鍋・フライパンあれこれ美味
100万ポイント山分け!1日5回検索で1ポイントもらえる
>>
人気記事ランキング
ブログを作成
楽天市場
294312
HOME
|
DIARY
|
PROFILE
【フォローする】
【ログイン】
ruka126053のブログ
第26章―嵐ケ丘
「ここが牢獄?」
アリスはルドルフの言葉に首を傾けた。
「こんなに大きくてきれいなのに」
「ねえ」
「なぜ、彼らにこんなものを」
「気付いておられたのですか」
父上に近い側近のような存在。
「彼女のような私情ではないですよね」
「貴方は付き合う人間を考えるべきだ、特にあのそばかすの少年にはね」
「まさか、あいつが誰かを傷つけることなんて…、庶民だからですか」
フェリクス卿の遠縁の男は。
「貴方の目から見て、あれが可愛いヒナ鳥に見えるのですか、何一つレオンハルトと似ていない少年が」
「考えすぎです、あれの事は僕が知っています」
「なら、いいのですが、ですが殿下、お気を付けを、貴方が信頼されていても相手が同じだと限らないことを」
「見て、旅一座よ」
「流れ者よ」
アリスはむっとなる。
「だめよ」
「どうして」
「喧嘩は駄目」
カイザー・クラウド、金髪のくせ毛にオッドアイの少年はオリバーとともに非常識な現場を目撃していた。
「協力して!」
あんな可愛い姉にお願いされては断る弟はいない。彼女は自分が家に来て以来、何かと世話を焼きたがり、指示をしたがった。
「はーい♪」
まさかと思っていたが彼女はヴォルフリートと自分を重ねているんだろうか。なんかの暗示にかかっているのか。アリスにとっては当たり前の行動なのか。
「いや、あの」
「はい、ヴォルフリート、あなたの好きなシチューよ」
スプーンの中のシチューはお世辞にもおいしそうではなくて。
「食べてくれるわよね」
顔を真っ赤にしてかわいい顔を染めている。
「でも、俺は16歳であ。・・・お姉さんは17・・・」
「細かいこと気にしないでって言ってるでしょう?」
吸い込まれるような青い瞳。
「あーん」
「-いや、貴族のしそくとしてそんな・・・」
「あーん」
ええ。
続けるの?
そしてカイザーは結局、アリスのシチューを食べた。
「―ヴォルフリート」
バルコニーにいるヴォルフリート、いや、ゴットヴァルト・クラウド。
「一緒に行きましょう」
「そんな・・・僕は・・・」
にっこりとアリスはほほ笑む。
「貴方は私に必要なの」「お父様」
「エレオノ―ル・・・」
「さあ、来るんだ」
「いや、エリオット」
「エレオノ―ル!!」
「エリオットとかいったな、そこにいるのはレオンハルトの娘か?」
「―私と彼女の子です」
「アリス・・・」
「異能者だったか」
アルプス山脈付近北側、某研究所。
その日は曇りだった。青い窓の中では、ベビーチェアを傍らにあと二日で死ぬユリア・バドォールの姿があった。あんなに美しかったダークブラウンの髪はし俺、肌も荒れ、目は充血していた。
社交界の華と言われた貴婦人の面影はない。
「伯爵、奥様は・・・」
「ああ、元に戻らない」
悪徳司祭のイギリス人、ジム・キャスタインはにやりと笑う。
「貴方もお人が悪いですね、不幸な子供たちのための実験と言って、自分の奥様をあの空間への実験に使うとは」
「ホムンクルス・・・、オカルトを現実の科学と異能者の魔法技術で作りだした科学者のお前には負けるさ」
「死ぬ運命のお子様のためとはいえ」
いやいや、とそばかす顔の平凡な白髪の男はわかったような笑みを浮かべる。
「たかが、数年過ごしたくらいで俺の弟を自分のものに思わないでほしいんだけど」
陰湿な女子か。
