『成長』 6


どんよりとした重苦しい雲が空一面を黒く占めていた。
「こっちに敵はいるか?!」
「いえ、見かけませんでした!」
「ちぃ、向うに逃げたか。」
小雨が降りぬかるんだ地面の上を複数の兵士が行き来していた。


「ちぃ、見失ったか。」
「シーフ部隊は何している?!ちゃんと探索はしているのか!」
戦場に怒号が響く。


ゴロゴロゴロ・・ドォーーーン


季節外れの雷鳴が時折戦場を奔り稲妻の光が戦場を照らした。


「おい、ここら辺に敵が一体紛れ込んだらしいが知らんか?」
「小隊長殿!い、いえ・・見かけていません。」
「ちぃ、もし見かけたらすぐに殺せ!いいな!」
小隊長は強い口調で言い放ちその場を去った。


ゴロゴロ・・・ドーーン
シュ


―!!
雷鳴が轟き辺りが一瞬明るくなった時に物陰に何かが隠れるのが目に入った。
ゆっくりと近づきそして影が隠れた場所むけて手にしていた武器を構えた。


「クゥーン」
そこには手傷を負いまるで助けを求めている様にも見えるコボルトの姿があった。
「くっ・・・」
そんな状態のMOB相手になかなか手が出ずにいた。


ゴロゴロ・・・・・・・ドォーーーーン


「ギューーーー」
再び鳴った雷鳴と共に断末魔の叫びが辺りに響く。
「おい貴様!見かけたらすぐに殺せと言っただろう。その甘さが戦場では命取りになる事を覚えておけ!」
先ほどむこうに走り去ったはずの小隊長が剣を片手にどなった。
剣にはおびただしい量の血が付着しておりその足元には先ほどまで弱々しくも生きていたコボルトが無残な姿で地面に伏していた。
「ちぃ、呼び出しがかかった。貴様!次に同じ事をしていれば次はお前がこの剣の餌食になると思え、いいな!」
そう言い放ち小隊長は慌しく去っていった。
「・・・・・・・」
何も言い返す事が出来ず、ただただ足元のコボルトを見ていた。


「ふん、エゴのかたまりだな。上昇思考が強いわりに小心者で自分より下には強いのに上には媚びる。あれでよく小隊長になれたもんだな。」
「キラ隊長・・・」
声がしたので振り返ると別部隊の隊長キラーボーイズがいた。
「まぁあんな人間だが言っている事は完全にずれているわけじゃない。つらい事もあるかもしれないが割り切る心も時には必要だぞ。」
そう言うキラーボーイズはミコトの肩に手をあて元気付けた。
「はい・・・。」
「すまんが自部隊の指揮とりに戻る。」
そう言い残し自分の持ち場へと戻っていった。


「ふぅ・・」
うなだれる様に近くの岩に腰かけてた。


―クックック・・エゴ・・いい言葉じゃないか
「!?」
いつもは夢の中でしか聞こえない声がした事に驚き周りを見回した。
しかし声の主らしき者はどこにもいない。
―人間とはおろかな生物だと思わんか?
「うるさい!消えろ!!」
―クックック・・今日は言う通り消えてやる
―目の前の光景をよく見つめる事だな
「・・・・・」


ドーーーーン


今までで一番大きい雷鳴が轟く。
目に映ったのはまさに凄惨という言葉が似合う戦場の傷跡が続いていた。


ザァァ・・・


雨はやむどころかその勢いを増した。
「くそっ・・」
12月の雨は冷たく体を打ちつけていた。










『真説RS: 赤石 物語』 第3章 『成長』-6







「はぁぁぁぁぁ」
ミコトが自分を奮い立たせる様に気合を入れkioraめがけ猛然と走り出す。


ガン ガン


さっきとは違い今度はミコトの連斬りがkioraを襲う。
元来、武器のリーチにステップ等の高速移動を利用するミドルレンジのランサーをショートレンジの剣士が相手するにはとにかく相手に密着し自分の間合いを保つ事が定石とされている。
通常のランサーに比べ長い手足に長い槍を使用しさらには重りを付けているkioraにとってはその定石こそが最大の攻め所であるとミコトは判断した。


ガシッ


ついにミコトの剣がkioraを捕らえた。


―残像・・・・・ダミーステップか
とらえたはずのkioraはダミーステップにより生じた残像だった。
「ひかせない!」
次々と生まれる残像を斬りながら必死にkiora本体に喰らいついていった。
程なくするうちにミコトの周りを数十にもおよぶ残像が占めていた。


ガッ  カンッ  ガッ


数多くのダミーの中、金属と金属がはげしくぶつかり合う音が響く。
ダミーが消えるとそこにはランサー、剣士どちらの間合いともとれない微妙な距離で攻め合う2人の姿があった。


「よく喰らいついたな。いい具合に反応が良くなってきているぞ。」
kioraが剣をはじき槍を突き出しながら話す。
「ほんとギリギリですよ。」
シマーリングプロテクターで自分のまわりを浮遊している盾がkioraの槍がミコトの体に達する前に防いでいた。
「うし、じゃあランサーの本領発揮するかな。」
そう言いながらkioraが両手で槍を振り回し始めた。
高速で回転する槍に加えkioraの体捌きが除々にミコトとの距離を開き始めていた。


「ランサースキルのオンパレード行くぞ。覚悟して受けろよ。」
「ファイアーアンドアイス!」
振り回す槍の一方が炎をまとい、もう一方は氷がまとり出した。
炎と氷の多重攻撃がミコトを襲う。


