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Busters-EN BLOG
「Gabriel」
……なんだ、やっぱり彼女持ちか。
そう思うとフフッと笑いが漏れる。
隣に目をやれば、手と足、胴体を酷く怪我したらしい少年と
幼さを残す可愛らしい顔をした少女が抱き合っている。
ベッドの上で。
まあ、少年のほうは片手しか使えないので添える程度。
少女のほうは少女のほうで、その整った顔をしょっぱいであろう雫で濡らしている。
体は大変だろうにあんなに強く抱きしめられては痛くないのか?と心配もする。
少年は痛みをこらえながら困ったような笑顔で少女を見つめ返している。
その光景を微笑ましく眺めたあと、逆方向へと目を、顔を向ける。
そこには一人の少女。
ボクが一番愛しく思う存在がそこにいる。
彼女はボクの視線に気づくとニコッと笑ってくれる。
ちなみに手には皮を半分ほど向いたリンゴ。
それを見ると改めて深く思う。
はあ、やっぱりあれはもったいなかったなあ。
さすがにこの状況では仕方ないとは思うが、完成してから1時間とたたずに壊してしまうとは思わなかった。
リンゴのオルゴール。
本物のリンゴより一回り小さいサイズで、色は赤。
ヘタに一枚葉っぱがついている可愛らしいデザイン。
ちなみにこのヘタがゼンマイとなっている。
回し、音を鳴らせばクリスマスソングが軽快に流れる、はずだった。
そのオルゴールは彼女のためにクリスマスプレゼントとして作ったものだった。
デパートで、自分でオルゴールを作る、というコーナーがあり、これは良いと思い、やってみたのだ。
あんまり器用なほうではないので途中から参加してきた少年に追い越されてしまうほど遅い完成だった。
だが、あいにく壊れてしまった。
壊れたのは自分も同じだが。
事故にあったのだ。交通事故。
しかもトラックとの衝突事故だ。
その時のことは今でも鮮明に覚えている。
夜道。
赤から緑へと変わる信号。
歩き出す人々。
そして。
止まる、はずの自動車……トラック。
色の変わっていない信号。
声を上げる暇もなく中に舞い上げられた、一人の少年。
砕けた想い。
その事故の原因は信号のメンテナンスのなんたらかんたら。
信号機が異常を起こし、本来赤になるタイミングで緑になるという大変な事態が起こった。
この事故で、車5、6台が衝突し、負傷者を出した。
軽傷者3名、重傷者7名。ボクは重傷者のうちのひとりだ。
軽傷者は擦り傷、打ち身、重傷者は、打撲、骨折、脳震盪、気絶、一部では一時的に記憶喪失になった患者もいたらしい。
ボクはデパートへ行き、その帰りで事故にあった。
その事故の際にデパートで作ったオルゴールが壊れてしまったということだ。
それに、オルゴールを壊してしまったのは隣の彼も同じらしい。
オルゴールを作るときに隣にいた彼に違いない。
不謹慎だが彼はボク以上に派手に事故にあった。
トラックに撥ねられて生きているのが不思議なくらいだった。
それはボクも同じだが、ボクの場合はトラックの運転手がブレーキをかけてずいぶんたってからだったので
まだ、ましなほうだった。らしい。
彼もなんだか残念そうな顔をしている。
彼が目覚める前にボクは起きていたから、彼はオルゴールを渡してはいない。
つまり、やはり壊れてしまったという事だ。
さっきと、隣でオルゴールを作っていたときにも思ったが、やっぱり彼女はいたようだ。
まあ、あんなところでオルゴールを作っているような男なら居てもおかしく無いだろう。
ただ、どちらも贈れなかったようだけど。
ちなみにボクの体の状態は左腕骨折、右足打撲、左足骨折。
これじゃ歩けやしない。しかもボクは左利きだ。迷惑な怪我この上ない。
まあ、幸い実家暮らしで彼女もいる。生活には不自由はしないだろう。
大学生なので通学しなければならないが、右足の打撲はすぐに治るらしく、
左手も骨折といってもさほど酷いわけでは無いらしい。
右足が治るころにはペンをもてるぐらいにはなるという。
大学へは松葉杖を突きながら通う事にしている。
まあそれまではこの入院生活を楽しませてももらおう。
嬉しい事に彼女は毎日来てくれる、なんていってくれた。
ちょっとからかってみよう。
そういえばさ、と声をかける。
リンゴを何等分かに分け切っていた彼女は顔を上げる。
目と目が合ってからこう言う。ほらあの子。あの彼女っぽい子さ、さっきまでの君に似てない?
