山口小夜の不思議遊戯

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2006年04月30日
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 『 父と子と 』 第17節─ボルヴィック─

 言えば墓穴を掘る。それがワインだ。

 特に、菜摘子を前にして食事をしていた折りは。
 ともあれ、相手が息子であれば、ワインなら私は余裕で勝てる。少なくとも、息子はあの菜摘子から実際の教示を受けてはいない。

 かくて私は、横に立つウェイターに、皇居のワインセラーにもあったと聞く超高級『モンラッシェ』の中でも、一番に高い、つまりとてつもなく高い一本を、菜摘子に代わって教えてやるっ・・・・・、いや、もうちょっとでそうやって指さしてしまうところであったのだが、いくら「不経済な親子」とはいえ、これでは父がばかである。

 私は危うく踏み止まり、そこそこに線で抑えた。
 ウェイターが去った。
 私は安堵した。

 生ガキだ。「白」が合う。
 それもあるが、合う「赤」もあるだろう。
 しかし、今日は「白」だ。「白」に限る。

 そういえば、私はワインが好きだった。
 そして、今日から健康志向だ。
 であるが、私は、息子たちくらいは、「怠惰」とか「退廃」とか「堕落」とか、その手の香りを併せ持つ、どこか後ろ向きな男であってもいいと思っている。

 何がポリフェノールだ、抗酸化作用だ! と、息子が今、叫んでもいいと思っている。
 ──と、ここまで来て、私はやっと気づいた。
 『ボルヴィック』──そんなワインはない。
 もう一度、さりげなくリストを見た。

 それは「ボルドーの『赤』」どころか、ばか者、水ではないか!


 「ミッチーがさー、お酒控えろ、だって。今日は車だし──」

 つまりは、息子も今日から健康志向になっていたのだ。


                               ─つづくよ─





 本日の日記---------------------------------------------

 作者にとって、作品は自分の子供のようなものである──よく言われる言葉ですが、書き終えた後に時を充分に経たもの、または編集作業を経た作品は、ズバリ『 自分の子供ではない 』と感じる人もあるでしょう。

 編集者がチェックした部分を自分なりに直した文章をはじめて読み返してみたとき、作者はこの体験にさぞ不思議な感覚を覚えることになります。あるいは、なにも編集者を通していなくても、何ヶ月も何年もの時を隔てて自分の原稿を読んだときに、この感覚を覚える人もあるはずです。

 自分の作品には間違いない。
 ある箇所を書いているとき、テレビでは何の番組が流れていたか思い出したりもする。にもかかわらず、他人の原稿を読んでいるような気持ちになります。それも、赤の他人とは思えず、どこか生き別れた双子の兄弟を髣髴とさせるものがあります。
 これこそが、作品が編集者を介した、あるいは長い時間を隔てた意義です。
 どちらの場合も同じ──推敲で切り捨てるにしても、自分にとって生まれたてのほやほやの最愛の子供より、もはや自分以外の人に愛されている者を切り捨てる方が気が楽です。

 私も実生活では一人の娘の母親です。最愛の子供ならば、生まれたてであればあるほど、生みの親はこう思うでしょう──爪ひとつ、髪の毛一本切り落とすなんてもってのほか!
 けれども、編集者のチェックを経た、あるいは時間を経た原稿は、熱くて持てないほどの出来たての時期はすでに過ぎ去っています。作者の愛情も、親の愛のそれとは少し変化しているはずです。

 だからこそ、推敲ができるのです。
 昨日、 舞夜じょんぬさま から非常に示唆的なコメントをいただきました。
 すなわち、倉橋由美子さんの言葉、「愛情でこねくり回した料理よりも、手抜きにせよ手早くプロの味を出した料理の方が胃にもたれずいい」──すなわち、愛着があっても、駄目なものは駄目と割り切らなくてはいけない。それがプロなのでしょう。

 仏教用語でいう、「最愛の相手を殺せ」というわけです。
 仏に会っては仏を殺せ、師に会っては師を殺せ──芸と愛情は別モノです。


 さて、おとといでしたか・・・ solya兄 の古里鳥取への思慕あふれるコラムに触発されて思うことがありました。
 明日は●語る者ではなく、語られる話こそ●です。
 小夜子に力を!


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 追:「“不二一族名物の生モノ”って・・・・・気になるんですけど」なるメールをいただきました(笑)。 架月真名さま 、私、言っちゃってもいいですか???
 それはズバリ! 50センチのロールケーキです☆
 ああ──と、ここで合点がいった方は、相当な『鳥取物語』フリークだ!

