『共用部分の変更』の決議要件緩和


平成16年4月23日作成

『共用部分の変更』の決議要件緩和と区分所有法の変遷


(1) 民法典制定当初から区分所有は認められていました。

  民法208条(建物の区分所有)(昭和37年削除)
 『数人ニテー棟ノ建物ヲ区分シ各其一部ヲ所有スルトキハ建物及ヒ
 其附属物ノ共用部分ハ其共有二属スルモノト推定ス』、
 『共用部分ノ修繕其他ノ負担ハ各自ノ所有部分ノ価格二応シテ之ヲ分ツ』
 との規定が一条あっただけでした。

  棟割長屋への対応は、簡単な規定で問題を生じなかったのでしょう。

(2) 昭和37年4月に民法の特別法として制定された
『建物の区分所有等に関する法律』(昭和38年4月1日施行)では、共用部分の変更については?

(抄)第12条
共用部分の変更は、共有者全員の合意がなければ、することができない。
ただし、共用部分の改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものは、共有者の持分の四分の三以上の多数で決することができる。

共用部分の変更は共有者全員の合意が、また軽微変更でも共有者の持分の四分の三以上の多数が必要だったんですね。

ただし、規約で別段の定めをすることを妨げない。旨の条文(旧第8条)ありました。

参考『改正区分所有法と登記実務』法務省民事局昭和58年12月


(3) 昭和58年5月改正法(昭和59年1月1日施行)では、共用部分の変更については?

(抄)第17条(共用部分の変更)
共用部分の変更(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。
ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。

抄)附則第9条(規約に関する経過措置)
  2 ***規約で定められた事項で新法に抵触するものは、
   この法律の施行の日からその効力を失う。


共用部分の変更は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会決議が必要で、頭数要件のみ規約でその過半数まで減ずることができるようになりました。

議決権については、この限度を超える規約の別段の定め(例:議決権の過半数)をすることもできませんし、法定要件よりも厳格な要件(例:議決権の5分の4)とすることもできないことになりました。法施行前に存する規約で新法に抵触する規約は法施行と同時に、当然にその効力を失うこととなりました。

(4) 平成14年12月改正法(平成15年6月1日施行)では、共用部分の変更については?

(抄)第17条(共用部分の変更)
共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる.


(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)

        が、


(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)

   に内容変更されました。

(5) 平成16年1月には、マンション標準管理規約が公表されました。
  共用部分の変更については?

(抄)規約第47条(総会の会議及び議事)
3 次の各号に掲げる事項に関する総会の議事は、前項にかかわらず、組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決する。
二 敷地及び共用部分等の変更
(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)


形状又は効用の著しい変更に該当する工事(特別決議)、該当しない工事(普通決議)についての例示が、以下コメントされています。


(抄)規約第47条関係のコメント

(3)区分所有法では、共用部分の変更に関し、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議(特別多数決議)で決することを原則としつつ、その形状又は効用の著しい変更を伴わない共用部分の変更については区分所有者及び議決権の各過半数によることとしている。
 建物の維持・保全に関して、区分所有者は協力してその実施に努めるべきであることを踏まえ、機動的な実施を可能とするこの区分所有法の規定を、標準管理規約上も 確認的に規定した のが第47条第3項第二号である。

(4)1項に基づき議決権総数の半数を有する組合員が出席する総会において、第2項に基づき出席組合員の議決権の過半数で決議(普通決議)される事項は、総組合員の議決権の4分の1の賛成により決議されることにかんがみ、 例えば、大規模修繕工事のように多額の費用を要する事項については、総組合員数及び議決権総数の過半数で、又は議決権総数の過半数で決する旨規約に定めることもできる。

(5)このような規定の下で、各工事に必要な総会の決議に関しては、例えば次のように考えられる。 ただし、基本的には各工事の具体的内容に基づく個別の判断によることとなる。

ア)バリアフリー化の工事に関し、建物の基本的構造部分を取り壊す等の加工を伴わずに階段にスロープを併設し、手すりを追加する工事は普通決議により、階段室部分を改造したり、建物の外壁に新たに外付けしたりして、エレベーターを新たに設置する工事は特別多数決議により実施可能と考えられる。

イ)耐震改修工事に関し、柱やはりに炭素繊維シートや鉄板を巻き付けて補修する工事や、構造躯体に壁や筋かいなどの耐震部材を設置する工事で基本的構造部分への加工が小さいものは普通決議により実施可能と考えられる。

ウ)防犯化工事に関し、オートロック設備を設置する際、配線を、空き管路内に通したり、建物の外周に敷設したりするなど共用部分の加工の程度が小さい場合の工事や、防犯カメラ、防犯灯の設置工事は普通決議により、実施可能と考えられる。

エ)IT化工事に関し、光ファイバー・ケーブルの敷設工事を実施する場合、その工事が既存のパイプスペースを利用するなど共用部分の形状に変更を加えることなく実施できる場合や、新たに光ファイバー・ケーブルを通すために、外壁、耐力壁等に工事を加え、その形状を変更するような場合でも、建物の躯体部分に相当軽度の加工を要するものではなく、外観を見苦しくない状態に復元するのであれば、普通決議により実施可能と考えられる。

オ)計画修繕工事に関し、鉄部塗装工事、外壁補修工事、屋上等防水工事、給水管更生・更新工事、照明設備、共聴設備、消防用設備、エレベーター設備の更新工事は普通決議で実施可能と考えられる。

カ)その他、集会室、駐車場、駐輪場の増改築工事などで、大規模なものや著しい加工を伴うものは特別多数決議により、窓枠、窓ガラス、玄関扉等の一斉交換工事、既に不要となったダストボックスや高置水槽等の撤去工事は普通決議により、実施可能と考えられる。

(6) 私見

1. 『大規模修繕は、普通決議で可能』と、早合点しそうです。
 今回の改正では、費用要件がはずされただけですので、大規模修繕工事に形状又は効用の著しい変更を伴う工事等が含まれている場合については、依然として特別決議を要します。また、大規模修繕工事でなくても、形状又は効用の著しい変更を伴う工事の場合については、特別決議を要します。

『形状又は効用の著しい変更を伴う共用部分の変更については、
工事の大小、費用の多寡を問わず、特別決議が必要。』

『形状又は効用の著しい変更を伴わない共用部分の変更については、
工事の大小、費用の多寡を問わず、普通決議で決することができる。』 


         と、私は理解しました。


2. そこで、規約と法律の関係についてですが、

立法者の立場からですが、
 『一間一答 改正マンション法 平成14年区分所有法改正の解説』 
Q16(p22~23)をぜひ一度お読み下さい。

改正法第17条に対応する現行規約の効力は、維持できないが、法第18条を使うことで大規模修繕決議を特別多数決議とすることが可能と説かれているのでしょうか?

(抄)第18条(共用部分の管理)
共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
2.前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。

3. また、規約上旧条文(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)を、そのまま規約におとしている場合、規約の定めにかかわらず法律が優先する(強行法規)と考えられるかについてですが、 マンション管理センター通信2004年4月号(第220号) にて弁護士の小林先生が疑問視されています。(必読です。)

4. まとめになってないですが。

立法者は、『法改正の趣旨・区分所有者の意思解釈から現行規約の効力が維持されるとみるのは無理があるでしょう。』

弁護士さんは、『改正法第17条は強行法規と考えられないので、依然として規約が優先されると解釈される余地がある。』

管理組合では、改正法17条関連の現行規約の運用については、十分注意しなければなりません。

現行規約をなんら見直さず、安易に普通決議で大規模修繕を決議するのは、非常に危険です。

5. 本稿作成に際しまして、御教示頂戴いたしました X氏 にこの場にて御礼申しあげます。

ありがとうございました。



まだまだ、勉強中。


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