山口小夜の不思議遊戯

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2005年09月22日
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 そんな風に家で過ごしているうちに、三日目の早朝に吹雪が晴れた。

 小夜は登校の時間を待ちかねて、すぐ外に出ようとしたが、父に静止された。雪に降り積もられていて、このままではいつもの玄関を使っては、外に出られないそうなのだ。

 冬の間、村の人たちは中二階にあらかじめ造られている冬用の扉から出入りするという。
 小夜の父は、一階と二階の間にある、小窓と呼ぶにはなるほど扉に近い、これまで開かずのドアだったところを、小夜の目の前でこじ開けてみせた。

 ──うわーっ。

 朝日がまぶしい。
 ましてきらきらきらきらまぶしいのは、一面の銀世界だった。

 小夜はあらかじめ綾一郎のおんちゃから譲ってもらっていた子供用のスキー板を持ってきて、いつでも履けるように外に突き立てた。
 そして朝ごはんをかきこむと、ぴょんっと表に躍り出た。


 足の下にはさらに1メートルを超える雪が積もっているのだろう。
 こんな積雪は見たことがなかった。こんなに無尽蔵で、一点の汚れもない鏡のような雪は。

 小夜は感動に突き動かされて、自分の足元を掘って掘って掘りまくった。
 ずずず・・・と雪の壁がくだけて、地面に着くどころか、小夜が生き埋めになりそうだった。すばらしい。

 見渡すと、道などはとうに雪の底になっていて、雪に突き出た家々はまるで奇妙に白くにごり果てた海原に浮かぶ島々のようだった。
 小夜はそのけったいな光景に目をみはり、しばし視覚の遠近感を慣れさせようと苦心してみた。

 そうしてじっと立ち尽くしていると、やがて白い海に浮かぶ島々の一戸から小さな人影が元気に現われ、それが次第にこちらへと近づいてくるのが見えた。みくまりだ。

 みくまりはスキーをはいていた。
 彼女はそのまま雪原の上をすいすいと渡ってくると、小夜の前できゅっと雪の音をさせて小気味よく止まって見せた。
 そして、小夜に三日ぶりの声をかけた。

 ──あんたぁが、スキー初めてとちゃうかと思うての。

 ──むつかしいだか?
 ──むつかしいことなぞ、なんもないっちゃ。
 みいやは頼もしくも即座にそう答えた。
 ──スキーなしで歩くんが、よっぽどたいぎだが。
 そしてにこりと笑った。


 相生でのスキーとは、全く雪道を歩くだけのために使われる、この手作りの冬道具のことである。
 それはいわば、クロスカントリー用の造りになっていて、板は細く、踵は固定されていなかった。
 そして両手にはストックならぬ自分の身長に適当な長さの木の杖を持って、雪の上を進むために一心に漕ぐのだ。綾一郎のおんちゃはまめな人で、小夜の板にはたっぷりと蝋が塗ってあった。

 ──さーて。まずは杖ついたまま、その場で両足を前後ろに動かしてみ。
 みくまりに言われたとおりにやってみて、小夜はその感触に驚いた。
 ──わっ。自分の足でないみたいだが!
 ──すぐ慣れるて。
 みくまりはわけなく言うと、ずんずん前に歩き出してしまった。
 ──待ってぇな!

 小夜はスキーを履いて歩いたことがないのも忘れて、遅れはせじと夢中でみくまりを追いかけた。
 何度かコントロールを失い、つんのめりすっころびながらも、その都度体勢を立て直して頑張っているうちに、汗びっしょりになってしまった。

 ──みくまり、うちもういけん。もう歩かれんが。
 小夜が情けない声をあげると、みくまりはやっと立ち止まって振り返ってくれた。その顔は笑っていた。
 ──がんじょせんと。連中に追いつかれてしまうが。

 案の定、やがて後方から複数の声が聞こえてくると、あっというまに小夜たちは追いつかれて、他の子供たちの冷やかしの的になってしまった。

 ──ねねが、なにやらちんたらやっとるぞい!
 ──学校、遅れるでないぞ!

 小夜を口々にからかいながら、彼らは巧みに滑走と闊歩の技術を使い分けして、もはや前方の茂みの影に消えていた。今の小夜の調子と比べれば、全員が‘わかとり国体’に出られそうな勢いである。

 さて、みくまりの言うとおりで、このスキーは要は歩けばいいのだ。
 パラレルやウェーデルンなどの技もいらない。
 そんなわけで、もうしばらくたつと、小夜はだいぶ自分の身体で体得できてきたことを実感するまでにいたった。

 少し余裕ができてあたりを見渡すと、小夜はこの地域でも滅多に見られない現象である、ダイヤモンドダストに自分が包まれているのを発見した。
 朝から天空が異様にきらめいていたのは、このせいだったのだ。
 ミクロの氷粒が、七色に光りながら降り注いでいる。
 不純物のない空気にのみ、ありえるこの現象。りんとした朝の気が、汗ばんだ身体に心地よい。

 ──ねねぇ、だいぶ慣れたんとちゃう?
 みくまりは小夜をふりかえって、笑いながらそう言った。

 気がつくと、前方には分校が見えていたのだった。


 本日の日記---------------------------------------------------------

 氷之山と書いて‘ひょうのせん’と呼ぶ・・・。
 スキー場といえば、苗場でもキューピットバレーでもなく(新潟の人ごめんなして)、氷之山ですよ。
 なにがええて、氷之山のロッヂで食べることのできる、カレーライスと三枚のたくあんだが。

 やっぱり、カレーにはたくあんだっちゃ。

 ???
 鳥取だけぇ、らっきょでないだか?
 でも、なんしてこげにおいしいだ?

 あんまりおいしいんで、うちは食堂のおばさんにねだって、新聞紙に包んで毎回一本ずつ持って帰らせてもらっとったわ。そのたくあんはもちろんおばさんの手作りだっちゃ。たくあんようけ入れた樽を外に出してあったんで、そこから一本ずつもらって帰るんよ。

 家でも絶賛やったが。
 おかげで今でも山口家ではカレーライスにたくあんだが。
 あげにおいしいたくあんではないけども。

 ──っちゃなんで、皆さまついてきてくださっていますか?

 最近は私も鳥取弁を思い出しまくってきて、そうなると、鳥取の話は鳥取弁でしか語れなくなってしまい・・・。

 最近なに書いてるのかわからない!
 だらずって何?
 わったいなやってどういう意味?

 などと他県の方にメールでお叱りを受けながらも、特に解説もせずにそのまま鳥取弁の道を突き進もうとしている私を誰かとめて。
 他県の方も、ここまでの鳥取弁を聞いたことはないんじゃないかな。

 でもね、小夜もそうだったんですよ。
 最初は鳥取弁、ぜんぜんわからなかったです。
 三週間、がまんしてみてくださいな。
 そのうちになぜか、ぱっと霧が晴れたように言葉が理解できるようになりますから。

 明日はこの章のおわり●雪わらしこの出た里●です。
 おるだよ。ほんにで出ただよ。うっちゃこの目で見たもの。タイムスリップして、雪わらしこと一緒に遊ぼうで。

 それから明日なぁ、うちがこのブログ開設してちょうど一ヶ月目に当たるんえ。8月23日に初めてプロローグをアップしたですよ。

 ここまでこられたのも、毎日お会いできる皆さまのおかげです。
 小さな小さな物語ですが、これからもよろしくお願い申し上げます。







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最終更新日  2005年09月22日 07時02分44秒
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