山口小夜の不思議遊戯

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2005年10月07日
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 豊の心のうちの静かなる動揺を知るよしもなく、歯医者はたて続けにこう言った。

 ──きみは舌の付け根のところ、ちょうど軟口蓋と呼ばれている部分の奥に、骨が飛び出しているんだ。うまく生えているから食べ物を飲み込むにも喋ることにも邪魔はしていないようだが、さっき口を開けたときのきみの声が普通より響くような感じに聞こえたのは、この骨のせいだったのかもな。

 その言葉をぼんやりと聞き流しながら、豊は他に人がいないかと医者に頤(おとがい)をとられたまま、目をすがめてあたりを見た。

 さいわい、皆その時分には教室に戻っていて、近くにこれを聞いた者はいないようだった。

 また、豊の口の中の骨をそんなふうに言う医者も、町医者であって相生の伝承を知る者ではないようであった。

 ──もしかしたら、普通にはない骨に反響して、音に振動がおこって人の耳には聞こえない声すら出せるのかもしれないよ。それを耳にした人は、あたかも超音波に当たったかのように、それとは知らずに気分よくなることもあるかもしれない。

 だが、医者がなにを言おうが、豊にとっては、今日までこれが普通の人体の造作であると信じているところの骨であった。
 もちろん、豊は自分にその骨があることをずいぶんと昔から知っていた──口を精一杯開けたとき、舌の消えていく喉の最奥に、逆三角形のわりと大きなふくらみがあることを。
 けれどもそれは、常人にはありえないものだったのだ。



 この医師はなかなか知識が豊富なようで、豊に向かってそんなふうに軽妙な調子で話していた。
 だが、聞かされている豊にとっては、それらのどの言葉も軽口には聞こえないものであった。

 ──歯医者が一生をかけて一度見るか見ないかの骨だが・・・いいものを見せてもらった。ありがとう。

 そんなふうにお礼まで言われたのに、豊は無言のままぼんやりと歯科検診の席を立った。


 本日の日記---------------------------------------------------------

 バリ島の事件があってから、今日で五日が経ちました。
 本日は戦争の世紀と呼ばれた二十世紀を越えて、新世紀を迎えてなお、テロに苦しむ私たちの世界について、この五日間で考えあぐねた私見をこの場をお借りして申し述べてみたいと思います。

 わが国の一般人から武器を取り上げた歴史上の事例としては、豊臣秀吉の刀狩と明治政府の廃刀令のふたつが上げられます。
 特に明治政府の出した廃刀令に従って、各地の農民から自主的に出された武器は、およそ530万本にのぼったと記録に残されています。
 これは、当時の農民の三世帯に一世帯は帯刀していたという計算になります。提出を拒んで隠し持った刀も当然あると考えれば、あるいは二世帯に一刀。つまり、ほとんどの農民が帯刀していたことになるのです。

 武士が丸腰と思っていた農民は、実は全然丸腰ではなかったのです。



 このことから、私がつくづく鑑みるに男性の本能とは本来、戦闘に関するものではないということです。
 闘争本能はあると思う。
 けれども、同じ種族を殺し合うという、戦闘に関しての本能を持つことは、種の保存の法則からいっても本来ありえないはずです。

 しかるに、牙や爪などの武器をその身に備えるオオカミなどの肉食獣は、武器を持って生まれてくるがゆえに、その武器を自制する本能も持って生まれるのでしょう。だから、同種同族内での殺し合いは、代替わりなどの極端な例以外には見られないのです。まして数十万数百万単位の同種内での殺し合いなど、自然界では本来は起こるはずもないことなのです。

 人間は牙や爪を失ったために、それらを自制する本能も失ってしまったのに違いありません。


 武器を持ち、かつ自制せよ、と私は言っているのではありません。
 事実、武器使用の自制を知っていた日本人は、廃刀令の後、軍部に武器を持たされて幾多の戦争に突入していきました。つまり、武器を持った途端、殺し合いをするのでは動物にも劣る、と言いたいのです。
 人間は身体から武器を失くし、武器を自制する本能も失ってきました。けれども人間であるだけに、知性をはたらかせて武器を自制することもできるはずです。
 歴史上の日本人が、それを証明しています。

 せっかく武器を失うように進化してきたのだから、私たち人間はそこに意味を見い出すべきです。失ったことに意味のあるものを、自然に反してまた得ようとするから、脳や身体が混乱するのです。

 明日は●守宿の能力●です。
 上記に語った戦闘本能からは東と西ほどに遠いようにみえる豊くんの、幼い頃に実際にあったお話です。
 タイムスリップして、その不思議な話を聞きにきなんせ。





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最終更新日  2005年10月07日 06時37分13秒
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Re:鳥取物語 番外編 呪の子 第六節 ●誰も知らない●(10/07)  
何かあればすぐ暴力で解決しようとする。
それ以上に戦わずに勝つのは難しいです。
人を愛する事は強い人であって始めてできることです。
世界の一部の人はこの戦乱の中で精神的に進化するでしょう。
(2005年10月07日 21時41分29秒)

Re[1]:鳥取物語 番外編 呪の子 第六節 ●誰も知らない●(10/07)  
小夜子姉貴  さん
ゆうじろう15さん

戦わずして勝つ!
素敵な言葉だと思います。
男は視線で相手を射せばいい。

(2005年10月07日 22時43分21秒)

坂本竜馬。  
solya  さん
幕末、維新の志士の呼ばれる人の中で、
刀を抜いたことない希有な人。
彼の平和理論の根本は「利」だったそうですね。
利を同じくすると争わない。。
薩長連合とか、大政奉還とかは、そういう手法ですな。
今は「利」が戦争を引き起こすようです。。

さて、新しい時代の和平のキーワードは何なんでしょうね??

solyaは「ひと」ではないかと思っているのですが・・・・?!?!?!

(あっ、オイラの名前じゃないよ。。) (2005年10月08日 00時17分29秒)

Re:坂本竜馬。(10/07)  
小夜子姉貴  さん
solyaひとさま

坂本竜馬って、身長が178センチくらいあったんですってね。
‘男度胸なら五尺(165センチ)の体’と民謡で唄われるくらいだから、165センチでも壮健とされていた当時からすれば、それを見上げる人々からはそうとうな背丈に映ったのでは。

私の友人に竜馬の等身大のポスターを部屋に貼っている人がいました。けっこうデカかったですよ竜馬。




(2005年10月08日 07時06分21秒)

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