Fancy&Happiness

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第2章


所々葉の茂っていない部分から見えるのはきれいな芝生。植えられた色とりどりの草花。
その中でも、ひときわ目を引いたのは巨大な桜の木だった。
年月を重ねたその木は堂々と誇らしげに花を咲かせている。
美しさに一瞬目を奪われたとき、その桜の木の下にあるベンチに少女が腰掛けていることに気付いた。
・・・・その少女を例えるのなら、白という言葉が一番しっくり来るだろう
細い手足、透けそうなほどに白い肌。身につけているものは白いワンピース。
綺麗な少女だった。この世のものではないんじゃないか、と馬鹿な考えをめぐらせてしまうほどに。
視線に気付いたのか、ふと少女が読んでいた本から視線を上げ、こちらを見た。
一瞬強い風が吹きぬける
桜の花びらが舞い上がる。
今考えれば、それは僕らの運命を変える風だったんだ。

強い風に、一瞬目を閉じた。
目の開いたら、桜の花びらがこちらに舞って来ていた。それと一緒に白い何かもふわりと僕の前に落ちてきた。
切磋つかんだそれは、
四葉のクローバーのしおり
「あっ!!」
聞こえた女の子の声。同時にこちらにかけてくる足音。
そちらをみれば、白いワンピースをはためかせて少女がこちらを同じように見ていた。
「あ、あの・・・・?」
暫し無言で見つめてしまっていたようで、少女は困ったように僕に声をかけてきた。
「あ、ごめん。これ、君の?」
四葉のクローバーのしおりを少女の方へ差し出す。彼女は嬉しそうに頷いた。
「拾ってくれてありがとうございます。大事なものだったから、なくしたらどうしようかと・・・・」
少女はほっとした様子で木々の間からその白くて細い手をこちらに伸ばす。
しかし、少し高くなったそこからではどうにもここまで手が届かない。
「・・・・申し訳ないのですが、入ってきてこちらまで届けていただけませんか?私、ここから出られないと思うので」
少女は本当に申し訳なさそうに、そして何か意味ありげにそうつぶやいた。
「この建物、僕が入っても平気なの?」
「はい、中で吉村さんの部屋はどこですか?って聞いてくだされば分かるかと思います。」
少女はそういうと、お願いします、と深く頭を下げた。僕は仕方なくその建物の入り口へと向かう。
暇だったし、美少女と知り合える機会である。こういっちゃなんだが逃す手は無いだろう。
建物の入り口行けば、その建物の名称が書かれていた。
ホスピス―
その時の僕には耳慣れない言葉だった。 3に続く

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