フリーページ

2006年09月04日
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
zzki

そこへ奥の方から足音がして、主人がこっちへ出て来たらしかったが、次の間へ入るや否や、
「さあ、御前達はここで騒ぐんじゃない。あっちへ行っておいで。御客さまだから」と制した。
その時、誰だかすぐに、
「厭(いや)だよ。御父(おと)っちゃんべい。大きい御馬買ってくれなくっちゃ、あっちへ行かないよ」と答えた。
声は小さい男の子の声であった。年が行かないためか、舌がよく回らないので、抗弁のしようがいかにも億劫(おっくう)で手間がかかった。
宗助はそこを特に面白く思った。

主人が席に着いて、長い間待たした失礼を詫(わ)びている間に、子供は遠くへ行ってしまった。

「いや御覧のごとく乱雑な有様で」と言訳らしい返事をしたが、それを緒(いとくち)に、子供の世話の焼けて、夥(おびた)だしく手のかかる事などをいろいろ宗助に話して聞かした。
その中(うち)で綺麗(きれい)な支那製の花籃(はなかご)のなかへ炭団(たどん)を一杯盛(も)って床の間に飾ったと云う滑稽(こっけい)と、主人の編上の靴のなかへ水を汲み込んで、金魚を放したと云う悪戯(いたずら)が、宗助には大変耳新しかった。
しかし、女の子が多いので服装に物が要(い)るとか、二週間も旅行して帰ってくると、急にみんなの背が一寸(いっすん)ずつも伸びているので、何だか後(うしろ)から追いつかれるような心持がするとか、もう少しすると、嫁入の支度で忙殺(ぼうさつ)されるのみならず、きっと貧殺(ひんさつ)されるだろうとか云う話になると、子供のない宗助の耳にはそれほどの同情も起し得なかった。
かえって主人が口で子供を煩冗(うるさ)がる割に、少しもそれを苦にする様子の、顔にも態度にも見えないのを羨(うらや)ましく思った。

好い加減な頃を見計(みはから)って宗助は、せんだって話のあった屏風(びょうぶ)をちょっと見せて貰えまいかと、主人に申し出た。主人はさっそく引き受けて、ぱちぱちと手を鳴らして、召使を呼んだが、蔵(くら)の中にしまってあるのを取り出して来るように命じた。
そうして宗助の方を向いて、
「つい二三日前までそこへ立てておいたのですが、例の子供が面白半分にわざと屏風の影へ集まって、いろいろな悪戯をするものですから、傷でもつけられちゃ大変だと思ってしまい込んでしまいました」と云った。

宗助は主人のこの言葉を聞いた時、今更手数(てかず)をかけて、屏風を見せて貰うのが、気の毒にもなり、また面倒にもなった。実を云うと彼の好奇心は、それほど強くなかったのである。
なるほどいったん他(ひと)の所有に帰したものは、たとい元が自分のであったにしろ、無かったにしろ、そこを突き留めたところで、実際上には何の効果もない話に違なかった。

けれども、屏風は宗助の申し出た通り、間もなく奥から縁伝いに運び出されて、彼の眼の前に現れた。
そうしてそれが予想通りついこの間まで自分の座敷に立ててあった物であった。
この事実を発見した時、宗助の頭には、これと云って大した感動も起らなかった。
ただ自分が今坐っている畳の色や、天井の柾目(まさめ)や、床の置物や、襖(ふすま)の模様などの中に、この屏風を立てて見て、それに、召使が二人がかりで、蔵の中から大事そうに取り出して来たと云う所作(しょさ)を付け加えて考えると、自分が持っていた時よりは、たしかに十倍以上貴(たっ)とい品のように眺(なが)められただけであった。彼は即座に云うべき言葉を見出し得なかったので、いたずらに、見慣れたものの上に、さらに新らしくもない眼を据(す)えていた。


立ちながら屏風の縁(ふち)へ手を掛けて、宗助の面(おもて)と屏風の面とを比較していたが、宗助が容易に批評を下さないので、
「これは素性(すじょう)のたしかなものです。出が出ですからね」と云った。
宗助は、ただ
「なるほど」と云った。

主人はやがて宗助の後へ回って来て、指でそこここを指(さ)しながら、品評やら説明やらした。その中(うち)には、さすが御大名だけあって、好い絵の具を惜気(おしげ)もなく使うのがこの画家の特色だから、色がいかにもみごとであると云うような、宗助には耳新らしいけれども、普通一般に知れ渡った事もだいぶ交っていた。

