『成長』 5


―クックック・・・ようこそ闇の世界へ


連日連夜見るようになった夢、暗闇の中どこからかはわからないが直接頭の中に入り込んでくる言葉。


「何が闇の世界だ!一体何のためにこんな事をする?!」
こんな質問をするのはおかしいと感じていた。しかし声の主が存在するなら何のために言っているのかが理解出来ない。存在しないのなら何故毎日こんな夢を見るのか理解出来ない。


―誰の為でも何の為でもない
―ただ、“必然の目覚め”を待っているだけだ


「必・・・然・・・・・?」
どう考えても理解不能な回答にさらに頭が混乱する。


―本当の自分の存在に気付いてるんじゃないのか?
―ただそれを認めるのが怖いんだろう?


「本当の・・・自分・・・・・」
暗闇からの声は何故か自分の知らない自分の心の部分まで見透かされている様に思えた。


―クックック・・もう時間だな
―また今夜会おう、クックック・・・


「・・・・・・・」
暗闇からの言葉に言い返しても仕方ないとう諦めからかこの無駄としか思えないやり取りの最終店を知りたいという気持ちが湧いたのか返事する事は出来なかった。










『真説RS: 赤石 物語』 第3章 『成長』-5







ヒュン ヒュン
その男が振り回している槍の長さはゆうに2mは越えていた。
太さは小さな子供の手首くらいはあろうかという柄に先端に付いている穂は一つ一つがそれぞれ剣と言っても過言ではない位にするどく尖り三又に分かれていた。
大の大人をしてやっと持ち上げる事が可能をいった代物を目の前にいる男はまるで木の棍を扱っているかの様に振り回していた。


「さぁさぁ対決まで1ヶ月きった。今日は任務もない事だしいっぱい特訓するぞ!」
その男とはおっさんず幹部の1人kioraだった。
「あら私もいるわよ。」
横から顔を出したのは同じくおっさんず幹部のleafだった。
さらに横にはleafのペットである2体のファミリア達がじゃれあっていた。


「ん、今日はリザキリじゃないんだな。はっはっは。」
「キオさん・・・笑うポイントわかんないよ・・・・・。」
「まぁミコト君の修行だしね、ファミリアの方がよさげでしょ?」
「なるほど、はっはっは。」


kioraはどこまでも陽気で笑うたびに見え隠れする白い歯が日焼けした体と対照的に映えていた。


修行を始めてはやくも5ヶ月が経っていた。
様々な任務、特訓を重ねたミコトの体は一回り近く逞しく成長していた。
またその体についている無数の傷跡が5ヶ月の間の過酷さを物語っていた。
ミコトの顔付きも少し残っていた子供っぽさもとれ精錬な顔付きになっていた。


「よしっと、準備運動終了。そうそう遅れはとらないですよキオさん、リフさん。」
「セイセイセイ!今日は個別に戦うんじゃなくて俺とファミリアを同時に相手してもらうぞ。」
「ふふ・・そういう事なの、よろしくね。」
kioraとleafがニヤリと含み笑いをした。それに対しミコトが苦笑いを返した。
「うは、まじっすか・・」


「俺も特訓したいからハンデとして俺は両手両足に20Kgの重りをつけて戦う。リフは召還獣と補助スキルなしで戦ってもらう。」
「負けませんよ。」
すでに戦闘体勢に入っているかの様なオーラを放つkioraに対しミコトも除々に気持ちを高めていった。


しかし戦闘の火蓋をきったのはkioraでもミコトでもなくファミリア達だった。
ファミリア達が並行しならがミコトむけ一直線に走り出す。


「「キュウ」」
同時にジャンプし手にしていた槍の照準をミコト目掛ける。


シュン  ガコッ


何かの物体が飛んできたのがファミリアの目に映ったのと同時に空中で攻撃態勢に入っていたファミリア達に衝撃が走った。
1体はバランスを崩し攻撃することなく地面に落ちた。


キィーーン


なんとか攻撃にうつる事が出来たもう1体のファミリアの槍もミコトの元へと届く頃には勢いは無く簡単に盾で防がれた。
さらにミコトは攻撃を防いだ盾でそのままファミリアを後方へ弾き飛ばした。


