山口小夜の不思議遊戯

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2005年12月23日
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 滝に出たのだ。

 ──おーい!
 視線の先で、ちょっと前に斥候に出ていた円が手をふっている。

 その脇には、暗い峡谷のとば口がこぼれだしているのが見えた。

 地底に続いているかと思えるほど暗い、月の光さえも射しこまない洞窟。
 円が点けた松明の灯が、洞窟を赤黒く照らしている。それが妙に生々しい。ちょうど、動物の肉が腐ったみたいな色調。懐かしい思い出にしばしひたって、ほっこりしていたはずの豊の胸の裡を、嫌な予感がよぎる。

 ──ゆた、頑張るんだぞぉ!
 円がはやくも涙声で叫んでいる。


 ──まあ、互いが人間とはいえ、わしも・・・・まどでさえやれたわけだし。いかな‘御魂鎮の儀式’とか仰々しい名前を戴いていても、所詮はヤることは同じ。大丈夫だって。力抜いて!
 円の背中を撫でながら、和が笑う(←絶対他人事だろ)。

 それにしても、この人たちとここで別れたならば、本当に後はひとりなのだ。

 ──わかってるだな、ゆた! 刻限は夜明けまで、だぞ! おまえはミョ~に肝が据わってるところがあるから、祠に着いたら、ええからその場で寝てしまえ。したら、何があったかわからんままだが。わしらみんな、この場で一晩中起きて応援してるからな!

 身体を滝洞の口に下ろされると、兄弟たちを見上げるかたちになる。
 鼻をすすりながら円が言い募る。豊の頬に涙をふりこぼしながら。

 ──滝裏は暗いわ広いわ入り組んでるわで、けっこう迷うらしいで。てきとーに進んだら、前の方に祠が見えてくるはずだから、そこでおとなしく座り込んで夜明けを待て。恐ろしかったらお神酒を飲め。御神体のそばに、二十八年ものの上物が必ず供えてあるはずだが。封は口で開ればええだ。酔ったいきおいって言葉もあるってこと、思い出せや!

 まど。あんたが言うと実感こもってるな・・・・・。

 だが、和もその言葉にうなずいて言った。
 ──ゆた、夜通しここでわしらが灯明照らしておくから。洞窟内は薄暗いで。

 いや、安心してくれのどさん。


 ──ゆた。
 ああ、しずさんか、相変わらずテンション低いな。なんだいや。

 だが、静は手を降ろしてくると、豊の頬を両側から包み込んだ。
 その思いがけない体温に、豊の肩からふっと力が抜ける。

 ──言っておくことがある。いいか、ぼくの言うことを聞くか。


 なんしていつもこの兄さは居丈高なんだ、と不服ではあったが、いちおう素直にうなずいておいた。

 だが、静のまっすぐな視線を受け止めたとき、豊はその目の輝きに驚かされた。
 まるで満天の星々のように、知性にきらめく瞳。

 ──ゆたか。男というものは、たとえ何があろうとも、戦わなければならない時が必ずある。それがおまえにとっては今だ。そして、そのためにおまえには、このぼくが充分に準備をさせてきた。
 ──しずさん・・・・、

 ──おまえは今日より不二一品宮(ふじのいっぽんのみや)。頭を上げて堂々としていろ。今宵、その身に何があっても、何をされても、めそめそした態度をとるな。どんな仕打ちであれ、堂々と受けろ。これが不二一族のやり方だ。わかったか。

 うん、と小さくうなずく。

 ──よし、行け。そして必ずここに戻れ。

 静の手のひらから頬をひき、豊はきびすを返すと、轟く滝壺に足を踏み入れていった。

 一度だけふり返り、そのまま進む。

 だが、洞窟に入ったとたん、一晩を徹してその場に残ってくれるであろう兄弟たちの気配が、ふっつりと消えた。

 ───

 ふり返り際、豊は額に落ちかかった髪をさっとはねあげ、そして──笑った。

 それは舞台の幕切れのような鮮やかさだった。
 二十八年もの長きにわたり、飢え続けた神人に己の身体を与える間際だというのに、まるで親しい友人のもとを訪ねるような、これから親友の家にいって数1を教えてやろうと言わんばかりの、屈託のない笑顔だった。

 居合わす者たちの主観的な目からは、それは少年キリスト像のような、美術的彫刻に見えた。

 洞窟の漆黒から視線を上げないまま、和が傍らに突っ立っている静に囁く。

 ──とはいえ、父上は隻腕で山を降りたのだし、壁さま(なまめ:祖父)は足が立たんかった。はつゐさま(室:曾祖母)は片方の目が不自由だったし・・・・いかな神経の無さそうなゆたでも、これを思うとかわいそうな気がするな・・・・・。

 言葉を返さない静の肩に、和が片手を乗せてきた。

 ──心配であろ?
 ──何が。
 ──素直でないのぅ。
 ──誰が。

 和は嘆息し、それ以上は何も言わないまま、やはりほかの兄弟たちと同じく、飽かず滝のあたりを見つめつづけていた。

───

 そのとき、頭上高く、梢が鳴った。

 静寂を切り裂くように。
 ビクリ・・・・・鼓動を跳ね上げ、そこにいる者のすべての目が天を仰ぐ。
 ──なん、だ。風か・・・・・驚いたっちゃ。
 心なしか蒼ざめた和が、低くひとりごちる。

 しかし、流れる風は止まる様子がなかった。
 梢を鳴らし、葉ずれのざわめきを誘い、渦を巻きながら、不意に森床を突き上げた。
 まるで──歓喜に打ち震えるかのように。

 突然湧き起こった突風に髪を巻き上げられて、円も不安げに眉をひそめる。
 森のざわめきは──やまない。
 それどころか、森床を抜く風に呼応するかのように次第に激しさを増してゆく。
 兄弟たちは蒼ざめたまま、その場に立ち竦んでいた。
 いつもは優しげな樹木の気配が、なぜか今は凶暴に歪んで見える。

 だが、どこからか‘Let it be’の口笛が聞こえたかと思うと、
 ──いやはや・・・・・美童も、またいいねぇ。
 のんびりと言う声に傍らを見ると、はぐれていたはずの遼がそこに立っていた。
 ──はるさん・・・・・。
 円がたまらず年長の者の肩にすがった──瞬間。

 地鳴りがした。
 幻聴でも錯覚でも──ない。
 足の下から、何かが這い上がってくる。

 ──なんか・・・・・・来る。
 地面を凝視したまま、円が漏らす。
 ──だから、ご対面・・・・・でしょや。
 こともなげにつぶやかれたその言葉に弾かれたように、円はまじまじと長兄を見やった。

 刹那──誰のものともわからない咆哮が、森床にこだました。







 明日から本文がかなり緊迫してまいりますので、本日を限りに少々くだけた内容のお話を書かせてくださいませ。

 今宵はまた、クリスマス・パーティー第二弾です。
 本日はちょっと大人の・・・・・いや、七人グループで鍋ですが(笑)。

 不二屋敷のクリスマス・パーティについて、詳しく聞きたいな☆
 という嬉しいメールを頂戴しました。
 プリン作ってるくらいだから、やっぱりケーキを作るんですか、と・・・・。鋭い!
 なので、この場をお借りしてお話させていただきます。

 不二屋敷では、毎年のクリスマス・イブ(明日ですね!)に、豊が兄弟という丁稚を従えて、50cmのロールケーキを作っています。(50cmって、手で長さを確かめてみてください。スゴイですよ!)。

 当日の夜はまず、大宴会の後にビンゴゲーム。
 この景品も、何日も前から市内中をまわって当日に備えます。
 だいたい、お相撲ちゃんの着ぐるみやら、お風呂場でミッチーを脅かすためのジョーズの背ビレのリモコンやら、結婚式場の予約券やら、しょーもないものほど喜ばれます。

 それからは大争奪戦で豊の‘くだものたっぷりロールケーキ’が一瞬後には消失します。
 豊に言わせると、毎年のことなんだから、これもビンゴで順番決めろよ・・・・だそうです。

 ちなみに、ビンゴ大会の景品の目玉である【式場の予約券目録】は一年有効で、これが当たった人は相手がいようといなかろうと、ゼッタイに結婚しなくてはなりません。それはもう、ご神託のように。いやはや、これはいやがうえにも盛り上がるだろうな~。

 そうやって、みんな結婚していくのですが(←いいのか?)、離婚率ゼロなのはやはり不二の魔力か?!

 ええと。
 手作りお菓子つながりで──実は、番外編の日記でしか書けないことだから書かせていただきますが、私は鳥取時代、男の子たちにバレンタインのチョコを配ったことがあるのです。これが私の初めてのバレンタインの思い出です(本文にはゼッタイに載せようと思わない話だなぁ:笑)。

 湯所(ゆどころ)ショッピングセンターという(←今もありますか?)、鳥取市内の大型スーパーにみくまりとふたりで行って(みくまりは都会っ子の私にそそのかされて)材料を買い込み、相生のおのこみんなに手作りチョコを渡しました(いや、みくまりはいちずな子なので、ひとりだけに渡していました。誰にって・・・・その話はまたいつか:笑)。
 でもね、私もみんなにじゃんじゃん渡していったにも関わらず、ひとりだけ手渡しできなくて、学校の机の中に名前も書かずに入れたことを、今では懐かしく思い出します。

 ところが、その一ヶ月後の3月14日。
 相生の男の子たちは皆紳士で(←あるいは綾一郎の号令か)、それぞれがホワイトデーのお返しをくれたのです。
 みんなキャンディをくれたのに、不二豊だけが手作りクッキーでした。

 ──これ、いる~。

 と、背の高い彼が、目の前にリボンをかけた透明な小箱をぶらさげてきたのを、「いる」と言わせたいんか、いじわるな兄さだなぁ、とくやしく感じたのを覚えています。

 ところが、そのクッキーのおいしいこと!
 マリーとかココナツクッキーとか、オーソドックスなビスケットしか売っていなかった当時、バターとミルクたっぷりのクッキーは舌がとけそうなほどおいしかったのです。
 大将から、あれは豊が自分で作ったんだと聞いたときには、本当に腰が抜けました。
 今思えば、六年生の豊くん、きっと兄貴たちから徹底的にからかわれながらも、ちゃんとクッキー作ってくれたんだなぁ。透明な箱に死守されるまでに、いったい丸型のクッキーの何枚が消えていったんだろう・・・・。横浜に帰っても、「不二家」とロゴのあるお菓子を見ては、「ああ、あの兄さは今でもお菓子作りしてるかな」と、しばらく思い出のよすがにしていました(笑)。

 けど豊、名前の書かれていないチョコで、よく差出人が私だってわかったなぁ(←そりゃわかるよね。ちょっと言ってみたかっただけです:笑)。

 それからやっぱり山の神のタタリにあって、私はインフルエンザで生死の境をさまよいました(笑)。

 そうそう。
 クリスマスのお話に戻りますが、
 ミッチーにもクリスマス・プレゼントあげたいです、と言ってくださった優しい方に感謝。
 カッパの目にも涙。


 明日は●角●です。すぼし、と読みます。
 不二角──小角(おづぬ)さまのご本名です。
 28年前、この方が同じく次代守宿として、御魂鎮の儀に臨みました。
 以来、小角さまを苛んできた記憶とは──。
 タイムスリップして、半世紀前の不二屋敷の拝殿に集まりなんせ。


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最終更新日  2005年12月23日 05時07分51秒
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Re:鳥取物語 番外編 不二一族物語 第13節●別離●(12/23)  
tamutamu さん
豊はどうなってしまうのでしょう・・・・

地鳴り・・足元から何かが這い上がってくる・・
もう、その感覚を想像するとものすごーーーく
怖いです。豊ちゃん。。ゆんゆん。。。

豊のお菓子作りの腕前は相当なものですね!
なんだか、小夜子姉貴のSWEETな思い出も一緒に
食べさせていただいた感じです!うふふ。

しかし、山の神様ってすごすぎる。
どこで、見ているのやら。。。
(2005年12月23日 19時24分53秒)

Re:鳥取物語   
明日はクリスマスイブですね。

ワルプルギスの夜のような妖艶なひと時ですね。
魔法学校出身の小夜子のケーキは、カッパが作ったのではないですか。
(2005年12月23日 20時47分13秒)

Re[1]:鳥取物語 番外編 不二一族物語 第13節●別離●(12/23)  
小夜子姉貴  さん
tamutamuさん

豊にお菓子教室を開いてほしい! とのご要望も出ました(笑)。
言えば、ほんとに開いてくれると思いますよ。
基本的に、頼まれれば断らない人ですから。

お菓子教室じゃないけど・・・なんと元旦にホテルのお正月企画のひとつとして、「講演会」があるそうですよ!

それがすんごい面白くて、ホテルのHP見たら、講演会の後にすぐ落語って書いてあって、あたかもかの人の落語が聞けるかのように読めるのです。

講演会のお題は「七福神」だそうですが、どうせなら、落語やればいいのにね──。



(2005年12月24日 07時40分37秒)

Re[1]:鳥取物語 (12/23)  
小夜子姉貴  さん
ゆうじろう15さん

ワルプルギスの夜を連想されるとは、さすがゆうじろうさん!

そういえば、不二一族の嗣子のおひとりが(笑)、4月30日の夜に、キャンプファイヤーみたいに薪を燃して、
──ワルプルギスのよーる! ワルプルギスの夜ばんざーい!!
と、そのまわりを踊り狂っているのを私は目撃したことがあります・・・・(無言)。

カッパさんって、水かきがあるからケーキにクリームを塗るのとか、上手そうですよね!

ゆうじろうさんはもっぱら和菓子ですか?

(2005年12月24日 07時47分47秒)

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