「ぐあっ。」
ミコトは体表を熱風が覆いつくす様な痛みと体の芯まで凍りつく様な痛みに交互に襲われながらもなんとか後方に逃げ出す。
「ほうコールドはグレートガッツで防いだか。だが逃さんよ。」
「グラウンドシェーカー!」
kioraが槍を地面に叩きつけた。
と同時に小規模の地震が発生しミコトの足を止めた。
「剣士のウォークライと同じ原理だよ。」
「さぁ、どんどん行こう!ワールランニング!」
kioraが高速移動でミコトとの間を一気に詰めた。
「デザートブラスト!」
再度、槍を振り回す。


ドンッ


kioraの繰り出す攻撃にミコトは後方へと弾き飛ばされた。
「ワーリングアサルト!」
弾き飛ばされたミコトを追い槍を振り回したままkioraが追い討ちをかけた。


ギンッ


今度はかろうじてkioraの攻撃を盾で防いだ。
「ちぃっ、はぁ!」
体勢を崩されながらも剣を振りミコトが応戦する。
「これもいい反応スピードだ。だがまだまだ!!」
体勢を崩した状態でのミコトの攻撃はkioraのサイドステップにより簡単にかわされた。


「っらぁ!」
攻撃をかわされたミコトが左手でもつ盾を高速で振りぬいた。


ゴォォォォォ


左手の盾をふりぬく事で生じた小さな竜巻がkioraめがけ進む。
「うおっ、まじか。」
kioraもすぐに防御姿勢をとり竜巻によるダメージを軽減させる。
急いでミコトの元へ目をやるがそこにはすでにミコトの姿はなく代わりに剣を振りかぶり飛び掛ってくるミコトの姿が目に入った。


「ふん!」
kioraが勢いよく槍を地面にさした。
「ガーディアンポスト!」
kioraがスキル名を叫ぶと地面に突き刺さった槍に青白い光が包み始めた。


ジジジジジジジジ・・・・・
シュボッ


槍に籠められた魔力が稲妻を召喚しその稲妻がミコトを襲った
「ぐあぁぁっ」
一瞬体の中で何かがはじける様な感触が走りその後激痛と共に痺れが全身を襲った。


ドサッ


結局ミコトの攻撃はkioraに届く事はなくそのまま地面へと倒れた。
「はぁ・・・はぁ・・・・。」
満身創痍ながらも何とか立ち上がるミコト。
しかし間髪入れずkioraの攻撃がさらにミコトを襲った。
「サプライジングレイド!」
地面に突き刺さっていた槍を引き抜き頭上で旋回させその勢いを利用してミコトとの距離を詰め、さらに突きを繰り出す。


ガキーン     ドサッ


kioraの突きをまたもや盾で防いだミコトだったが勢いにおされ盾を弾き飛ばされてしまった。
「よく防いだな。今日はこのスキルで終わりにしよう。」
「エントラップメントピアシング!」
ミコトをグルッと囲む形で8体の分身を生み出し中心のミコトめがけいっせいに攻撃が繰り出される。
「させるかぁ。パラレルスティング!」
最後の力を振り絞りミコトも分身を作り出しkioraの攻撃に抵抗した。


ガキィ   ドスッ   ザクッ      ドサッ


2人の分身達がぶつかりあっている地点から砂埃が舞いその中から複数の金属音と共に鈍い音がした。


「ふぅ。」
砂埃の中立っていたのはkioraだった。その足元では剣を握り締めたまま気を失った倒れているミコトの姿があった。


ドンッ


「あぁ重かった。」
戦いを終えたkioraが手と足に架せられた重りを外す。
「ちょ・・ちょっとキオさん、ミコト君大丈夫なの?」
心配そうな顔でleafが駆け寄る。
「あぁ大丈夫。ダメージもあるけど疲労で気を失っているだけだよ。」
「それならいいんだけど・・・」
「いやぁトワーにパラとはビックリしたぞ。まだまだ未熟だけど十分光るものはあった。」
「ねぇキオさん、最後よく見えなかったんだけど・・どうなったの?」
「最後?あぁそれなら・・・」
kioraが手振り身振りを混ぜながら説明を始めた。


「俺がエントラ打つために8体に分身したんだけどミコトは最後の力振り絞って4体だけど分身してパラ打ってきたんだよ。」
「それで4体が相打ち。残った4体がミコトに攻撃加えたんだけどすでに気を失いかけていたな。」
「そんな状態でも俺の攻撃4体とも致命打を免れやがった。これが前にストが言ってたミコトの特別な能力かもしれんな。」
「まぁ・・・・」
kioraが笑顔でミコトの方へと顔をむける。
「まぁ・・?」
それ見てleafが不思議そうに聞きなおした。
「将来が楽しいよ、ほんと。」
「うん、そうだね。」
今度はleafとkioraが笑顔で顔をむけあった。


「さて、ミコトを宿まで担ぐから重りはリフ持って行ってくれよ。」
「えぇ・・こんなか弱い私に重たいもの持たすの?キオさん」
「セイセイセイ、けっこう重り付きの戦いってキツイんやぞ?それ位頼むわ。」
「あぁあ、この重りも一緒に持ったらすごい訓練になるのになぁ~。」
leafが訓練の文字を口に出すと
「おぉ!そう言えばそうだな!よし重りもつけて帰るぞ!!」
疲れも何処吹く風といった様子のkioraが下に落とした重りを拾った。
「ふふ、キオさん単純すぎだよ。」
そんなkioraを見ながらleafが小声で言った。
「ん、何か言ったかリフ?」
「なんでもないですよぉ。先行ってますね。」
「ちょ・・・待ってくれよ!」


あたりはすでに薄暗く3人の戦士を夕日が照らし包み込んだ。
12月の肌寒い風も激しい戦いの後の彼らには心地よいものだった。



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