山口小夜の不思議遊戯

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2006年06月15日
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第19節●カオスという意の大団円●

 それから二日後。

 「わが息子たちよ! 戻ってきてくれて嬉しいぞ」
 サミア族長は遼に熱烈な抱擁をした上、豊まで抱きしめた。
 一時は首都近くまで押し寄せてくるかと思われた反政府軍も、なぜかなりをひそめた。

 驚かされたのは、行方不明だと言われていた上の息子ふたりが、なにごともなかったように村人の中にいたことだ。
 「バンモとノンモのことじゃろう?」
 族長は浮かれきっていた。
 「わしもひさびさに無事に知ったが、いまや解放軍ではかなりのカオだそうな。ハルカたちの調査に障りがないように、侵攻の時期をずらすと言っている。安心してゆっくりするがいい」


 あまりのタイミングの良さに、誰に感謝すべきか嬉しい悲鳴を上げそうになる。
 「兄たちはわたしが指笛で呼び戻したんだよ」
 呪術師の岩屋で、仮面の少女は平然と言った。
 「これで心おきなく、あんたたちがただのよそ者に戻れるってものだろ」
 マキと豊が向かい合っている、ちょうど目の前の広場に子供が群れている。

 「えっと。ボク大きな声が出せないから、英語話せないの」
 「よーし。そんじゃ、今日一日、みんな思いっきり小さい声で話すか」
 コーヒー色の子供たちの中に、違和感なく混ざり込んでいる男。
 「Aは・・・・Apple, BCD・・・・.Eは何だろ?」
 「エレクト!」
 ガキ笑いで場が盛り上がり、なかでも遼がいちばん、窒息しそうに大ウケしている。あとは子供たちが口々に“ABCDE”のつくダークワードを口走るやら、実際ぼそぼそと話し出すやら、ぜんぜん関係ないことをわめき散らすやらの、カオス状態に突入していった。


 寝っころがったまま、子供のひとりを軽々と抱き上げて遼が笑う。
 「・・・ちょっとは未練があるんじゃないの、マキ? おれにはムリしなくていいよ」
 豊が肩に手をやると、けろっと彼女はサバンナの空を見上げた。
 「時が来れば、シンディも第二夫人として、ここに永住してもらうか」
 「やっぱ第二にするわけだ!?」

 初めて名前を呼んでもらえたことにも気づくことなく、絶句したままでいる豊の頭をコツコツつついたのは、肩にとまったハゲワシだった。

 向こうの泥小屋の中では、熱の下がった豊の血液サンプルを太陽にかざして、白衣の静が満足気に頷いている。
 「うーん。ソソられる色味だよ、ゆんゆん


 追記:およそ一ヶ月に及ぶチャド・フィールドワークを終えた後、豊は遼と別れてウィーンに短期滞在し、再び文明の洗礼を受けてから晴れて日本に帰国した。






         次回は本文の最終話●創世神話●です。
         エピローグということで、はるさんワイフがごあいさつ致します☆



 本日の日記-------------------------------------------------

 皆さまご心配いただき、ありがとうございました。
 ここ一両日中、『青木』の世界にどっぷりつかっておりました・・・・。
 なぜならば、 『再校が到着』 したのです!

 いや~、初校はなんだったの!というくらいにリライトの嵐となっております。
 もはや命を質に入れるくらいの気概でこの再校に賭けます。締め切りは21日必着──来週の火曜日には郵送していなければならないのです。ちなみに三校は24日(土)到着で、締め切りは26日(月)です。なので、日曜日に郵送ならば実質はかなり時間に制約があることになります。三校は受け取りに行って、締め切りの日に持参しようかな。アルファポリスの編集部って、私の住まいから30分くらいのところにあるのです。それなのに郵送で1日とられるとは、なんと近くて遠い・・・・(笑)。

 さて、再校に入ってから頭を殴られたかのように感じたことがあります──本日はそのことについて語らせてください。
 私はこれまで、勘違いをしていたかもしれません。
 商業出版というものは、多少なりとも自分のこだわりを捨てて編集部の方針に合わせなければならないのだと思っていました。確かに、そういう部分はあります。私はこの期に及んでタイトルや装丁のいっさいをアルファポリスにお任せしています。けれどもそれは、自分の意見が通らないのとは違う。

 私が最近になって気づかされたことは、商業出版は個人の趣味ではない、ということです。
 これまで、私は『青木』のあらゆる事柄にこだわってきました。たとえば、出版の暁には些少なりとも病児に役立てるよう寄付を考えたいとか、装丁に登場人物のイメージを“顔”を入れるかどうかとか──これらは悪いことではないにしろ、もしそのすべてを私の思う通りに叶えてもらった場合、それは完全に私の趣味の本ということになり、これはとりもなおさず作品としてのいわば普遍的な“芸術性”と引き換えにするおそれがあるのです。

 自分の意見を通したい場合、自費出版を選んだ方がすべてはうまくいきます。
 けれども、自ら商業出版の道を選び取り、出版社からも招いていただいた以上は、ノウハウを知り尽くした立場にある方の意見に耳を傾けるべきだと今、私は考えています。いずれにしても、自費出版には自費出版のよさが、商業出版には商業出版のよさがあるのでしょう。

 作者、デザイナー、イラストレーター、製本会社・・・・これらをとりまとめ、一冊の本としての完成を導く出版社、および編集者に心から感謝したいと思います。決して儲かる仕事ではないでしょう。作業は精緻を極めることを要し、個人として報われることは少ない。それでも編集者は『青木』の完成が楽しみだと言ってくれる──世の中で出会う人には、輝いて美しい人がどんなに多いことか。

 一冊の本を出版するのに、さらに一冊の物語が書けるのです。
 無名の作者に対して、これほどの真摯な努力が詰まった本を出してくれたアルファポリスに、どうか正当な評価がされますように。

 次回更新は6月18日(日)を目処に(笑)。
 再校についての四方山話になるでしょうか・・・・お楽しみに☆


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 追:“44444”のキリ番が近いかと思われますが、どうかおそれないでください。
 最高の“しあわせ”が皆さまの上にありますように──。





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最終更新日  2006年06月16日 21時35分01秒
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