 では一般の読者の方に・・・・・なぜ50センチロールが“不二一族名物”なのか!
 この由来については、 本日の日記 の部分に書いてあります・・・・・。

 個人的に私、この一連の騒動が一段落した後に、お世話になった皆さま(ご希望の方)すべてに、こちらの「不二一族名物」をお送りする計画に、今から心躍らせております☆
 みんな待っててね~。









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最終更新日  2006年04月30日 08時19分16秒
コメント(10) | コメントを書く


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自分の子供・・・  
秋野真珠  さん
私はやはり、まだ誰かから「こうしたほうが」なんて指摘は受けたことがないので、もしそんなことになったらどうするだろうな・・・とちと考えてみました。
きっと、「言われた相手による」んだろうな・・・
好きな人なら何を言われても・・・素直に受け取れます。しかし合わないヤツなら・・・
たとえ私が悪くても認めるのがいやだ!
・・・私はプロにはなれないのかもしれません・・・

追 それ、真名さん宅では・・・一瞬で消えないでしょうねぇ・・・
  でも私もそれにフォークを突き刺してみたい・・・
(2006年04月30日 10時13分46秒)

うちは3人家族なのです…。  
架月真名  さん
小夜子さん、昨日は素敵なプレゼントをいただきありがとうございました!! 今日から早速家族でいただいてます♪ うちは3人家族なので、友人にも配らないと完食できないかと思いましたが、なんとか3人で明日中にはたいらげられそうです☆ いや~驚きました!! お礼に何を差し上げればよいのでしょう…? 天女の忘れ物? ちーちゃんのBLCDですか!?

私も真珠さんの意見に賛成です。編集さんとの相性ってあると思います。確かに編集さんは百戦錬磨のプロでしょうが、作家とは結局人間対人間の戦いになりますよね。意見を受け入れられる人、受け入れがたい人がでてくると思います。

編集者との相性ってテーマになりませんか? その人に本当に大事な我が子を渡せるのか。それだけ信用できる人なのか。えり好みできない新人はどう対処すればいいのか。こんなテーマで語っていただけたら、と思います。 (2006年04月30日 13時26分25秒)

Re:自分の子供・・・(04/30)  
小夜子姉貴  さん
秋野真珠さん

たぶんね・・・あくまでも今回の私の作品が特殊なのだと思います。

というのは、『青木学院物語』は基本的に十七歳のときに書いたもので、公開する時もその当時の文体をそのままにアップしたのです。
なので、おそらくは『鳥取物語』とは比べようもないほど「荒い」し、それだけに「勢いがある」んですよね(笑)。

よくも悪くも思春期の姉貴さんの文章の勢いをいかに制御していくか・・・まるでじゃじゃ馬ならしのような作業です。
私としては、十七の時に担任から言われてムカついたことが、今となっては「はいな。おっしゃるとおりでっせ~」とわりと素直に認められる──ような感覚です。

真珠さんにもとってもお世話になっているので、ぜひお受け取りください。7月以降になりますが・・・改めてお願い申し上げに参りますので、その折りには小夜子を信じて現住所教えてください(笑)。
(2006年04月30日 16時07分53秒)

Re:うちは3人家族なのです…。(04/30)  
小夜子姉貴  さん
架月真名さん

一度は私も“恵方巻”のように縦にかぶりついてみたいシロモノです・・・(笑)。

そうそう。見た目はビビるけど、けっこうすぐになくなっちゃうんですよね。驚いてくださって、こちらの面目も立ちました。ありがとうございました☆

真名さん、マジでお礼はこちらが差し上げるものですから! 真名さんから物心ともにすごくすごくお世話になっているのはこちらですから。どうかそのままお受け取りください。ウワサの天女の忘れ物はsolya兄からもらっときます・・・(なんか、お友達が開発したそうですから:笑)。

うわ~。編集者との相性!
これはかなり鋭い・・・というか、そのものズバリなご意見です。
ちょっと私なりに考えてみます。

ここではかいつまんで考えさせていただくと、なんというか──言ってることがまるきりわからん、場合は、やはり相性の問題なのだと思います。
でも、言ってることはわかる、と少しでも腑に落ちる場合は、やはり編集者の言は傾聴すべき点をふくんでいるのでしょう。

ちょっと考えてみますね。
真名さん、ありがとう!