「黙りなさい、人攫いのくせに」
「人聞きが悪い」
先ほどからアリストオルフェウスがにらみ合っている。
「ヴィクトリア、貴方・・・アルフレートを」
「風は冷たいわね」
「どうして・・・・」
シェノルががれきの中、冷たくアリスをみる。
「アテナの剣の存在理由は、この国のがいなるもの、疑いがあるものを罰すること」
「そして」
「貴方の存在理由はデーモンが生まれ悪を消滅させること」
「だって同じ人間じゃない」
「人間?」
「彼らは無慈悲な暴力で有力な人間ばかりか、観客の子供も殺そうとした。だから、ローゼンバるツァーの手で罪をかぶせられ、悪として死んでいく」
「よく言うだろう、化け物や悪魔の正体は人間だったって」
世界はもう血度、ジ―クヴァルトから光を奪った。
よりによって、こんな形で。いつも通りだった。
何もおかしいことはなかった。
「・・・兄上・・・兄上・・・・」
世界のどこにも、兄はいなかった。
ジ―クヴァルト・バドォールの朝は、アヴィスが入れるキャンディのにおいで始まる。
「坊ちゃん、目覚めの時間です」
「・・・・まだ、眠い」
目をこする。
「今夜は婚約者のエリザベート様とそのお母様であるカローラ様、エスドフォード伯爵夫人が来られる日でしょう」
不機嫌そうな美しい夜の瞳がアヴィスをみる。
「・・・・来ないようにできないか」
そのきゃしゃな体を抱き起こし、やけどで少し醜くなった片目に丁寧な仕草で眼帯をジ―クヴァルトの肩目につけていく。
「先週からの約束でしょう、それはなりません」
「エリザベートは何かと僕にまとわりつくから」
くすりと笑う。
「何だ、文句なら受け付けるぞ」
「いえ、先代からの貿易会社を営む坊ちゃんが婚約者一人も対処できないとは、まだまだ年相応だなと」
いつものように言い返してこない。どうしたのかと思うと。
「・・・・お前と会う前のエリザベートを僕は事件のせいで忘れているから」
「記憶はまだ戻らないんですか」
「全部忘れたわけじゃないが、・・・所々、ピースが欠けている・・・」
「おメシものを変えましょう、そのままでは動くこともできないでしょうから」
「・・・ああ」
復讐真と猜疑心、不安。天才としてだれとも対等に関係を築けない幼い少年。強い意志を持ち、もろい精神を持つ惰弱な少年。
用意された絹のシャツに身を包み、チェックのかけものをかけ、首に紋章入りの飾りをつけてズボンをはかせた後、ソックスをはかせる。
「終わったか」
「後は靴だけです」
「そうか」
アヴィスに専用の靴を履かせられると、床に足をつけた。
―彼にどんな魅力が、いや、どんな悪魔と取引したのか、ヴォルフリートという少年は良くも悪くも人を引き付けるようだ。中身は実のところ、ただのバカにも見えるし、アヴィスには理解しがたい。どうにもあの美しい少年は一面的に評価するには難しい。
ジ―クヴァルトは、ただのブラコンというよりも、どうも彼に母親の面影を重ねているらしい。関心事は、復讐相手と実の兄のことだ。エクリプスは宿敵だが、彼の根源にはかかわっていない。
触れてこないらしく、必要がなければ話題にさえ出さない。
「ジ―クヴァルト!」
「も、モニカ?」
「相変わらず小さいわね、可愛い」
ウェーブヘアの露出が高い美女、モニカが現れる。
「あーっ、ずるうい」
「あら、まあ」
すりすりと頬をすりよせる。
「エリザベート、たすけ・・・」
「私も私も」
「いやっ、助けろ!」
馬車で揺らされながら、向かい合わせにディーターは寝ているヴォルフリートを見た。ヴォルフリートの隣のベルクウェインは嫌そうな顔をしていた。