宗助は好い加減な頃を見計らって、丁寧(ていねい)に礼を述べて元の席に復した。
主人も蒲団(ふとん)の上に直った。
そうして、今度は野路(のじ)や空云々という題句やら書体やらについて語り出した。宗助から見ると、主人は書にも俳句にも多くの興味を有(も)っていた。
いつの間にこれほどの知識を頭の中へ貯(たくわ)え得らるるかと思うくらい、すべてに心得のある男らしく思われた。宗助は己(おの)れを恥じて、なるべく物数(ものかず)を云わないようにして、ただ向うの話だけに耳を借す事を力(つと)めた。

主人は客がこの方面の興味に乏しい様子を見て、再び話を画(え)の方へ戻した。
碌(ろく)なものはないけれども、望ならば所蔵の画帖(がじょう)や幅物を見せてもいいと親切に申し出した。
宗助はせっかくの好意を辞退しない訳に行かなかった。
その代りに、失礼ですがと前置をして、主人がこの屏風を手に入れるについて、どれほどの金額を払ったかを尋ねた。
「まあ掘出し物ですね。八十円で買いました」と主人はすぐ答えた。

宗助は主人の前に坐って、この屏風に関するいっさいの事を自白しようか、しまいかと思案したが、ふと打ち明けるのも一興だろうと心づいて、とうとう実はこれこれだと、今までの顛末(てんまつ)を詳しく話し出した。
主人は時々へえ、へえと驚ろいたような言葉を挟(はさ)んで聞いていたが、しまいに、
「じゃあなたは別に書画が好きで、見にいらしった訳でもないんですね」と自分の誤解を、さも面白い経験でもしたように笑い出した。
同時に、そう云う訳なら、自分が直(じか)に宗助から相当の値で譲って貰えばよかったに、惜しい事をしたと云った。
最後に横町の道具屋をひどく罵(のの)しって、怪(け)しからん奴(やつ)だと云った。

宗助と坂井とはこれからだいぶ親しくなった。



編集手帳(9月4日付)
世界をリードする日本のアニメや漫画は中国でも人気だ。
漢字を駆使した中国版タイトルが楽しい。
クレヨンしんちゃんは「蝋筆小新」、ちびまる子ちゃんが「桜桃小丸子」、ドラゴンボールは「七竜珠」となる

意訳に向かないドラえもんは、日本語の発音にあわせて「●●A夢」。
人気度はトップだ。
中国紙の調査では青少年の68%が「日本のアニメが好き」と答え、「国産」の19%を上回った

日本のアニメは中国のテレビ局にとっても視聴率の稼ぎ頭で、ゴールデンタイムの放映が多い。
中国政府が先月、唐突に発表した一片の通知が波紋を広げている。
「9月からゴールデンタイムの海外アニメ放映を禁止する」。
海外との合作アニメも対象となる

国内アニメ産業を保護し、日本文化の影響も排除したい―そんな思惑が透けて見える。
「上に政策あれば、下に対策あり」のお国柄だけに通知がどこまで守られるのか疑問とは言え、中国の対応は短慮に過ぎるのではないのか

日本漫画界の巨星、手塚治虫の「アトムと孫悟空展」が、今春の中国展示に続き、都内で開催中だ。
生前に収録したビデオで手塚は熱く語っている。
14歳の時に見た中国の長編アニメ「西遊記」の感動が自身の原点だと

この文化交流がなければ鉄腕アトムなどの名作の誕生はなかったかもしれない。
(●は「口へんに多」と「口へんに拉」)

(2006年9月4日 読売新聞)






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2006年09月04日 20時56分10秒
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

さんとうか7722

さんとうか7722

お気に入りブログ

一日一冊:読書日記… 本のソムリエさん
30歳で結婚したOL… 美恵子12385さん
ザ・支離滅裂 山下 洋之輔さん
Margin tempogiustoさん
遙かなる悠久の古典… 美歩鈴さん

コメント新着

乗らない騎手@ ちょっとは木馬隠せw あのー、三 角 木 馬が家にあるってどん…
開放感@ 最近の大学生は凄いんですね。。 竿も玉もア○ルも全部隅々まで見られてガ…
まさーしー@ なんぞコレなんぞぉ!! ぬオォォーーー!! w(゜д゜;w(゜д゜)w…
バーサーカー@ ヌォォオオ!!!!!! http://bite.bnpnstore.com/m9n4wb0/ お…
ニキビ侍@ ありがとう!!!!!!! 顔見てるだけでもギンギンでミルク発射し…

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: