― 碧 虚 堂 ―

― 碧 虚 堂 ―

憶 2nd

⇒憶 2nd.


 その日の午後。

 サンジはおやつの時間だとメンバーを甲板へと集めた。

 人一倍、食い意地の張ったルフィを先頭に続々とメンバーが訪れる中、いつもの如く、ゾロは一向に甲板へと姿を現わさない。

 そして、待てど暮らせど集まらないでいる剣士に業を煮やし、サンジが何処かで眠りこけているゾロを探しに行き、蹴り起こしておやつを

食べさせるのも日常茶飯事だった。

 この日も、船尾で未だに朝から寝っきりのゾロを発見するや否や、器用におやつを持ったまま、華麗な足蹴りをゾロの頭にヒットさせ、皿

を目の前に突きつけた。

 無理矢理、しかも殺人的な蹴りで起こされた事に怒りが湧くものの、ゾロは渋々、それを受け取る。

 ゾロが食べ始めたのを確認すると、サンジは満足げに大きく息を吐き、そのままミカン畑へと繋がる階段に腰を降ろした。


 一服の煙草を吸い始めて直ぐ、

 「オイ、クソ剣士。俺の質問に迅速且つ、正直に答えやがれ」

と、イキナリ喧嘩越しな台詞を繰り出した。とても人に答えを問う姿勢には聞こえない。

 「あァ?」

 そして、ゾロの反応は実に素直だった。

 喧嘩を売られたからにはキッチリ買ってやろうと、腰に提げた刀に手を伸ばす。

 「だから、取り敢えず訊けって」

 睨みつけるゾロに喧嘩するつもりは無い、と言った風に両手を上げた。

 そしてサンジは先程の幻が見せた人物の話を、船の手すりに凭れながらおやつを食べている相手に話した。

 いつもならゾロにおやつを渡して早々に甲板と戻り、ナミとロビンに給仕をするのだが、先程の黒髪の少女がずっと気になっていたのだ。


 「―――だとよ」

 「んなんじゃねェ」

 ナミとウソップが「初恋の子か!?」と話していた黒髪の少女の事を話すと、ゾロは眉を寄せながら否定した。しかし、バツの悪そうな表

情を混じらせているのに 気付いたサンジは面白くなってからかう口調になる。

 「まぁまぁ、無理すんなって。初恋の少女なんて可愛らしいじゃねェか、魔獣のクセに」

 一瞬、男相手に『可愛い』と、言う単語を使ってしまった自分にサンジは嫌悪する。

 「―――アイツは………同じ道場で習っていた剣術仲間だ」

 このまま否定し続けても、目の前のお喋り好きでアホなコックに有ること無いこと言い触らされそうなので、ゾロは早めにこの話を終わら

せようと簡潔に説明した。

 予想通りの返答にサンジは紫煙交じりに溜息を零す。

 「何だ、クソつまんねェヤロウだな………でもよォ、俺、あの子に会った事ある気がすんだよなァ」

 「…………」


 どうにか思い出の人話が終わろうとしていた矢先、サンジはナミ達と話していた時に感じた違和感を思い出した。ショートカットの黒髪

に、幼いながらも意志の強そうな大きな眼差し。

 サンジは今まで出会ってきた女性全てを思い出すかのように頭をフル回転させた。

 グルグルと思考を巡らせて悩んだ後、サンジは「あ!」と大きな声を上げてゾロに人差し指を翳す。

 「思い出した!あの子は確か、ローグタウンで俺らを追い駆けて来た海軍のレディにそっくりじゃねぇか!」

 やっと思い出せた事にサンジは満面の笑みで喜ぶが、ゾロは先程にも増して苦々しい表情を浮かべる。

 「あーそうか。だからあのレディは俺じゃなくて、てめェなんぞに用があったって訳か………」

 サンジは勝手に解釈を始めた。

 ゾロの表情が一瞬にして曇った事にも気づかず。


 どういう経緯かは知らないが、ゾロと思い出の少女は幼馴染みで、久々の再会を果たしたものの、実は今では敵同士だったと、サンジ

の頭は答えを導き出す。道理で、彼女は自分ではなく、アホ面のクソ剣士に目がいったのだと納得する。

 カチャリとゾロが手を添えた白鞘の刀が音を立てた。

 サンジが一人で勝手な解釈に満足していると、ゾロは一言、

 「アレは他人のそら似だ」

と、呟いた。

 サンジの言っている女性は海軍の女曹長・たしぎの事である。ローグタウンを脱出する際に、ゾロ達の前に立ちはだかった彼女は名指

しでゾロに挑んで来た剣士だった。

 幻の少女は彼女の幼い頃と言っても良い程にそっくりだ。

 しかし、それを否定されたサンジは納得いかないという顔をする。

 「あ?何でだよ?俺のレディに対する記憶力をナメんじゃねーぞ」

 自信満々に胸を逸らすサンジにゾロは溜め息を吐く。

 「幻に現われた方のアイツはガキん時に死んだ」

 「へ?」

 ゾロの予想外の言葉にサンジは目を丸くする。

 呟くようにポツリポツリとゾロは言葉を紡いだ。

 「俺がアイツに二千一敗した次の日だった。海軍の女はアイツに似過ぎちゃいるが、赤の他人だろうよ。………てめェの女見る目は節穴

って事だな」

 「そう…なのか」

 嫌味を言われたが、サンジはゾロに言い返せなかった。

 からかい半分で話題にした人物が死んでしまっていたなんて、冗談にも出来ない。だからと言って、「悪かったな」なんて謝るのもガラ

じゃないので、サンジは困惑した。

 妙に重苦しい沈黙の後、先に話を切り出したのはゾロだった。


 「―――てめェの言う通りかもな」

 「あ?」

 脈絡の無いゾロの発言にサンジは間抜けな声を出す。

 「初恋がどーとかって話だ。案外、そうだったのかも知れねェと思ってな」

 「………」

 「ガキの頃は剣術の勝ち負けばっか頭にあって、初めて連敗した相手が女だって事が無性に悔しかった。今まで気付かなかったが、女

として意識したのもアイツが初めてだった」

 あまり自分の生い立ちや過去を話さないゾロ。特にサンジとは何かしら話す時は喧嘩越しなので、まともに話すら続いた例しが無い。

 その彼がよくも長々と、しかも初恋の相手なんぞについて語る姿に、サンジは只々、口を噤んで驚いていた。


 珍しい光景にボーっとしていると、ゾロが不審そうにサンジを見る。

 「………何だよ?」

 減らず口のサンジが黙って話を聞いている事など、逆に恐ろしくなるくらいだ。

 「え……あ、いや、お前がそんな色っポイ話するなんざ、絶対に有り得ねェと思ってたからよ」

 「色っポイっつったってガキの頃の話だろ?」

 大昔の事だ、と補足しながらも、色々と話してしまった事に、ゾロは気まずそうにガシガシと頭を掻いた。そしてハタ、とサンジに先程の

眠りを邪魔された『蹴り』のお返しを思いついたのだ。


 「そーいやぁ、てめェの思い出の人ってのは、レストランのオーナーだったなぁ」

 「なっ!」

 急に自分の話を振られて、サンジはギョっとする。

 「あんだけ懲りもせずに女のケツ追っ駆け回してるクセに、大層なジジコンだな」

 ゾロのあまりな言い分に、みるみる顔が紅潮していく。

 「う、うるせえ!!クソジジイは俺の恩人なんだよ!」

 しどろもどろなった態度にゾロはしてやったりと言う様にニヤリと意地悪く笑う。

 「ま、そんなモンだろ。あの妙な生き物は俺らの一番大事な記憶を利用しやがったんだ」

 「……?」

 また、からかうかと思いきや、普通の台詞でサンジは拍子抜けする。

 しかし、ゾロはトドメの一言とばかりに言い放った。

 「只の女好きのアホじゃねェって証明出来て良かったな、ジジコン」

 思いっきり『ジジコン』の台詞に嫌味を込めた言い回しはサンジを怒らすには充分だった。

 自分がジジコンである事を否定し切れないトコロが又、悔しい。

 「てっっめェ!さっきから黙って聞いてりゃ、人を無類のジジイ趣味みたいに言うんじゃねェ!!」

 「どこが黙ってたんだよ」

 「てめェなんかな!今後、池だろうが底なし沼だかにハマったって一秒たりとも手は貸さねーからな!」

 「ハッ、てめェの手助けなんざ、転生を遂げようと必要ねェ」

 「~~っっ!上等だぁ!!」





――― ガターン!