疑うような眼差しをディーターは向ける。ヴォルフリートは右利きのはずなのに、眠る直前まで左でフォークを使っていた。いくら、演技がうまくてもあんなに自然に持続できるのだろうか。昨夜のパン屋のような、ベーコンの匂いのような匂いの気配はピタリと消えている。
黒髪の優秀な弟の顔が思い浮かぶ。
異能者。あるときを境になくなった、別のものとなった弟。
「―-」
・・・まさか。
「ちいさいな」
あはははとエクリプスが笑う。
「あいかわらずちいせえ」
いつものキザぶりはどこにいったのか。
「いいから、早く、兄上の消息を探せ」
「いやあ、まさか、伯爵さまから裏取引持ちかけられると思わなかった」
ばんばんと背中をたたく。
「お前の兄ちゃんは、金髪のあのカイザー・クラウドだろ?」
美しい気品のある男性がアリスの手を強くつかむ。
「君のような可憐な女性がこんなことで手を汚すことはないよ」
金髪碧眼の美青年に見つめられ、レディーとして扱われて、母親似の愛らしい顔立ちの大きな青い瞳の美しい、おてんばなアリスの頬が赤くなる。ルドルフはむ、となる。
「あら」
ギ―ぜラが隣のルドルフをみる。
「面白くない」
「へええ」
「何ですか、姉上」
「そんな私なんて・・・」
「自分を下げるものではないよ、君が美しく、花のように可憐でかわいらしい女性なのは周知の事実だ】実に愛らしい」
隣をみると、珍しくヴォルフリートが怒ったような表情をしていた。
「まあ、そんなに怒るな」
「怒ってない」
明らかに怒っているじゃないか。
「アーディアディトは性格はまあ、あれだが、顔は可愛いし世話好きだ、ありえる話だろう」
むううと膨れている。かわいらしいが子供っぽい。通りがかりの女性が自分をみると同時にこいつをみる。似合わないとでもいうように冷たい目でこいつをみる。
温かくて優しくていい奴なのに、素晴らしいところがあるのに。何となく心の中で苛立った。自分は彼の友達だ。その友達が辛い立場や冷たく、低く見られるのはなんだか気に入らない。
理不尽なものに思えた。
「僕は怒っていない」
やれやれだ。
パーツは整っているし、目だってくりくりだ。かわいらしい顔立ちをしている。そばかすは気になるが成長すれば消えるだろう。性格が内向的な自分に、暴走しがちな自分に付き合えるだけ、彼は凡庸でも無能でもないと思う。まあ、怒ればいいとは思うが。
どうも感情の起伏が低いせいで、誤解が多いようだ。
―でも。
彼はそんなに魅力がないだろうか。
陽光に照らされ、ダークブラウンの髪が揺らめく。よく見れば瞳は宝石のように輝いていて。自分とは正反対の、なんというか落ち着いた雰囲気を持つ。見てくれをそれなりに整えて、うまく成長すれば、もしかしたら、自分とは違う意味で女性の気を引く存在になるんじゃないか。
ヴォルフリートは、存在感があった。人形のような冷たい自分とは違う。
何かが―。
「君が恋するときはいつだろうな」
ルドルフは大きくため息をついた。
それに道を歩けば、ちらほらと特に年上の若い女性がヴォルフリートに注目していた。
「僕は恋より姉さんやルドルフ様がいればいい」
「・・・」
頭を抱えたくなる。まあ、自分は友達だからだろうけど。
「早熟なあいつと違って君はお子様だな」
「何、その笑い・・・・馬鹿にしているのですか」
「僕は皇太子だぞ、国民の上に立つものだ」
ズダァァァ・・・・・ン。
銃声の音?
エマは反対方向の方で、確かに銃声を聞いた。
「もう疲れた」
「シャノンったらだらしないわね」
南の方角からか―ルとエリクがやってくる。
「2人とも教会に戻って、教会にお客様だって―」
2人は顔を見合わせる。
「・・・・お客様?」
こんな季節に?
