PENTAX LX
(PENTAX LX with FA-2 + COSHINA ULTRON40mmF2)
勝手にインプレッション
LXに関しては、もはや細かい説明は不要だろう。往年のPENTAXの最上位機種であり、またMF一眼レフとしては、全メーカーを通じてもっとも長命だったフラッグシップでもある。堅牢さとデザインの美しさが同居するボディの完成度は多くのユーザーの認めるところで、コアなファンがなかなか手放さないため、状態の良い個体は手に入りにくくなってきた。
エンゾーがペンタックスにハマッたのはMZ-3がきっかけであるが、その後いろいろと調べるうちに、どうも古参のペンタックスファンは、LXというマニュアル機を以て最良としているらしいことが分かってきた。なるほど、防塵防滴の思想をいち早く取り入れ、豊富なレンズとアクセサリーを用意し、あらゆる被写体に対応可能なシステムは、紛れもなくフラッグシップの風格がある。また、デザインの良さは同時代の他社のハイエンド機種と比較しても格別で、優れた工業製品のみが持っている造形美を醸し出し、特筆に価する。
だが、そんなカメラとしての性能とは別のところにも、LXの魅力はある。いたずら小僧のような「やんちゃさ」だ。
例えば、LXにはホールディングを向上させるためA/B2種類のグリップが用意されているが、そのうちグリップAは、なんと「自分の手に合わせて削るためのグリップ」である。削ると言ったが、茶色い木のように見える材質は実は硬質樹脂で、これがもう、よほどの気合と根気をもってあたらないと成形できないくらい硬い。当然、削り過ぎても修正が利かないわけで、かなり意地悪なオプションだ。
また、LXには驚くほど様々なファインダーがラインナップされており、用途に応じて交換できるようになっているが、その中でも目を引くのが、ウエストレベルファインダー「FF-1」である。他のファインダーと違いミラーが一切入っておらず、拡大用のレンズが一枚挟まるだけなので、跳ね上げ式のフードを立てると、まるでローライフレックスさながらにスクリーンを直接見下ろすことが出来る。
簡素な構造のため交換ファインダーの中でも最も安かった。正直なところ、ファインダーの進化の歴史から見れば完全に逆行しており、わざわざラインナップに加える必然性は見当たらないが、それでもペンタックスはあえて出した。
ウエストレベルファインダーと言えば、まだペンタプリズムが存在しなかった時代、アサヒフレックスなどが採用していたファインダーであるが、想像するにLXのそれは、当時を知る社員のアイデアで、スナップシューター向けに用意されたものではないかと思われる。
(アサヒフレックス。ペンタプリズムが無いので左右逆像だった)
このように「自分好みに仕上げるグリップ」や「面白いがあまり役には立たないファインダー」など、明らかにオマケと分かるようなオプションをわざわざ用意したことからも、ペンタックスという企業の遊び心あふれる社風の一端を垣間見ることが出来る。どこまでもカメラ好きの集まりなのである。それこそが、キヤノンやニコンでは飽き足らないコアなファンを惹き付けて止まない、ペンタックスのペンタックスたる所以だろう。
さて、LXを使う際にどうしても拘りたかったのが、実は他でもないファインダーである。LXの標準的なファインダーとしては、通常「LA-1」の名が挙がる。実際、中古市場に出回るLXにはほとんどの場合「LA-1」もしくは「LA-1W」が装着されている。
が、デザインを優先するエンゾーにとって、LXのペンタプリズムはどうしても「台形」ではなく「尖った三角錐」の方が好ましかった。つまり交換式ファインダーの「FA-2」を入手することが、至上の命題だったのだ。
(こちらがFA-1。絞り値読み取り用の窓がある。ある意味、見慣れたLXの姿だ)
最もポピュラーなファインダーである「FA-1」には、絞り値を読み取る小窓が付いているが、「FA-2」はコンパクト化を最優先しているため、この窓がない。従って、文献ではしばしば「FA-2」を指して「実用性を犠牲にしてスタイリングを優先したファインダー」という解説がなされている。
しかし実際に窓付きの「FA-1」を覗いて見ると、実は被写体を注視した目線では絞り値が見えないので、ファインダー内で絞り値を確認するためには、微妙に目の位置をずらす必要がある。つまり、フレーミングと絞り値の読み取りを同時に行うことができないのだ。
だったら、いっそのこと一度完全にファインダーから目を切って、絞り環で絞り値を読み取っても同じことなので、「FA-2」が「FA-1」より実用面で劣るとは言い切れなくなる。そういう訳で、エンゾーのLXのファインダーは「FA-2」になった。ディスコンと同時に店頭在庫が一瞬で消えてしまった人気アイテムなので、探し出すのには骨が折れたが。
ともあれ、0.9倍を誇る限りなく等倍に近いファインダー像は、現在のデジタル一眼とは完全に別次元の風景を網膜に投影し、見ているだけでいい写真が撮れそうな予感がしてくる。現在・過去を通じて、エンゾーが所有したことのあるすべての一眼レフの中で、最も、しかもダントツにマニュアルでのピント合わせがしやすいファインダーであることを特筆しておく。一往復でピタリとピントの山が分かる様は、何度やっても軽い感動を覚える。これは最新型のAFカメラが失ってしまった最も大きな美点である。
テニスやバドミントンの選手にとってラケットが手の延長であるのと同様、カメラを嗜む者にとって、本来一眼レフは「目の延長」であった。翻ってデジタルカメラは、ライブビューを搭載し便利になったのと引き換えに、もはや体の一部であることをやめてしまった。道具としての良し悪しはともかく、ファインダーという名の「第二の目」を通して被写体を見る感覚が過去のものになりつつあることは、銀塩の隆盛を知る最後の世代として寂しく思う。
長所
○一切の無駄がない、シンプルで研ぎ澄まされたデザイン。質感も文句なし。
○豊富なアクセサリーと、悪条件に強いボディ&レンズ群。
○フラッグシップとは思えないボディの小ささ。
○0.9倍を誇る、広大で切れの良いファインダー。
短所
●外観に文句がないだけに、ニコンF3辺りと比較してシャッター音や巻上げの感触が劣るのが惜しい。
●基本設計が古いハイブリッド機ゆえ、最高速が1/2000sec.と、今となってはやや遅め。
●そろそろパーツが払底しはじめ、修理が厳しくなってきた・・・。
●他には特になし。本当に良いカメラです。
超個人的オススメ度
(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆
偏愛度
(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆
Yahooオークション出現率
(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆
*なかなか状態の良いものが少なくなった。狙うなら後期型。