「はぁっ!!」
気合と共に咆哮を上げたミコトを中心に大気と大地が揺れる。
その振動により一瞬ファミリア達が身動きをとれない状態に陥った。
ファミリアむけてミコトの剣が振り下ろされる。


ガギンッ


「ほう・・・ブーメランシールドでファミ達の行動を制すと共に自分の有利な体制に持っていきウォークライでスタンさせ攻撃か。」
「攻防一体となった見事な攻撃だな。でも俺を忘れては困るぞ」
ミコトの攻撃からファミリアを守ったのはkioraだった。


「はぁぁぁぁ、うおらぁ!」
気合と共に繰り出される連突きは手に課せられた重りの影響で本来のものと比べると勢いは無いがそれでも十分な威力と速度そして手数をミコトに与えていた。


「くっ」
―落ち着け・・・目で槍を追うな
―全身で感じるんだ


ガン  ガッ  キン


右手の剣、左手の盾をフル活動させ何とかkioraの猛攻についていく。
この状態では一旦後方に下がるのがセオリーだが勘がそれをさせていなかった。


「よく後ろに引く事を我慢したな。偉いぞ。」
「何か引いたらいけない気がしたんです。」
お互い喋りながらも動きは衰える事なくむしろ速くなっていた。
「前に出る勇気を持たない者に戦いの神様が微笑みかける事はない。勇気を持たず逃げる者に活路は開く事なんて出来ないからな。」


「さて、戦いのテンポ変えるかな。」
そう呟くkioraの口元がにわかに緩んだ。


―!!


何か後方に妙な違和感を感じ体を傾けた。


「くっ」
背後からの違和感はファミリア達の攻撃だった。
直撃は避けたもののファミリアの槍はミコトの腕をかすめた。


―このまま囲まれるのはまずい


「ワイルドダンス!」
ミコトが高速で回転しながら剣を振り回した。
わずかにミコトとkioraそしてファミリアの間に空間が生まれる。


バッ


体勢を立て直される前にミコトが動き出し囲まれるのを避けた。
再度剣を構えると戦いが始まる前のミコト、ファミリア・kioraの順に戻っていた。


「・・・・よし、リフ」
「ん?どうしたの?」
「俺ちょっと休憩するからファミに支援スキルかけて戦ってくれ。」
そう言いkioraは構えを解き少し離れた場所で休憩に入った。
「もう、一緒にって言い出したのキオさんなのに・・・ミコト君と2人で勝負したくなったんでしょ?」
「うむ。」
「って事だからスキルかけさせてもらうね、ミコト君。」
そう言うとleafは手にしていた笛を吹き始めた。
笛の音色と共にファミリアの周りに青白い光が包んだ。


「「キュウキュウ」」
2体のファミリアは水を得た魚の様にその場を飛び回っていた。
再度leafが笛を吹き始めるとファミリア達がミコト目掛け向かっていった。





「すごいね、ファミ使いじゃない私のファミでもコロッサス位は普通にやり合えるわよ?」
「んだな。教えた事がスポンジが水を吸い込む様に吸収されていく気さえするよ。」
少し離れた所で戦っているミコトとファミリアを見学しながらleafとkioraが話していた。


「ふむ・・そろそろ用意するかな。」
静観していたkioraだったが待ちきれずといった様子で立ち上がった。
「じゃあファミ達戻すね。」
leafが再び笛を手にとり吹き始めた。


笛の音色を聴いたファミリア達が攻撃を止めた。
同時にミコトも攻撃の手を休める。
そしてじゃれ合いながらleafの元へ戻って行くファミリア達に感謝の意味を込め頭を下げた。


「ミコト、これ飲みな。」
そう言ってkioraから手渡されたのは赤色の液体が入った瓶と青色の液体が入った瓶だった。
「いただきます。」
一気に飲み干したミコトは液体が体に浸透し傷が癒され活力が戻った事を感じた。


「っしゃ!早速始めよう!」
「ふぅ。」
戦いのオーラを全開に出すkioraとは対照的に静かに神経を集中させながらミコトが構える。


―ったく・・・何てオーラだよ・・
三又槍を手に仁王立ちしたkioraから滲み出るオーラがkioraの体を一回りも二周りも大きく見せていた。



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