ヒュウウウ―
「夜分にすいません」
「はい」
「招待状をもらったウィーン国立劇場のものなんですが」
怖いものなんかもうないはずだった。アロイスとの恋、妨害はあれど、夢への道は開いた。平和を乱す異能者を倒し、この国を仲間とともに倒す役目。
エレオノ―ルはいつもアリスに、貴族は国民を守るものと厳しく教えた。
ヴォルフリートと額を合わせる。
守りたい、大事な人を、家族を。暴力から力がない人の手助けになりたい。友達にはいつも笑ってほしい。
私でも出来ることがあるなら。
薄紫色の長いウェーブヘアは背中まで伸びていて、淡い青のドレスと上品な色合いの帽子。白い傘を持って、ヴォルフリートと横に並んで立っていた。
「はじめまして・・・」
綺麗な声だった。
招待客の中には、アリスの家族の姿もあった。
「お父様!」
「やあ、アーディアディト」
「・・・・この嵐の中、お元気そうで」
「あちらの漆黒のドレスの女性が、このイベントの主催者、通称黒蝶夫人、ドーレス公爵夫人よ」
「へえ・・・」
綺麗、一流の女優みたいだわ。
「姉上、僕は友人が来たので、アンドリュー」
「え、ええ」
その時、視線を感じた。夜会用のスーツを着た燕尾服の長身の男性。年は20代くらいの。
控えめで優しそうな―。
人ごみが消えて、その横に小さな男の子がいた。
鋭い視線がぶつけられる。
「――?」
「おっ、おひさしぶり」
ギルバートと2人の義理の兄、サーフィスとフランがアリスの前に現れた。
「今日は地元の人のために即興劇をするとか、衣装が似合っていますね」
「ありがとう」
「いや、そんな、あれ、ヴォルフリートは?」
「ああ、あの子、こういう舞踏会とか派手なイベント嫌がるのよ、上流階級の奥様方やダンスが苦手とか言って、いい加減慣れればいいのにね」
ガシャ、ガタガタ、がたぁぁん。
「大丈夫ですか、外交官」
「すみません、緊張してしまって」
小太りの優しそうな中年の紳士が黒猫のデザインがされた指輪をはめて、お付きの女性に慰められて、床に散らばった氷やら皿を片づけている。
「もう、しっかりしてくださいよ」
「いや」
2
乱暴にカイザーの艶やかな金髪をつかみ取る。
「やめろ、ゴットヴァルト!!」
「お前らのような奴らがいるから?」
「安全?まもるだって?ふざけるな、そんなに強者であることをいばりたいのか!!」
ぎりりっとカイザーの髪をなおつよい力で引っ張っていく。
「・・・・っ」
「お前もその女もローゼンバるツァーも僕を見下しているんだ!!何の苦労もなく、生まれ持った力を誇ってな、だからお前らは」
「平然と人を踏みつけられるんだ!!」
「嫌味ね、ヴィクトール」
「君もなかなかだ、アリス」
「ああ、連れが来たようだ」
「ああ、そうだ去年の5月24日のことは覚えているか?」
「五月24日?」
「巨大な狼が・・・・」
3
「失礼、大丈夫ですか」
「あ、すみません」
「まさか、この絶海の女神を狙って」
「トワイライトレディーらしからぬ犯行だな」
赤い髪のくせっけの槍のようなものを持った少女が廊下でアリスに視線を送っていた。
「貴方、聖なる乙女?」
「は?」
「私の弟の姉を名乗っている、嘘つきのお姉さま?」
「貴方、何言って」
「私はロシア近くの国境で、弟を探していたわ、でもあなたに盗まれた」
「はぁ?」
「負けないから」
4
「・・・・・頭の奥が痛いな、寝すぎたな」
あくびをしながら、音楽室から出ると、女性の悲鳴が聞こえた。
「・・・・あれ、肩かけ?」
メイドか何か、かけてくれたのか?
「・・・・狼!?」
「姉さん、大丈夫」
「ええ」
「警察を呼びました」
ディートリヒも心配していたのか、頬を緩めた。
5
なぜ、あんな嫌味を?
「俺は今冷静じゃない」
「変なエレクね」
「もういいからアルベルトたちのところに行け」
6
「ブレース侯爵夫婦の催しものだったんですよ」
「・・・・気付かれていましたか」
柱の間で友達と話していた。
何だ、ヴィクトールだったのね、待ち合わせって。
7
「幼い日の三人のビー玉のときも意地を張っていたわね」
え?