そういうと彼女は顔を赤くして、もうっ、と言った。
当然だ。彼が起きる前、あの子がなんとも悲しそうな顔で涙をこらえてるときに。
彼女は泣きながらボクに抱きついてきたのだから。
ほとんど彼女とあの子の動作が一緒だった。
彼女は顔を赤くしながら、たしかに自分を見ているようではあるけどさ、と言った。
ほんとほんと、似てる似てる。とからかうと。うー、といって俯いてしまった。それがなんとも可愛らしいのだが。
ふと見ると、彼とあの子が…あの子は目に涙は浮かべたまま、少し声も出ていた。…きょとんとした顔でこっちを見ていた。
とりあえず、微笑んでおいた。
そんなこんなで入院生活が数日を過ぎる頃。
ボクと彼はそれなりに仲良くなった。
おなじ事故にあった、という喜ばしくない理由で。
初めて声を掛けられたのは、入院初日。
泣き続ける少女をあやす少年は彼女が泣き止むとボクにこういった。
デパートに居た人ですよね。大丈夫ですか?って。
何言ってるんだか。後で聞いた話だけど君は左腕、両足、肋骨を骨折してるそうじゃないか。
しかも左腕は複雑骨折?なんてこったい。
追い討ちのように頭も強く打っていて、異常がないことが異常?
そんな状態の子に心配されるとは思って無かったよ。
これにはボクの、彼女も
あなたのほうが…大丈夫なの?と言っていた。
もうすこし自分の状況を理解すべきだと、少年には諭しておいた。彼女のためにも、と。
彼はなんだか複雑な顔をしていた。
それから他愛も無い雑談を繰り返す毎日が続いた。
女の子は女の子同士で。
怪我人は怪我人同士で。
彼は高校生で、3年。
彼女も同じ高校で、2年だそうだ。
なんと驚く事に彼はボクと同じ大学に進学を考えているらしい。
合格できたら良いね、と言っておいた。
そして、そのまま体の回復を感じつつ一ヶ月が過ぎた。
左手の回復は思ったより速く、ペンは普通に握れるまでになった。
脚もある程度治り、歩く事は出来る。しかし久し振りなだけに歩きにくくはあったが。
彼のほうもそれとなく回復はしてきているようだ。
脚、片足はギブスもはずれ
腕も自由に動かせるまでにはなったようだ。
今は彼女の力を借りずに食事をしている。
なんというか、彼は彼女にアーンをされるのがいやで、『直した』ような気がする。
そしてそれからさらに数日。
ボクはついに退院する事になった。
まあ、これからも何度か定期健診に来るのだけれど。
彼はもう少し入院を続けるらしい。
当たり前だとは思うが。あれだけの怪我をしておいて自分より早く退院などされていたらこっちが情けなく見える。
丈夫そうではあったがさすがにそれはないようなので安心した。
大学に通い始めると想像しなかったような困難が待ち受けていた。
意外と出来ると思っていたことが出来ない。
階段を登る事さえ難しく感じるのだ。
松葉杖を人にぶつけてしまったり。変な風に体重をかけたのか床をかまずに滑ったり。
結局彼女や友人の力を借りる事になってしまった。情け無い。
というか、一番困ったのは本が読めない事だった。
教科書、という言い方があっているのか、講義で使う文章もなかなか捲れない。
こういう作業が意外と出来ないとイライラするもんだ。
ペンがもてるのにどうして紙程度が捲れないのかはわからない。
これはさすがに人の手を借りるわけには行かないし。
さらに困るというかなんというか。
家に帰ると家族がやたらと心配してくれるのだ。
もともとそういう性格ではあったが今まで事故にあったことなど無かったせいか、いつになく騒がしい。
普段はそっけなく、やだ、とか自分でやれば?とか言う妹も今回ばかりは良く気を使ってくれる。
なんだっけ、こういうの。たしか前にテレビで……まあいいか。
でも色々大変なことがわかっては来たが人間は慣れるもの。
徐々に松葉杖生活にもなれ、怪我の回復も順調に進んだ。
ああ、そういえば。
クリスマスから一ヶ月以上だからとっくに正月までもが過ぎているけれど。
改めて彼女にプレゼントを贈ってあげないと。
贈り損ねたんだからね、最後まできちんと。
で、どうするかを考えている。
と、結論は意外にも早めに出た。
やっぱりオルゴールが良い。
贈り損ねたのもオルゴール。だったらもう一度オルゴールを。
そう決めたなら行動は早めに。
家を出てデパートへ向かう。
途中、嫌なところを通るはめになったけど、気になどはしない。気にしたら負けだ。
デパートへ到着。
真っ先にあの売り場へ。
といいつつ迷った。
何度も何度も何度も同じところを回ったがやはり無い。
なぜ?
