それは誰を中心にするでもなくみんなが統一した気持ちで始まった。
いや、もしかすると「私」が中心になってたのかもしれない。

彼女の名前は「あさみ」。
1年生の頃からの知り合いで私は彼女が大好きだった。
カワイイところもわがままなところも・・・
ある日をさかえに彼女への幼稚な「いじめ」が始まった。

「最近、あさみうざくない?」

この一言だった。
誰が言ったか覚えてないが、私かもしれない。
もし、これを言ったのが私じゃなかったとしてもウザイと
思っていたのは事実だったはず。
グループの女子みんなが同じ気持ちだったと思う。
そして、この一言がでると必ず誰かがそれに反応する。

「だよねぇ~!かなりウザイし」

「ってかさ~、最近ヨッシー(あだ名)にちょーベタベタしてるよね~」

「うん、してるしてる~!○○ちゃんが好きってこと知ってるのにね~」

そして、それまでウザイと思ってなかった者まで言い出す。

「うわぁ~それ最低じゃん!ウザイねぇ!」

このとき、ヨッシーという男子は結構、人気だったのだ。
うちのクラスにも3人ほど彼のことを好きだった女子がいた。
私も好きだったけど、恋をしたいとかそんなんじゃなかった。

そして、次の日。

「ね~ね~、あさみシカトしない?」

「あっ、そーする??」

「いいじゃん、それ。じゃあ休み時間の鬼ごっこ入れないようにしようね」

「OK!!」

休み時間になると・・・すぐに鬼ごっこが始まった。
いつもはあさみを中心に、みんなでじゃんけんをしてから
始めていた鬼ごっこだったが今回はあさみを入れないためにあらかじめ、
じゃんけんをして鬼を決めていたのだった。
あさみは少し驚いた表情でこちらに向かってきた。

「ね~ね~、私も入っていい??」

すると、必ずみんながお互いに目を見合す。

「うん、いいよ。」

そしてあさみを入れての鬼ごっこが始まった。
私はある子にこう言った。

「ねぇ、どーする?やめる?」
「それともあさみにタッチしないで無視して鬼ごっこやる??」
「ん~無視しよう!」
「あいつなんかに鬼ごっこ邪魔されちゃたまんないじゃん」

そして、その会話は伝言ゲームのようにみんなにいきわたった。
しかし、みんなあさみにバレない程度にあさみを避けるだけだった。
みんな度胸がなかったのだ。

そして何日か経ってあまりあさみにしゃべりかける者も少なくなった。
あさみはすごく淋しそうな顔をしていた。
私も最初は楽しかったけど、そのうちあさみに同情するように
なったのだった。

ある日2・3人の女の子が私に言いに来た。

「あのさぁ、あさみを屋上に呼び出さない?」
「・・・・・」

このとき私はこいつらが屋上に呼び出した時の状況がどんなものか
すぐに想像ができた。
どーせ、呼び出してもこいつらは何も言えないだろうと思った。
「誰か言いなよ」
「○○ちゃんが言いなよ」
こんな状況が起こるだけ。。

そして、掃除が終わりかけたとき、あさみは呼び出された。
案の定、私が想像した事態が起こった。
「誰が言う?」
「これを言い出した○○ちゃんが言ってよ」
「え、やだよ~。ヨッシーのコトが好きな人が言えばいいじゃん」
いつの間にかあさみは、私たちと一緒にいじめてた「トモちゃん」って子と
お遊びモードに入ってた。恐らく今、自分が陥っている状況を
理解しているのだろう。
トモちゃんはそんなにいじめには加わっていなかったのだ。
だからあさみはトモちゃんを選んだのだ。
そして、いつまで経っても先に進まないのをイライラして見ていた。
さっさと言って終わりにすればいいじゃんという気持ちでいっぱいだった。
ついに私は口を開いた。