「どうしたのよ、いくらなんでも忘れたわけではないでしょう」
「え、ええ」
「じゃあ、私彼氏のところに戻るわ、またね」
「ええ、シャノン」
噴水の前でアリスはアイリスの花を拾っていた。
「失礼、身体の調子でも」
「いえ、大丈夫です」
「なら、いいんですが」
「ああ、僕はレイモンド、ドイツ出身のレイモンドといいます」
漆黒の扇を鏡の廊下で拾い上げる。ギルバートはその扇を手に取り、ラベンダーの香水のにおいを感じ取る。
「落し物か、誰か」
その時、扉が開き、その前にヴォルフリートがいることに気づく。面倒くさそうな表情をして、襟元を整えていた。
白い少女の手が伸びてきて、ヴォルフリートの頬に触れる。栗色のウェーブヘアの。
「・・・・今日は満月か」
さぁぁぁ。
栗色の髪が伸びて、うす紫色の長い髪に変化していく。手足が伸びて、大人の女性の体になっていく。
「ふふ」
青い宝石のピアスが光る。
襟元が緩められ、女性はそのヴォルフリートの体を堪能する。
…水曜日の満月なんて、…いい気分じゃないな・・。
フルムーンなんて、狼男も楽じゃないだろう。
かさ。
ヴォルフリートは自分の目の前で起こっていることが理解できなかった。きれいな金髪の―、それは狼が獲物を襲っているときのような光景で。ひらひらとスカートの近くで、赤い宝石がついた自分の十字架が雑草の上で光り輝いていた。
雨が降って、地面がぐちゃぐちゃになった時のあの独特のにおいに似た匂いが鼻腔をくすぐる。
「・・・・・・な・・・・・」
それは高貴な、けれどひどく冷たい海の底を思わせる王の瞳、時計の針が見えた。
柔らかな淡い色の髪。
綺麗な白いブラウスとズボン。
いや、そんな外見よりも――
目の前の9歳の少年、こいつは今、姉さんに何をしているのだ?
鋭い牙が、ヴォルフリートの視線をとらえた。
「あ・・・」
びくびくと身体が震えている。ピンク色の肌がまるで死人のように白く―
さぁぁぁ。
身体中の血が引いて行くのがわかる。
「あああああああああああああああああっ!!」
次の瞬間、ヴォルフリートが叫んでいた。
「はなれて!」
気づいたら、少年を突き飛ばしていた。
小さな体が雑草の上で転がる。抱きしめた身体は真っ白に、冷たくなっていた。
その感触がヴォルフリートに受け入れたくない現実を伝える。ありえない、ありえない。
誰が、嘘、信じられない。どうして、どうして。
身体を起こした少年の高貴な気の強そうな瞳。
「・・・・・お前・・・・・・」
ルドルフは身を震えさせた。地の底から聞こえるような低い声。
「許さないから、よくも僕の姉さんを傷つけて・・・・絶対にお前を、君を許さないから!」
さっきまでの大人しさを捨てて、鋭い眼光を向ける。
「姉さん!」
そのまま背中にアリスを預けて、ヴォルフリートは立ち去る。
心臓がなっていた。
「なんだ、あいつは・・・」
「・・・・あ」
カツーン、カツーンと反対側から少年司祭の友人を訪ねてきた、連絡係だという少年が歩いてくる。
「あの・・・わたくしは・・・」
穏やかで優しい顔立ち。その顔は、カイザーそのもので。
すぐ横まで来たけど、少年は何も言わない。
裏切り。謀略。騙し合い。薄汚れた世界で、ただ一つ異能者を滅ぼし、この世から争いをなくすという理想のため、この手を血に染めた。宮廷内や貴族同士の権力争い、世の中で不幸が増すごとに母の美しい顔や心は曇って行った。
「どうして、護衛である中将でもあるバレ―ナ・・・貴方が」
足もとには血だらけの息絶えた父親、なぜいつも優しかった世話役のメイドのリラがばれ―ナの隣で冷たい表情をしているのだ。
炎と血に染まった公爵家。
「このお方は道を誤られた、他国に我が国の機密情報をもらし、利益を得て、独占しようとした」
一瞬、ぶつかり合う視線。
けれど、噂に聞く温かさも能天気さも優しさもなくて。ダークブラウンの髪が風で揺らめく。
ただのものをみる目。
それだけだった。
「女のくせに、銀の十字架のユニヴァースの地位を得るとは」
リヒャルトが肩をつかむ。
「行こうぜ」
