勢いに乗ってセールスは200万枚を突破。 その内容は、といいますと…、まさに「商業音楽」といえるような曲調のナンバーが並び、非常にポップなサウンドで、「聴きやすいんだけど聞き飽きるのも早い」といった感じの内容になっています。バンドサウンド以上に、打ち込み色も印象に残ります。ライトリスナーへの受けがいいかわりに、コアなWANDSファンからの評価は低いかもしれません。WANDSの一番魅力的な時期って、やっぱり2期の後半ですしね。 しかし、まぁ、『IN THE LIFE』・『RUN』あたりのB’zが好きな人なら、間違いなく気に入るはずです。大島さんが抜けて、作曲面でのイニシアティブをとることになった柴崎さんの他、アレンジャーの明石さんや葉山さんも、本当にいい仕事をしています。 上杉さんの作詞の面では、内面的なものを歌った『Keep My Rock’n Road』、死んでいった友人へ送る『星のない空の下で』、自らを客観的に描き、痛烈な皮肉を浴びせる『Mr.JAIL』など、ぽつぽつと重たいテーマが見受けられます。
元々WANDSのヴォーカル上杉昇はHR・グランジ志向で、WANDSの適度にポップでロックで「カッコイイ」というイメージを半ば強要されている中での活動に嫌気がさしていたのが、『Mr,JAIL』『天使になんてなれなかった』など過去の曲からも覗えなくもありませんでした。そして、その上杉さんの葛藤が大きく作品にも浮かび上がり、WANDSとしてポップミュージックを量産することへの嫌悪感、これからどんな音楽へ向かって行きたいのかを如実に物語るようなアルバムが出来上がりました。それが今作『PIECE OF MY SOUL』です。
1995年2月、約半年ぶりとなった9thシングル『Secret Night ~It’s My Treat~』がリリースされました。問題作、WANDSの大きな転機になったと言われているこの曲、サビこそかろうじてWANDSらしいポップさを残しているものの、ヘヴィーなサウンド、ダーティーに歌われるAメロ、何かが吹っ切れたような上杉さんのシャウトなど、ハード・グランジ色が強く、今までのWANDSのような一般受けする曲ではありませんでした。 オリコンチャートでは1位を獲得しましたが、売り上げは半減して約63万枚と、ファン離れが起こりました。
そして、4月、久々のこのアルバム『PIECE OF MY SOUL』がリリースされました。 サウンドは『Secret Night~』からも予想されていた通り、これまでのような打ち込みギターポップというような印象は影を潜め、ハードなアプローチが展開されています。 冒頭の『FLOWER』から、いきなり従来のWANDS像を壊すようなナンバー。歌詞も「PUNK ROCKを聴いては MILKを飲む老婆♪」ですからね。上杉さんのヴォーカルも、より自由奔放になり、暴れまわっている印象です。『Secret Night~』に驚き、このアルバムで完全に離れたファンも多かったようです。 しかし、以前のWANDSらしい聴き馴染みの良さ、『Foolish OK』など、サウンド自体は重厚になっても、歌メロは以前のようなポップさを残している曲もあります。 既存の「WANDS」のイメージの中でグランジ志向へと必死にもがくような上杉昇。そんな姿が、結果的に、ハードとポップの融合という、WANDSの最も美味しいところが完成したクオリティーの高い一枚を遺す(←敢えてこの字で)ことなりました。 ある意味、この時期だからこそ出来た作品と言えるでしょう。 そして忘れてはいけない、ニルバーナのカート・コバーンの自殺が、彼らを好んで聴いていた上杉さんに大きな影響を与えたという要因もあるでしょう。
