BONDS~絆~

BONDS~絆~

エリカ

オレンジ


エリカと付き合ってもう三ヶ月になる。
エリカは時々遠くを見ることがある。
まだ前の彼のことを想っているのかもしれない。
それはそれで仕方の無いことだ。
自分に自信がないとか、そういう理由じゃなく、エリカの前の彼氏はエリカの目の前で死んだ。
俺もそのときその現場を見た。
俺は原付きに乗っていて、俺の前方を走っていた高級車が鈍い音を出した。
そう、その高級車がエリカの前の彼、ヒロキを轢いた。

エリカとヒロキは大学内でもお似合いのカップルとして周りから評価されているのをよく耳にしていたし、俺もそう思っていた。
その理想のカップルが突然の事故で壊れた。
夜、賑わう繁華街、もう少しで信号が青に変わろうとする横断歩道を渡ろうとしたヒロキとエリカに原付きに乗っていた俺は気付いた。
だからこの信号が青に変わり、二人が横断歩道を渡り終わったら、声をかけようと思っていた直後に事故は起きた。
あまりにもあっけない・・・ヒロキの死だった。
そのとき、エリカは渡ろうとはしたが、携帯がなり、画面を見ながら歩いていたので、ヒロキよりやや後ろにいたのだ。そのおかげでエリカは事故に間一髪、遭わずに済んだ。

ヒロキの死後も葬儀の後もエリカの口癖は
「どうして私もあのとき事故に遭わなかったんだろう」
だった。
その姿は見るに耐えなかった。涙を流すことなく、死んだような目で口許だけ笑う彼女の表情は周囲から見てもとても辛かった。
そんなエリカを見るに見かねて、俺はエリカの傍にいるようにした。
自殺しかねない状態だったからだ。
「エリカ、学食行こうぜ」
「エリカ、このあと何もないんだよな?カラオケいかないか?」
俺はあらゆる手を使ってエリカと一緒にいようとした。
時々、友達といるからと断られることもあったが、それはそれでエリカをひとりにしたくなかった俺としては喜ばしいことだった。

ある雷が鳴り響いていた夜、エリカから電話が来た。
「タケちゃん・・・」
エリカの声は涙混じりの声だった。
「会いたい・・・」
数秒後エリカがつぶやいた言葉を聞いて、すぐに彼女に会いに行った。
ヒロキの代わりにとか、彼女をひとりにしたくない、とかそういう理由を飛び越えて、俺はエリカに惚れていた。だからそういう理由がうまれていた。
ヒロキと付き合っていたときも俺はエリカのことが密かにスキだった。
しかし、ヒロキから奪おうとかそういうことは一切思わなかった。
理由はわからないけど・・・ただエリカを想っていた。だからヒロキがいなくなった今、俺がエリカを守らなきゃいけないという正義感があったのかもしれない。

エリカの家のドアに手を伸ばすと鍵があいていた。ドアを開けたことでうまれた少しの隙間から、光が漏れることはなかった。室内は真っ暗だった。
もう少しドアを開けてみると、中にある少し開いたドアの隙間から一点だけスタンドライトで照らされた彼女の震えた背中が見えた。
更にドアを開けると、音がし、それに彼女は気付き、静かに腫らした目で少し開いた中のドアから出てきた。
たまらずエリカを抱きしめてしまった。
エリカも甘えるように、ゴメンネと何度もいいながらしがみついてきた。

俺達はその日を境に手を繋いだり、キスをするような仲になった。

今俺の目の前にいるエリカはヒロキをまだ想っているだろう。
俺はそれでも構わない。それでも俺と一緒にいてくれていて、愛想笑いではない彼女の笑顔を見せてくれる。
それだけで充分だ。
ふと遠くを見ているエリカもまた俺の好きなエリカだから。


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