南カリフォルニアの青い空

南カリフォルニアの青い空

2025.05.04
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おにぎり

【庭先にひもじい顔の孤児二人母涙してにぎり飯出す】

 これは2015年に、終戦70年を記念して、第二次世界戦争から渡米するまでの私の体験を英語で短歌にして出版した本の一首を和訳したものである。この本には百八首の短歌を書いた。百八首という理由だが実に私らしく行き当たりばったりでアバウト。これを書こうと思いついた時がたまたま大晦日で、テレビで除夜の鐘をきいたので、「そうだ!世のもろもろの問題は人間に煩悩があるからだ。戦争を起こすのもそれがあるからだ!」と思ったからであった。(笑)

 大空襲で東京の青山から静岡県の興津に疎開した事はこのシリーズでもちょくちょく書いてきたが、短歌の一件は私がまだ三歳位の時のハプニング。オーシャンフロントの家を借りて住んでいて、正面玄関は太平洋に面しており中くらいの日本庭園があった。戦争が進むにつれて、それはやがて家庭菜園になるのだが、その話はまたいつか。大家さんの裏庭には大きな倉があって、その後ろが三保の松原がみえる太平洋。元は塩をつくっていたそうで塩田の一部が残っていた。我々の貸家はその塩田を取り壊して建てたものだと思う。築山の右側には松の木があり、その築山の下に防空壕があった。折角伊豆半島や三保の松原が見渡せる素晴らしい駿河湾の眺めなのに、大家さんの家は東海道に面していた。でも、二階から圧巻的な富士山が目の前にみえた。

 当時の私はまだ幼児で、父は戦地だったから一人っ子のようなもので、都会では食糧難で餓死する人が続出していた時でも漁村には新鮮な魚介類や野菜も沢山あり、いたって健康に育った。米、塩、醤油、味噌、炭、なんでも入れ物をもって、政府から与えられた配給券(クーポン)で買いに行った時代で、白米は軍隊にいってしまい殆どなかった。母は麦とまずい外米を混ぜたもので、自家製の梅干しを入れ、よく握り飯をつくった。燃料費倹約の為に、朝一日分のご飯を炊いたように記憶している。

 この話は2024年の6月号でも書いたので簡単に書く。その日、縁側で遊んでいた時に、私と同じくらいの女の子とお兄さんが庭に入ってきて急にタップダンスを踊りだしたのだった。びっくりして台所にいた母を呼ぶと「おなかが空いてるのね、ちょっとまっててね」と言って、もう出来ていた握り飯を持ってきてその子達に持たせたのだが、母の目に涙がきらりと光っていた。短歌はその時の思い出である。

 握り飯、おむすび、おにぎり、と色々な呼び方がある。これは平安時代からあったとウィキペディアに書いてあるが、持ち運びが便利で人間の知恵のすばらしさを感ずる。この西洋版がサンドウィッチかもしれない。ギャンブル好きのサンドウィッチ伯爵が、ゲームの最中に食卓に座る時間も惜しく、「ローストビーフをパンに挟んで持ってこい」と命令した時にはじまったそうであるが、日本人に握り飯はかかせない。

 アメリカに嫁いでからも、子育て中によく作ったものであるが、今では和食材のスーパーにも色々な種類がおいてあって、結構白人達も大勢買っているのだから世界も変わって来たものだ。変わって来たと言えば、最近は競争心旺盛な日本人の作る芸術的なお弁当が世界的に有名になってきて、大半のアメリカ人も『ベントウボックス』という言葉を普通に使うようになってきている。NHK英語版にも、お弁当をつくる番組があるし、日本のレストランやテイクアウトの店でも、ベントウで通じるようになって来た。

 また、若い世代の食生活の反映が握り飯にも表れていて、持ち寄りパーティーなどで、握り飯にハムを巻いたものとか、ソーセージを入れたものなども出て食べた事があるが、中々美味しかったし時代の移り変わりが感じられて楽しい。

 ニューヨークの大学にいる孫の一人が個人の台所付きの寮に住んでいて、結構自炊しているようだが、時々「ラーメンを作ってみた」とか写真を送ってきたり、「フライドライスのレシピ教えて」とか「卵焼きの作り方も教えて」と書いてくるのだが、先日は「今日はおにぎりをつくった。とっても美味しかった」と写真を送って来た。教えた事もないのだが、結構上手にできていた。その写真を見たときに、筆頭にかいた短歌の孤児を思い出し、あの二人も私のようにお爺さん、お婆さんになって戦争を知らない孫かひ孫達と幸せそうに握り飯を食べているのではないだろうか、と想像した。






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最終更新日  2025.05.04 13:35:30
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Re:Orange Network 5月号・おにぎり(05/04)  
maki5417  さん
いつの世も戦争の犠牲は、おんなや子どもといった弱い人たちですね。



そうだ!世のもろもろの問題は人間に煩悩があるからだ。戦争を起こすのもそれがあるからだ!

戦争の理由は、お金ですね。
ウクライナやガザで、誰が一番儲かっているのか考えればよくわかります。

米国の武器援助も、つまるところ税金が軍重産業へです。
オイルがあがって喜ぶのは誰。 (2025.05.04 14:29:07)

Re[1]:Orange Network 5月号・おにぎり(05/04)  
Hirokochan  さん
maki5417さんへ

そうですね、金物欲、パワーハングリーね、もっともっとほしい病ね。

だから、いつの世になってもこれは変わらないでしょう。繰り返し繰り返し

良い事も嫌な事もおきるでしょうね。そういう世の中をどううまく生きて行くか

どう、過半数がしあわせに生きていけるか、面倒な課題ですが、それが人生なんでしょう。
(2025.05.04 14:58:30)

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