さわらびの「今日の人生勉強」

母親の「思いやり」は、子に伝わる

アパートのベランダから、すぐ下に見える子どもの遊び場を、
ぼんやり、眺めていた時のことです。

今、買い物からもどってきたようすの母子連れが、その遊び場へさしかかると、
子ども（三、四歳の男の子）が
「あっ、ありんこがいっぱい」
とさけんで、地に揺れる、桜の木の葉影の中にうずくまりました。

きっと、ありの行列を見つけたのです。
母親も笑顔でうずくまりました。二人の背中にも葉影。
それは美しい光景でした。　

ところが母子が

「ありさんたち、暑いのに、よくがんばってるわね」
「ありさんと、ありさん、こつんと、ぶつかったとき、
　きっと、暑いなあって言ってるんだよ」

などと語り合っている時、事件が起こりました。

遊び場へかけ込んできた小学一、二年の二人の男の子。拾った石を

「ばくだんこうげきだー！ダーン！ダーン！」

と声をあげながら、ありの行列へ落とし始めたのです。

驚いたのは、子どもといっしょに、ありへやさしい言葉をかけていた母親です。
母親は二人の男の子のところへかけ寄り、ありをつぶした石を拾いあげながら言いました。

「あなたたち、どうして、こんなことをするの。見てごらんなさい。
　なんびきも死んでしまって。ありにだって、ちゃんと、いのちがあるのよ、
　生きているのよ。動けなくなって足をふるわせてる、このあり、きっと、
　痛くて泣いてるのよ。あなたたち、これを見ても平気なの、なんでもないの！」

二人の男の子は、だまったままです。
すると、ちょうど、そこへ二人の母親がやって来ました。
そして、一人の母親が、とがめられている、わが子をかばうようにして言いました。

「ありが、なんびきか死んだくらいのことで、
　そんなに、しからなくても・…・・」

すると、石を拾ったまま、うずくまっていた母親は、すっくと立ち上がり、
怒りをおさえて、静かに言いました。

「死んだのと、殺したのは、まったく意味が違います。
お子さんたちは、ありを、おもしろ半分に殺したのですよ」

これを聞いた二人の母親は、沈然のまま、わが子を促して、
逃げるように、その場を去っていきました。

やがて、もう一度うずくまった母親は、死んでしまったありを、
いたわるようにして、いくつも、いくつも拾い上げ、
それを男の子の手のひらへ移して言いました。

「あの桜の木の根のところに、そっと置いてらっしやい」

こうして帰っていった母子。子どもは、広場をぬけるとき、ちょっと立ち止まって、
桜の木の根っこのほうを振り返りました。

母子にとっては、これは大きな事件だったのです。

～今日の一言～
今日は別にいう事はありません。キッと立ち上がった時のこの母親の優しさと強さ、
そして、子供に教える親の姿とは何か？そんな事を色々と教えてくれるような気がします。
この子供はきっと、この母親の後姿を見て育ち、強く、
そして優しい子供に育つことでしょう。

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