「ええ」
オッドアイの瞳は、自分のすべてを拒んでいた。
忌々しそうに、まるでけがらわしいとでもいうように。視線が仇をみるように、突き刺さってくる。
カツーン。
「・・・あ」
少年は去っていく。延ばされた手がむなしく宙に舞う。
ふぁぁぁ、とヴォルフリートは暇つぶしの趣味の一つを、落第生のヘルムント・バザールと共に科学の実験をするために、彼の班が主に縮写している寮に娯楽室の前で白衣を着ながら待っていた。
目の前を先輩3人が通り過ぎていくのを、ああ、また下級生いじめか、と思いながら見ていた。
・・・・関わるべきかな。
ここにいるのがディートリヒやルドルフだったら、苛められている誰かを率先して、助けるだろう。助かる命を助けるなら、今だろう。
でも、今の自分の優先順位は・・・まあ、遠ざけられるのも相当かぁ。
「そこの大根役者」
ギルバートにかまうお金持ちのいじめっこ3人組みが廊下の角から現れた。
「僕?」
「ねえ、僕、退屈なんだ、せっかく、娯楽室の一つにいるんだから、音楽でも嗜まないか?」
「・・・・」
柔らかな濃い色合いのギルバートの髪が揺れる。
「酷いな、しかし」
「ヘルムント、カイ、クラウス、ありがとう」
散らばったペンや教科書、家から持ってきた荷物を友人達と共に、ギルバートは拾っていた。
「これ、お前の母親か、お前とよく似てるな」
ギルバートの母親の絵がかかれたプレートをカイが渡す。
「有難う」
母親の舞台の衣装を見て、どういう職業か気遣って言葉にしない友人達にギルバートは心から感謝した。
「しかし、フランツの奴、友達が大変な時に風邪とは」
「風邪なら仕方ないよ」
「そっか」
友人達からも笑みが浮かぶ。
「ヘルムント、いいのか、お前友達と待ち合わせしてるんだろ」
「やばい、あいつ、時間に煩いんだ。それじゃあ、ギルバート、俺、行くから」
それだけいうと、走り去っていった。
「行き着く暇もないな」
「あいつの頭の中、電気や化学やら、わけのわからないことばかりだからな」
廊下から通りがかりの生徒の声が聞こえてきた。
「おい、あの赤毛、鬼教官の班の奴ジャン。あの3人組と一緒にいるなんて珍しい」
「腕を引っ張られているぜ」
「へえ、珍しい、行ってみようぜ、ギルバート」
「赤毛?」
・・もしかして。
走って、ギルバートが現場に駆け込んだ時、数人の観客と例のいじめっ子3人組みが行きつけの音楽室の中でピアノを囲っていた。
「ちょっと」
「おい」
「失礼します」
人ごみを掻き分けると、ヴァルベルグラオ・・・いやヴォルフリートが楽譜を見ながら、ピアノの前に座っていた。
「強要として、モーツァルトくらいは習っているだろう?」
困ったような表情で、顔を青くして、楽譜を見ている。
「・・・・ええと、これ、初心者用じゃないんですけど。・・これ、教師用・・一人で弾くのか?」
「勿論、遊びに付き合ってくれるんだろう。同期のコミュニケーションだよ」
恥をかかす気満々の笑みだ。
「・・・貴族様はなぁ、誰でもモーツァルトくらい、弾けるんだぜ」
耳元でささやくように手下の一人がそういった。
「・・・・・そうか」
声が震えていたが、落ち着きを取り戻している。
「辞めろよ、ギルバート」
「何で、間違ってるのは彼らだろう」
クラスメイトの一人がギルバートを止める。
「何も対抗しないのも悪いだろ、実際、皆、あいつのこと苦手なんだよ。なぁ、だから」
周りを彼が見ると、彼と同じ班の人間もいた。
「彼らは最初から」
「え、ああ」
「最初からいるのに、彼があんな立場にいるのに、助けないのか?」
ヘルムントもかけてきた。
「あのバカ、・・・何してるんだ」
でも、意識を目の前のことに向けているギルバートには届かない。覚悟を決めて、人ごみを抜けて、ギルバートがいじめっ子の肩を持つ。
「止めろ、これはいじめじゃないか」
「何だよ、新しいお友達のピアノを聞きたいというのが編なのか?君には関係ないだろ」
キッとギルバートが睨む。
「彼は震えている・・・顔も青くして、こんな状態で弾けるわけがないだろ」