9thシングル。1995年2月13日リリース。 元々は、1989年にリリースされたコンピ盤『PLAYERS POLE POSITION Vol.1』に収録された、栗林誠一郎の『It’s My Treat』というナンバーが原曲。これを上杉さんが気に入り、WANDSとして演奏することに。歌詞も書き直され、大幅なアレンジメントが下されました。 そして、出来上がったこの曲は、多くのファンを振り落とす、従来のWANDS像を壊すナンバーとなりました。 僕も当時、「これ、誰が歌ってるの!?」と本気で思いました。退廃的なイントロの後、Aメロで聴こえて来るのは低音を効かせたダーティーなヴォーカルは、今まで馴染んでいた上杉さんの伸びやかなヴォーカルの印象は微塵もなく、ただただ驚くばかり。 歌詞も、抽象的で記号的な、なんとも複雑な言葉になっています。 しかしながら、クオリティーは高く、突き抜けるサビの豪快さは類を見ないし、「大空に浮かぶ月が♪」のCメロ部の美しさも実に効果的。惚れました。 確実に変わっていくWANDSの音楽、そして上杉昇。この曲でファンはそれを感じずにはいられませんでした。
1995年末にリリースされた10thシングル。 表題曲『Same Side』は、アルバム『PIECE OF MY SOUL』でのロック志向を更に押し進めたナンバー。また、カップリングの『Sleeping Fish』はこれまでの彼らの楽曲で類を見ないアコースティックで終末的な匂いも感じるミディアムナンバーと、もうバブル期のWANDSは帰って来ないことを印象付けさせる一枚となりました。 オリコン初登場2位。翌週にはTOP10から消え、売り上げは23.8万枚にとどまるなど、ファンの求めるWANDSと実際の彼らとの隔たりが数字の上でもはっきり表れましたが、もはや彼らにはそれすらもどうでもよいことだったのでしょう。
WANDS初のベストアルバム。そして、上杉昇と柴崎浩の在籍時にリリースされた最後の音楽作品でもあります。 デビュー曲『寂しさは秋の色』から8thシングル『世界が終るまでは…』までの全シングルを収録。グランジ色が濃くなって以降の3作のシングルは収録されていません。 当初は『Burn The Bridge』(=「橋を燃やせ」)というタイトルで発表されましたが、これは、それまでのポップ路線のWANDSをこのベストアルバムで清算しようと意図があったからにほかならないでしょう。 シングルA面曲以外に収録された「+6」とは、アルバム曲の『天使になんてなれなかった』・『星のない空の下で』・『世界中の誰よりきっと ~Album version~』の3曲に、カップリングの『Just a Lonely Boy』と『ありふれた言葉で』、そして新曲の『白く染まれ』。また、『恋せよ乙女』は別バージョンで収録されています。 今作の後、1997年の初頭に上杉・柴崎はWANDSを脱退。WANDSの活動はしばし空転します。
さて、今作で初めてアルバムに収録された楽曲については、ここで触れておきましょう。 『恋せよ乙女 ~Remix~』は、ミニアルバム『Litte Bit...』への収録も検討されたというバージョン。柴崎さんが腱鞘炎になってしまったほどの激しいギタープレイに是非とも耳を傾けてください。 『Just a Lonely Boy』は、『世界が終わるまでは…』のc/w。第2期WANDSの成熟したギターポップで、歌詞も遊び心満点。各種SEもふんだんに盛り込まれています。今作への収録も納得です。 『ありふれた言葉で』は、『恋せよ乙女』のc/w。甘い雰囲気のバラード。しかし、バンド感も力強く息づいており、初期のバラードのように型崩れしていません。なにより、上杉さんのヴォーカルが冴え渡っています。これも納得の収録。 『白く染まれ』は、未発表曲。作曲は川島だりあ、編曲は葉山たけし。時期的には『PIECE OF MY SOUL』に収録されても良かったと思うのですが、お蔵入りになっていたようです。mixは今作発売直前に施された最新のものになっており、ギターが前面に押し出されています。デジタル色と激しいバンド色の融合が見事で、実に格好良いですね。
1.天使になんてなれなかった
★★★☆ 2.時の扉
★★☆ 3.もっと強く抱きしめたなら
★★★★☆ 4.恋せよ乙女 ~Remix~
★★★☆ 5.世界中の誰よりきっと ~Album Version~
★★★☆ 6.Just a Lonely Boy
★★★☆ 7.ありふれた言葉で
★★★☆ 8.白く染まれ
★★★★ 9.ふりむいて抱きしめて
★☆ 10.寂しさは秋の色
★★★ 11.星のない空の下で
★★★ 12.Jumpin' Jack Boy
★★★☆ 13.愛を語るより口づけをかわそう
★★★ 14.世界が終るまでは…
★★★★