《介抱》 Ns.のオマケver.



介護妄想ついでに・・・。


                   2006.05.08


<< 介抱 >>



 何度も一緒に飲んだことはあるけど、彼が酔っているのは初めて見た。

徹夜に近い日が続いた上に、アルコールも手伝って、睡魔の手に落ちてしまっている。
なかなか目が開かない彼をタクシーから引っ張り出し、何とか部屋までたどり着く。

付き合い始めて2ヶ月になる。でも、彼の部屋の中に入ったのは初めてだった。
広めのワンルーム。
男性の一人暮らしにしては、イメージしていたよりきれいだった。

無理やり引っ張って歩かせ、ベッドまで誘導する。
服を着たまま、ベッドに転がり込んだとたん、何を言っても返事をしなくなった。
「すでに爆睡ですね・・・。」

落ち込んでいるのはわかった。
何があったのか、肝心なところは何も話さないまま、話題をすりかえられた。
仕事でトラブルでもあったのか・・・。

「何を抱えこんでいるのか知らないけど、一人で頑張り過ぎないでね。」
と言っても聞こえていないだろうけど。

ポケットを軽く確認する。
携帯電話と財布を取り出しテーブルの上に置いた。

毛布を掛ける。

上着を脱いでいないことが気になった。
さすがに上着を着たまま寝てしまったら、窮屈だし、シワになる。
上着だけは脱がせておいたほうがいいか・・・。

「仕方ないな~。」
これでもケアのプロだ。寝たままでも上着くらい脱がせられる。
一度掛けた毛布を剥ぎ取ると、スーツの上着に手を伸ばした。

「このまま寝ちゃったら上着がシワだらけになるものね。
 上着だけ脱ぎましょうね。」
つい習慣で、返事をしないとわかっている相手にでも話しかけてしまう。

私の方に横向きに転がす。
コツは心得ている。

少し引っ張り気味に上着から左腕を抜いて、脱いだ部分をロール状に丸めで背中の下に押し込んだ。
次に反対向きに転がし上着を外した。

「我ながら鮮やか~!」
自我自賛し、ネクタイとベルトもはずした。
ワイシャツのボタンも上から三つと、袖のボタンを外す。
こんなもんかな。

明日は会社も休みだから目覚ましのセットもいらないだろう。
ベッドサイドに水の用意だけして部屋を出ようとした。

あ・・・。キッチンに置かれたままのグラスが気になった。

部屋に入ったついでだ。
流し台に放置したままのグラスと何枚かの皿を洗う。

たいした時間もかからずに片付いた。

振り返ると、さっき掛けた毛布を剥いでいた。
「もう・・・! 風邪ひいちゃう。 ・・・暑いのかな?」

アルコールが入れば寒くはないか・・・
「でもね、本当に風邪ひいても困るでしょ?」
つぶやきながら毛布を掛けようとしたその時、いきなり右腕をつかまれた。

一瞬何が起こったかわからなかった。
強い力に引っ張られて、寝ているはずの彼の上に倒れこんでしまう。
「きゃ・・・!」
弾みで閉じた目を開くと、彼が見つめていた。起こしてしまったようだ。

「あ、ごめんなさい。 起こし・・・ちゃった・・・?」
上ずった声になってしまった。
私を見つめる彼の瞳に心臓が勝手に反応してしまう。

あっという間に体勢が逆転してしまい、ベッドの上の私を彼が上から見下ろしていた。
「・・・あの・・・」
声が出せない。



「愛してる・・・」

そう聞こえた。
聞きなおす間もなく口をふさがれてしまう。

抵抗しようのないKiss・・・。
甘い彼の誘惑に、息をするのを忘れそうになる。

押し返そうとしたはずの腕の力がだんだん抜けていく。
気がつくと絡まった彼の指を、私は握り締めていた。

「最初に服を脱がせたのは君だ・・・」

耳元で彼がささやいた。



             おわり♪




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