BONDS~絆~

BONDS~絆~

春の恋

恋人


受験当日、グラウンドで皆とは違うユニフォームを着ている男の子がいた。
きっと、彼はスポーツ推薦で受かったんだろう。スポーツのわからない私でも、彼のフォームは綺麗だと思えた。笑顔も汗でキラキラして格好良かった。

桜が舞う季節に恋もやってきて、私はその桃色に包まれたままでいる。
今迄同じクラスになったことない人と隣の席になるのはとても緊張することだけれど、私は喜びに満ちていた。

高遠君。

私の大好きな人。せっかく隣なんだから、話し掛けなければ損だよね。
前を向いていた体を左方向へ転換して、前を向いてサッカー関係の雑誌を読んでいる高遠君に話し掛けた。
「高遠君、サッカー部だよね?」
「うん」
本に夢中になっていたのか、人見知りをするのかわからないけれど、彼は本から目をそらさずに返事をした。
「今、ウチの学校って強いの?」
「うん」
「そっか~。高遠君レギュラー?」
「うん」
私は彼の口から『うん』以外の台詞を出させたかった。
「好きなサッカー選手いるでしょう?ねぇ、誰?」
そこで彼は雑誌を閉じて私の方へ顔だけ向けて言った。
「あんたサッカーわかんの?」
怪訝そうな顔で溜息混じりにそういった。はい、わかりませんとも。
無言でいた私の前から彼は立ち上がり、教室を出て行った。
初対面から最悪の印象を与えてしまった。

その後は真面目な性格じゃない人で、本当に私のことを嫌がる人なら授業にも出てこなかったんだろうけど、彼はそうはしなかった。授業にも出てきたし、必要があれば私とも話した。だけど、未だに笑顔は見せてくれなかった。あの笑顔がもう一度見たかった。
好きな人の笑顔を見ていたいのは恋するオトメなら誰でも思うことだけれど、彼に私の第一印象は最悪なものと植え付けてしまったので、半ば諦めていた。
そのことを相談していた友達から授業中手紙が回ってきた。
『久しぶりの手紙☆高遠君とあんまり話してないね。それもそうか・・・。ってか、あんたは高遠君のどこに惚れたの?顔だけ?顔だけで、彼に近づいたり、サッカーの話したなら失礼だと思うよ。どう??』
顔だけ?顔だけなのかな?突然不安が心を過ぎった。
友達への返事は、『サッカーしていて格好イイなと思ったのは顔だけかな?』
書き終わってから、顔だけということに気付いた。彼の容姿でしか私は見ていなかった。彼の性格を知ろうとして、サッカーの話を持ち出したけれど、そのことは彼にバレていたんだ。下心見え見えだったんだね・・・。ゴメンね、高遠君。
私は友達への手紙を書き直した。
『私、変わる。』

「高遠君」
久しぶりに話し掛けた。彼はいつものように、雑誌を読みながら何と言った。
ここからだ。私はここから頑張らなきゃダメなんだ。


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