山口小夜の不思議遊戯

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2005年09月13日
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 ──おのこ、おのこ、

 後ろの席から神生(かにゅう)の男子が嫌味な口調でささやいてきた。
 小夜のランドセルのことを言っているのだ。
 彼女のランドセルは前の学校の規定のものをそのまま使っているので、黒色だった。

 学校に通うようになり、小夜は名実ともに転校生となったわけだが、それはとりもなおさず受難の日々に他ならなかった。

 相生の皆と仲間になっておいてよかった、とこの時期ほどありがたみを感じたことはない。ものめずらしさと、この年齢特有の排他精神とがあいまって、転校生には容赦のない言葉がぶつけられた。

 ──なんだぁえ、あなた。

 女性が“あんた”を使うのはこの地方の方言であって、決してぞんざいな言い回しではないのだが、小夜にとってはいまだ普通には使いこなせない言葉のひとつだった。

 それに新入りは事実なのだし、あまり横柄にしてもいけないと思って、一応このガキんちょにもあなた、と称しておいたのだった。


 ──奥さまだっちゃ。
 ──ヤスと、このあまっちょはアッチッチだが!

 転校生はどう出るか、と固唾を呑んでいた悪タレたちは、新しいネタを見つけていっせいにはやしたてはじめた。

 小夜は、ちょっとやそっとのこういった軽口にはもう慣れっこになっていた。これしきのこと、みくまりや芳子の応援を乞うまでもない。
 ふんっと頭をふって前をむくと、向こうで剛が、クチパクで“ほっとけ”と言っていた。

 芳子とも目が合う。
 芳子は小夜の目がすがるようでないのを確認すると、大きくうなずいてみせた。
 背後ではまだあきもせず何だかんだとはやしていたが、自分には味方がいる、その確信によって小夜はその後も背筋をしゃんとしつづけていられた。

 相生の皆は小夜を見て見ぬふりしているわけではない。

 ──やめぇや。

 第三者のこの正義に満ちた一言も、それが他集落の者から出た場合には、最悪、子供たちによる集落闘争にまで発展しかねないのだ。

 いくら一言いってやりたくても、皆不用意な発言を控えているのである。

 小夜にしても、あまり皆に頼りっきりはよくないことだと自分にいつも言い聞かせていた。どうしても誰かの手助けがいるという事態は、なるたけ減らしていかなければならない。

 できうるかぎり、自分で戦うのだ。


 第七話のおわり

 明日から第八章●きみよ、あるがまま●です。
 あなたのお越しをお待ちしております。







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最終更新日  2005年09月15日 12時14分23秒
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(2005年09月13日 05時22分59秒)

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