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2006年08月11日
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"知らぬ顔の半兵衛"(しらぬかおのはんべえ) 
素知らぬ振りをして少しも取り合わないこと。また、その人。 
例:「知らぬ顔の半兵衛を決め込む」




"論語読みの論語知らず"
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

"論語読みの論語知らず"(ろんごよみのろんごしらず)は、ことわざの一つで、
論語を読んだが内容を理解していない人、の意。

知ったような顔をしているが、物事の本質を理解していない、ということの喩え。

有読了後、其中的一両句喜者。有読了後、知好之者。
有読了後、直有不知手之舞之足之蹈者。」

朱熹(朱子)の著書『論語序説』に登場する程子の言葉をもとにしたもの。

これをもじったものに、マルクス読みのマルクス知らずというのもあった。
しかし、今日では社民党・共産党をはじめとする左翼運動全般の退潮とともに、
老人語となりつつある。

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A mere scholar, a mere ass.
(学者物知らず)



cont....



小六(ころく)はともかくも都合しだい下宿を引き払って兄の家へ移る事に相談が調(ととの)った。
御米(およね)は六畳に置きつけた桑(くわ)の鏡台を眺(なが)めて、ちょっと残り惜しい顔をしたが、
「こうなると少し遣場(やりば)に困るのね」
と訴えるように宗助(そうすけ)に告げた。
実際ここを取り上げられては、御米の御化粧(おつくり)をする場所が無くなってしまうのである。

すると角度の具合で、そこに御米の襟元(えりもと)から片頬が映っていた。
それがいかにも血色のわるい横顔なのに驚ろかされて、
「御前(おまい)、どうかしたのかい。大変色が悪いよ」と云いながら、
鏡から眼を放して、実際の御米の姿を見た。
鬢(びん)が乱れて、襟の後(うしろ)の辺(あたり)が垢(あか)で少し汚(よご)れていた。

御米はただ、
「寒いせいなんでしょう」と答えて、すぐ西側に付いている。
一間(いっけん)の戸棚(とだな)を明けた。
下には古い創(きず)だらけの箪笥(たんす)があって、上には支那鞄(しなかばん)と柳行李(やなぎごり)が二つ三つ載(の)っていた。

「こんなもの、どうしたって片づけようがないわね」

「だからそのままにしておくさ」

小六のここへ引移って来るのは、こう云う点から見て、夫婦のいずれにも、多少迷惑であった。
だから来ると云って約束しておきながら、今だに来ない小六に対しては、別段の催促もしなかった。
一日延びれば延びただけ窮屈が逃げたような気がどこかでした。
小六にもちょうどそれと同じ憚(はばかり)があったので、いられる限(かぎり)は下宿にいる方が便利だと胸をきめたものか、つい一日一日と引越を前(さき)へ送っていた。
その癖(くせ)彼の性質として、兄夫婦のごとく、荏苒(じんぜん)の境に落ちついてはいられなかったのである。

そのうち薄い霜(しも)が降(お)りて、裏の芭蕉(ばしょう)を見事に摧(くだ)いた。
朝は崖上(がけうえ)の家主(やぬし)の庭の方で、鵯(ひよどり)が鋭どい声を立てた。
夕方には表を急ぐ豆腐屋の喇叭(らっぱ)に交って、円明寺の木魚の音が聞えた。
日はますます短かくなった。
そうして御米の顔色は、宗助が鏡の中に認めた時よりも、爽(さや)かにはならなかった。
夫(おっと)が役所から帰って来て見ると、六畳で寝ている事が一二度あった。
どうかしたかと尋ねると、ただ少し心持が悪いと答えるだけであった。
医者に見て貰えと勧めると、それには及ばないと云って取り合わなかった。

宗助は心配した。

役所へ出ていてもよく御米の事が気にかかって、用の邪魔になるのを意識する時もあった。
ところがある日帰りがけに突然電車の中で膝(ひざ)を拍(う)った。
その日は例になく元気よく格子(こうし)を明けて、すぐと勢(いきおい)よく今日はどうだいと御米に聞いた。
御米がいつもの通り服や靴足袋(くつたび)を一纏(ひとまと)めにして、六畳へ這入(はい)る後(あと)から追(つ)いて来て、
「御米、御前(おまい)子供ができたんじゃないか」と笑いながら云った。
御米は返事もせずに俯向(うつむ)いてしきりに夫の背広(せびろ)の埃(ほこり)を払った。
刷毛(ブラッシ)の音がやんでもなかなか六畳から出て来ないので、また行って見ると、薄暗い部屋の中で、御米はたった一人寒そうに、鏡台の前に坐(すわ)っていた。
はいと云って立ったが、その声が泣いた後の声のようであった。

