NO-NAMEの隠れ家

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WANDS(1)

WANDSって…!?

上杉昇(Vo)、柴崎浩(G)、大島康祐(Key)の3人でデビュー。これが第1期WANDS。
1992年に中山美穂と共演した『世界中の誰よりきっと』が大ヒット。これをきっかけに3rdシングル『もっと強く抱きしめたなら』がロングヒットとなり、以降は出す曲出す曲が大ヒットを記録、1990年代前半のBeingブームを支えた中心的なグループの一つ。親しみやすいメロディーをもった適度にポップで適度にロックな楽曲で、人気を集めました。
4thシングル『時の扉』からは、大島康祐に代わって木村真也が加入。上杉・柴崎・木村によるこの体制が第2期WANDS。
1995年頃からサウンドはややハード色を強め、Beingプロデュースと自身の追及する音楽性の齟齬もあり、1996年に上杉と柴崎が脱退。以後二人はal.ni.coとしての活動へ入りました。
残った木村真也は、和久二郎と杉元一生を迎えて、1997年に第3期WANDSとして活動を再開させました。



作品レビュー

1stアルバム(ミニアルバム)
『WANDS』
(1992.6.17)

グループ名を冠した今作は、2ndシングル発売の1ヶ月後にリリースされた初のアルバム作品。この時期のBeing系のアーティストの最初のアルバムは、ミニアルバムということで統一されているようですね。
初期メンバーは、上杉昇(Vo)、柴崎浩(G)、大島康祐(Key)。この三人で活動していた時期が第1期です。実質的リーダーは大島でしょう。音楽的にも彼がイニシアティブを握っており、彼の手によるクラブサウンド中心のサウンドが展開されています。
栗林誠一郎が作曲したデビュー曲の『寂しさは秋の色』は、今作では浮いている感じさえしますね。
その後のWANDSの音楽性の変遷からいうと、今作のサウンドはなんとも異色ですが、今となっては逆にそれが面白くも感じられる一枚だと思います。

1.ふりむいて抱きしめて ★☆

2ndシングル。1992年5月13日リリース。
デビューシングルの作曲と編曲はそれぞれ栗林誠一郎と明石昌夫に譲りましたが、2作目となるこの曲では、作編曲ともに大島さんが務めています。
大島さんの曲は、こういったクラブテイストの強いナンバーが多く、そのため彼が在籍していた第1期WANDSの音楽は独特の雰囲気を持っています。
当時18歳の上杉さんによる歌詞は、今見るとかなり恥ずかしいですね。なんともバブリー。曲自体はあまり好きじゃないです。サビはテンポ感がありますが、メロディーラインの魅力が薄い印象。ヴォーカルもまだまだついていくのがやっとという感じ。

2.Cloudy Sky ★★☆

この曲も大島さんの単独作編曲。初期WANDSサウンドの目玉であるキーボードが大活躍します。とてもよく出来ていますが、、サビの「Just Cry~♪」のコーラスで若干テンションが下がるのがマイナス。

3.寂しさは秋の色 ★★★

1stシングル。1991年12月4日リリース。
WANDSの楽曲というと、一般的なイメージでは爽やかなポップナンバーだろうと思いますが、デビュー曲は実はバラードナンバーです。
前述の通り、作曲と編曲は栗林誠一郎と明石昌夫。さすがは、Beingの必殺仕事人のお二人、硬質なロッカバラードでBeing王道サウンドを作ってくれました。この曲を上杉さんに歌わせるというのも間違っていないと思いますが、歌唱はまだまだ荒削り。フレーズの最後の処理の仕方など、拙い部分があります。とはいえ、そのハスキーな声はとても魅力的。歌詞も好きです。

4.もう 自分しか愛せない ★★☆

大島サウンド。ポップさを前面に押し出した曲で、その後のWANDSに一番近い曲だと思います。『恋せよ乙女』のプロトタイプと言えるかも。
サビのインパクトが命といったような感じの曲ですが、そのサビの繰り返しが終盤ちょっとシツコイ印象もあります。

5.Good Sensation ★★☆

今作で最もダークなナンバー。そして、上杉さんのヴォーカルが最も生き生きしているように聴こえるのもこの曲です。『PIECE OF MY SOUL』の頃になっても、この曲はライブで演奏していました。
作曲クレジットには、大島さんとともに、柴崎さんも初めて名を連ねています。

6.この夢だけを… ★★★☆

大島さん作曲のバラード。結構いい曲です。淡い雰囲気から徐々に徐々に盛り上がっていき、最後までとっておいたサビで最後に鮮やかに世界が広がるという構成もいいと思いますね。

総合 ★★

(改:2009.4.4)










2ndアルバム
『時の扉』
(1993.4.17)

デビューアルバム『WANDS』リリースから半月後である1992年7月1日に、3rdシングル『もっと強く抱きしめたなら』がリリースされます。当初はこの曲もあまり注目を浴びることなく、オリコン初登場は47位でした。
しかし、WANDSにとって大きなターニングポイントとなる出来事が起こります。
この『もっと強く~』から4ヵ月後の1992年10月28日に、どんな意図か、中山美穂と共演し、シングル『世界中の誰よりきっと』をリリースすることになったのです。この曲がご存知のように大ヒット。現在でも歌い継がれる名曲として名を残すこととなりました。
今でこそ『世界中の~』は中山美穂のピンの曲というふうに思われており、WANDSの存在などまったく気にされていない扱いですが、さすがに当時は、ミポリンの後ろで歌っている見慣れない男性グループに注目がだんだんと集まっていくこととなったのです。
この曲の余波を受けて、先にリリースされていた『もっと強く~』もロングセールスを記録。16週目で初のTOP15にランクインすると、22週目で8位まで上昇、そしてついに、登場28週目で1位を獲得するという、息の長いヒットを記録することとなりました。

なお、『もっと強く~』のリリース後、キーボード大島康祐が音楽性の違いを理由に脱退(後に自身のユニットSO-Fiを結成します)。新たなキーボード奏者として、柴崎の旧友であった木村真也が加入しました(ちなみに、大島脱退の本当の理由は、アイドルとテレビに出るのがイヤだったからという噂も)。
中山美穂との『世界中の~』以降は、上杉・柴崎・木村の三人で活動していくこととなります。
この第2期WANDSこそが、いわゆるヒット期のWANDSであり、ファンにも最も愛されていることでしょう。

年が明けて1993年2月には、第2期WANDSの最初のシングルとして、大島の置き土産『時の扉』をリリース。初登場1位、ミリオンヒットを記録し、すっかりトップアーティストの仲間入りを果たしました。
そんな勢いに乗ったWANDSの、ファン待望の初のフルアルバムが今作『時の扉』。5thシングル『愛を語るより口づけをかわそう』と同時リリースされました(『愛を語るより~』は今作には収録されていません)。

勢いに乗ってセールスは200万枚を突破。
その内容は、といいますと…、まさに「商業音楽」といえるような曲調のナンバーが並び、非常にポップなサウンドで、「聴きやすいんだけど聞き飽きるのも早い」といった感じの内容になっています。バンドサウンド以上に、打ち込み色も印象に残ります。ライトリスナーへの受けがいいかわりに、コアなWANDSファンからの評価は低いかもしれません。WANDSの一番魅力的な時期って、やっぱり2期の後半ですしね。
しかし、まぁ、『IN THE LIFE』・『RUN』あたりのB’zが好きな人なら、間違いなく気に入るはずです。大島さんが抜けて、作曲面でのイニシアティブをとることになった柴崎さんの他、アレンジャーの明石さんや葉山さんも、本当にいい仕事をしています。
上杉さんの作詞の面では、内面的なものを歌った『Keep My Rock’n Road』、死んでいった友人へ送る『星のない空の下で』、自らを客観的に描き、痛烈な皮肉を浴びせる『Mr.JAIL』など、ぽつぽつと重たいテーマが見受けられます。

1.時の扉 ★★☆

4thシングル。1993年2月26日リリース。第2期WANDSの最初のシングルとしてリリースされたこの曲、今作でもオープニングを飾っています。アルバムタイトルもこの「時の扉」というフレーズが用いられました。
先に脱退した大島さんが作曲しており、元々2ndシングル候補としても挙がっていたそうです。『ふりむいて抱きしめて』と同系統のダンスナンバーですが、明石昌夫アレンジのおかげか、Being黄金期のエッセンスが感じられ、第1期の楽曲と比べるとやや聴きやすい仕上がりになっていますね。
あの印象的なイントロから、「ときのぉとびらぁ♪たた、い~て♪」という歌いだしは爽快です。ただ、その後に「見知らぬ自由を抱きしめよう♪」と終結していくメロディーラインは好きじゃなかったりします。ひら歌部も、個人的にはそんなにノレないので、ビッグヒットこそ記録しましたが、僕としてはWANDSの中それほど好みではない曲です。

2.このまま君だけを奪い去りたい ★★★☆

上杉さんが歌詞を提供し大ヒットしたDEENのデビューシングルのセルフカバー。DEENのバージョンとはアレンジの他に、一部の歌いまわしと歌詞が異なっています。
聴いてみた印象としては、上杉さんの歌唱力は感じられますが、単純にこの曲に合うのはDEENの池森さんの声かなぁといったところです。そういった意味では本家に劣りますが、デビューアルバムより格段に伸びやかで綺麗になった上杉さんの声を堪能できます。
アレンジはちょっと甘ったるいです。終始うしろでポコポコ言ってる音は何なんでしょう。

3.星のない空の下で ★★★

初の柴崎さん単独作曲ナンバー。死別した友人への想いを歌ったナンバー。後にベストに収録されるところを見ると、人気が高いようです。中学時代の同級生もこの曲が好きだと言ってました(笑)。
編曲はWANDS名義。サビ前の「ジャジャジャジャジャ、ジャンっ♪」っていうオケは、いかにも90年代って感じで、あまりのBeingっぷりに唖然(ホメ言葉)。

4.もっと強く抱きしめたなら ★★★★☆

3rdシングル。1992年7月1日リリース。
前述の通り、息の長いヒットを記録し、最終的にはミリオンを突破。WANDS最大のヒット曲となりました。作曲は多々納好夫、編曲は葉山たけしと、WANDS作品初登場のコンビが手掛けています。
テンポは早いのですが、ロックバラードと呼んでもいいかもしれません。哀愁を漂わせるメロディーライン、グッと盛り上がるサビのカタルシスは最高。上杉さんのどこか憂いを帯びた歌声も、ヴォーカリストとしての成長を感じさせます。
今アルバムには、シングルとはギターソロの異なるバージョンで収録されています。

5.ガラスの心で ★★★

「ガラスの心」という使い古されたフレーズが、どうにも時代遅れ感ありまくりのギターポップ。が、逆にその古臭さがこの曲の焦燥感を盛り立てているような印象も。
高音の「オーノー!!」や、「ガラスの心でぇぇぇ!!」のダーティーなシャウトなどヴォーカルが聴き所です。

6.そのままの君へと… ★★★

大島さんの置き土産。前作で言うところの『この夢だけを…』に近い、あま~いバラード。サビは盛り上がりますが、全体を通しての印象はちょっとネムイ。

7.孤独へのTARGET ★★★

「いと~し~さ~がす~べてと~♪」というサビメロに、しつこいオケヒットは、まさにBeingド真ん中。作曲は川島だりあ。メロは泣いてるし、いいんだけど、なにかもう一味が足りない、そんな印象の曲。この曲も、ハイライトはラストのシャウト。WANDSの最大の武器は上杉昇のヴォーカルであることを実感させられます。

8.Mr.JAIL ★★★

柴崎さん作曲、葉山たけし編曲のこの曲は、アルバム中でも一番と言えるほどのキャッチーなメロディーで軽快なポップナンバー。
注目すべきは歌詞のほうで、自らを「Singin’ doll」と揶揄し、本格ロック志向をもちながら、会社に踊らされ商業ロックを演じる己の姿を「Mr.JAIL」として痛烈に皮肉った内容。上杉さんの本心が見えます。

9.Keep My Rock’n Road ★★★

作詞・作曲ともに上杉昇。アコースティックなサウンドで、柔らかに歌っていますが、「瓦礫の中をずっと歩き続けよう」と、上杉さんの苦悩が見え隠れします。

10.世界中の誰よりきっと ~Album Version~ ★★★☆

まだまだ知名度のなかったWANDSがどういうわけか中山美穂とコラボレートし大ヒット。一躍彼らの名を世間に広めることとなったナンバー。そのWANDSバージョン。テンポは原曲そのままに、上杉さんがヴォーカルをとります。聴こえてくる女性コーラスは、ミポリンではなく宇徳敬子。
歌詞が上杉さんとミポリンの共作になっているけど、どちらがどこを書いたのでしょう。二人で仲良くってことはまず有り得ないだろうなぁ(笑)。

総合 ★★★

(記:2005.12.22/一部加筆修正:2009.4.4)










3rdアルバム(ミニアルバム)
『Liitle Bit…』
(1993.10.6)

アルバム『時の扉』、シングル『愛を語るより口づけをかわそう』の同時リリースから3ヵ月後の1993年7月7日には、6thシングル『恋せよ乙女』をリリース、更にそのまた3ヵ月後である10月6日には、ミニアルバムであるこの『Little Bit…』のリリースとなったわけで(しかもこの1ヵ月後の11月に、7thシングル『Jumpin’ Jack Boy/White Memories』もリリース)、1993年がWANDSにとっていかにリリースラッシュであったかがわかると思います。
今作は、7曲入りと、コンパクトにまとめた一枚で、WANDSのエッセンスをギュッと凝縮させた一枚であると思います。
前作『時の扉』に収められた楽曲群に比べて、今回の楽曲はグッとスタイリッシュになった印象があります。予定調和の商業ロックだった前作から一転して、気持ちの良い伸びやかな演奏のギターポップが並び、都会的な面に、ややワイルドな面もブレンドされた、聴きやすくカッコイイ一枚になったと思います。

1.天使になんてなれなかった ★★★☆

打ち込みとギターサウンドが絶妙な融合を起こしていると感じられる、非シングルの人気曲。内省的な歌詞に上杉さんのシャウトがカッコよく光る一品。
ポップなこの時期のWANDSサウンドの中から、その後のサウンドチェンジにつながる一面を見出すことができます。

2.恋せよ乙女 ★★★☆

6thシングル。オリコン初登場1位。売り上げはミリオンにやや届かず85万。
再びダンスミュージック路線で行こうと、わざわざ大島さんに発注して作った楽曲で、葉山たけしがアレンジを担当。1期の大島サウンドとはまた違った印象で、WANDSのこういった系統の曲の中では最高傑作だと思います。
都会的で、たたみかけてくるサビは息つく暇をもたせません。

3.DON’T CRY ★★★

「ナイフ一つですべて失った」アイツとは、『星のない空の下で』のアイツと同一人物?自殺した友人が歌われています。
煌びやかなサウンドで、厚いコーラス陣も加わった合唱系のナンバー。

4.君に もどれない ★★★

懐メロといった感じの哀愁メロディーラインが、WANDSらしいテンポのよいギター+シンセサウンドで演じられ、焦燥感たっぷり。
「夜の闇をライトで裂く」という歌詞が好きです。

5.声にならないほどに愛しい ★★★

MANISHに上杉さんが歌詞を提供したナンバーであり、そのセルフカバー。
熱いイントロ、伸びやかな全体のフォルムなどなど、織田哲郎+明石昌夫による盤石のつくりですが、やはりこの曲のハイライトシーンは、サビ前の上杉さんの「FLY AWAY~♪」。

6.Little Bit…… ★★☆

タイトルトラックが一番印象に残らない曲だったという事実。バラードがどうにも甘ったるくなってしまっていたのが、この頃のWANDSの特徴。

7.愛を語るより口づけをかわそう ★★★

アルバム『時の扉』と同時発売された5thシングル。オリコン初登場1位。ミリオンヒット。
※いずれまた詳しく更新します。

総合 ★★★

まぁ、全体として見ればWANDSだなっていう。実にWANDSだなっていう(笑)。
そう思われる方も多いでしょうが、良質のギターポップが並んだ一枚。この時期の聴きやすいWANDSを楽しめるのは、やはりこのアルバムだと思うのでね、聴いておいて損はないんじゃないでしょうか。
(記:2005.12.23)










7thシングル
『Jumpin’ Jack Boy/White Memories』
(1993.11.17)

ミニアルバム『Little Bit…』からわずか1ヶ月でリリースされた、この年実に4枚目のシングル。1993年、多作な年でした。
7thシングルとなるこの1枚、一応、両A面という扱いらしいです。
『Jumpin’~』は栗林誠一郎による作曲、『White~』は脱退した大島康祐による作曲と、いずれもバンド外部からの発注で、アルバムでは多くの曲を作曲しているのに、なかなかシングルでは自分達の曲を書かせてもらえない柴崎さんが可哀相でもありました。
オリコンチャート初登場2位。この曲が1位をとっていれば、結局シングル7作連続首位獲得になったのですが。まぁ、WANDSに売り上げの話ってのも、あまり似つかわしくない感じはします。

1.Jumpin’ Jack Boy ★★★☆

作曲は栗林誠一郎。アレンジは葉山たけし。サウンド面は当時の流れを汲んだ打ち込みのポップロックナンバーで、サビでかかるコーラスとシンセサウンドの融合はとても気持ち良いです。爽快なつくりになっています。
歌詞のほうは、ラブソングの体裁を保ちながらも、自問自答的な作品になっていて、上杉さんの変化を微妙に予感させます。

2.White Memories ★★

大島康祐の作編曲のこの曲は、やはり彼らしさ全開のサウンドで、打ち込みで、1期に逆戻りな感じがします。キーボードがなくちゃはじまらない、みたいな感じなので(笑)
タイトル通り、冬の曲ですが、ハッピーな思い出じゃないのがWANDSらしいですね。
上杉さんのヴォーカルも、表情に変化をつけて頑張っているのですが、こういった曲調ではどうにも窮屈な感じがして可哀相だなと思いました。










4thアルバム
『PIECE OF MY SOUL』
(1995.4.24)

元々WANDSのヴォーカル上杉昇はHR・グランジ志向で、WANDSの適度にポップでロックで「カッコイイ」というイメージを半ば強要されている中での活動に嫌気がさしていたのが、『Mr,JAIL』『天使になんてなれなかった』など過去の曲からも覗えなくもありませんでした。そして、その上杉さんの葛藤が大きく作品にも浮かび上がり、WANDSとしてポップミュージックを量産することへの嫌悪感、これからどんな音楽へ向かって行きたいのかを如実に物語るようなアルバムが出来上がりました。それが今作『PIECE OF MY SOUL』です。

息つく間もないようなリリースラッシュだった1993年と対をなすかのように、1994年のWANDSは、6月のシングル『世界が終るまでは…』のみのリリースとなりました。サウンドは重厚になり、ロックテイストの強いナンバーでしたが、メロディーの馴染みの良さ、タイアップにも恵まれ122万枚の大ヒットを記録。この年WANDSは初の全国ツアーを行っています。

1995年2月、約半年ぶりとなった9thシングル『Secret Night ~It’s My Treat~』がリリースされました。問題作、WANDSの大きな転機になったと言われているこの曲、サビこそかろうじてWANDSらしいポップさを残しているものの、ヘヴィーなサウンド、ダーティーに歌われるAメロ、何かが吹っ切れたような上杉さんのシャウトなど、ハード・グランジ色が強く、今までのWANDSのような一般受けする曲ではありませんでした。
オリコンチャートでは1位を獲得しましたが、売り上げは半減して約63万枚と、ファン離れが起こりました。

そして、4月、久々のこのアルバム『PIECE OF MY SOUL』がリリースされました。
サウンドは『Secret Night~』からも予想されていた通り、これまでのような打ち込みギターポップというような印象は影を潜め、ハードなアプローチが展開されています。
冒頭の『FLOWER』から、いきなり従来のWANDS像を壊すようなナンバー。歌詞も「PUNK ROCKを聴いては MILKを飲む老婆♪」ですからね。上杉さんのヴォーカルも、より自由奔放になり、暴れまわっている印象です。『Secret Night~』に驚き、このアルバムで完全に離れたファンも多かったようです。
しかし、以前のWANDSらしい聴き馴染みの良さ、『Foolish OK』など、サウンド自体は重厚になっても、歌メロは以前のようなポップさを残している曲もあります。
既存の「WANDS」のイメージの中でグランジ志向へと必死にもがくような上杉昇。そんな姿が、結果的に、ハードとポップの融合という、WANDSの最も美味しいところが完成したクオリティーの高い一枚を遺す(←敢えてこの字で)ことなりました。
ある意味、この時期だからこそ出来た作品と言えるでしょう。
そして忘れてはいけない、ニルバーナのカート・コバーンの自殺が、彼らを好んで聴いていた上杉さんに大きな影響を与えたという要因もあるでしょう。

しかし、まさかこれが上杉在籍時のWANDSにとって最後のアルバムとなるとは。

1.FLOWER ★★★☆

新たなWANDSの幕開けを高らかに告げるロックナンバー。それまでとは明らかに違うダークでハードなサウンドアプローチと、シュールな歌詞が印象的です。
それまでのWANDSをイメージしていたリスナーには、強烈なインパクトを残したでしょう。

2.Love&Hate ★★★☆

「ラブアンドヘイト!!」のセリフからスタートするこの曲は、このアルバムの中では、最も以前の楽曲のスタイルに近いナンバーと言えそうです。都会的で洗練されたサウンドスタイルは、それまでの楽曲群をストレートに磨き上げた感があります。完成度も高く、一般受けも良さそうな綺麗にまとまったポップロックですが、歌詞に目を移すと、わかりやすいフレーズながら自己の存在を問う重めの内容となっており、以前との違いが見られます。

3.世界が終るまでは… ★★★★

8thシングル。1994年6月8日リリース。
アニメ『スラムダンク』エンディングテーマにも起用され、ミリオンヒットを記録。WANDSの代名詞的ナンバーの1つでしょう。
サウンドはオルタナ志向が強まり、それまでの楽曲より幾分ハードになりましたが、この楽曲のスケールの大きさとは良い意味で融合を果たした結果になりました。いつもこの曲から湧き上がってくるダイナミックな力には関心してしまいます。
「満開の花が似合いのcatastrophe」・「このtragedy night」など、終末的な歌詞世界は、WANDSの変貌を感じさせます。
事実上最後のラブソング。

4.DON’T TRY SO HARD ★★★☆

ガットギターが印象的なミディアムナンバー。静かなサウンドに、上杉さんの歌唱が、魂を吹き込んでいます。
こんな曲がWANDSで拝めるとは思いませんでした。

5.Crazy Cat ★★★

速いピアノの刻みで始まったと思ったら、ロックブルースに変化。

6.Secret Night ~It’s My Treat~ ★★★★

9thシングル。1995年2月13日リリース。
元々は、1989年にリリースされたコンピ盤『PLAYERS POLE POSITION Vol.1』に収録された、栗林誠一郎の『It’s My Treat』というナンバーが原曲。これを上杉さんが気に入り、WANDSとして演奏することに。歌詞も書き直され、大幅なアレンジメントが下されました。
そして、出来上がったこの曲は、多くのファンを振り落とす、従来のWANDS像を壊すナンバーとなりました。
僕も当時、「これ、誰が歌ってるの!?」と本気で思いました。退廃的なイントロの後、Aメロで聴こえて来るのは低音を効かせたダーティーなヴォーカルは、今まで馴染んでいた上杉さんの伸びやかなヴォーカルの印象は微塵もなく、ただただ驚くばかり。
歌詞も、抽象的で記号的な、なんとも複雑な言葉になっています。
しかしながら、クオリティーは高く、突き抜けるサビの豪快さは類を見ないし、「大空に浮かぶ月が♪」のCメロ部の美しさも実に効果的。惚れました。
確実に変わっていくWANDSの音楽、そして上杉昇。この曲でファンはそれを感じずにはいられませんでした。

7.Foolish OK ★★★

「たとえば僕が消えても」という歌詞で始まるこの曲。自殺現象を描いています。
『星のない空の下で』、『DON’T CRY』といった曲でも描かれていますが、どうやら上杉さんには自殺した友人がいるようで、そのことが上杉自信にとっても痛切な思い出となっているようです。ここでは、「ちっぽけな奴は君一人じゃない」と言い、生きていけという前向きなメッセージを押し出した歌詞になっています。
街をジャングルジムに例えてしまうあたりの歌詞は、作詞の面での上杉さんのセンスを見せ付けられたような気がしました。
サウンドはポップさを残しながらもヘヴィーに。サビに勢いとインパクトがあります。ドラムが目立ちますね。

8.PIECE OF MY SOUL ★★☆

曲全体を通して、上杉さんの苦悩が覗えます。
歌詞中の「少しずつ消えるくらいなら ひと思いに殺ればいい?」は、カート・コバーンの自殺間際の言葉からの引用。
タイトルトラックであるこの曲が、今作中で最もグランジ色が強いように思えます。

9.Jumpin’ Jack Boy ~Album Version~ ★★★☆

打ち込みが煌びやかだったシングルバージョンより、だいぶクールになった印象を受けます。どちらが好みかは人それぞれかと。

10.MILLION MILES AWAY ★★★☆

第二期では最初で最後の、キーボーディスト木村真也作曲によるナンバー。
繊細なメロディーと力強いアウトロが、アルバムをしっかりと締めます。

総合 ★★★★

「肉は腐る寸前が一番美味しい」なんて言いますね。
Being商業ロックにおける名盤です。
この時期のWANDSだからこそ作れた一枚でしょう。










10thシングル
『Same Side』
(1995.12.4)

1995年末にリリースされた10thシングル。
表題曲『Same Side』は、アルバム『PIECE OF MY SOUL』でのロック志向を更に押し進めたナンバー。また、カップリングの『Sleeping Fish』はこれまでの彼らの楽曲で類を見ないアコースティックで終末的な匂いも感じるミディアムナンバーと、もうバブル期のWANDSは帰って来ないことを印象付けさせる一枚となりました。
オリコン初登場2位。翌週にはTOP10から消え、売り上げは23.8万枚にとどまるなど、ファンの求めるWANDSと実際の彼らとの隔たりが数字の上でもはっきり表れましたが、もはや彼らにはそれすらもどうでもよいことだったのでしょう。

1.Same Side ★★★☆

アコースティックな曲調がサビで急変。一気にラウドなロックサウンドがなだれ込んで来ます。上杉さんのヴォーカルも、もはやかつてのような甘い伸びやかな歌声ではなく、とにかくダーティーに、魂の叫びを聴かせます。
WANDSの楽曲の中で最もポップな要素の薄いナンバーでしょう。本当にやりたかった音楽はこれだというのを見せ付けているかのようです。

2.Sleeping Fish ★★★

アコースティックに演奏されるミディアムナンバー。ノスタルジックで儚げです。やはりこの時期にしか出来なかった世界観でしょう。
今では入手しづらい音源ですが、WANDSファンであれば、8cmシングルを探して聴いてみるだけの価値のある曲かもしれませんね。

(記:2006.1.21)










11thシングル
『WORST CRIME ~About a rock star who was a swindler~ / Blind To My Heart』
(1996.2.26)

前作『Same Side』より約3ヵ月ぶりのリリースとなった11thシングル。そして、上杉・柴崎在籍時のWANDS最後のシングルとなりました。
最高位9位。売り上げ13.5万枚。

1.WORST CRIME ~About a rock star who was a swindler~ ★★★

第2期WANDSのラストとなったこのシングル、サブタイトルが泣かせます。『詐欺師だったあるロックスター』について。
もう、これは、商業ロックとしてのWANDSを演じてきた上杉昇自身を指しているのに間違いありません。自らの目指したい音楽ではなく、作られたイメージの中での音楽を演奏してきた自分。己の欲望を押さえつけ、ファンに嘘の自分を見せながら活動してきた上杉昇自身がここで、自らを『詐欺師』と表現するに至ったのです。
サウンドは、乾いたドラムから始まるアメリカンロックフレーバーの強いナンバー。生の音の感触を肌で感じさせます。終盤の加速する柴崎さんのギタープレイは必聴。

2.Blind To My Heart ★★★

両A面の2曲目は、上杉昇の作詞・作曲によるミディアムナンバー。曲全体に漂う病的な匂いが、末期感ありまくりです。

ここに来て、徐々に姿を見せ始めた裸の彼らのサウンド。もう少し聴きたかった気もします。
しかし、どちらの曲にしても、ロック色が強い中にもポップ性は残っていて、最後まで世間が言うところの「WANDSらしさ」を捨てられなかったのだとも思わせます。
上杉・柴崎にとって、「WANDS」という看板は、もうジャマでしかなかったのでしょうか。

(記:2006.1.24)










ベストアルバム
『SINGLES COLLECTION +6』
(1996.3.16)

WANDS初のベストアルバム。そして、上杉昇と柴崎浩の在籍時にリリースされた最後の音楽作品でもあります。
デビュー曲『寂しさは秋の色』から8thシングル『世界が終るまでは…』までの全シングルを収録。グランジ色が濃くなって以降の3作のシングルは収録されていません。
当初は『Burn The Bridge』(=「橋を燃やせ」)というタイトルで発表されましたが、これは、それまでのポップ路線のWANDSをこのベストアルバムで清算しようと意図があったからにほかならないでしょう。
シングルA面曲以外に収録された「+6」とは、アルバム曲の『天使になんてなれなかった』・『星のない空の下で』・『世界中の誰よりきっと ~Album version~』の3曲に、カップリングの『Just a Lonely Boy』と『ありふれた言葉で』、そして新曲の『白く染まれ』。また、『恋せよ乙女』は別バージョンで収録されています。
今作の後、1997年の初頭に上杉・柴崎はWANDSを脱退。WANDSの活動はしばし空転します。

さて、今作で初めてアルバムに収録された楽曲については、ここで触れておきましょう。
『恋せよ乙女 ~Remix~』は、ミニアルバム『Litte Bit...』への収録も検討されたというバージョン。柴崎さんが腱鞘炎になってしまったほどの激しいギタープレイに是非とも耳を傾けてください。
『Just a Lonely Boy』は、『世界が終わるまでは…』のc/w。第2期WANDSの成熟したギターポップで、歌詞も遊び心満点。各種SEもふんだんに盛り込まれています。今作への収録も納得です。
『ありふれた言葉で』は、『恋せよ乙女』のc/w。甘い雰囲気のバラード。しかし、バンド感も力強く息づいており、初期のバラードのように型崩れしていません。なにより、上杉さんのヴォーカルが冴え渡っています。これも納得の収録。
『白く染まれ』は、未発表曲。作曲は川島だりあ、編曲は葉山たけし。時期的には『PIECE OF MY SOUL』に収録されても良かったと思うのですが、お蔵入りになっていたようです。mixは今作発売直前に施された最新のものになっており、ギターが前面に押し出されています。デジタル色と激しいバンド色の融合が見事で、実に格好良いですね。

1.天使になんてなれなかった ★★★☆
2.時の扉 ★★☆
3.もっと強く抱きしめたなら ★★★★☆
4.恋せよ乙女 ~Remix~ ★★★☆
5.世界中の誰よりきっと ~Album Version~ ★★★☆
6.Just a Lonely Boy ★★★☆
7.ありふれた言葉で ★★★☆
8.白く染まれ ★★★★
9.ふりむいて抱きしめて ★☆
10.寂しさは秋の色 ★★★
11.星のない空の下で ★★★
12.Jumpin' Jack Boy ★★★☆
13.愛を語るより口づけをかわそう ★★★
14.世界が終るまでは… ★★★★

(記:2009.4.4)

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