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2022.03.15
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『鳴かずのカッコウ』という本を、手にしたのです。
神戸を舞台にして国際諜報戦が繰り広げられる小説のようで・・・神戸市民としても興味深いのです。




手嶋龍一著、小学館、2021年刊

<「BOOK」データベース>より
最小で最弱の情報機関(ヒトなし、カネなし、武器もなし!)公安調査庁に迷いこんだマンガ大好きオタク青年、国際諜報戦争で大金星!?諜報後進国に現れた突然変異種のインテリジェンス・オフィサー。本邦初の脱力系インテリジェンス小説。

<読む前の大使寸評>
神戸を舞台にして国際諜報戦が繰り広げられる小説のようで・・・神戸市民としても興味深いのです。

rakuten 鳴かずのカッコウ


第4章の途中から見てみましょう。身分偽装のお話しになっているが、壮太の訓練も佳境をむかえています。
p132~135
<第4章 偽装開始>
「永山さんご夫妻には、長いこと、ご贔屓にしていただいておりまして。私どもも、住吉のお宅に時折、ケータリングにお伺いしています」
 間髪を入れず、Missロレンスが二の矢を放った。 
「お仕事柄、海外からのお客様を招いたパーティをよくなさっていると聞きました」
「はい、奥様のお料理の腕は、私どもも顔負けなのですが、お客様が多い時には、メインのお料理とデザートをよくご注文をいただきます」
「さぞかし素敵なお住まいなんでしょうね。立派なお茶室もお持ちとか」
「よくご存じで。震災の後、お屋敷を修復された折、奥様のために茶室をお造りになったそうです。住吉山手でもとりわけ風情のある界隈です。まさしく市中の閑居。奥様は子供の頃から表千家のお茶をなさっていて、いまは、お弟子さんもとっておられるそうです。私も習いたいと思っているんですが」

 天分に恵まれたインテリジェンス・オフィサーはなんと見事なのだろう。知りたいと思っていた情報を瞬時に手繰り寄せてくれた。
 永山夫人のお茶の弟子になれば、永山家に入り込める。神戸の知り合いに伝手がないか、松江の祖母に聞いてみよう。
            *
「お茶の稽古に通いたいやけど」
 翌朝、おばばに電話でそう話すと、「ほんとかえね」といつになく嬉しそうだった。すぐに旧知の茶道具屋「ささ樹」の主人に渡りをつけてくれた。
「ほにょって嫁が見つかぁかもしれん」
 祖母は事情も知らずに喜んでいる。いつか勤めをやめて野津の姓と道具屋の仕事を継いでくれる。そんな淡い期待を抱いているのだろう。この祖母にも自分が公安調査官だとは打ち明けていない。

 壮太はおばばに噛んで含めるように話した。けいこの通うときには、野津の名前にしたい――。紹介者の佐々木さんには「松江の古美術商、野津の孫から直接電話をさせる。そう伝えてほしい」と念を押した。
 弟子入りにあたっての名前は「野津翔太」に決めた。祖母が「うちの壮太」と言ってしまっても、相手は「翔太」がなまって聞こえたものと思ってくれる。おばばの出雲弁も時に役立つことがある。

 茶道なら松江で初歩の手ほどきを受け、茶道具にも幼いころから親しんできた。けいこを通じて女性と出会うことだってあるかもしれない。おばばの期待もまんざら的外れというわけじゃない。だが次の瞬間、「野津翔太」がどうして嫁をもらえるというのかと思い直して、暗澹たる気持ちになった。

 翌日、柏倉に再び相談を持ちかけてみた。
「それは悪うないアイデアやな。仕事の筋から行けば、まず警戒される。趣味の世界から入るのは、身分偽装の王道や。ただ、弟子入りのとき、自宅の住所はどうするつもりや」
「松江の祖母の知り合いで、茶道具屋を営んでいるひとがいます。そこに下宿をしていることにしようと思います。」

 いまは役所の寮に入っているが、寮長がどうしてもサッカーチームに入れとうるさい。その頼みを断って茶道教室に通っていると分かれば、職場の人間関係にひびが入ってしまう。お茶会の手紙やハガキが寮に来ると困る。祖母から道具屋にはそう話してもらうことにした。

 それにしても、身分偽装の煩雑さはどうだろう。だんだんと気が沈んできた。いまのニッポンで身分を偽るなど小惑星探査機はやぶさでイトカワに着陸するほどに難しい。
「梶、入門申し込みには電話番号が要るだろう。アシのつかない安全なケータイは俺が手配してやる。午後、ロジの担当者のところに行ってそういえばいい」

 携帯電話を手に入れようとすれば、本人確認のための公的証明書が必要だ。運転免許証、健康保険証、パスポート、どれひとつ偽造はできない。料金の引き落としにしても、他人名義のクレジットカードや架空の銀行口座は使えない。

「振り込め詐欺」の成否は、アシのつかない携帯電話をいかに調達するかにかかっている。公安調査庁でも調査官の身元が割れないよう安全な携帯電話を確保している。極秘捜査の後方支援にあたる担当者は、携帯電話を幾重にも洗浄して、重要なオペレーションに備える。柏倉は、そんな貴重品のひとつを壮太にあてがってくれた。この案件に寄せる期待の大きさが伝わってきた。


『鳴かずのカッコウ』2 :第2章 蜘蛛の巣
『鳴かずのカッコウ』1 :ジェームス山





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Last updated  2022.03.15 07:38:05
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