NOKTON 35mmF1.2
レンジファインダー(以下RF)を使っていると、当然だがすぐにレンズが一本では物足りなくなってくる。このとき、カメラオタクには二つの大きな道が用意されている。
一つは、F値はそこそこだがコンパクトで使い勝手が良く価格もリーズナブル、カメラに取り付けた際の見栄えも美しい「バランス型レンズ」。そしてもう一つが、大きく重く死ぬほど高価でファインダーの視野も蹴られまくりだが、とにかく明るいことを最優先にした「大口径レンズ」だ。
すでに複数レンズを所有している病膏肓に入ったRFオタは、得てして後者に走る。ズミルックスなどと聞くとウットリした目をし、果てはノクチルクス50mmF1だのヘキサノン60mmF1.2のような、色物系お化けレンズ(失礼)に手を出すに至る。
もともとフォルムの美しさに惹かれてM6Jを買ったようなエンゾーは、著しくカメラのシルエットを壊すこれら超弩級レンズには、当初まったく興味がなかった。しかし、F値が2以上のコンパクトなレンズを買い漁った結果、常識的な範囲はあらかた網羅してしまい、ふと気がつくと、後は収差に個性を見出すクラシックレンズの世界に逝くか、はたまた突き抜けた大口径レンズに走るかしか道がなくなっていた。(買うのをやめるという選択肢はない)
そんなときにコシナから出たのが、ノクトン35mmF1.2である。
なにしろこのレンズ、35mm用単焦点広角レンズとしては、世界一明るい。これだけでも十分存在価値があるが、F1.2の明るさを誇りながら、ノクチルクスやヘキサノンより広角寄りなこともあって、かなりスリムなのだ。
(これなら実用に耐えるのでは…。暗い室内で使える万能レンズが、一本は必要だしね、うんうん。)
私の脳裏に、世迷いごとが横切った。こうなったら我慢の仕方を知らないエンゾー、運良く(悪く?)ヤフオクで格安物件を見つけてしまい、後先考えずに落札してしまっていた…。
まあ、いつもの通りだ。
(トーンの豊かさはなかなかのもの。点光源のにじみも皆無である。)
さてこのレンズ、コシナからは「現在考えうるすべての技術をつぎ込んだ」と、いつになく強気なコメントが付けられている。確かに、「明るいから少しくらい寄れなくてもいいでしょ。開放性能はそこそこでいいでしょ。 てへっ
」という、今までのコシレン大口径レンズにありがちだった微妙な妥協が、ことノクトン35mmに関しては微塵も感じられない。きっちり70cmまで寄れるし、別売りのスリットフードも立派だ。
実際に使ってみると、その基本性能の高さに驚く。はっきり言って、開放から完全に実用になる。これだけの大口径であるにもかかわらず周辺光量も豊富で、F2.8くらいに絞れば、十二分にシャープである。
点光源にはめっぽう強いが、例えば薄曇りの空のような、高輝度の面光源がイメージサークルのすぐそばにあると、浅絞りでは光源付近がややハレっぽくなる。許容範囲ではあるが、フードは必須である。
それより、敬遠される材料になるとすれば、むしろその大きさ重さだろう。例えばカラースコパー35mmF2.5P2が134gであるのに対し、ノクトン35mmは490gと、実に3.6倍も重い。まさにスーパーヘビー級である。
ところが、このレンズをライカに付けて構えてみると、意外なほど持ちやすいことに気付く。レンズ全長が長い上に、深めのターレットが掘り込んであるピントリングの幅が広いので、撮る時はレンズを左手の上に載せてピントを操るスタイルになる。つまり、一眼レフとまったく同じポジションが取れるのだ。これは、一眼育ちの人間には非常にやりやすい。スペック上では決して解らない、とても操りやすいレンズだ。
(この画角で70cmまで寄れることは、大きなメリットだ。前ボケも美しい。)
長所
○超大口径ながら、ノクチルクスに見られるような極端な癖がない。描写は開放からシャープで、
見た目に反してそれほど重くないので取り回しも良く、安心して使える。
○豊富なトーン、歪曲のなさ、短い最短撮影距離。コシナの力の入れ具合が分かる良品である。
短所
●我慢できる大きさ重さかどうか。それが問題だ。
●F1.2を超えるクラスのレンズの中では安い方ではあるが、やはりそれなりに高価だ。
スナッパーへのオススメ度
(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆
風景派へのオススメ度
(10点満点)
☆☆
誰にでもお勧めはしないが、ガチンコ一本勝負なら最右翼。