(2006年04月30日 16時22分27秒)

ほにほに。。  
solya  さん
ロールケーキじったか。。やれやれ。。
また。冷蔵庫に入らん長さの江戸前のあなごでも送ったのかと心配しておりましたわい。。

真名さん、是非、天女の忘れものを送ってやんなされ。。
一家一同驚愕動鳴する様が目に浮かぶわい。
ほっほほほ。

さて、やはりsolyaもプロには向きますまい。
修正指示なんてくると「なんで、お前がオレの書いたもん直すんや、この大だらずぅ~。」などと毒づいておりますから・・・。

うまくおだてられると早々に木に登るのですが・・・。ゆうじろうさん風に言うと修行が足りんのでしょう。。。

小夜姐、日々葛藤でしょうなぁ。。。

編集の方と良い頃合にこね上げてくだされ。
とぉーーーーーくから、応援いたします。

ふれ~~っ。ふれ~~。チャッチャッチャ!!
(2006年04月30日 16時26分37秒)

Re:ほにほに。。(04/30)  
小夜子姉貴  さん
solyaさん

兄さのところにも送りつけるで~。
けど、ほんとは冬場がベストなんだよね。
だって・・・夏場に50センチのロールケーキってイヤガラセにならないか!?

私もねー、これまでは修正が効かないオンナだったんだけど、なぜかこの一連の編集作業だけはわりと素直なのです。十七歳ほどは若くなくなった・・・つーことでしょうか(笑)。

とぉーーーーーくから応援ありがとう!
すっごく近くにいてくれているのを感じるよ!
(2006年04月30日 20時35分20秒)

難しい問題ですけども…  
一度書いたのですが文字数が多すぎたみたいです。
これはどこかのミッチーに注意された可能性大なので、少し短めに書き直します♪ いやー今日のミッチー、ゆたさんにチェックを入れていたか。恐るべし。

「自分の作品」=「自己評価」ではない作者。
たぶん、このあたりなのかな、プロになれるかならないかの境目とは。

作品にこだわることによって得られるものが「作者の自己肯定」なのか、それとも「作者を含めたかかわっている人々の利益」なのかによっても違うのかな?
やはり出版は、経済活動ですし、利益が出ないとならない現実があります。それを受け入れられるかどうか、なのかもしれませんね。

昨日、実用書関連の作者さまたちが主催するお茶会に参加してきたのですが、小説と違い「新人賞」のようなものがなく、まずは編集者さんに「企画書」を持っていき、そのテーマが通った段階で初めて作者が書き出す……という話を伺いました。
まず「テーマ」ありきなんですよね。あらためてため息をついてしまった次第です。

私も以前、ある投稿サイトで「八十年代にこだわらず、現代の風土の中で少年少女を書いた方が受け入れられる」というお声をいただきました。私個人のこだわりとしては八十年代でないといや、というのはありますけど、「テーマ」が揺らがなければ実は現代だっていいのではないか?と最近思いつつあります。
脈略ありませんが、なにとぞおゆるしをば。




(2006年04月30日 21時52分24秒)

Re:難しい問題ですけども…(04/30)  
小夜子姉貴  さん
舞夜じょんぬさん

うーん。つまるところ、ベクトルの向きが同じ、ということでしょうか。

私は、「出版がしたかった」
「楓のことを伝えたかった」
「病児の基金を作りたかった」
「出版というかたちでしか出会えない方とも出会いたい」というエネルギー。

出版社は「本になる原稿を探していた」
編集者は「楓はもちろん好きだけど、私は他の登場人物もとても大切。ひとりでも多くの人に語り継ぎたい」

ふたつの立場を合わせて、「いいものを作りたい」という共通項で動いているのでしょう。

明日にも書かせていただくと思いますが、私の編集者の方は、あくまでも「いいもの作りのお手伝い」のスタンスを崩さない方です。
ある意味で、編集者も孤高の立場です。

私もプロではありません。
プロってなんだろう・・・そんな真摯な気持ちで日記を綴っております。

じょんぬさま、明日からご実家に帰省されるそうですね!
素晴しいお休みをお過ごしください!
小夜子はお留守番しておりまーす(笑)


(2006年04月30日 23時57分47秒)

Re:『青木学院物語』出版化への道のり 第17節●作品は自分の子供ではない●  
愛、燦々と さん
水…。うーん。そうでしたよね。そのメーカー。ほんとにいいパパだなあ…おもしろすぎです(*^_^*)メロメロです。 (2006年05月01日 11時32分12秒)

Re[1]:『青木学院物語』出版化への道のり 第17節●作品は自分の子供ではない●(04/30)  
小夜子姉貴  さん
愛、燦々とさん

この連載って、ほんとに8日まで─つづくよ─なのでしょうか・・・・。
つづかせるのか!? ほんとに!?

(2006年05月01日 13時21分50秒)

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