「そんな事ないよな、ヴァルベルぐラオ」
ヴォルフリートが顔を上げる。
「止めろ」
「え・・あ」
「弾いてくれるよな、僕達、友達だろ」
冷たい笑みに、ヴォルフリートは萎縮したままだが、指を鍵盤に向ける。
「止めるんだ、君がこんな奴の為に弾くことはない」
ギルバートがヴォルフリートの肩をつかむ。
「頼むよ、親友」
「ヴァルベルぐラオ!!」
ぽろんと指先が鍵盤をすべる。
「わかった、弾くよ、弾く曲は今のでいいんだな」
「ああ」
「~~っ」
弾き始めは、予想通りの音がはずれ賭けだったものの、それを聞いていたギルバートは徐々に表情を緩めていった。
「お、おい・・」
「あ、ああ・・」
3人組みがお互いの顔を見合わせる。周囲の人間も徐々に表情を変えていく。
「君・・・」
乱暴な弾き方だ。だが、鍵盤の位置を確認することなく、楽譜のみを目で確認しながら、ヴォルフリートはその楽譜どおりに弾いていき、徐々にのびやかな自分の旋律へと変化して言った。
「ふむふむ、成る程、細かくて伸びやかで、これは火花みたいで・・・ええと、うん」
表情が勉強する表情から、遊びのものに変わっていく。
「でも、この音、つまらないな」
全て、完璧に弾き終わると、くるりと振り返る。
「ねぇ、違う曲、弾いてみてもいいか、弾きたい!」
飛び切りの笑顔だ。思わず相手もひるむ。
「ああ」
「よかった、じゃあ、遊んで弾いていいんだね!!」
「遊ぶ?」
ギルバートが思わず声を漏らす。ヴォルフリートはギルバートを相手にしない。
ヴォルフリートは楽しそうにある曲を引き出す。回りはその曲を聴いて、聞いたことがないとお互いの顔を見回す。
・・・この曲は。
「ギルバート?」
「まさか・・・なんで・・・」
故郷の風景や両親との思いでが、脳裏に居つきに浮かんでいく。
懐かしい、自分しか引けない、父の自作の曲。・・・でも、楽譜は自分の所に戻ってきた。彼が知っているはずがない。
・・・・それにしても、何て、清らかな、澄んだ音色だろう。温かくて、懐かしくて、そう教会の中にいるような気分だ。深くて、優しい海の底にいるような。故郷の山の中の優しい時間に戻っていくような。
キーの引き方は、父と違う。軽やかで、音の一つを大事にしているような。でも、何故、こんなにも優しい気持ちになるんだろう。
ギルバートは目を閉じて、その音色を楽しむ。
何度か忠告はした。
「いてて」
宮廷の庭で転んでいた、使用人の子供と思った少年だった。
「ここは皇族専用の区画だぞ、どこから入り込んで―」
「え、あ、そのっ」
「どうかしたか」
遠くの方から麗しの従兄弟の声が聞こえた。冷たい美貌の少年。
「あ、ルドルフ様」
「ルドルフ、久しぶりだな」
「ほら、君、ここは君が来るような場所ではない、さっさと下がって」
ジャンナの部下が11歳の少年の肩をつかみ、立ち去らせそうにする。
「離せ」
「は?」
階段から下りてくる。
「彼は僕の友達です、使用人ではない、僕の権限でここに置かせている」
「しかし」
「僕の言葉が聞けないのか」
鋭いまなざしに男は肩を震えさせた。間抜けな、能天気な表情の田舎の少年と、宮廷育ちの美しい王子。
生意気で感情を見せない、それがヨハンの知るいとこだった。誰にも気を許さず、完璧で最悪な性格の、少なくともこんなトロイ奴はルドルフの趣味ではないはずだ。
「大丈夫かい」
「うん、何とか、ありがとうございます」
「敬語」
「ああ、ごめん、ルドルフ様」
「年が近そうだが、ユリア・バドォールの親戚か何かか?」
「違う」
アレキサンダーの頭をなでている。
「似ているな、髪や顔とかが、お前まさか、ユリアに似ているからとか個人的な理由で置いているのか、ローゼンバるツァー侯爵家を特別視する気か」
「今日はよくしゃべりますね、サルヴァト―ル公」
―この人も、ルドルフも本当に。
苛立ちを感じながら、軽蔑にも似た感情。
「平和を」
「愛を」
「話し合えばよくわかる」
ヴィルフリートという少年は、嵐の中実験室で自分に膝を折るトルコ人の少年を見ながら、冷たい目でバドォール伯爵をみる。