なぜだろう?
しばし考えてみる。
…
……
………
あ。
あ!
あ!!
ああ。
そ、そうか。もう一ヶ月にもなるんだった。あるわけが無いじゃないか。
世間はもう正月すら忘れかけている。クリスマスなんてもう昔の事だ。
はあ、どうしよう。
ボクは一気に力が抜ける。目的も失った以上やることは…
ん?待てよ。
今は正月過ぎだ。まだ何かあるかもしれない。
いや、むしろクリスマスに売れ残ったやつでも。
中古品店ではないのだからそんなことあるわけ無いのだが。
しかし、なんと。
オルゴールは在った。
な、なんと…
あの手作りコーナーまで存在してるではないか。
階を移したらしいがコーナーが広くなっている。
店員に話を聞いてみたところ、クリスマスの時のキャンペーンが意外にも好評で続行することになったらしい。
天の救いだ。
早速ボクは改めてオルゴール作りを開始する。
少々左手が使いにくく明らかに作るスピードは前回のときよりも数倍遅かったが
遅い分丁寧に出来たと、思う。
今回のもリンゴ。
ただし、今回は自分の分も込みだ。
彼女へは赤いリンゴを。
自分へは緑のリンゴを。
収録のメロディーは同一。
クリスマスソングというのもどうかと思うので普通のマーチ風のものにした。
値段も倍で痛いといえば痛かったが、彼女の笑顔に比べれば!
馬鹿が一人。
でもまあ、これでプレゼントは出来た。
あとは彼女に渡すだけだ。
それと、轢かれない事。
今度ばかりは大事に大事に抱えて家に持ち帰った。
実家で同棲などして無いのですぐには渡せなったが、明日には渡そう。
そう思っていたのだが。
彼女が来てくれた。なんともいえないタイミングだ。
絶好の機会では在るんだけどね。
さっそくボクは彼女にプレゼントを渡した。
一応、赤が彼女、緑がボクなのだけれど、ちょっと変わった価値観を持つ彼女なので選ばせて見た。
まあ、普通に赤を選んだけど。
変わった価値観っていうのは、つまり。
カエルが好きだったり、蛇だったり。爬虫類を好む傾向がある。
だからこそ緑を取るかとも思ったんだけども。
まあ、カエルにしても蛇にしても、キャラクター系のものでとどまっているだけ幸いか。
キャラクター系といっても丸っこいだけでアニメキャラのようなものでは無いんだけど。
その話は置いといて。
プレゼントに関しては彼女はとても喜んでくれた。
予定したものが壊れてしまって渡せなかった事は話していたが、もう一度くれるとは思ってなかったらしい。
彼女は、とってもうれしい!うれしすぎるから、バレンタインは~期待してて良いよ♪と言った。
そうか、もう一月も終わる。となれば二月。バレンタイン。
女の子が男にチョコを送るというイベント。
恋する男女のためにある一日だ。
そして今年はずいぶんと期待しても良さそうだ。
……初詣にいけなかったのは残念だ。
彼女の晴れ姿が見れると思ったんだけど。
普段は洋服で着飾る彼女の着物姿は最高だった。
数ヶ月前の夏祭りで確認済み。
でも、これでしばらくお預けだ。
チョコが食べれるなら損は無いと思うが。
そしてさらに、3月には大きなイベントが待っている。
ホワイトデー。
も、そうだが。
彼女にチョコのお返しをする日だ。それなりに考えておかなければならない日だが、他にもあるのだ。
それは……
誕生日。
彼女の誕生日が3月にあるのだ。
ただし!それだけでは終わらなかった。
なんと、彼女の誕生日はボクの誕生日でもあるのであった。
そう、ボクと彼女は誕生日が一緒という奇跡的なカップルなのだ。
だから誕生日にはプレゼントを贈り贈られ、という形になる。
厳密にはさっき言ったようにホワイトデーがあるので贈り、贈り、贈られる、だが。
とりあえず、この先も色々とお楽しみだってわけで。
バレンタインデー、ホワイトデー、誕生日、花見、プール、海、夏祭り、紅葉狩り、秋祭り、クリスマス、正月、で一周。
そうやって楽しい日々が続いていくのに何の文句があるのか。
存分に楽しませてもらおうじゃないか。
彼女が帰り、部屋に戻る。
特に置く場所もなかったけどとりあえず目覚ましの横に自分の分のオルゴールを置く。
緑色の青リンゴ。
昔から思うんだけど青リンゴとか青信号とかってなんで緑なのに……
…自分で思い出したくないこと思い出しちゃったよ。
はあ、もうあんまり信号の事は考えないようにしよう。
彼女を泣かせてしまった原因のひとつだからな。
ふう、われながら因縁の色をプレゼントに選ぶとは…
彼女が緑を選ばないでよかったかも。
まあ、赤は少しパーツがかけたりしちゃったんだけどね。だからこそ選ばせたんだけど。
こういうことならOKでしょ。うん。
でも。
改めて見ると良く出来ている。
壊れてしまったのもそうだったけど自分が作ったものだとは思えないほどの出来だ。
といってもプラモデルのようなパーツを組み合わせるだけなので誰でもある程度は出来るようになっているのだが。
それでもかなり精巧だと思う。おかしなずれは無いしヘタも曲がってない。
オルゴールの要であるメロディーもきちんと音もはずすことなく流れる。
なんか不気味なくらいうまく出来てないか?