「あのね、あさみ。」
「あさみは○○くんが好きって言ってるのに、
ヨッシーにベタベタしてるのがムカつくんだって」

「・・・・・」

聞いちゃいねぇ。。
というよりトモちゃんと遊んでいるフリをしているだけなんだろう。
彼女はちゃんと聞いていたと私は思う。

「聞いてる・・?」

「え・・?なに?」

「だからぁ・・・・」

と私が言った瞬間、違う女の子が私が言ったことを言い出した。
私はこーゆー人があまり好きじゃない。
誰かが言ったから言うみたいな人。
おいしいトコどりキャラってやつだ。

そして、あさみもあまりマジメに聞こうとはしなかった。
そんなことをしている間に休み時間は終わっていた。

それから何日か経ちあさみは本当に一人ぼっちになっていた。
運動会の前日の準備で6年生は校庭に出て先生の手伝いを
することになった。そこでも、あさみは一人で歩いていた。
私は3人の(もちろんあさみを嫌う)女子と一緒に歩いてた。
その中にトモちゃんもいた。トモちゃんもいつの間にか、あさみの
ことをすごく嫌うようになっていた。
もう一人の子はヨッシーのことを好きな子ですごくあさみを
嫌っていた。ちなみに、彼女の名前は「しほ」。
私はと言うと、実際すごくあさみに同情していて
普通にあさみに接するようになっていた。
もちろん、みんなに疑われない程度に。
このときから自分はセコイヤツだと自覚していた。
だけど、やっぱりあさみを見ていて辛いものがあったのだ。

そして二人(トモちゃんとしほ)があさみの方を見ながら
悪口を言い出したのだ。私はまたか・・・という気持ちで聞いていた。

あさみの方を見るのが辛かった。一人で歩いていた。
そんなこと、いつもならあり得ない。
そのとき私は迷っていた。あさみに駆け寄ろうか、それともこのまま
ほっとくか・・・・。どっちにしろ私は卑怯者だ。
いじめの中心にはなりえない存在だったが、実際は
何気ないところでみんなを動かしてたのかもしれない。
こんな私が駆け寄ったら明らかに偽善者だ・・・・。
自分にそう言い聞かせ、耐えていた。
だけどやっぱり無理だった。

「うち、ちょっと向こうのほうの手伝いしてくるね」

そう二人に言い放ち私は走って行った。
最初はみんなにバレない程度に近寄って行った。
そして麻美がパイプらしき物を一人で運ぼうとしたとき

「うちも手伝うよ」

と、言い彼女と一緒にパイプを持って行った。
そのときすごく恐かった。みんなになんて言われるだろうと
思った。だけど、そのうち私は気がついた。
となりには「あさみ」って子がいるってことを。

それからの私はもう恐くなんてなかった。
残りの時間をあさみと二人で準備をした。
そのとき、あさみと何を話したのかまったく覚えてない。
自分は偽善者だと思いつつも彼女が笑ってる姿を見るだけで
私は嬉しくてたまらなかった。それしか記憶にない。
彼女が「ありがとう」と思ったのか「最低な人間」と思ったのか
そのときはどーでもよかったんだと思う。

そして運動会の日。
私はずっと彼女と一緒に居た。
いいことをしたという気持ちと罪悪感が入り混じった
フクザツな気持ちが頭の中をぐるぐると回ってた。

運動会も終わり普通の日常が始まったころ・・・
「あさみ」への悪口はだんだんと消えていった。


何年か経ち、中学も変わり会う事が少なくなってから彼女から
電話がきた。それは泊まりにこないかという内容だった。
もちろん私はOKをした。
その夜いじめられてたときの話を彼女は始めた。

「うちね一回すごい、いじめられてたときがあったんだ」

「へぇ~そうなんだ・・・・・・」

「それでそのときすごく、苦しくてね・・・」

あの時、私に助けられたのだと彼女は言った。
私は言い返す言葉がなかった。何も言えなかったのだ。
だけど、彼女が壊れる前に駆け寄ることができて
私は切実によかったと思ってる。

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