 「もう、また!」

 船尾から聞こえてきた、けたたましい音に紅茶を飲んでいたナミの表情が一瞬にして険しくなる。

 甲板にはゾロとサンジ以外のメンバーが集まっていた。

 騒音の正体は確かめるまでも無く、ゾロとサンジが喧嘩を始めた、まさに『試合のゴング』だった。

 「珍しく静かだったから油断したわ…」

 毎度の事ながらと、ナミは言葉を付け加える。

 「逆にあんだけ毎回、喧嘩しても飽きないアイツ等が凄ェよ……」

 そうは言うものの、ウソップもナミも二人の喧嘩を止めるつもりなど微塵も無い。二人の喧嘩など、今ではこの船の恒例行事のようなモノ

である。

 喧嘩であっても本気ではないし、直ぐに飽きて取っ組み合いが収まるのも承知していた。

 二人を心配しているのはただ一匹、ゾロとサンジが作るナマ傷を船医として黙って見過ごせないチョッパーだけだった。

 「と、止めなくて良いのかっ?」

 不安そうにチョッパーがナミ達に問う。

 「いいのよ、毎度の事じゃない。放っておきなさい」

 片手をヒラヒラさせながらナミが答える。

 そしてナミとウソップが盛大な溜め息をこぼす中、

 「フフッ、仲が良いわね」

と、ロビンが予想外の言葉を口にした。

 「仲が良い!?アレが!?」

 思わず、ナミとウソップはハモって訊き返してしまった。ロビンの隣に座っていたチョッパーも「?」と言った風に目をパチクリさせる。

 「あら、だって昔から言うじゃない?喧嘩するほど……」

 そこまで口にするとロビンは視線をチョッパーに向ける。それはチョッパーに続きの言葉を促す合図だ。

 ロビンの言いたいが事に気付いたチョッパーは暫く考える仕種を見せ、次の瞬間、「分かった」という風に自分の掌をポンっと叩く。


 「仲が良い!」

 「腹が減る!」


 チョッパーが叫ぶのと同時に、今まで黙々と他のメンバーより多めに盛られたおやつを食べていたルフィが見当違いな回答をした。

 自分の答えが間違ったのかと、チョッパーは困った表情を浮かべる。

 「……チョッパーは大正解、ルフィは大間違いっ!」

 呆れた答えに頭を抱えながらも、ナミはルフィを睨みつけた。ナミに正解と言われたチョッパーは照れくさそうに自分の被っている帽子の

端を掴んで顔を隠す。

 「どっちにしろ、その諺はアイツ等に合ってねェと思うけどな……」

 ウソップの静かな指摘が入る。

 「ええ~!?喧嘩したらスッゲェ腹が減るじゃねぇか。喧嘩の後は肉が美味いんだぞっ」

 「そんなのアンタだけよ!」

 ナミが自信満々に答えるルフィにツッコミを入れていると、船尾から一際大きな騒音が起きた。未だにゾロとサンジの喧嘩は決着がつか

ないようだ。

 その音にウソップは

 「オイオイ~。アイツ等、大事なメリーに傷付けちゃいねェだろうなぁ」

と、ゾロとサンジの怪我よりもメリー号を心配する。



 賑やかな光景が繰り広げられる中、ロビンは静かに紅茶を口に運ぶ。

 そして、ニッコリ笑みを浮かべ、独り言を呟いた。

 「――― ホント、楽しい人達」





これからあと一年、五年、十年後、ボクはどれだけの『記憶』・『心』をキミに残しているだろうか



キミの記憶の片すみにボクが一時でも存在できたなら―― ボクはキミの特別になれた一瞬を幸せに想う ――


End.





⇒後書き

 ほのぼのでした………ほのぼのってスゲェ恥ずかしい………!
 アニメオリジナルの記憶喪失話『オーシャンズ・ドリーム編』のその後として書きました。アニメワンピ観てない人にはゴメンなさい。

 オチをロビンちゃんにしようと企んで出来た話です。

 くいなちゃんはゾロにとって『恋』と言うより、『大事』とか『大切』な人だったかなと、考えつつ。


 くいなちゃんの件りは他にも……
 S「空島なら天国に近くて会えたかもな」Z「大剣豪にも成らんで行ったらどやされる…」S「気ィ強そうな子だったもんなァ(笑)」

 って会話を入れたかったのですが…結局、やめてしまった。ので、往生際悪く、ココに残してみました。


 2006.9.22


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