ん、待てよ。
思い入れがあるからこんなにきれいに見えるんじゃないか?
女の子は恋をすると綺麗になるって言うし。
って、これは関係ない。
どっちかってと自分で苦労して作るご飯はうまい、の方だ。
でもあながち間違って無いんじゃないか?
彼女への想いがこもってる分うまくできたって部分がある気がする。
うん、そういうことにしとこう。
このオルゴールの出来こそが彼女への愛の大きさ…
ふう、痛いことを一人で言うとより痛いな。
あれ?そういえば…
彼は……そうそう、この前メールが来た。
なんと彼女同士でメルアド交換なんてしてたらしい。
彼女の名前をそれで聞いた。
『秋葉』ちゃんというらしい。そういえば彼女が彼に抱きついていたときにそんなことを言っていたような。
どうしたんだろうかあの子へのプレゼントは?
何か渡したのだろうか?代わりになるものでも。
教えてあげた方がよくないか?オルゴールの事を。
彼も彼でオルゴールにそれなりの事があったんだろうし。
しかし、名前と出身校しか知らない相手に会えるわけは無い。
わざわざそれだけのために高校まで行くというのもおかしいし。
第一ボクには大学の講義がある。彼の下校時間に合うかどうか。
そもそも彼が何の部活動を行っているかわからないんだ。部活によって下校時間も異なるだろう。
やはり会うのは無理だろうか。
いや、街中でばったりと会うことがあるかもしれない。一応準備はしておこう。
幸いな事にあのオルゴールのコーナーはそれとなく継続するらしいしそこそこの期間もってはくれるだろうし。
うん、あとは神様が決める運次第だ。
さて。今後の成功するともいえぬ計画も決まったところで就寝しよう。
寝るときには脚をぶつけないようにしないとな。意外と痛いし。
ん、明日も良い一日でありますように。
昔おばあちゃんに教わった寝るときのおまじないをいまだ続けてるんだ。
結構効くんだけどね。
おやすみ。
痛っ
朝起きると、残念ながらあいにくの雨模様だった。
あ、そういえば雨模様って雨の降りそうなときの天気を言うんだっけ。じゃあ違うな。
雨が降ってる。強いとも弱いともいえない感じで。
時計を見る。
午前5時39分。
少し早く起きてしまったかな。
今日の講義は特別で少し遅い。
あんまり早起きする必要はなかったんだけど。
いまから寝直したら寝過ぎそうなのでもう起きる事にする。
少しやりにくいながらも着替えを済ませ、トイレへ行って、朝食を両親と取って。
持って行く荷物を確認してバッグへ詰める。
やはりそれなりに治っては来たようだ、着替え意外はそんなに苦にはならない。
もうすぐ少し前までの生活に戻れそうだ。
家を出る。
大学へは、家から駅、駅から電車を2つ、で徒歩で10分。
電車自体もそんなに時間は掛からない。
3、40分といったところか。
家から駅まではバスで行く。
混んでいるとも空いているともいえない車内で身体を揺らしながら周りを見てみる。
本を読んでる女子高生らしき女の子やおしゃべりする男子高生。
腕時計を確認するサラリーマン風の男性。携帯でなにやら話している女性。
仲良く、おしどり夫婦のお手本のように並んで座る老夫婦。やはり親しげに話している。
こんな光景はいつもの事、しかし改めてじっくりと眺めてみるとなんと微笑ましい事か。
ボクはいつもこんなのを見ていたのか。気付かなかった。
バスを降りる駅に着いた。
喉が渇いたので自販機でお茶を買う。
そこで同じ大学に通う、といっても学科が違うのであんまり顔はあわせないのだがそれなりに親しくやっている友人と会った。
当然そのまま大学まで一緒に行く事になった。
今日の講義はダルイだとか、レポートまだまとめてないだとかいう話をした。
一旦降り、乗り換え。
その電車でもそういえば新しいオーディオ買ったんだ、とか腕の怪我大丈夫か、また事故かよ、なんて話も。
そんな風に話していると時間がたつのも忘れすぐに到着。
そこからの徒歩もお喋りをしながらだった。
今度は彼女の事について話し始めた。俺も欲しい、とかお前は羨ましいだとか。
……前の彼女だって、と言ったところで彼は口を閉じた。ボクはハハ、と笑い、良いよといって手を振る。