「うんざりしているのかい、殿下に」
「俺はね、でもアーディアディトはどうかな」
「真っ先に褒めるだろうね」
冷たいオッドアイの瞳。
帝国の正義のために、エリク達の事件は闇に。
「お前、その頬のバンソウコ、どうした?」
えー?と空気が抜けたようにいつも通りの笑顔を浮かべる。
「怪我でもしたのか?最近、多いな」
ルドルフはジ―クムントの前でヴォルフリートの頬をつついた。
「いやあ、また家庭教師やお父さんとちょっと」
てへっと笑う。
「トラブッたのか、お前はのんびりに見えて頑固者だからな」
「ルドルフ、あまりこいつに構いすぎるな」
ひょいとジ―クムントがヴォルフリートを引き寄せる。
「ジ―クムント?」
「お前もだ、そういうトラブルをここで持ってくるな、ドジで鈍いなら鍛えろ、人間関係は自分で解決しろ、お前は無意味にけがをしすぎだ」
む、とルドルフがなった。
「ジ―クムント、君こそ僕の親友に近づきすぎるな」
「ルドルフ様?」
ルドルフが乱暴にヴォルフリートの肩をつかんで引き寄せた。
「俺はルドルフ、お前のためを思って、あんまり臣下を甘えさせたままでは示しが」
「お前に関係ない」
「いや、僕のことでそんな喧嘩しなくても」
「「していない!!」」
「わあ、息ぴったり」
宮廷の中を歩く。
「全くあいつは」
ルドルフは自分の髪をくしゃとする。
「ヴォルフリート、あいつも言っていたがあんまり逆らうものではないぞ」
「あはは」
全く、こいつは。・・・。
心配になり、後ろの馬鹿を見る。
「お前、父親とうまくいってないのか」
明るいがゆえに、こいつは抱えているのではないか。
「え」
「本当に何でもないのか?」
自分をみるヴォルフリートからは感情を読み取れない。柔らかい表情のままだ。
「僕は父とその、あまり付き合いはないが、その世間では父親は息子は可愛いものだろう、ましてお前は11才まで親がいなくて、だから」
親への期待はひとしおで。
「ルドルフ様はやさしいですね」
「え・・・」
「大丈夫、うまくいってますよ、今回は僕が無神経だった、よくある親子喧嘩ですよ」
なんだ。
「そうか、そうだなお前に限って、そんな重いものはないか」
にっこりと笑う。
「そうそう、ありませんよ」
ジャンル別一覧
出産・子育て
ファッション
美容・コスメ
健康・ダイエット
生活・インテリア
料理・食べ物
ドリンク・お酒
ペット
趣味・ゲーム
映画・TV
音楽
読書・コミック
旅行・海外情報
園芸
スポーツ
アウトドア・釣り
車・バイク
パソコン・家電
そのほか
すべてのジャンル
人気のクチコミテーマ
どんな写真を撮ってるの??(*^-^*)
高輪ゲートウエイ駅の不思議@@;
(2025-11-27 07:06:46)
GUNの世界
【平成回想】1997年9月号のGUN広告
(2025-11-26 12:53:46)
鉄道
#葛飾区 柴又帝釈天 & 寅さん記念館…
(2025-11-27 09:45:32)
© Rakuten Group, Inc.
X
共有
Facebook
Twitter
Google +
LinkedIn
Email
Design
a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧
|
PC版を閲覧
人気ブログランキングへ
無料自動相互リンク
にほんブログ村 女磨き
LOHAS風なアイテム・グッズ
みんなが注目のトレンド情報とは・・・?
So-netトレンドブログ
Livedoor Blog a
Livedoor Blog b
Livedoor Blog c
楽天ブログ
JUGEMブログ
Excitブログ
Seesaaブログ
Seesaaブログ
Googleブログ
なにこれオシャレ?トレンドアイテム情報
みんなの通販市場
無料のオファーでコツコツ稼ぐ方法
無料オファーのアフィリエイトで稼げるASP
ホーム
Hsc
人気ブログランキングへ
その他
Share by: