森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2023.10.05
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カテゴリ: 神経症の成り立ち
私は過去の生活の発見誌の記事で気に入ったものは切り抜きをしています。

その中に平成5年(1992年)12月号に、岸見勇美氏が藤沢周平の「霜の朝」に収録されている「嚏」という小説の紹介をされていました。
岸見氏は生活の発見会会員で優れた本を数多く残されています。
その中でも「森田正馬癒しの人生」「ノイローゼをねじふせた男」「高良武久 森田療法完成への道」「運命は切りひらくもの」は森田正馬、水谷啓二、高良武久、岡本常男研究には欠かせない本となっています。

この主人公である布施甚五郎は、典型的な対人恐怖症、表情恐怖で苦しんでいた。
ある日、家老の鬼頭弥太夫に呼ばれた甚五郎は、藩主の血縁織部正の討手を仰せつかります。
甚五郎が藩随一の剣の遣い手と知られる藤井源助と互角の力量をもつ、剣の名手であることから、指名されたものです。
ところが甚五郎はこの大役を断ります。

その理由は、緊張した場面になると、鼻腔の奥に微かな搔痒感が動くのを感じ、突然くしゃみが出てしまうということだった。


最初に気づいたのは、元服して初めて藩主のお目見得のため登城したときのことです。
甚五郎は大広間に入った時から緊張し、自分の番がきたときには完全に上がっており、「手足はこわばり、体全体が自分のものではないように、心細く、それが鼻腔をくすぐられるような掻痒感となり、甚五郎は必死になってそれをこらえようとした。
しかし名前を呼ばれた途端に大きなくしゃみをしてしまった。
初お目見得が散々な結果に終わり、大勢の失笑を買い、父親にまで肩身の狭い思いをさせたことが、甚五郎にくしゃみへの恐怖を募らせました。

恒例の八幡神社での奉納試合でも、決勝までは難なく勝ち上がってきたのですが、優勝のかかった藤井源助と合うと、練習試合では勝てるのに、緊張しくしゃみが出そうになって、注意がくしゃみに向いているうちに、あっけなく敗れた。

妻の弥生とのお見合いも、くしゃみ恐怖のために危うく流れるところでした。
その日二人きりになって、「なんと可憐な人だ」と心が動き、何とか言わなければならぬ、と思った途端、舌がこわばり、くしゃみの予感がしてきました。
「これはいかん」と甚五郎は狼狽し、鼻を曲げ、口を歪め、目を開いたり閉じたりして、くしゃみを押さえこもうと、絶望的な努力をしました。
その時でした。つつましくうつむいていた弥生がつんと顔を上げ、甚五郎の奇妙な表情を見て言います。
「わたくしを愚弄なさるおつもりですか」
弥生は甚五郎の必死の表情を、自分を嘲笑しているととったのです。


この話は緊張感で頭が真っ白になって動揺してしまう方は共感できるのではないでしょうか。
岸見氏は表情恐怖の甚五郎が首尾よくお役目を果たしたかどうかは、原作をじっくりとお読みくださいと紹介されておりました。
なお岸見氏は、市井ものの藤沢周平作品は、山本周五郎の作風を思わせるものがあるといわれています。
これを機会に山本周五郎作品も読んでみたくなりました。





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Last updated  2023.10.07 12:31:31
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