彼は申し訳なさそうに、悪りぃ、といった。
なんとかそんな雰囲気からも持ち返し、大学内では他の友人も一緒に講義が始まるまで雑談を楽しんだ。
なんだ、もうとっくに元も生活に戻れてるじゃないか。
そんなに気にする事は無いようだった。
後は、彼女に心配をかけないように怪我をしっかりと治すだけ。
それだけ……それだけ、なんだけど。
ただ、ひとつだけ気になる事が。
心配性。と呼ばれる自分だからか、『彼』の事が気になる。
同じ事故に逢い、ボクより酷い怪我をして、同じものを壊してしまった『彼』の事が気になる。
そういえば病院でも彼の事ばっかり気にしてたな、なんて思いつつ。やはり彼を気にしている。
ずっとだった。退院するときからずっと。
異常が無いことが異常。そういっていたように下手をすればそれなりに危険な状態だったのだろう。
そう考えるとどうしても気にかけてしまう。赤の他人ならまだしも結構仲良くなった間だ。
趣味も意外と共通するところが多かった。
だから、より心配になってくるのだ。
……まったく、男相手に何思い入れてんだか。ボクは男色じゃないってのに。
いや、待て。
ボクの心が、一度激しく揺れる。
酷い怪我だから気になる?気があって親しくなったから?
違う。
何かが違う。
何かが引っ掛かる。
何だ?
ボクの心はまたも大きく揺れた。
いきなり全てが変わる。さっきまでは、いつもの生活だったのに。
もう周りの声なんか聞こえない。
とても気分が悪い。吐き気がする。
苦しい。
引っ掛かってるもののせいなのか?
本当に気分が悪い。
はやく、しないと。
答えを出せ、出せ。導き出せ。
……。
なんだ。
そうか、そうだ。
これだ、多分。
それなら。気にしてはいけない。考えるな、良いんだ。
引っ掛かってるものの正体はわかった。だからもう良い。
これ以上はやめよう。
もう、触れないと決めたんじゃないか。
何を今更。
彼は赤、ではないものの他人だ。他人は他人、そんなに気にする事では……ああ、ダメだ。
いや、決めたんだボクは。
…それでも。
さっきから何度も心が揺れる。
この考えを拒否しようとする。
しかし、受け入れようともする。
やっぱり、心配なものは心配だ。
もう、諦めた。
人の心配をして何が悪い。
それに、今回のような状況ならなおさら。
あんな事があって。
目の前で、あんな。
あのときのあの子をまた、見ているようで。
一瞬だけ、見えてしまって。
目眩がする。ここまでは想定内。
その幻覚は、事故とともに綺麗に砕かれて。
これは、よかった。思い出したくない。
さっきまでは忘れていた。あの時にあの時の幻覚が見えたことも。
そう、そうしたかった。
でも思い出した、今。
忘れたくは、なかった。
あの子の事ごと思い出して。
さっきまで見ていたかのようにはっきりと、脳裏に浮かぶ。
思い出したくなかった。忘れてはいなかった。
それは、別れで、出会い。
その時の光景は、今なら。
思い出した今なら、鮮明に浮かぶ。
…迫る死。
……動かない体。
…とてもとても、大きく、激しく、傷付いた。
……でもそれは心。
赤い、赤い、赤い。
熱い、熱い、熱い。
痛い、痛い、痛い。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
今でも思う、なんであんな事に。
「ハハ…やあ…大丈夫か?……これは、仮にも女がやる事じゃ……ないな」
この想い、あの時の君なら一体どうするのかな。
*********************************************************************
どうも。
それなりに後書きとなります。
えー、今回の作品は。
前回の続きとなります。
前回を読んでくださったかたならわかると思いますが
主人公は別人となっていて
この続きも別人となります。
というか○ではなくなります。
なんかものすごくやりにくいものだとは
思いますが、ヨロシクお願いします。
でわw
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