BONDS~絆~

BONDS~絆~

涙の告白

恋人



さっき昼ご飯の時、「タツ」って名前が聞こえた。
内容はよくわかんないけど、タツって聞こえたのは確かだ。
好きな人の名前なんて聞き間違えない。タツ・・・私の大好きなタツ・・・。



○○中学教諭/岩瀬 竜彦(28)/生徒からの総称「タツ」
タツは中学の頃女子からも男子からも人気があった。
格別格好イイわけでもなく、格別性格がイイわけでもない。
だけど、タツの「優しさ」に触れただけで、私は彼の虜になる。
大好きよ、タツ。言いたくてもいえない言葉のひとつ。
だって、タツは先生で、私は元生徒。そんなのに、絶対OKなんて貰えないのに告白なんてしない。怖いとかじゃない。今のままの関係がいいだけ。
たまに会いに行って、構って貰って、遊んで貰って、頭ポンって叩いてくれて・・・そんな関係で充分なの。それを壊したくない。恐怖なんて感じてない。言うつもりないから。好きだって。



学校祭の準備期間が始まるにつれて、衣装係の私は、衣装リーダーのコから中学校からミシンを借りられないかと聞かれた。タツに会いにがてら、母校へ行くことにした。
行く時、他校にいる元同じ中学だったコを誘おうと思ったが、彼女は吹奏楽部で高文連に向けて忙しいと言っていた。なので、諦めて、一人で行くことにした。
高校を出て、中学へ向かう途中、私は緊張していた。
タツに会えるかもしれない、いっぱい話せるんだ。そんな想いと、ミシンを借りに行くのに、こんな不純な動機を持っていてイイのかとか、タツがいなかった時の不安を考えていた。歩いてる途中、タツが校内にいるか?というメールを送ったが、案の定返事は来ず。
緊張している間に気がつくと、(本当に気がつくと、ってあるんだなってこのときわかった)もう学校に着いていた。ここまできたなら覚悟はしよう。勇気を出して、職員玄関を開け、茶色で緑色の文字で書かれたスリッパを履いて2階にある職員室へ向かった。ドアを開けるのは非常に緊張した。タツのいない不安をどうしても消し去ることが出来なかったのだ。勇気を振り絞ってドアを開けた。

「失礼します」

一斉に視線がこちらを向く。見ないで・・・。タツ・・・いる?



目の合った先生達にこんにちはと挨拶をし、職員室中を見回していた。
すると、知っている先生が私に久しぶりねと声をかけてくれた。
その先生は、私が中学の時所属していた部活の顧問の先生だった。
私はすぐに、岩瀬先生の居場所を聞いた。顧問の先生は、今は議長会でクラスにいるわって言ってた。私の心は安堵で包まれた。職員室にいないとはいえ、校内にはいるのだ。良かった、会える。大好きなタツに。校内に入ってくる前、玄関前でタツの車を探した。しかし、タツの車は無かったのだ。だから、私は余計、安堵に包まれた。
しばらくの間、その顧問の先生や、他の昔からいた先生の所に行き、相手をして貰っていた。そうすると、タツが来たのだ!
私はすぐには近づけなかった。生徒がいたからだ。気後れしたというか、近づいちゃいけないという感じがした。タツの近くには行ったが、すぐにストーブの方へ背を向けた。だが、タツは私に気付いてくれたのか挨拶してくれた。私も挨拶を返そうと思ったが、生徒がタツに話し掛けていて、言いそびれてしまった。(挨拶が聞こえないってイヤじゃん?)
生徒が去った後、タツはおもむろに携帯を広げた。そして、私がさっき送ったメールを見ていた。そうして、彼は笑顔でいるよ。と言った。遅いよ~と、ようやく私はタツに近づけた。
その時、見てしまった。彼の携帯に入っているメール着信の画面を。
私の名前が1個あったとしたら、上下には「小松あや」の名前が羅列してあった。
それを見てから、私は1歩後ずさりしたのを今も記憶に残っている。
「小松あや」頭の中にその名前が消えなかった。ずっとのこっている。嫌な再会だ。



タツはその後忙しそうにしていた。職員室に入ってきたかと思えば、自分の机に何か紙を置きに来ただけで、また出て行く。それの繰り返しだった。
私はその間、タツに近づこうとはしなかった。だって、邪魔しちゃ悪いじゃん。
彼女でもなんでもないのに。
だから、私は知っている先生の所にいた。
ある先生から、こんな話を聞いた。

「掃除の時のちょっとした時間でも、岩瀬先生は寝ているよ」

そんなに忙しいのに、私は来てしまった。ゴメンね。タツ。
構ってくれて優しいタツは、人に気遣いをしても嫌な顔は絶対にしたことはなかった。だから親受けだって良かった。どうして・・・どうしてこんなにスキなんだろうっていう問いの答えも簡単に出るほど、タツはイイ人だった。
だから、尚更ごめんなさいと思った。構ってくれるその手すら、痛かった。
ありがたいけれど、どうしてもあげられない。子供である私には好きな人の手に触ることも許されない。「小松あや」って人がいるからかもしれない。
いずれにせよ、私はタツに何もしてあげられないんだという無力さでいっぱいになった。泣きそうになった。タツと話したくないと思った。汚れているとかそういうことじゃないけど、何だか今の自分を見て欲しくなかった。
上手く言葉に出来ないけれど、タツと同等の立場になりたいと強く願ったときだった。

夕方5時半。そろそろ、職員室にいるのもいづらくなってきた。
タツは今年新しく私の所属していた部活の顧問になり、今日は小学校へ練習しに行っているという。さっき帰って来たのだが、私は直接サヨナラは言いたくなかった。コンニチハは言いたくても、サヨナラは言いたくない。まだまだ喋っていたいということなのかもしれない。でも、職員室にはいづらかった。
だから私はその先生からいらない紙を貰って、タツに手紙を書くことにした。
中学に来た時はいつもそうしていた。だから慣れているはずのことなのに、妙に緊張した。何でだろう。スキだからかな。なんて子供心にも思った。

『タツへ 部活お疲れ様。忙しそうだね(汗)ある先生から掃除の時寝てるって聞いたよ!頑張ってるね☆無理しないでね(>ω<)お祭で会えるといいな☆今年この地域にいるの最後だから何かおごってね☆』などの雑談を書き、最後に『P・S 私が心理カウンセラーになったら、タツの悩み聞いてあげるよ♪』
私の唯一言えた告白だ。恩着せがましく、タツに重荷にならぬよう、書いた私の告白だ。
タツはこれを告白だとは思わないだろうけど、ね。

予定通り、私はタツにサヨナラは言わず帰った。






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