月浮かぶそら、輝くひかり。 -静かな夜空の小さなトモシビ。

第八章-僕と君と。


彼女は、『あのね』と言った後、かなり勿体つけていた。躊躇っていたのか、ただ単に彼女が間を置いただけなのか、判らなかった。
「私、陽介君が好き」
「・・・!」
いきなりのストレート告白に、僕はかなり驚いた。一瞬ではなく、数秒。数秒間声も出ない驚きだった。しかしやっぱり表情には出ていた。
「だから、付き合って・・・欲しい」
「・・・」
数秒間の沈黙が流れた。そして僕はやっと声を出すことが出来た。
「僕も・・・僕も里緒が、好き」
すごく小さな声だったと思う。僕たちふたりにしか聞こえないぐらいの、小さな声。
「本当!?じゃあ、付き合ってくれるってこと!?」
「う・・・うん」
彼女のあまりにも大きな声に驚きつつも、僕は頷いた。
彼女は僕の手を握り、上下に大きく揺さぶった。まるで何かに当選したときのような喜びだった。
「私!陽介君の彼女だよね!?彼女になったんだよね!?」
当たり前のことを、僕に何度も聞いてきた。
「うん。里緒は僕の彼女で、僕は、里緒の彼氏」
あはは、と彼女は笑った。
「じゃあ、これからずっと一緒にいられるね」
「まぁ、そうなるかな」
ずっと、というと結婚したみたいな感じだったが、僕たちはまだ中学生だった。まだ僕たちは結婚はできなかった。
「う~」
彼女は今までの弾んだ声とは打って変わって残念そうな声を上げた。
「どうしたんだ?」
「家・・・」
「家?」
「陽介君の」
僕はそういわれて正面を向いた。目の前には僕の家があった。
「あ、本当だ」
僕は僕の家を見て初めて判った。もう家まで来ていたんだ、と。
「もっといっぱい話したかったのになぁ~」
彼女は本当に残念そうに言った。
「まぁ、明日も会えるからいいんじゃない?」
「でも明日休日・・・」
「あ、そっか・・・」
「また月曜日だね」
彼女は苦笑いした。
「だね。じゃあ、また月曜日」
「うん。」
そして僕たちはいつも通り自分達の家に入った。

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