『離盃』 7


「ふふふっ。」
艶夜が妖しげな笑みを浮かべ懐に隠し持っていた短剣を取り出し静かにそれを自分の腕にあてゆっくりとひいた。
短剣の刃身部が艶夜の腕を通るとその白い肌から赤い血が姿を覗かせた。
それを合図にしたようにガラテアの足元から地獄の監獄が生じ動きを封じた。
「ヘルプリズン・・・・。」
ガラテアが内側から攻撃を加えようと試みた瞬間
「させるかっ。」
素早い動きでベルが近づき剣を弾き飛ばした。
「おらっ!」
続け様に繰り出した攻撃は上体をひねる事でかろうじてかわしたが槍は鎧の結合部をかすめ腹部を守っていた部分が外れ一部だがガラテアの肉体が露出する。
「もらった!」
ガラテアが声のする方を振り向くとキラーボーイズが斧を振りかぶっている姿が目に映った。


「ディレイクラッ・・・!」
斧を振り下ろそうとするキラーボーイズの目に先程あらわになったガラテアの腹部が映る。
そこには今回の戦いではなく過去に負ったであろう痛々しい傷口が姿を覗かせていた。
その傷口は左胸部から右横腹部にまで続きその傷跡だけでそれまでにいかに死線をくぐってきているのかを感じさせるものだった。


傷跡を見たキラーボーイズの脳裏に過去の思い出がよぎり一瞬だが斧を振り下ろす事を戸惑わせた。
時間にするとコンマ数秒だが反撃するには十分すぎる時間だった。
キラーボーイズの脳裏に反撃の二文字がよぎり一瞬だが体が硬直する。


・・・


しかし武器を弾き飛ばされ体力も既に限界を超えていたガラテアには反撃するだけの余力は残っていなかった。
「・・・ちっ、これで終わりだ。」
その姿を見て安心したキラーボーイズが再度ガラテア目掛け斧を振り下ろす。


「ディレイクラッシング!!」










『真説RS: 赤石 物語』 第4章 『離盃』-7







「もう少し・・・・もう少し・・・・」
焦る気持ちを抑える様に自分に言い聞かせた。
「あれは・・・・・・見えた!」
4人の姿を目視したミコトが声をあげる。
「ありがとうドラゴン。」
ドラゴンに小さく触れ一声かけると勢いよく地上へと飛び降りた。
「っ!? ガラさん!」
地上に降り立ったミコトの目に一番最初に飛び込んできたのはヘルプリズンにより身動きを封じ込められているガラテアとそのガラテア目掛け斧を振りかぶっているキラーボーイズの姿だった。


ドドドドドッ


キラーボーイズの放ったディレイクラッシングがガラテアを襲う。
瞬く間に鎧は拉げ、傷口からはおびただしい量の鮮血が噴出し、辺り一面を深紅に染めた。
「あ・・・くっ・・・・。」


ザパァーーーン


ヘルプリズンの効果がきれ身動きがとれる様になったもののすでに目は焦点を失い意識は朦朧としており歩くと言うよりは倒れ落ちる形で傍を流れていた川に姿を消した。
「くっくっく・・・はぁーはっはっはっ!」
返り血を浴び斧や手、体を赤く染めたキラーボーイズが大きく頓狂な声を上げた。
「ガラさん・・・・ガラさんっ!!」
悲痛な叫びで川の中に姿を消していくガラテアを助け出す為ミコトが走り出す。


ドカッ


素早い動きでベルがミコトの足を払いミコトはその場に倒れこんだ。
「あっ・・・あぁ・・・・。」
微かに感じ取る事が出来ていたガラテアの気だったが滝つぼの中へと落下するところを確認したのを最後に気配は完全に途絶えた。
「うっ・・・うっ・・・・。」
「おや、この子ったら泣いちゃってるよ。保護者がいなくなって寂しいのかい?」
「「はっはっは。」」
思いもよらない別れに流れ出す涙を止める事の出来ないミコトを艶夜を始め3人が罵る。
行き場のない悲しみと何もする事が出来なかった自分への怒り、苛立ちがミコトを支配し、場を離れてしまった後悔と自責の念に無性にかきたてられる。
「にゃるら、こいつはどうするんだ?」
「ふむ、まだもう少し時間はあります。後々やっかいな存在にならない保障はどこにもありませんね。やってしまって下さい。」
「あいよ。」
「はっ、まぁよく頑張ったよ。あの世で兄弟によろしくな。」
キラーボーイズが斧を振りかぶり先程と同じ様に力を込める。
「待て、こいつは俺がやる。」
「・・・・ふん。」
ベルの言葉にキラーボーイズが斧を持つ手を緩めた。


「ミコト、これが現実だ。お前は俺には勝てない、一生な。」
静かに槍をひき狙いを定める。
「これでお別れだ。さっきのバカな剣士の後を追って死ね。」
「・・・・・・だと」
「ん?何か言い残した事でもあったか?」
「誰がバカな剣士だと!!?」
ベルの言葉に憤怒したミコトが声を荒立てる。
「何をキレてんだ?本当の事を言ってなにが・・・」
ベルが最後まで言い切る前に素早く立ち上がったミコトが手で口を塞ぐ。
「だまれ。」
いつも温厚な口調のミコトからは想像出来ない言葉が飛び出した。
それと同時に放たれた一撃でベルが後方へと吹き飛ばされる。


「・・・なんだ!?」
それを見ていたキラーボーイズと艶夜がミコトの様子に驚いていた。
先程までのどこかあどけなさを残していた顔付きが今やその面影はなく全く別人の様な雰囲気を漂わせていたからだ。
それだけではなく実際にミコトが放っていたオーラも先程までとは違う異質な物に感じ取れていた。
「ちっ、いきなり勢い付いたとこでヒヨッ子は所詮ヒヨッ子だ。」
キラーボーイズがが体に付着したガラテアの血を手で拭いながら挑発した。
「・・・ダマレ・・ヨ・・・。」
キラーボーイズの言葉に反応したミコトがキラーボーイズめがけ襲い掛かった。


ガキィーーーーン


ミコトの攻撃を斧で防ぎ丁度鍔迫り合いの様な形で二人が静止する。
「ふん、力比べのつもりか?俺が負けるはずがな・・・」
「ガァ!!」
キラーボーイズが話し終わる前にミコトが力任せで押し飛ばす。
「な・・・・。」
後方に押し飛ばされ尻餅を付いたキラーボーイズはまさかの出来事に言葉が出なかった。
「くそっ、なんだ急に?!」
さっきまでは複数でかかればさほど問題もなかったはずが今では3人がかりでやっとの状況にキラーボーイズを始め3人は戸惑いと驚きを隠せずにいた。


「怒りだけで身体能力がここまで上がるなんて話を聞いた事がない。それにこの気配は・・・・まさか・・・・。」
遠くでそれを傍観していたにゃるらが何かに気付き目線でミコトを追った。
「相克・・・・対の子か。ここで会うのも運命・・・くくっ、面白くなってきた。」
口元に笑みを浮かべつつにゃるらがミコトに少しずつ近づく。


「苦労しているな。」
「にゃるら様!これは一体?!」
艶夜が問う。
「仲間の死が覚醒を呼び起こしたか。素晴らしい戦闘能力だが自我が欠落した状態で能力の制御が出来ていない。」
「これは早々に連れて帰りましょうか。」
「ダークネスイリュージョン」
にゃるらが手を上げるとにゃるらとミコトの周りを奇妙な光がまとった。
「効いた様ですね。今、彼は能力反転法により力が出ない状態です。」
「キラ隊長、彼を捕獲してください。」
「わかった。」


シュ 


キラーボーイズが手刀でミコトを気絶させる。
にゃるらのスキルによって力を封じ込められているミコトにそれを防ぐ力はなくいとも簡単に気を失ってしまった。
「ふん、命拾いしたな。」
気を失い倒れこんだミコトを掴もうとキラーボーイズの手が伸びた。


ドスッ


「!!?」
キラーボーイズがミコトを掴もうとした瞬間遠方より飛来してきた矢によりそれは阻まれた。


ヒュン  ドスッ ドスッ


「ちっ。」
次々に飛来する矢をよける為キラーボーイズは後方に退かざるをえなかった。
「これ以上うちのギルメンに手は出させんよ。」
弓を片手に現れたのはStojikovicだった。
「くっ、ガラの気配が・・。キコここは俺らに任せてガラを頼む。」
「了解。」
「あかりん!」
「わかっているわ。」
そう言うとakariは目にも止まらぬ速さでミコトに近づきミコトを抱え上げ元の場所へ戻った。
「スト、ミコトは気を失っているだけ。大丈夫よ。」
「そうか。」
「さて、お前たちには聞かなければいけない事が山の様にある。」
Stojikovicがにゃるら達を睨めつける。
その横では同じくkiora、半魚人がにゃるら達を睨みつけていた。
それを真っ向から迎え撃つかの様にキラーボーイズ、ベル、艶夜が武器を手に取る。
それに合わせStojikovic達も武器を手に取り構えだす。
その後ろではファンキーと炬燵蜜柑が支援をするためにチャージスキルを唱えていた。


「待ちなさい。」
緊張の糸を切る様ににゃるらが口を開く。
「この人数を相手にすれば負けずとも無事には済まないでしょう。」
「ガラテアがいなくなった今追尾される心配もない。退きましょう。」
「させると思うか?」
Stojikovicが弓をひく。
「ふふっ。」
にゃるらが小さく微笑むと淡い白色の光がにゃるら達を包みだした。
「ちっ。」
それを見たStojikovicが急いで矢を放つ。


ヒュン


しかし矢が達する前ににゃるら達は光の中へと姿を消し目標を失った矢はそのまま地面に突き刺さった。
「コーリングか・・。」
うな垂れる皆のもとへガラテアの捜索に出ていたkikouteiが帰ってきた。
「キコ、ガラは?」
「・・・・・・・」
Stojikovicの問いかけにkikouteiが無言で頭を横に振った。
「そうか・・・。」
「スト、ミコトが気が付いたわ。」
「・・・・・・うっ。」
「大丈夫か?」
「は、はい。・・・ガラさんは・・・?」
「ガラの姿を確認する事は出来なかった。」
ミコトの問いかけにStojikovicは冷静に淡々と答えた。
「・・・すいません。自分がもっとしっかりしていれば・・・。」
「自分を責めるな、ミコトは良くやってくれた。なに、ガラの事だその内バカ面下げて帰ってくるさ。」
「とにかく今は体を休めろ。」
Stojikovicが言い終わるとそのままミコトはまた気を失った。
「だいぶ無理していたのね。」
ミコトを抱き上げていたakariが呟いた。
「スト、これからどうすんだ!?」
「ふむ・・・・とにかくミコトを横にしなくてはいかん。パパとあかりん、半ちゃんは本拠地に帰ってミコトを休ませてそのまま待機してくれ。」
「俺とキオ、蜜柑ちゃん、キコは陽が暮れるまでガラの捜索と何かおかしなとこがないか探ってみる。」
「うむ。まだ敵が近くにおるかもしれん。気をつけてな。」
ファンキーが一通りの支援をかけながら声をかけた。
「あぁ、そっちの事はパパに任せるから何かあったら頼む。」
「うむ。」
そう言うとakari達はミコトを連れ本拠地へと戻った。
「ではストさん私達も急ぎましょう。」
「あぁ・・。」


―ガラの気が薄れてからのあのミコトの気はなんだったんだ。
―まるで別人が発していたかの様な・・・
―それにバアルって子の様子も・・・・


Stojikovicは何とも表現し難い漠然とした“何か”を感じていた。
そしてそれは必ず大きな渦となってこの世界を巻き込む事になるであろう事を心のどこかで確信していた。








第1部  完


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