その晩夫婦は火鉢(ひばち)に掛けた鉄瓶(てつびん)を、双方から手で掩(おお)うようにして差し向った。

「どうですな世の中は」と宗助が例にない浮いた調子を出した。
御米の頭の中には、夫婦にならない前の、宗助と自分の姿が奇麗(きれい)に浮んだ。

「ちっと、面白くしようじゃないか。この頃(ごろ)はいかにも不景気だよ」と宗助がまた云った。
二人はそれから今度の日曜にはいっしょにどこへ行こうか、ここへ行こうかと、しばらくそればかり話し合っていた。
それから二人の春着の事が題目になった。
宗助の同僚の高木とか云う男が、細君に小袖(こそで)とかを強請(ねだ)られた時、おれは細君の虚栄心を満足させるために稼(かせ)いでるんじゃないと云って跳(は)ねつけたら、
細君がそりゃ非道(ひど)い、実際寒くなっても着て出るものがないんだと弁解するので、
寒ければやむを得ない、夜具を着るとか、毛布(けっと)を被(かぶ)るとかして、当分我慢しろと云った話を、宗助はおかしく繰り返して御米を笑わした。
御米は夫のこの様子を見て、昔がまた眼の前に戻ったような気がした。

「高木の細君は夜具でも構わないが、おれは一つ新らしい外套(マント)を拵(こしら)えたいな。この間歯医者へ行ったら、植木屋が薦(こも)で盆栽(ぼんさい)の松の根を包んでいたので、つくづくそう思った」

「外套が欲しいって」

「ああ」

御米は夫の顔を見て、さも気の毒だと云う風に、
「御拵(おこし)らえなさいな。月賦で」と云った。

宗助は、
「まあ止そうよ」と急に侘(わび)しく答えた。
そうして「時に小六はいつから来る気なんだろう」と聞いた。

「来るのは厭なんでしょう」と御米が答えた。
御米には、自分が始めから小六に嫌(きら)われていると云う自覚があった。
それでも夫の弟だと思うので、なるべくは反(そり)を合せて、少しでも近づけるように近づけるようにと、今日(こんにち)まで仕向けて来た。
そのためか、今では以前と違って、まあ普通の小舅(こじゅうと)ぐらいの親しみはあると信じているようなものの、こんな場合になると、つい実際以上にも気を回して、自分だけが小六の来ない唯一(ゆいいつ)の原因のように考えられるのであった。

「そりゃ下宿からこんな所へ移るのは好かあないだろうよ。ちょうどこっちが迷惑を感ずる通り、向うでも窮屈を感ずる訳だから。おれだって、小六が来ないとすれば、今のうち思い切って外套(マント)を作るだけの勇気があるんだけれども」

宗助は男だけに思い切ってこう云ってしまった。
けれどもこれだけでは御米の心を尽していなかった。
御米は返事もせずに、しばらく黙っていたが、細い腮(あご)を襟(えり)の中へ埋(う)めたまま、上眼(うわめ)を使って、
「小六さんは、まだ私の事を悪(にく)んでいらっしゃるでしょうか」と聞き出した。
宗助が東京へ来た当座は、時々これに類似の質問を御米から受けて、その都度(つど)慰めるのにだいぶ骨の折れた事もあったが、
近来は全く忘れたように何も云わなくなったので、宗助もつい気に留めなかったのである。

「またヒステリーが始まったね。好いじゃないか小六なんぞが、どう思ったって。おれさえついてれば」

「論語にそう書いてあって」

御米はこんな時に、こういう冗談(じょうだん)を云う女であった。

宗助は「うん、書いてある」と答えた。
それで二人の会話がしまいになった。

翌日宗助が眼を覚(さ)ますと、亜鉛張(トタンばり)の庇(ひさし)の上で寒い音がした。
御米が襷掛(たすきがけ)のまま枕元へ来て、
「さあ、もう時間よ」と注意したとき、彼はこの点滴(てんてき)の音を聞きながら、
もう少し暖かい蒲団(ふとん)の中に温(ぬく)もっていたかった。
けれども血色のよくない御米の、かいがいしい姿を見るや否(いな)や、
「おい」と云って直(すぐ)起き上った。

外は濃い雨に鎖(とざ)されていた。
崖(がけ)の上の孟宗竹(もうそうちく)が時々鬣(たてがみ)を振(ふる)うように、雨を吹いて動いた。
この侘(わ)びしい空の下へ濡(ぬ)れに出る宗助に取って、力になるものは、暖かい味噌汁(みそしる)と暖かい飯よりほかになかった。

「また靴の中が濡(ぬ)れる。どうしても二足持っていないと困る」
と云って、底に小さい穴のあるのを仕方なしに穿(は)いて、洋袴(ズボン)の裾(すそ)を一寸(いっすん)ばかりまくり上げた。

午過(ひるすぎ)に帰って来て見ると、御米は金盥(かなだらい)の中に雑巾(ぞうきん)を浸(つ)けて、六畳の鏡台の傍(そば)に置いていた。
その上の所だけ天井(てんじょう)の色が変って、時々雫(しずく)が落ちて来た。

「靴ばかりじゃない。家(うち)の中まで濡(ぬ)れるんだね」と云って宗助は苦笑した。
御米はその晩夫のために置炬燵(おきごたつ)へ火を入れて、スコッチの靴下と縞羅紗(しまらしゃ)の洋袴(ズボン)を乾かした。

明(あく)る日もまた同じように雨が降った。


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最終更新日  2006年08月11日 07時07分19秒
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