太婆のことだと思います。